雀荘荒らしの咲   作:ロクナナエイト

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すいません、軽く纏めるつもりが
こんなに伸びてしまいました。

変な誤字などがあったらすいません。


清澄の2人の感想

 

 

「うーん、やっぱり変よねぇ。」

  

 インハイ予選、そして4校の同時合宿を経て多くの経験を積んだ清澄高校麻雀部。その麻雀部の部長を務める久は部室にて一人、ある事で悩んでいた。

 

「咲って休日は何処に行ってるのかしら?」

 

 彼女の悩みとは咲の事であった。でもそれは決して個人の有り触れた悩みなどではなく、もしかしたら麻雀部全体の問題にまで発展しそうな気さえする・・根の深い悩みであった。

 

「部長、何か考え事ですか?」

 

「あれ、和?さっき帰ったんじゃなかったっけ?」

 

「途中で部長の事が気になって引き返したんです。部長、ここ最近ずっと上の空でしたから、何かあったんじゃないかって心配になったんですよ。」

 

 そこまではっきり言われて初めて自覚した。そんなに自分は顔に出ていたのかと。普段からポーカーフェイスを心掛けていた久にとっては少しショッキングな理由だった。

 

「心配してくれてありがとう。でもホントに大した事じゃないわ。ちょっと咲の事が気になっただけよ。」

 

 咲の事と聞いて途端に目の色が変わる。

 

「咲さん!?咲さんに何かあったんですか!?」

 

 そう言いながら大声で詰め寄る和に、若干気圧されながらも、久は冷静に即席で答えた。

 

「お、落ち着いて和。ただ..ちょっと気になっただけよ。ほら、あの子って急に迷子になったりするじゃない?でもその割には休日に何処かへ行っているようだったから、迷子にならないのかなってちょっと疑問に思っただけよ。」

 

 久の落ち着いた態度にすぐに和は冷静さを取り戻した。しかし、今度は咲に対してモヤモヤしだした。

 

「咲さんが休日に旅行!?..それって本当なんですか?いやそもそも、なんで部長が咲さんの休日の動向を知ってるんですか?」

 

 怪訝な目をする和が良からぬ妄想を始めそうだったので、慌てて久は止めに入る。

 

「ち、違うわよ!?ほら、咲が携帯を持ってないって事でみんな結構苦労したじゃない!?だから携帯ショップに連れてってあげようと思って先週の土曜日に咲の家に行ったのよ!」

 

「そうだったんですか。早とちりしてすみません。」

 

 ペコリと頭を下げる和、しかしまだ若干怪訝な目をしていた。

 

「そう、それで咲の家に行ったら咲の代わりに咲のお父さんが出てきてね。”今咲は出かけてます”って言ったのよ。」

 

「え!?お父さん携帯を持たせずに咲さんを外に送り出したんですか!?」

 

「それだけじゃないわ。どうも咲のお父さんが言うには、咲はほぼ毎週、行き先も告げずにどこかへ遠出してるらしいのよ。しかも中学の時には土日両方使ってまで何処かに外泊するのが当たり前の生活をしていたらしいの。」

 

「ど、何処かに外泊!?お父さんは何考えてるんですか!?仮にも当時中学生の娘さんですよね!?携帯持たせるとかしなかったんですか!?外泊するお金は!?そもそも外泊を許可しないでくださいよ!?」

 

「その辺はほら、咲って家庭の事情が複雑でしょ。だから、咲のやりたい事を何も聞かずに応援するのが咲のお父さんのスタンスなんじゃない?」

 

「たとえそうだとしても、携帯の一つや二つは持たせるべきです!?」

 

「それに関しては私も同じように言ったわ。そしたら”公衆電話を使えばいい”って。」

 

「いや公衆電話なんて先進遺物(オーパーツ)もう地球上の何処にも残っているわけないじゃないですか!?お父さんは時代遅れなんですか!?それとも単純に馬鹿なんですか!?」

 

※公衆電話は2023年時点でも結構撤去されずに残ってます。

 

「いやそれは公衆電話に失礼よ和。咲が大事なのは分かるけどもう少し公衆電話を信じてあげなさい。・・でも父親に関しては和の言う通り、ちょっと平和ボケしてるわね。たぶん娘の事なんで自分は深入りしない方がいいって線を引いてる感じかしら・・でもそれじゃあちょっと頼りないわね、今度会った時にガツンと言っておこうかしら。」

 

