「・・では、皆さんも落ち着いたようですので再開します。」
一通りざわめきが過ぎた事を確認した咲が再び話始める。
「改めて言いますが先程言った事は全て本当です。私は協会の力を借りて雀荘を荒らしまくり、違法な雀荘を摘発するという大義名分を掲げて能力を好き勝手振るい続けてきました。」
「咲・・・」
光が後ろで辛そうな顔をした。それに気づいた照だったが、何で光がそんな顔をしなければならないのか?内に湧いた疑問に答えられなかった。
「そして悪党どもが隠していた財産を全て徴収し、その全てを協会に収めてきました。総額およそ・・・300億。」
「「「さ、300億円!?」」」
会場にいた何人かが飛び上がる。そんな彼女達の様子を見てどこか懐かしい気分になる咲。彼女にもあったのだ、目の前に積まれた山ほどの大金に動揺してしまう幼い時期が。
「はい、300億円です。私が1年でそこまでやって見せた事で、ようやく私の価値を協会の連中に知らしめる事が出来ました。私の将来的な価値に納得がいった彼らは約束通り、私の代わりに大きな買い物をしてくれました。まぁ・・・光ちゃんが車椅子に座っているのを見る限り、まだ買い物が完了したとは言い切れませんけどね。」
そこまで言うと咲は照の方へ身体を向けた。
「お姉ちゃん、ここまで言えば分かるよね?」
「光の脚?・・・・まさか咲っ!?」
その反応に満足した咲は笑って皆の方へ向き直る。
「想像の通り・・私が雀荘荒らしカンドラになり、社会にその名を轟かせた理由。それは全て・・・光ちゃんの脚を治す為だよ!」
グッと拳を握って見せた咲、その眼は覚悟に満ちていた。
「治す為って・・やけどの事、よね!?あの火事で出来たやけどを治す為よね?・・・そんな、まさか・・」
「そうだよお姉ちゃん、私が治そうとしたのは光ちゃんの動かない脚そのものだよ。」
それを聞いてガックリと膝を着く照、うつむく光、娘の成長と覚悟にご満悦な愛。
「咲・・貴女一体何でそんな事を・・・。光の脚は動かなくなってから何年も経ってるのよ?それを再び動かそうだなんて、どんな天才の医者でも不可能に決まってる!」
「ええ、私もそう思った。でもねお姉ちゃん、世の中には不可能を可能に出来る選ばれた天才がいるのは知っているでしょ?ここにいるみんなのような・・ね?」
「選ばれた天才?・・・能力者の事!?」
「そう、光ちゃんの脚が動かない原因は後天的な脊髄の損傷によるもの。あの日事故に遭った光ちゃんは全身に大きな衝撃を受けて意識不明になり、3日後に目覚めた時には脊髄内の神経の一部が断裂して脚が動かなくなっていた。当然医者からは治せないって突っぱねられた、そんな奇跡は起こせないって・・・だったら奇跡を起こせる存在に頼めばいい!身体の構造を変えられる能力者を探し出して頼めば良いって!そうして能力者に絞って探した私は、ついに再生能力を生業にしている能力者集団とコンタクトを取るに至った!」
「再生能力を持った集団・・・そんな人達がいるだなんて。」
純粋に驚く照、そんな彼女とは対照的に小鍛冶はどこか落ち着いた目をしていた。
(本当に運が良かった。あの集団が治す相手は基本的に政界の大物とか、今死なれては困る大きな役割を持った人間とかだから。正直光ちゃんを診てあげるって返事が来た時は驚いたな。)
「でも私を一番突き動かした衝動は・・・私自身そういう状況になった事が無いから分からないけど、きっとあの時に光ちゃんは大きな絶望に包まれたんだ!って、そう思った事が始まりだった。」
それを聞いた光が顔を上げた。その眼には涙が溜まっていた。
「次にもし自分がそんな状態になったらどう思うだろうって考えて全身が恐怖で震えた。脚が動かない、それはつまり立てないという事。立てないなら当然目線も合わせられない、相手に合わせてもらうしかない。相手に何もかも依存しなければいけない生活・・・惨めで、悔しくて、何より相手に申し訳ない。そしてそんな無力感を感じながら残り約70年を生きなければいけない!そんなの・・辛すぎる。だから私は誓った!必ず光ちゃんの脚を治すって!そんな悲しみを大好きな光ちゃんに背負わせはしないって!」
声が震え始める。咲も涙を溜めながら話を続ける。
