雀荘荒らしの咲   作:ロクナナエイト

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咲と照と光

 

「・・あれ?ここは?」

 

 突然の閃光に驚いて目を伏せた咲。それから数秒後、周囲の環境が変化した事に気づいて目を開ければ・・そこには大量の魚達が舞い踊る光景が。

 

「この魚達は一体・・」

「ホテル会場の壇上から動いてないよ、咲。」

 

 声に振り向けば、翼を大きく広げながら飛んでいる光の姿があった。

 

「ひ、光ちゃん!?飛んでるの!?」

「うん、咲がみんなに頼んで会場をオーラで満たしてくれたんでしょ?それに私達三人の精神が現実に混ざって・・だからこうやって、限定的だけど飛ぶことが出来るんだ。」

 

 バサバサと羽ばたきながら宙を縦横無尽に駆ける光。その動きを追って気づく、壇上には照も愛も小鍛冶もそのままいるし壇下にも皆が変わらずに存在していた。ではこの変化は何なのか?尋ねる前に愛が代わりに答えた。

 

「驚いた・・まさか精神世界で現実を汚染ちゃうなんて。」

「現実の汚染?どういう意味?」

「さっき光を中心にアンタ達が起こした精神世界の交感。あれはオーラを使える者達の初歩の奥義みたいなもので、慣れればオーラ使い同士でテレパシーみたいな事も出来るようになるの。」

「それは知ってるよ、決勝戦でネリーちゃん達が使ってたし私も頻繁に修行目的で使ってるし。」

「なら話は早いわ。そのテレパシーをもっと大勢の人間と出来るようにしたのがこれよ。この状態なら自分の想像を現実にする事だって出来るわ。例えばホラ、こんなふうに。」

 

 肩まで手を挙げて小さく挙手のポーズをした愛。しかしその手から生えているはずの指五本は全て包丁のように鋭利に輝く鉤爪へと変化していた。それを見た咲は少しギョッとしつつ会話を続けた。

 

「これが・・・でも私達三人だけじゃこんな大規模な現実汚染は無理だと思うんだけど、何で出来たんだろう?」

「さぁ・・もしかしたら私達の事を見ている神様の誰かがもっと私達の事を知りたくてこっそり手助けしてくれたんじゃない?咲ならいるでしょ?そういう神様の知り合い。」

 

 うーん、と頭を捻って候補を並べ始める・・・がしかし、

 

「・・候補が多すぎて分からないよ。どの神様も腹黒いイメージしかないからさぁ。」

「あーそれ分かる。私もプロの頃はよく変な神様連中に付きまとわれたものよ。アイツ等元気かなー。」

 

 愛が昔を懐かしみ始めたので話を切り上げる。そして再び光に視線を戻せば、彼女は照の腕を掴んで一緒に空を飛ぼうと誘っていた。しかし照は頑なに誘いを断っていた。

 

「ホラ照!一緒に飛ぼうよ!せっかくの機会なんだからさ!」

「駄目よ!まずはちゃんと話し合いなさい!この状況でしか話せない事があるんでしょう!?」

 

 はーい、と素直に返事をして光は舞い降りる。ペタッという音が出そうな感じで壇上に座った彼女は咲の方を向いて言った。

 

「咲、今なら貴女の質問に真実を提示しながら答える事が出来るわ。」

「真実?」

 

 その言葉に返事はせず、代わりに空中を泳いでいる魚の一匹を呼び寄せた。その魚はどこか寂しさを感じさせる、蒼い模様が特徴的なヒラヒラした魚だった。

 

「まずは私がやけどを負ってからの変化を見ようか。」

 

 喋り終わると同時に魚が泡に変化した。その変化に驚く間も無く弾け飛ぶ!咄嗟に顔を覆って視界を塞ぎ、再び目を開けば今度は病院のベッドの上で瘦せ細ってしまった光の姿が!

 

「光ちゃん!?」

「落ち着いて咲、これは私の過去。今から大体2年前の事だよ。」

 

 いつの間にか咲の傍に移動した光がなだめに入る。それでさらに混乱した咲だったが、目の前の痩せた光が喋り始めた事で無理やり自身を落ち着かせた。

 

「・・・定期健診・・・・どうせ何も変わらない。私の脚は動かない・・・・・もう、どうでもいい。」

(咲・・会いたいよ。会って色々話したい。頑張ったねって慰めて欲しい。お母さんは私を本当の意味で愛してはくれない。だから咲・・・私を欲して・・役立たずの私を必要として。)

 

 独り言が終わったと思ったら頭の中に声が響く。それも終わって音が無くなると目の前にいるベッドの上の光も煙のように掻き消えた。後には何も残らない。

 