 久が珍しく怒りの感情を含んだ発言をした為、それを見た和はさっきまで沸騰するかの如く煮えたぎっていた怒りが徐々に冷えていくのを感じた。

 

「・・珍しいですね、部長がそこまでハッキリ言うなんて。」

 

「そりゃ当然よ!ウチの可愛い後輩が危機感の足りない平和ボケした父親と2人暮らししてるのよ、これが不安にならずにいられる!?ウチの後輩に何かあってからじゃ遅いのよ!咲は私達にとっての掛け替えのない大事な仲間なのよ!それをあの父親はぜんっぜん分かってないわ!」

 

 勢いで捲し立てる言葉とは反対に、顔がニヤついている久を見た和は・・フフっと毒気を抜かれてつい微笑んでしまった。

 

「部長・・確かにその通りですね。咲さんは宮永家の次女である前に私達の仲間ですからね!」

 

 どや顔で咲の理解者面する和に久も頷く。

 

「そう、だから咲には携帯をどうにかして持って欲しいのよ。心配だから・・それに、変な噂もあるし。」

 

 久の表情がまた曇る、その顔を見て和は察した。久が悩んでいた本当の理由はそっちの方だという事を。

 

「その噂が、部長がさっきまで悩んでいた本当の理由ですか?」

 

「うーん、まぁそうとも言えるわね。咲に携帯をどうにかして持たせられないか悩んでいたのも事実なんだけど、その理由がさっき言った迷子や外泊以外にもあるって言う方が正しいかしら。」

 

「そもそも咲さんに変な噂が立っていたなんて初耳です。それってどんな噂なんですか?」

 

 その質問に対して答える前に、久は大きく深呼吸をした。その様子は、まるで今からとんでもない犯罪歴を暴露するかのような罪人の表情をしている。

 

「・・ねぇ和、貴女カンドラって知ってるかしら?」

 

「カンドラ・・確か、日本各地で雀荘荒らしを繰り返している流浪のギャンブラーでしたっけ?先月の麻雀関係の雑誌に掲載されてました。でも本当にそんな人いるんですかね?今のご時世、ただ雀荘を荒らすだけならともかく、違法賭博までやっているなんて、すぐ警察に捕まると思うんですけど。」

 

「そう、だからネットでも”カンドラは麻雀関係者が麻雀業界を盛り上げる為に作った与太話”って説が1年前は主流だったわ。でもそこから全国各地で目撃されるようになって、今じゃカンドラの存在は雑誌で取り上げられるくらい当たり前になっているわ。直近だとカンドラが稼いだ額を予想し合うのがカンドラファンの流行りになっているし。あとカンドラの呼び名を新しく考えるのも地味に人気があるわ。」

 

「・・それで、そのカンドラさんと咲さんにどんな関係が?もしかしてカンドラさんと咲さんが会っているのを久さんが目撃したとかですか?」

 

 その質問を聞いて少し黙り込む久。今から言う事は果たして和に言っても大丈夫だろうか?しかしその迷いはさっきの和の発言ですぐに消えた。和は咲を仲間だと断言した。なら例え真実が最悪だったとしてもきっと大丈夫だろうと直感したのだった。そして久は答える。

 

「いえ・・私は咲がカンドラだと思っているわ。」

 

 その言葉を放ってから・・部室には約2分ほどの沈黙が流れた。そして沈黙を破ったのは、明らかに動揺していた和の方だった。

 

「咲さんが・・カンドラさん?」

 

 明らかに動揺している和をよそに、久は自身の推測を語り始める。

 

「最初にそう思ったのは、私がネットでカンドラの情報を漁っていた時よ。カンドラは名前の通りカンをした後、高確率でドラが重なりそのまま嶺上開花でアガる事を得意としているそうよ。まぁ、名前の由来は他にも色々あるけど、私はこの名前の由来が一番彼女を表してると思うから、カンドラをそういう意味で呼んでるわ。そして彼女は点数調整がすごく上手い。」

 

 それを聞いた和が目を見開く。和にも分かってきたのだ。何故久が咲とカンドラを同一視するのかを。

 

「さすがに牌譜までネットに載ってなかったからハッキリとは分からないけど、この点数調整は多分プラマイゼロ。でなきゃ点数調整が上手いなんて、麻雀経験者でもいまいちピンとこない特徴が真っ先に上がる訳がないわ。」

 