「その為なら何でもする!私はその覚悟でここまでやってきたんだよ・・・結果はまだ分からないけど、大金を出したんだから成功してもらわなきゃ困るんだよ。」
咲に感化されて会場の何人かも泣き始める。とここで愛が、
「ねぇ咲?ちなみに光ちゃんの治療代っていくらしたの?」
「前金で約1億、治療代が約100億だね。」
「100億円?そう・・・協会に収めた300億円を考えると、借金にはならなかったのね。」
そう言ってホッと安心した照、それは真実を知った彼女が今もっとも知りたかった疑問の答えを得たが故の安堵であった。しかし・・
「円じゃなくドルだよ。」
その言葉に一瞬で凍り付いた照。数秒の硬直の後、何とか口を開く。
「・・・え?」
「100億円じゃなくて、100億ドルだよ。」
続いて会場全体が瞬時に凍り付く。凍っていない何人かは頭をフル回転させてドルを円に変換させようと頑張っていた。そんな中淡が、
「ねえネリー、100億ドルって日本円でいくらぐらいなの?」
「・・・今は円安だからね、だいたい1.5兆円ぐらいじゃない。」
「いっ!?1.5兆円!!??」
思わず大声でリアクションしてしまった穏乃。それを聞いたみんなも次第にざわざわし始める。それを現実だと思いたくない照は再び咲に問いかける。
「さ、咲・・嘘よね?本当は100億円で取り引き出来たんでしょう?」
「・・・お姉ちゃん、よく考えて?たかだか1兆5000億円で10代の女の子の脚が治るんだよ?今まで歩けない事で人生を諦めていた子供が、また希望を持って生きる事が出来るんだよ?安いものでしょう?」
瞬間!湧いた怒りでグワッとオーラを解放した照が堂々と咲に近づき・・・バチンッ!と大きな音を立てて頬を叩いた。当然咲は避けない、おそらくこれがお姉ちゃんの知りたかった事の全て・・・ならこれで最後だ。おそらくこれを最後にお姉ちゃんは静かになる。なら最後くらい好きなだけ叫ばせてあげよう・・と。
「何で!何で一言相談してくれなかったのよ!咲!貴女が光の事を大事に想っていたのは小学生の頃から知っていたわよ!いつか光の事で無茶をするんじゃないかってすっごく不安でしょうがなかった!だから私は貴女を抑え込もうと・・貴女を守ろうとしたのに・・・・これからどうする気なのよ咲!1.5兆円なんてどんなに頑張っても人一人が返せる額じゃないわ!貴女これからの人生を全部棒に振る気!?例えそれで光が幸せになったとして・・・貴女の幸せは・・一体何処にあるっていうのよ・・。」
意外にも、そんな照の叫びに苦しそうな顔をしたのは・・他でもない咲の取り巻き達である衣や透華、桃子に加治木、荒川と小蒔、そして小鍛冶達大人組の面々であった。彼女達は知っていたのだ、咲が愛ゆえに莫大な借金を背負う道を選ぼうとしていた事に。当然何度か止めるチャンスがあった・・しかし、皆一様に止めようとはしなかった。皆それが正しい事だと信じて疑わなかった。なのに照の叫びを聞いて心が揺れる、震える。特に小鍛冶は照を真っすぐ見る事が出来ずに目を逸らした。
(そうだよ・・本当に咲ちゃんの事を想っているなら途中で止めるべきだったんだ。そして咲ちゃんが光ちゃんの幸せを自分の人生と引き換えにしようとしたように、私も自分の人生を差し出せば良かったんだ。そうすれば咲ちゃんは何のしがらみもなく光ちゃんとハッピーエンドを迎えられたはず・・・なのに。はは、やっぱり照ちゃんは咲ちゃんのお姉ちゃんだね。咲ちゃんには伝わってないっぽいけど、ちゃんと咲ちゃんの事を想ってる・・・私達みたいにただ惹かれるだけの存在じゃない。強いよ・・・照ちゃんは。)
言いたい事を言い終えた照は膝から崩れ落ち、顔を覆ってすすり泣き始めた。実家を離れてから数年、咲が光の事で暴走するかもしれないという懸念は常にあった。光の為に危ない橋を渡って死ぬかもしれない、そしたら私は今度こそ本当に独りになってしまう。昔から家族しか信じていなかった照は一切友達を作ってこなかった。能力を持たない人間に自分を理解する事は不可能、だったら同じ能力者の咲と光と深く繋がっていればいい。そうして目の前の物しか見ていなかった照はその浅慮ゆえに独りの道を歩む事になってしまった。
(だから・・だから!私は!・・・インターハイなんかに出たっていうのに!)
