「はぁー、どうしたもんかなー。」
もうすぐ大将戦の後半が始まる。だというのに彼女・・大星淡は未だに咲に対抗する為の戦術を、上手く築けないでいた。
「はぁ、結局テルもスミレも・・碌なアイデアを出してくれなかったなー。」
淡は大将戦前半が終了してすぐに自身の仲間達が待つ控え室へと足を運んだ。きっと部長達が咲の攻略法を編み出していると信じて・・・しかし扉を開けて待っていたのは、表情の暗い4人のチームメイトの姿だった。
「すまん、みんなで色々考えたんだが・・やはり咲ちゃんへの新しい対抗策は、何一つ思い浮かばなかった。」
「それと、咲の翼に関してもごめん。まさか有珠山が持ってきた神様の力を自分の物にしているなんて・・・完全に私の読みが甘かった。でもね、他2人の方は対処法が思いついたよ。」
その対処法というのも結局のところ先程と同じで、後半戦ギリギリまで力を温存して最後の最後で気力を全開放して押し切るというものだった。
「あの臨海のネリーちゃんって子は、コッチと同じで後半戦ギリギリまで耐える事を目的にしてると思うの。だから淡ちゃんは、あの子の能力の発動タイミングにも注意していて。」
「阿知賀の方はたぶん大丈夫。まぁ・・もう誰が見ても明らかなんだけど、あの子はもう余程手牌が良くなきゃ仕掛けてこないと思うからさ。だからカンドラさんと臨海の2人を、淡は警戒しておけばOK!」
そんな感じでブリーフィングは終了し、皆に笑顔で見送られた淡。しかし彼女の心はささくれ立っていた。
「・・・いやさぁ、そんな作戦が咲に通用する訳ないじゃん。確かにまだWリーチは出来るよ?でもそれをどれだけ連発したところでさー。それに、この作戦って咲の点棒を私が削り切れるのが前提の作戦だよね?いや無理だよ、あんな防御の鬼みたいな子から点棒毟れる気がしないよ。ならいっそ・・・咲を無視して阿知賀をトバす?」
と、ここまで独り言全開で会場まで歩いてきた淡だったが、
「うーん、でもそれこそ咲の罠って感じがしない?」
「だよねー、絶対なんか罠張ってるよー・・って!?」
「・・あれ?ん?えっ!?」
お互いが驚いて顔を上げる。上げた先には、先程まで嫌と言うほど顔を合わせてきた相手が立っていた。
「臨海の1年、ネリー・ヴィルサラーゼ!?」
「そういう貴女は白糸台の1年、大星淡!?」
何故か互いに1年であるところを指摘する両者。淡はその事に笑いが込み上げてきた。
「んっ!ブフォッ!プッ・・ハハハハハ!ちょ、ちょっと何よいきなり!他人を1年呼ばわりするなんて!」
「それはこっちの台詞!先に1年呼ばわりしたのはそっちでしょ!?」
「プハハハッ!ハハハ・・あー笑った笑った。ああうん、ごめんね。反射的につい。」
「ふんっ、まぁいいよ。それより貴女、ネリーと同じで後半戦のギリギリまで粘るつもりでしょ。」
「っ!?・・気づいてたんだ。」
「まぁね。・・・貴女のその作戦、ネリーは別に構わないけど、咲に通用するとは思わない方がいいよ。」
真っ向から淡に駄目出しするネリー。思わずキレそうになったが、寸でのところで堪えた。それと同時にス~ッと頭が冷えていく。
(そうだ、確かにコイツの言う通り、私にはもうこれしか策がない。そしてこんな見え見えの策に掛かる程・・咲も甘くない。)
もはや自分1人でどうにか出来る段階をとうに過ぎている。その事実が絶望となって淡の心を包み込む・・そんな時、
「・・・あのさ、もし良ければ1位を譲ってあげてもいいよ。」
ビックリして思わず相手の顔を見る!目の前のコイツは一体何を言っているのだろう・・?