 それに同意するかのように無意識に頷く。確かに点数調整が上手いなんて言われたところで、麻雀経験者でもどういう意味かすぐに理解できないという人が多いと思われる。しかし、和たち関係者はすぐに分かった。何故なら・・世の中には場を完全にコントロールして自分の思う通りに結果を作り出せる事が出来る、悪魔じみた技術を持った人間が存在する事を・・彼女達は知っていたのだ。

 

「次に彼女の出現時期よ。まぁこれに関しては休日に多く現れるっていう事と、1年前から活動し始めた・・くらいしかなかったわ。服装や肌の色に関しても同様で、咲個人との繋がりは感じられなかった。ああでも、身長が咲と同じくらいなのは確かよ。」

 

 ここまで色々な比較を上げていた久だったが、咲の事となると少し暴走気味になる和は、久の勿体ぶった言い回しに痺れを切らしてズバッと切り込んだ。

 

「・・では、部長が咲さんがカンドラさんだと思った決め手は何ですか?」

 

 その質問に久は二ヤリと笑って答える。

 

「これは彼女にとっても本当に偶然だったんだろうけど・・先週の土曜日に彼女・・カンドラは白糸台高校の宮永照と口論しているところを目撃されたの。」

 

 宮永照。その名前で和も確信へと変わった。普通の人なら、インハイチャンプが噂の雀荘荒らしに何かしらの因縁をつけて絡んでいるように見えるだけだろう。しかし、先程のカンドラの情報の中の、嶺上開花、点数調整、身長、そして宮永照がわざわざ直接会って会話しなければいけない人物!これらの情報から導き出されるカンドラの正体はただ一人!

 

「間違いありません!咲さんです!」

 

「そう、私もそこまではたどり着いたんだけど..そこからの謎が解けないのよ。」

 

「・・?すいません、どの辺がですか?」

 

 思わず疑問符を浮かべる和。カンドラの正体は状況証拠的にも宮永咲で確定である。そこにどんな謎があると?

 

「そもそもの大前提として、咲はなんでインターハイに出場する事に決めたの?」

 

「え!?・・あ!」

 

 そう、和は失念していた。咲がなぜインターハイに出場するのかを。

 

「咲ってもともと麻雀を通じてお姉さんと仲直りするのが目的でインターハイに参加したんでしょ?ならなんで先週出会った時に仲直りしなかったの?」

 

「それは・・やはり言葉では伝わらないと諦めているからではないでしょうか。前に一人でお姉さんに会いに行ったときは、一言も言葉を発さなかったと言っていましたし・・」

 

「そうね、その線もあるわね。でも今回はお姉さんの方から話しかけてきたようなの・・えっと、実はこの2人の会話は誰かに携帯で撮られて、ネットに動画で上げられていたの。でも内容は、2人が何か遠くで喋っているだけで、肝心の会話の音声が全然拾えてなかったから、それ以上の事は分からなかったわ。」

 

「まぁそう都合良くいくわけがありませんしね・・あ!私も一つおかしな事に気付きました!咲さんがカンドラさんと同一人物だと仮定したとすると、何故咲さんは雀荘荒らしまでして大金を稼ぐのでしょうか?咲さんの家庭ってそこまで困窮していませんよね?」

 

「うーん、それは外側からじゃ断定はできないけど・・少なくとも、父親が中学生の娘に毎週旅費を渡せるくらいには潤っているはずだから、むしろ裕福な方?なのかしらね。」

 

「だとすると咲さんは一体何のために..」

 

「そして最後に・・一番大きい謎が残っているわ。」

 

「え!?まだなにかあるんですか!?」

 

 久はこれまでにない程の真剣な顔で言い放った。

 

「咲の迷子癖よ。あの子は間違いなく重度の方向音痴!なのにほぼ毎週旅行に行って無事に目的を果たして帰ってくる事を何度もやってのけている!これはおかしい事よ!」

 

 真剣な顔でそう言い放つ久の様子に、和は一瞬笑いそうになってハッと気づく。確かに咲は方向音痴だ。それこそ県予選の会場で、いつの間にか私達の目の前から煙のように消える程の重度の迷子だと。そして迷子になっていた彼女を発見した時に見られる、彼女の心からの安堵の表情が和の脳をよぎり・・瞬間とてつもない恐怖を感じた!

 

 もし・・もし仮にこの話が全て事実だとしよう。カンドラと咲が同一人物で、雀荘荒らしを繰り返しているのが清澄高校の大将だと仮定しよう。だとしたらどっちが本当の咲なのだろうか?

