ゆっくりと光の方へ歩みを進める咲、しかしその足取りは僅かに震えていた。
「それで・・どんな感じなのかな?光ちゃん?」
普段の何処か他人を見下す態度は鳴りを潜め、上目使いで機嫌を窺うように話しかける。しかし光は俯いたままだ。
「車椅子に乗っているのを見るにまだ完治には至っていないのかな?私もあの人達がどんな治療をしたのか詳しくは知らないから、もしかしてゆっくり時間を掛けて治っていくタイプなのかな?まぁ何にせよ、その脚はいつか近い内に必ず治るから。そうなったら光ちゃんは何処でも好きなところへ行けるんだよ!それこそ光ちゃんが好きだった水族館にだって毎日歩いていけるんだよ。ね?それってすごく幸せな事だって・・・光ちゃんも思うよね?」
何を言っても俯いたままの光にどんどん声量も萎んでいく。話し方もどんどん弱気になり・・
「その・・・もしかして私のやった事って本当に光ちゃんにとっては迷惑でしかなかったのかな?もしそうだったら・・謝るよ。・・・あの、本当にごめんね?光ちゃんの邪魔しちゃって?嫌だったかな?」
ついには自らの行いを謝る始末。そうして光の目の前までやってきた咲だったがそれでも何も言わずに俯いたままの光に、もしかして寝てる?と思い、ゆっくりと顔を覗き込んだ次の瞬間!ガバッ!っと腕の力だけで車椅子から飛び出した光が咲に抱き着いた!
「んおっ!?ととっ!?・・ああぁ。」
意気消沈していた咲は咄嗟に反応する事が出来ず、多少踏ん張りはしたがそのまま光と一緒に床に崩れ込んだ。
「ぐすっ・・咲、ごめんね。ごめんね。」
「ひ、光ちゃん?何で光ちゃんが謝るの?」
そのまま咲の胸に顔を埋めて泣き崩れる光。そんな彼女に動揺しつつも嫌われた訳では無かったと安堵し穏やかな表情を取り戻す。一方ここまで黙って聞いていた照だったが、光の謝罪の意図が分からなかった為に二人の会話に割って入る。
「・・そうよ光、咲は貴女の脚を治す為に勝手に借金まで背負った暴走娘よ。自分一人で何でも抱え込んで周りに心配ばかり掛ける問題児、だから貴女が咲の行いに申し訳無さを感じる必要は無いわ。咲の現状は全て咲本人が望んだもの・・・全部、咲のエゴよ。」
貶しつつも何処か心配している事を匂わせる言い回しに思わずフフッと鼻で笑ってしまう咲。でもお姉ちゃんが言った事も正しいよねと内心では肯定しており、そんな不器用な姉と同じように声を掛ける。
「お姉ちゃんの言う通りだよ光ちゃん。もし光ちゃんが私に罪悪感を感じているのだとしたらそれは捨てるべきだよ。だってこれは私の我が儘だからさ、光ちゃんが歩けない現実を認められなかった私のエゴだから。ああでも・・出来れば私の事は嫌いにならないでくれると嬉しいかな~・・なんて。」
姉の言葉を借りつつちゃっかり自分の要望も織り交ぜた。そんな茶目っ気を見せるも光は未だにただ泣くばかり。さすがに二人もどうするべきか困っていると。
「・・・ねぇ光。私の方から説明してもいいかな?」
「「え?お母さん?」」
ここで愛が何やら訳知り顔で介入してきたではないか。唐突な割り込みだったが光はコクリと頷いて了承した。
「お願いします・・叔母さん。ちゃんと・・最後には謝りますから。」
「ふーー・・分かった。元々これは私の落ち度でもあるからね。」
大きく息を吐いて気持ちを整理する。いったい何を知っているというのか。
「そうねぇ・・ねぇ咲?大前提として、貴女は光ちゃんの事をどう思っているのかしら?」
「・・どうって?うーん・・・大切な人だと思ってる。」
「大切ってどのくらい?」
「そりゃあ、兆単位の借金を抱えてもいいやって思えるくらいには!最高の伴侶、いや半身って感じかな?あの日病院で目覚めてから今日までずっと感じていた喪失感は、恋人とか家族を失ったものじゃない気がする。もっと何かこう・・・深い結びつきが無理やり千切れたみたいな、内臓がいきなり無くなった感じに近い感じ?みたいな・・ごめん上手く言葉に出来ないよ、お母さん。」
ニヤニヤと照れながらなんとか惚気ないように頑張る咲だったが、やはり大好きな光が自分の事を嫌っていないという事実が嬉しすぎるのか。身体にもたれ掛かる彼女の温もりに意識を持っていかれ、母親の問いかけに全く集中出来ないでいた。そんな咲を見てやっぱりと言いたげな曇り顔で愛は話を続ける。
「そう・・・・・いい咲?落ち着いて聞きなさい。」
「っ!?・・え?何?お母さんが落ち着けっていう時って大抵酷い事を言う前触れだって、昔から私たちの間で評判なんだけど。」
「そうよ、今から私は貴女に酷い事を言うわ。」
(酷い事・・・いったい何を言うつもりなんだろう?実は光ちゃんは両手まで動かなくなる病気に掛かっていたとか?それとも光ちゃんの寿命はあと数年とか?まさか!?光ちゃんに私よりも大事な彼氏が出来たとか!?それだけは嫌だ!絶対嫌だ!)