「い、今のは・・」

「私の過去だよ。この時の私は咲に会えない事に絶望して何もかもどうでもよくなっていたんだ。」

 

 穏やかな口調で淡々と話す光。それに僅かな恐怖を覚えた照が二人の傍に近寄りながら言った。

 

「でも今は違う・・のよね?」

「今はと言うより、このあとに起きた事の後からだね。」

 

 そう言って光は前を向く。つられて見れば、再びベッドの上で寝ている光の姿が。しかし今度は光のお母さんが傍に立っていた。

 

「光聞いて!もしかしたら貴女の脚が治るかもしれないって!」

「・・義足でもつけるの?」

「違うわよ!さっき海外でも有名なあの富豪さんから連絡があってね!詳しい事は後で話すけど、その人が光の脚を治す為の手術費を出してくれるって言うの!」

「(あの富豪さんって誰よ。)そうなんだ・・・それならちょっとだけ期待しちゃおっかな。」

「何でも近い内にアメリカの医療現場に正式導入される新技術らしくてね!それを最後の治験って名目で受けさせてくれるそうなの!本当は駄目なんだけど光は特別な存在だからって!それで・・・」

(・・・馬鹿らしい、脚が治ったところで何が変わるの?例え私が歩けるようになったとしてもお母さんは咲達と私を合わせようとは絶対にしない。私が咲達に会えるのはお母さんが寿命でくたばってから。つまり私が60歳を超えた頃って事・・それまで私は独りぼっち。)

 

 独白が終わって痩せた光は再び掻き消えた。その様子を見て照が一言。

 

「光は私達と別れた後って何してたの?」

「何も?車椅子に乗りながら機械的に学校に行ってたよ。楽しくは無かったけどね。」

「新しい友達は作らなかったの?」

「能力者ですらない人間と友達になったとしてその子に私の何が理解できるっていうの?ていうか、それ以前にみんな車椅子の私を見て一線引いてたからね、仲良くなんかなれないよ。」

 

 思わず語気が強くなる光。咲達と別れてからの生活がよほど辛かったのだろう・・強がりながらも彼女の眼はどこか不安そうに右往左往していた。

 

「・・次、見せるよ。」

 

 話を切り替える為にも先を急ぐ光。現れた過去の光はまたもやベッドの上、しかし今度の彼女は手紙を持ちながら真剣な眼で読んでいた。傍に居る光のお母さんはその様子を不思議そうに見ていた。

 

「どうしたの光?それ、富豪さんが手術に臨む貴女を応援する為に送ってくれた手紙・・で合ってるわよね?間違えて別のヤツ渡しちゃった?」

「・・ううん大丈夫だよ、何でもない。」

「そう・・お母さん、お医者様とお話してくるから待っててね。」

(・・・間違いない、この手紙に付いている僅かなオーラは咲!咲なんだね!咲は私と離れてからも私を慕う想いは変わらなかったんだ!今でも私を求めてくれるんだ!こんな歩けない私を!歩けるようにしてくれるんだね!嗚呼・・・嬉しい!)

 

 心からの歓喜を最後に回想は終了した。ベッドの上の光も消えて、残ったのは咲達だけ。

 

「えっと光ちゃん。つまり・・・」

「つまり、この時点で咲が私の脚を治そうとしている事に気づいていたし、そのおかげで私は生きる希望を再び手に入れる事が出来たって事。二人がいつ来てもいいように身体もしっかり鍛えたし!」

 

 グッと腕を上げて握りこぶしを作った光。確かに今の彼女は先程まで見ていたガリガリの彼女よりもかなり肉付きが良くなっていた。

 

「ねぇ光、これで終わりなの?」

「まさか、次は私達が火事に巻き込まれたあの日に遡るよ。」

 

 そう言うと光は再び魚を呼び寄せた。今度の魚は燃えるような紅い鱗に覆われたピラニアのような姿をしていた。そこから咲は、どうやらこの魚達の姿はその時々の光の印象によって決められているようだ、と理解した。

 今度のピラニアも同様にして泡となって輝き彼女達を過去へと誘う。舞台は光の言った通り、咲達を引き裂いたあの日の火事現場。燃え盛る我が家を眺めながら、咲の視線はその中心にいる彼女の元へと吸い寄せられた。

 

「ゲホッゴホッ!!・・ガハッゴホッ!!」

(早く、逃げないと・・・でも、辺り一面火の海で・・オーラで火の手を抑えるのも限界・・・)

 

 その独白で愛は気づく。台所での爆発によって勢いを増した炎は、光の周りを半径1メートル位の感覚でぐるっと一周するように迫っていた。しかしそれ以上の進軍も出来ないでいた。

 

(そういう事、あの日家に取り残された光ちゃんがどうして倒壊ギリギリまで持ちこたえられたのかずっと不思議だったけど、オーラで安全地帯を維持していたのね。すごい才能・・とても中学生とは思えないわ。でも・・・)

 

 中学生の気力量では長くは持たない。そう思った通り、光は周囲の熱と全身からかつてない勢いで抜けていく気力に恐怖し、滝のように汗を流しながら苦しそうにしていた。

 

(もうもたない、ここで死ぬの?・・やだ・・死にたくない・・・助けて咲!)