 

 和は雑誌に載っていたカンドラの情報と普段の咲の情報を脳内で比較する。カンドラが迷子になっているなどという情報は、雑誌のどこにも載っていなかった。反対に咲が本気で迷子になっているところを和は何度も目撃して助けている。もちろんその時に咲は心からの感謝を述べてたちまち笑顔になる。

 

 あれは全て嘘だというのだろうか?私達はとんでもなく嘘が上手い少女に利用されているだけなのではないだろうか?姉と仲直りしたいから、インターハイに参加すると言ったのも嘘なのだろうか?和が信じている咲という女性は、まやかしの存在だったというのだろうか?

 

 疑問が和を包んで精神異常をきたしそうになる寸前で、久が助け船を出した。

 

「大丈夫よ和。貴方は咲が演技でみんなを騙していた可能性を想像しているんでしょうけど、それはないわ。少なくとも迷子癖は本物よ、でなきゃ自分からインターハイに出て本戦まで行きたいって言っておいて、そのチャンスを自分の演技の為に不意にする事になっていたわよ。」

 

 その言葉で和は少し安堵した。確かに久の言う通り、咲が予選で迷子になった時、代わりに京太郎に女装をさせて出場させようか冗談を言いあった事を覚えている。冗談はともかく、あの場で本当に咲が見つからなかったら、清澄高校は予選敗退という結果で終わっていただろう。それは咲の言っていた”お姉ちゃんと麻雀がしたい”という言葉と矛盾した行動である。

 

 であるならば、いくら咲がカンドラとの繋がりを隠したいからといっても、大事な予選でそこまでリスキーな事はしないというのが久の主張であった。では・・

 

「ではなぜ咲さんは、初めての土地で迷子にならずに行動できるのでしょうか?」

 

 その質問に久はしばらく沈黙を貫いた。だがその表情は答えを持っているような、持ってはいるが確信はないといった自信の無い表情をしていた。しばらくして、

 

「・・たぶん、たぶんよ・・たぶん咲には協力者がいるわ。でなきゃこのご時世、人ひとりの素性をここまで隠し通す事なんて出来やしないわ。」

 

 なるほどと少し驚きを交えつつ納得する和。確かに今の時代、ここまで目立っている人間は割と簡単に住所や経歴がネット上に浮上するものである。たとえ変装していたとしても、駅で電車に乗ったりする関係上、絶対にどこかの駅で降りて家に帰らなければならない。そうなれば後は簡単、その駅のある地域で適当に聞き込みでもすれば、直ぐにそれらしい人物の候補が上がってあっという間に本人特定。家も学校もネットに晒され、一生消えないデジタルタトゥーが刻まれる事となる。

 

 しかしカンドラにはそれが無い。雀荘荒らしを1年以上も続けているのに、未だに正体不明を貫き続けている。どう考えても他に協力者がいると考えた方が自然である。

 

 そしてここで原村和はまた暴走気味の思考をし始める。咲さんの協力者?→何故咲さんに協力を?→咲さんは雀荘荒らしをしてお金を稼いでいる。→お金を稼がせる為に咲さんに協力している?→もしかして咲さんは脅されている!?→そうに違いない!?→あの優しくて可愛い咲さんの弱みに付け込んだ、最低な連中がいて咲さんを食い物にしている!?→許せません!!!

 

 だんだん表情が怖くなっていく和を見た久が、またしても和を落ち着かせに入る。

 

「ちょっと落ち着きなさい和!?貴女ってホント咲の事となると暴走気味になるわね。」

 

「落ち着いていられません!?もし部長の言っている協力者が咲さんを脅して雀荘荒らしをさせているとしたら、どうするんですか!?」

 

「協力者に脅されて!?..あー、可能性は無くはないか。」

 

「でしょう!?これはもう咲さんに直接聞くべき案件です!?というか部長はどうして今まで咲さんに直接聞きに行かなかったんですか!?」

 

「聞けるわけないでしょ!?麻雀部に勧誘する前ならともかく、もうインターハイ本戦にまで駒を進めているのよ!この状態で下手に咲を刺激して失踪でもされたらどうするのよ!」

 

 和は本日何度も久にハッとさせられていた。今回もそうであり、ハッとするたびに久の事を見直し続ける和なのだった。久の言う通り、清澄高校はインターハイ本戦に駒を進めた。ここまで来たなら無論優勝目指して頑張るだけなのだが、そんな中、部員の一人に問題が発生した場合どうするのが最良なのだろうか?もちろん問題を解決する事なのだが、今回の場合はそんな簡単に解決できるような問題ではない。

 