そんな照には希望が必要だった。再び三人が集うという都合の良い可能性が。そんな照に麻雀部に入らないかと誘ったのが菫であり、一緒に団体戦優勝を目指そうと道を示したのが始まりだった。
(私が麻雀で活躍し続ければ咲も光も気づいてくれる!調子に乗ってるって嫌われるのも怖かったけどそれでも良かった!これで二人は有名人である私の親族だって名乗る事は出来る!そうすれば私を中心にしていつかみんなで出会う事は出来る!最悪私抜きで二人が出会ってくれても良かったんだ!本当は嫌だけど、三人が同じ空の下で元気に笑って生きていけてるって・・そういう未来になるはずだったのに・・・なんで!なんでよぉ!)
結局のところ、この二人は似た者同士なのだ。咲と向き合う勇気の無かった照でさえ、自己犠牲によって二人の再会を果たそうと画策していた。例え嫌われ者になろうとも構わない、自分を敵に回して団結を促すのは宮永家の十八番だと息巻いて一人茨の道を突き進んだ。その結果、三人が三人共自分一人で事を成そうとして取り返しのつかない事態に陥った。
(これじゃあ咲が報われない・・あれだけ光の事を想って光の為に命まで賭けたっていうのに。私達は確かに再開できたけどこれじゃあ光も私も笑えないよ。咲・・貴女は本当に周りが見えてるの?今この場で笑っているのは貴女だけよ?貴女の麻雀部の部員も、貴女の取り巻き達も・・光でさえ、笑ってないのよ?)
もはや将来の夢を失った照、彼女の今までの苦労はなんだったのか?出たくもないのにインターハイに出場し、自分より年下で格上の妹に嫌われるのも覚悟でインハイチャンプなどという滑稽な称号を背負って有名になり、挙句の果てにはまだ中学生だった咲を一人で実家に追い返す愚行に走ってまで嫌われ役を演じて、咲の内に溜まっている鬱憤を全て自分に向けるよう仕組んだというのに。今までの自分の頑張りは全て無に帰してしまった。そう思った照は再びすすり泣いた。
「グスッ・・咲・・」
「お姉ちゃん・・・お姉ちゃんが私の将来を案じているっていうのは今のでよく分かったよ。あの日、雀荘の前で張っていたのも私を心配してたからなんでしょ?変装した私を一目で見抜いた時のお姉ちゃんの顔を見て、私もすぐに察したよ。・・・まぁ認めたくないって気持ちが強かったけどね。」
思わずふえっ?と言った様子で顔を上げた照。目は真っ赤に腫れていた。
「昔からそうだったよね、私達三人の中で一番優しかったのはいつだってお姉ちゃんだった。能力を使う時だって一番慎重だったし、使う理由も誰かを守ったり助けたりする為だったりで分かり易くヒーローやってたよね。・・だから許せないんだよね?私が独りで突っ走った事が、何もかも独りで背負い込んだ事が。」
「そ、そうよ!何であの時相談してくれなかったの!?ううんあの時だけじゃない!貴女はいつでも私に連絡がついたはず!だってお母さんと定期的に連絡取り合ってたんだもの!なのに何で!?何で私を置いて行ったのよ!私は貴女のお姉ちゃんで貴女は私の妹なのよ!だから困った時にお姉ちゃんに頼るのは当たり前なのよ!私を頼ってよ!私を独りにしないでよ!」
感情に任せて内に秘めたドロドロを遠慮なく吐き出す照、その言葉に咲は遠い目をしながら言った。
「・・・だからだよ、お姉ちゃん。」
「・・・へ?」
「あの後、駅でお姉ちゃんと別れてからも何度か頼ろうと思ったよ。一緒に光ちゃんの脚を治そうって。でも・・だからこそ頼る気にならなかった。」
「なんでよ!?そんなに私が嫌いなの!?」
「そういう話じゃないんだよお姉ちゃん・・だって、これは私のエゴだから。」
エゴ・・・その単語に思わず口ごもる照。そんな中また淡が、
「ねぇネリー、エゴって何?」
「物凄く簡単に言うと自我そのものってヤツだよ。」
「自我・・ですか?」
「そう、人は大なり小なり自分というものを持ってるでしょ?ハンバーガーが好きだとか、フライドポテトが嫌いだとか。そう言った好き嫌いを主張する事そのもの・・みたいな感じかな?」