「ネリーの目標はあくまで咲を超える事。試合終了時に咲よりネリーの順位が高ければ、それでネリーは満足なの。でも貴女の目標は1位になること・・でしょ?仲間の為に1位にならなきゃいけないんでしょ?・・・なら、お互いの利害は一致しているって事にならない?」
そう言って右手を差し出して握手を求める。確かにコイツの目的と私の目的は被らない。つまりこの手を取れば、今の自分にも確実に勝利が見えてくる。だがその前に確認だ。
「一応聞くけど、そっちの作戦は?」
「ネリーが後半戦の南入り直後に能力を開放して咲と真っ向勝負する。その結果がどうなるかは分からないけど、たぶん3割くらいの確率でネリーが勝つ。」
「・・・じゃあ、70%の確率で押し負けるって事?」
「でも咲の気力もほぼ無くなるはず。ならあとは、貴女が好きに高い役を自模って1位に君臨すればいい。簡単でしょ?」
ここまで聞いた淡は無言で頷く。確かにこの作戦なら上手くいくだろう。だがしかし、淡には一つ思うところがあった。
「あのさ・・・この作戦、私に有利すぎない?」
「ん?どこが?」
「いや、この作戦のリスクっていうか・・危ない事は全部そっちがやって、私は上手い所を搔っ攫うだけっていうか・・なんか明らかにこっちの得が多すぎるんだけど。ハッキリ言って怪しすぎるんだけど、そもそもなんでそんな事を団体戦でやろうとする訳?個人戦でやればいいじゃん・・」
あまりに自分に美味しい話に露骨に警戒心を露わにする淡。そんな彼女にネリーは狂気を含んだ微笑みを向けた・・
「ウフフフフ・・だからこそだよ。団体戦だからそんな危ない橋を渡る訳がない・・それこそが大きな隙、なんだよ。」
目を大きく開いて微笑むネリー、しかしすぐにその顔は冷静さを取り戻す。そんな彼女の気迫に淡は、本気なんだな。と思い、徐々にネリーの言葉を信じ始めた。
「貴女を巻き込むのもそう・・咲は今まで色んな雀荘を渡り歩いては強敵に打ち勝ってきた、まさしく百戦錬磨の戦士だよ。でもその戦いのほとんどは、相手の3人が組んでいた。だから咲は3対1の戦いでも怯まない!普通なら能力者が3人とも自分を狙っているなんて状況になったら防御で手一杯!それでも守り切れずに死ぬ!それが普通なんだよ・・でも咲は違う。咲は多くの戦いを経て3対1での安全な勝ち方を既に極めている!例え私達3人が束になって掛かったとしても絶対に勝てない!」
その言葉に大きく心を揺さぶられる淡。
(っ!?た、確かにそうだ!ああ、何てこと・・私は今まで現在のサキの事しか考えていなかった。このインターハイが始まってからのサキのデータ・・それしか見ていなかった。でもそんなものを見たって何も見えてきやしない!本当にサキを超えたいなら・・サキを知りたいなら、サキがカンドラとして活動していた事も含めて、考えるべきだったんだ!)
ネリーのカンドラ評を聞いて大きく脳が揺れる感覚を味わう淡。そんな彼女にトドメとばかりにネリーは言い放つ!
「でも!だからこそ1人ずつ戦うんだ!ネリーが先に突っ込んで全力で気力を削る!それでも駄目なら貴女が咲にトドメを刺す!この方法なら連戦になって、咲も気力切れを起こしやすいはず!・・・・本当は、ネリーだって一人で咲を倒したい・・でも今のネリーじゃどうしても届かない!だったら使える物は全部使う!例え卑怯だと言われても、咲を最初に倒すのはネリーがいい!だからお願い!ネリーの指示に従って咲を倒して!お願い!」
そう言うと深々と頭を下げて右手を突き出すネリー。下げる際の表情は真剣そのものであった。・・そんな彼女の姿を見て、うっすらと目に涙を溜める淡。彼女の心は今、深い後悔に満ちていた。
(・・うっ、ぐすっ・・私はなんて馬鹿だったんだろう。本当ならこの子みたいに咲の事を・・対戦相手の事を本気で研究して、頑張って1位を取る事は雀士、というよりスポーツマンにとっての基本のはずなのに・・私はただ仲間に頼って偉そうな事ばかり口にするだけで、何もしてこなかった。与えられた才能に胡坐をかいて、怠惰に生きてきてしまった。・・・それは駄目だ!そんな心持ちじゃ、プロ雀士の世界ではやっていけない!私はいつかプロ雀士の仲間入りを果たして、世界で輝くトッププロになるんだ!こんなところで馬鹿やってる暇は無いんだ!)