「実は・・光ちゃんは「ああああああああああああああああああああああ!!!」
案の定、大声で叫んで愛の言葉を遮ろうとしたのは・・・
「ちょ!?お姉ちゃん何いきなり!?」
「ああああああああ!!嫌だ!もうこれ以上酷い真実を知りたくない!あああああああ!!!」
まさかの照!?これにはずっと照と暮らしてきた愛も引き気味。
「ちょ、照。アンタうるさいからちょっと黙ってなさい。」
そう言うと照の脳天目掛けて指先砲弾を発射、右手の五指から放たれた五つの弾丸は威力こそ低いもののスピードは咲のそれを上回っている。そんな剛速球5連打を額に喰らった照はゆっくりと膝から崩れ落ちた。どうやら全身から力が抜けてしまったらしい。
「あうう・・」
「・・ごほん、じゃあ話を再開するわよ。」
「あ、うん。どうぞお母さん。」
今度こそ話そうと僅かに姿勢を整えて、咲へ優しく微笑みかけながら愛は言った。
「光ちゃんはね咲、貴女の心を能力で操っていたのよ。」
「・・・・・はい?」
「能力で貴女を虜にして自由を奪った。貴女が光ちゃんを一番に考えるようになるまで洗脳したの。」
突如として告げられた真実。しかしそれが本当の事だと信じられない咲は母親に食って掛かる。
「ちょっと待ってよ!光ちゃんが私を操ってたって何!?それも能力を使って?・・お母さん、光ちゃんの能力は自然豊かな川を模倣する河底の力だよ?オーラも普通の能力者によくある自分の能力を広範囲に広げるやつで、人心掌握なんてとても出来るような能力じゃないって。それにもし光ちゃんが能力を複数持っているんだとしても今の私なら昔と違ってしっかり感知できるはずだよ。まぁ100%分かるとまでは言えないけど・・でも光ちゃんの事だから分かる!光ちゃんは絶対河底の能力1つしかない!だから光ちゃんが私を洗脳なんて出来るはずがない!」
絶対にそれは無い!と言い張って愛にガンを飛ばす咲。しかし光は違った。
「ごめん、ごめんね咲、照。・・違うんだよ、全部私が悪いんだよ。あの時・・願っちゃったから。」
ぶつぶつと呟きながら謝罪を繰り返す。しかしその内容はどこか不穏に聞こえるものだった。
「ど、どういう意味光ちゃん?願ったって・・何に?」
「最初から説明するわ。咲、貴女光ちゃんのお母さんを覚えてる?」
「え?ああうん、確かいつも光ちゃんのお父さんにベッタリで仲良いなぁって、子供の頃から印象に残ってたけど。」
「そうそれよ。あの子、いつまで経っても新婚気分が抜けなくてね・・光ちゃんを産んでからもそれは変わらなかった。」
分かり易く声のトーンが下がった愛。何事かと表情をじっと観察すれば、まるで害虫でも見るかのような目で床を見つめていた。
「誤解しないでね、もちろんあの子も光ちゃんの事を愛していたわ、ただ夫の方が大事だってだけの話。あの子が私と二人っきりの時はよくその思いを理屈っぽく並べて言い訳してたもんよ・・・でもね、それをまだ5歳だった光ちゃんからも聞く事になるとは思わなかったわ。」
思わず胸の中の光をギュッと抱き寄せる。そんな悲しい話があっていいものか。
「私はお母さんに愛されていない。そう言って涙をポツポツ零しながら養子にして下さいって土下座してきたあの日、何も答えられずにただあの子の代わりに抱きしめてあげる事しか出来なかったあの日の事を・・私は今でも覚えてる。」
「そんな・・光ちゃんがそんな・・」
「アンタ達がその事を知らずに今まで生きてこれたのは他でもない、アンタ達自身が光にとって大事な家族で唯一無二の存在だからよ。孤独だった光もアンタ達の前でだけは笑う事が出来た。嫌な現実を忘れる事が出来た。照が咲を求め、咲が光を求めたように・・光もアンタ達がいないと苦しくてしょうがないのよ。」