 もうこの問題は、ただの子供が雀荘荒らしをやっていました、皆さまお騒がせしました・・などというレベルで済む話ではない。カンドラは1年以上に渡って全国各地の違法な雀荘を巡っては、大金を稼いでいるというのが世間の認識である。この事実を咲にいきなり突きつけて”もう雀荘荒らしをやめろ”などと言ってみた場合どうなるか。

 

 考えられる最悪のケースとしては、まず自殺に走る、次に失踪して行方不明、もしかしたら、いるかもしれない脅迫者にバレて殺される、といったところであろうか。最悪は免れたとしても絶対に口論は避けられないだろう。もしかしたらその口論を最後に家に引きこもってしまうかもしれない。

 

 そもそもカンドラが咲だというのも、久と和の勝手な思い込みで、本当は別人だという可能性だって無くはないのである。それなのに2人がカンドラ=咲だと決めつけて、咲に強引に言い寄ったとすれば、咲はショックで人間不信に陥ってしまうかもしれない。それくらい咲は儚く弱いイメージがあったのだ。少なくともこの2人にはあった。

 

 なら現状どうすれば良いか、そこまで考えて2人は同じ結論にたどり着く。

 

((やっぱり..ここは自重しよう。))

 

 そもそもの話として、咲が本当にカンドラだとしよう・・だからどうしたと久は思った。確かに違法賭博は犯罪であり紛れもなく悪い事である。しかし咲が自分から進んでそのような事をするはずがない。きっと何か深いわけがあるのだ。少なくとも咲が本当にカンドラだったとしても、2人はいきなり咲を責めるような真似はしない。

 

 むしろ全力で誹謗中傷から守ろうとするだろう。それだけの信頼を咲はこの数か月で築いてきたのである。それに、ネットや雑誌ではカンドラが違法賭博を繰り返していると断定しているが、それはカンドラがそういった場所に出入りしてるから、そういう噂が立っているだけで、実際にはそんな証拠はどこにもないのである。仮にもし本当に違法賭博をしていたとしても、証拠が出てこない以上何も問題無いとさえ久は思っていた。

 

 それに今はインハイ期間中であり、久にとっては最後のインターハイでもある。そんな状況で仲間の1人がいなくなるような事を久はどうしても避けたかった。ならばここは静観に徹し、インターハイが終わってから根掘り葉掘り聞けば良い。そう考えて久は自重する事を決意した。

 

 和はどちらかというと、せっかくできた親友を自分が原因で失う事を恐れての自重であった。もちろん咲が誰かに脅されている可能性を考えると、ここで傍観に徹するのは悪手でしかない。しかし脅されているという発想自体が行き過ぎている可能性もある。何度も言うが”そもそも咲が本当にカンドラなのか分かっていない”のが和の現状であり、先程の推察も全て2人の頭の中での事でしかない。

 

 それを咲に教えてドン引きされる可能性を考慮した結果、やはり和は自重する事に決めたのだった。

 

 

「部長、この話はこの辺にしておきませんか?」

 

「奇遇ね、私もそうしようと思っていたところよ。」

 

(大丈夫ですよね?今の段階では咲さんに問い詰めるよりも静観するのが良いのは状況証拠的にもあきらかですよね・・でも念のため、カンドラさんについての情報も集めておいて、いつでも咲さんに話せるように準備だけはしておきましょうか。)

 

(うん、やっぱりここは動かずにやり過ごすのがベストよ。少なくともインターハイが終わるまでは黙っているのが吉。でも何かあった時怖いから、咲以外の清澄のみんなには、このことを話しておきましょうか。あとこの間の合宿に来ていた他の高校の何人かにも、それとなく話しておこうかしら。)

 

 

 取り合えず2人はこの事を咲には絶対に言わないように互いに約束を交わしてこの場を後にするのだった。後日、久と和が改めてこの事について話し合った結果、清澄のメンバーとその他の信頼できる人物にこの事を教える運びとなった。

 

 

 

 こうして清澄の関係者に咲とカンドラの関係性が知れ渡る事となった。その事を聞かされた面々は久や和と同様、やはり自重する事にしたのであった。

 

 

 

 

 それぞれの思惑が交差する中、白糸台と清澄のメンバーを中心に事体はゆっくりと進行していき、それに比例するようにして皆の雀力は高まっていった。そうして迎えた8月の夏休み!ついに咲とカンドラとの関係性が暴かれる事となる、インターハイ本戦が始まったのだった!!!

 

 

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