ネリーのどんな手を使ってでも勝つという心意気を感じ取った淡は、自身が何のために麻雀部に入ったのかを・・初心を思い出して奮起していた。その奮起に肉体も応えて、体内から生成される気力量も向上していた。
「分かったよ!えっと・・ネリーだったっけ?貴女の作戦に乗ってあげる!感謝しなさいよね!」
自分が麻雀をやる理由を、改めて思い出させてくれた少女に感謝しながら、淡はネリーの手を両手でがっしりと掴んだ。掴まれたネリーも左手を上げて、両手でしっかりと掴んだ。
「ありがとう!一緒に咲を倒そう!」
そう言って強く手を握るネリー。そんな彼女の気が済むまで、淡は手を出し続けていた・・・・・しかし淡は見えていなかった。
彼女の後ろに佇んでいるフェイタルカムイの姿が。
そう・・ネリーは淡に勝ちを譲る気などサラサラ無く、始めから淡の運と気力を可能な限り吸い尽くし、咲を倒して1位を飾る事しか頭に無かったのである。その為にオーラまで使って、淡の心を弱い方へ流れるよう、先程出会った瞬間から仕向けていたのだ。
未だ頭を下げ続けているネリー、しかしその表情は先程の真剣なものとは程遠く、むしろ最初に見せた狂気を多分に含んだものであった。
(クフフ・・馬鹿な子。このネリー・ヴィルサラーゼが貴女なんかに勝ちを譲るだなんて、そんな甘い事をすると本気で信じちゃうだなんて・・ホント、これだから平和ボケした能力者は。でもそれもしょうがないのかな?ネリーの精神混乱のオーラに晒されて、メンタルがおかしくなっている状態で甘い言葉を囁かれちゃ・・・)
そう思っている間にも、ネリーは物凄い勢いで淡の運と気力を吸収し続けている。
(泥でチマチマ吸収するよりもこっちの方が安全だし、何より直の方が素早いの。・・・クフフ、このまま貴女の運を全部吸い尽く・・すなんて事はしない。もしそんな事になったら貴女、今日中に交通事故であっという間にお陀仏だからね。)
一応最低限の倫理は持ち合わせているネリー。・・それから1分後、満足したのか頭を上げてニコッと良い笑顔を淡に向けるネリー。そして彼女の顔にドキッとする淡。
「ふふ・・さぁ、行こう?」
「え?・・あ!ああうん!」
共に会場へと向かう。と言っても会場の入り口は、この通りの角を曲がった目と鼻の先なのだが・・
(よし・・運と気力はかなり溜まった。後は後半戦の南入りまで待機かな?)
(よっしゃ!棚から牡丹餅って感じだけど・・これでサキに勝てる!待ってなさいよサキ!貴女にトドメを刺すのはこの私なんだからね!)
両者共にやる気は十分!後は試合開始まで待つだけ・・と2人が思っていた次の瞬間!
「・・・ん!?こ、この感じは!?咲!?」
「っ!?何・・これ?すごい不思議な感じ・・・」
会場内でなにやら不思議な事が起こっていると感じ取った2人。当然すぐさまダッシュで確認に向かう・・・すると。
「んなっ!?」
「・・・え?何?手を合わせて何してるの?」
会場の中央に、両手を合わせて瞑想状態に入っているであろう2人の姿が確認された。
声を掛けた事がきっかけとなったのか、瞑想していた2人が目を開ける。何か自分達に言うのではないかと身構える淡だったが、2人は終始無言で笑い合うだけだった。・・・それがとても尊い微笑みだと淡は思った。
「(尊い・・・)・・・えっと、今何時だっけ?」
「ちょっと咲!何でソイツとそんな事を・・」
「・・・・・そうですね、もう後半戦が始まる時間です。」
ネリーの問いかけを無視して席に着く咲。それに倣って穏乃も前を向く。そんな2人を、仲が良いんだなー、と思いながら席に着いた淡。3人が席に着いた事で、渋々だが自分も席に座らなければ、と思い直したネリーが最後に着席した。
4人が座った事でTVで中継していた実況と解説も息を吹き返し、いよいよ大将戦の後半が始まる!といった空気が流れる・・・そんな中、
「・・・穏乃ちゃん、楽しむんだよ。」
「・・・うん、咲ちゃん。」
試合が始まる前に軽く言葉を交わす2人。その会話を聞いて苛立ちが募るネリー。とにかく1位になる事だけを意識して戦おうと決意する淡。
大将戦後半戦東1局・・・まもなく開始である!
つづく
決勝戦はどんな展開を望みますか?
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能力を使った麻雀対決をがっつり書いて
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麻雀対決はあっさりでいい
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麻雀はいいから能力で直接戦って欲しい
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麻雀シーン少な目、キャラ同士の会話多めで
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試合中の回想シーン中に会話を多めで
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特になし、作者のお好きにどうぞ