「早い話、我が儘を言う事がエゴって事?」
「まぁ悪く言うとね。今回の場合、咲は光の脚を治す為に莫大な借金を背負った、それ自体が咲のエゴ。つまり我が儘って事だね。」
「なるほどー・・じゃあサキは、借金を背負ったのは自分の我が儘だから関係ないお姉ちゃんは巻き込めない!って言いたいのかな?」
「・・お三方、分かり易い解説どうもありがとうございます。」
唐突に咲から感謝されてビックリした三人。どうやら自分達の声は思ったよりも大きかったようだ。会場中から視線を感じて思わず赤面してしまう。
「咲、今の話は・・」
「そうだよ。今三人が説明してくれた通り、今回の一連の出来事は全部私個人のエゴによるものだって思ってる。」
「エゴ?貴女がカンドラとして活動するのも、その所為で将来のプロ雀士入りを余儀なくされたのも、貴女が協会に1.5兆円の借金をするハメになったのも・・・全部貴女の我が儘だから気にするなって!そう言いたいの!?」
「うん、そうだよ。」
バッサリ切り捨てた咲、その余りにもあっさりした解答にさすがの照もそれ以上何も言えなくなってしまった。
「というよりさっきお姉ちゃん言ってたじゃん。光は脚が動かなくても大丈夫だからって。それがそのまま答えだよ。」
「答えって・・何の?」
「私がお姉ちゃんを巻き込まなかった理由だよ。お姉ちゃんの言う通り、光ちゃんは脚の治癒なんか望んじゃいなかった。でもそれが私には我慢ならなかった。何であんなに素晴らしくて愛おしい光ちゃんがずっと不自由な暮らしを強いられなきゃいけないんだって。そう思ったらもう止まれなかった・・例え本人が望んでなかったのだとしても、私には光ちゃんの脚が動かない現実が我慢ならなかった。だからこれは私のエゴ、私の我が儘だから・・・だから、お姉ちゃんは巻き込めなかった。」
「咲・・・」
知りたかった事の全てを知った照は・・再び俯いて静かに涙を零した。どうして私の妹は・・・ここまで独りを貫けるのか。その強さは一体何処から湧いてくるのか。何故自分は妹のように勇気を出して行動出来なかったのか。全ては後の祭りである。
「さてと・・これでお姉ちゃんの方は終わりかな。じゃあ次は光ちゃんに向き合う番だね。」
そう言って光の方へと歩み寄る咲。しかしその足取りは、普段の自信溢れている彼女からは想像できないくらいに・・わずかにだが、見っともなく震えていた。
つづく
これで咲が隠していた事は全て暴かれました。
しかしそれを知った光が何を言うのか?
まだ話は続きます。
照については、本当はこんな感じで内心をちょっとずつ仲間に打ち明けて、
最後に二人の心象がぶつかり合うダブル主人公にする予定でした。
なのに全然違う感じになっちゃいました。
自分の想像力の低さを嘆くばかりです。
決勝戦はどんな展開を望みますか?
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能力を使った麻雀対決をがっつり書いて
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麻雀対決はあっさりでいい
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麻雀はいいから能力で直接戦って欲しい
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麻雀シーン少な目、キャラ同士の会話多めで
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試合中の回想シーン中に会話を多めで
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特になし、作者のお好きにどうぞ