自身が光から求められていたと知り、思わず頬を赤らめる咲。嬉しいなぁと心の中で喜ぶ。
「それから時が経って照が能力に覚醒し、連鎖的に光と咲にも覚醒の兆しが見え始めた。でも照が私の連続和了を受け継いですぐに照魔鏡を発現したのには驚いたわ。まぁどっちの性能も今とは比べ物にならない程弱かったけどね。」
「言われてみれば確かに・・あの頃の私の照魔鏡ってほぼ無いようなものだったわね。もしあの頃に照魔鏡を使いこなせていれば・・違った未来もあったのかも。」
「お姉ちゃん・・」
ありもしないもしもを夢見て現実逃避に走る照。そんな姉をどこか羨ましそうに見つめた咲。
「咲の能力に関しては連続和了で確定したのとは別にもう一つ何か形になりそうだったんだけど、変なのになるとまずいから嶺上開花に誘導しておいたわ。」
「だからさぁ、私はもっと別の・・・まぁいいや今は。どうぞ続けて下さいませ。」
不服そうに話の続きを促す咲。ムカつきはするが大事な光の過去を遮る訳にはいかなかったのだ。
「そして最後に光、この子の能力がどんな形になるのか・・正直私は不安だった。」
「不安だった?咲にやったみたいに誘導しなかったの?」
「しなかったわ。ただ勘違いしないで欲しいんだけど、本来ならこれは能力者の育ての親はみんなやらなきゃいけない義務のようなものなのよ。でもね・・・正直同情しちゃってたの、光ちゃんの境遇に。」
言いながらゆっくりと申し訳なさそうに目線を逸らした愛。
「複雑な家庭環境で育った子供によく見られるパターンがあってね。親を憎むあまり能力が歪なものに成長し結果悲惨な事件を引き起こすって。たぶん光ちゃんもそうなると踏んで私は・・あえて何もしなかった。」
その言葉に即座に反応したのは咲ではなく照だった。
「ちょ、ちょっと待ってよお母さん!?じゃあ何!?お母さんは光が母親殺しをすると予想して敢えて見逃したって言うの!?」
母親殺しという単語に会場内がざわざわしそうになるが、即座に愛が否定に入る。
「そんなにあの子は弱くないわ、頭がお花畑状態でもいっぱしの能力者なんだから。でも派手な喧嘩になるとは思ったわ。そしてそこで初めて、娘がどれだけ苦しんでいるかを知って自分が母親なんだって自覚して、最後は仲良く終わるって・・そう踏んだのよ。」
そこまで聞いてホッと胸を撫でおろして安心した照。他にこの話を聞いていた雀士達も同様に安堵した。
「でも結果は違った。光は母親と向き合う事を最初から諦めて、代わりに誰か一人を自らの虜にする事で心を埋めようとした。その対象が咲・・貴女だったのよ。」
優しく、なるべく娘を傷つけないように配慮した口調。しかし咲はまだ食い下がった。
「それは全部お母さんの視点から見る状況証拠でしょ?それだけじゃ光ちゃんが能力で私を操ったって部分の説明がつかないよ!第一私自身そんな洗脳を受けた覚えがないんだけど!?そこのところはどう説明するのよ!?」
ものすごい勢いで捲し立てる咲。しかし愛は少しの間を置いてハッキリ言った。
「・・目に見えて分かる物的証拠があれば良いのよね?」
「っ!?・・そ、そうだよ!お母さんに用意できるの?」
「・・光ちゃん、お願い出来る?」
愛のバツの悪そうな顔に笑顔で振り向き応える光。するとそのまま咲に抱き着いた体勢で背中をグーッと伸ばし始める。途端に彼女の周りを中心にオーラが放出され始めるが、しかしこのオーラに懐かしみを覚えたのは咲達だけではなかった。小鍛冶や淡、遠くで見ていた清澄の皆も同様に・・特に和は強い既視感を覚えた。
(・・え?これって咲ちゃんの?)
(あれ?これってサキの白の・・?)
(これは!?まさか咲さんの優しさは!?)
やがてオーラは光の背中に集中し、大きな翼を形作る事でその能力を可視化させた。彼女の大きな翼・・・それは咲をよく知っている人間ほど見慣れたものでもあった。
「うふふ、どうかな咲?貴女のよりもフワフワだといいんだけど。」
得意げな表情で語り掛ける光だが、しかしその眼には未だ怯えの色が見て取れる。そして咲は咲で目の前の現実を受け入れるのに必死でそれどころではない!目の前に広がる大きな白き翼、それが無言で主張するのだ。私がお前を育てたのだ・・・と。
「そ、そんな・・その翼は、私の・・・」
「違うわ咲、貴女のオーラの翼は元々の光ちゃんの能力・・”守護天使”の恩恵によるものよ。」
守護天使・・言われてみれば確かにと咲は頷いてしまった。その神々しい姿に西洋風のホテルという舞台も合わさって、まさに天使と呼ぶにふさわしい雰囲気を纏っていた。そんな中穏乃が口を開く。
「あ、あの!お二人は守護天使の意味をご存じだったりしますでしょうか?」
「私は分かんないわよ。ネリーは?」
「はぁ、(またネリーが解説するの?)守護天使ねぇ・・・たぶん愛さんが言ってるのは守護天使のまとめ役であるラファエルの事じゃないかな。」
「ラファエルですか?」
「そう。ミカエル、ガブリエル、ウリエルと並ぶ4大天使の一人。魚を持った姿が象徴的な、癒しの天使として有名よ。」
「へーそう、でも何でラファエル?誰かに力を与える逸話でもあるの?」
「いや、そういう伝説とかはないけど・・・あ、もしかしてあれかな?」
「あれとは?」
「一部の学者連中の間では、ラファエルは自分が癒した戦士の潜在的な能力を引き出す事が出来て、それが間接的に悪魔との大戦の勝利に貢献したんだって言われてるの。」
「なるほど、だからあの子の能力はラファエルの代名詞である守護天使・・・じゃあ洗脳するって部分は?」
「それはたぶん信仰を集めるって点じゃないかと思います。実際にあの翼を使ってきた咲さんは沢山の仲間に囲まれ慕われているじゃないですか。たぶん光さんも、脚が普通の人にように動けていればきっと・・」
「・・何度も解説して頂きありがとうございます、お三方。それで合ってますよ。」
今度は光から感謝される三人。再び頬を赤らめる。一方で光の方は咲に向き合っていた。
「あの人達の言う通りだよ咲。私はこの力で咲を自分の信者にする事で孤独を埋めようとした。」
「ちょ、ちょっと待ってよ光ちゃん!?じゃああの河底の能力は!?」
「あれは局の最後の最後に気の緩んだ人が、私のアガり牌を落とすようにこの翼の力で誘導していただけだよ。咲だってたまにやるでしょう?」
そんな事は言われるまでも無く分かっていた。白のオーラを一定以上注入された生物は途端に敵意を失い逆に親しみを向けるようになる、咲はその力を使って今までいくつもの修羅場を潜り抜けてきたのだ。だが咲が気にしていたのはそんな事ではない。
「そんな・・じゃあ私のこの想いは全部・・・光ちゃんによって植え付けられた・・・・・人工的なものだったって事?」
「それは・・」
「光ちゃんをこんなに愛しているのも全部偽りの感情なの?じゃあ本当の私って何?何処までが私の意識なの!?」
足元が崩れていく感覚・・このままでは咲は発狂してしまう。
そう思った光の行動は早かった。
「大丈夫だよ咲、一緒に見に行こう。」
「へ?何を?」
「過去を・・照と私、そして咲。いつも一緒だった三人で!今度こそ!」
翼をバサリと翻す、その風はオーラを運んで三人を見えない糸で繋いだ。
「咲!手を借りるよ!」
咲の右手を両手で包み込む光。すると三人を包み込むように白い閃光が会場内に飽和する!それを見た何人かはすぐに何が起こっているのかを理解して口を開く。
「こん感覚!?あん時と同じ!精神の世界ば三人で繋げるつもりか!?」
「これは・・私に黒百合の力を自覚させてくれた時と同じ!?」
「あれはー、あの日雀荘で暴走した私を救ってくれた時に近い・・のかなー?」
光は二人を精神の世界へと誘った。自身の行いとそれに付随した想い・・それらを包み隠さず教える為に。
つづく
次回、精神世界で過去を振り返り、互いの答えを出し合う三人!
決勝戦はどんな展開を望みますか?
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能力を使った麻雀対決をがっつり書いて
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麻雀対決はあっさりでいい
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麻雀はいいから能力で直接戦って欲しい
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麻雀シーン少な目、キャラ同士の会話多めで
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試合中の回想シーン中に会話を多めで
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特になし、作者のお好きにどうぞ