 

 自らの死に直面して彼女が最後に思った事、それは最愛の人との邂逅だった。そして願いは届く。

 

「光ちゃん!?」

「咲!?」

 

 咲が光を助ける為に戻って来た。しかし、

 

(咲!ダメ!瓦礫が邪魔でこっちに来れない!咲の力だけじゃ瓦礫をどかせないし、せめて照か愛さんがいてくれれば!)

 

 照の風を起こす能力を暴走させてこの家ごと吹っ飛ばすか、愛のオーラの力に頼るか出来れば良かったのだが。何にせよ自身の状況を誰よりも理解していた光は咲に引き返すように叫ぶ。しかし咲も帰らない、光を助けようと必死だ。

 

(咲・・・そんなに私の事が大事なの?貴女が私をそこまで愛してくれるのも、元を辿れば全部私の所為なのに?・・分かった、なら最後まで一緒にいて!一緒に死んで!)

 

 もはや二人共助からない、そう悟った光は責任を取る意味でも咲と心中する決断をした。そんな光の変化に河底のオーラも弱まり・・

 

「光ちゃん!?危ない!!!」

 

 気づいた時にはもう遅い、家を支える柱の一つが彼女の脚目掛けて倒れ込む。幸いにも柱は脚を潰すまでには至らなかったが、纏っていた炎が肉を焼いた。それを肌で理解した光は絶叫しながら悶え苦しんだ。

 

「がああああああああぁぁぁ・・・熱い、熱いよぉ・・」

 

 痛みで思考が塗りつぶされオーラの精密な操作も出来なくなる。抑えてられていた火の手も勢いを取り戻し、彼女に向かって進軍を再開した。そんな中、最後に彼女が思った事は・・

 

(咲・・お願い・・・最後まで一緒にいて・・)

 

 最愛の人の道連れ。その想いを反映してオーラもたどたどしく咲の身体へ絡みついた。その途端!

 

「うがあああああぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 突如、大きな咆哮が上がり周囲に存在していた光を害する全てが吹き飛んでいく!残ったのは光とその脚に絡みつく燃え盛る柱のみ。

 

(ぁぁ・・・咲・・)

 

 驚く力すら出ない光。痛みで意識が朦朧とする中、最後に映ったのは自身の最愛の存在である咲の明るい笑顔だった。

 それを最後に過去の投影は終了し、燃えている家も下敷きになった光も煙のように掻き消える。それを確認した照が真っ先に口を開いた。

 

「光の思っていた通りだった。あの時私が咲と一緒に戻ってさえいれば・・・ごめん光。」

「照が謝る事なんて一つもないよ。あの時は死にたくない一心であんな事思っちゃったけど、普通は逃げ遅れた人を助ける為に素人が火災現場に戻るなんてありえない事なんだから。だから謝らないで照。それよりも・・ごめんね咲、あの時咲は私の事を本気で助けようとしてくれたのに。私は・・・咲を道連れにしようとした。」

 

 床に座りながら深く頭を下げた光。ほとんど土下座に近い状態だった。しかし咲は咲で・・

 

「ああうん、それは別にいいよ。だってそれって一緒に死んで欲しいって思うくらい私の事を想ってくれてるって事でしょ?そういう理由だったら全然・・」

「ホ、ホント!?も、もちろんだよ!私咲の事本気で大好きだから!」

 

 分かり易く元気になる現金な光。しかし咲はこう続けた。

 

「でも、私が光ちゃんをこんなに好きなのは・・これが造られた感情だからって可能性もあるんだよね?」

 

 その言葉で再び静かになった光。しかし表情はどこか覚悟が決まったような感じだ。

 

「・・分かった、本当はもうちょっと遠回りする予定だったんだけど・・もう見せるね。」

 

 大きく手を挙げて魚を呼び寄せる光。今度の魚は一目見て、今までの魚とは違うというのが明らかだった。

 まずサイズが全然違った。今までの魚はどれも小ぶりだったが、今度のは1メートルを優に超えていた。見た目は深海魚で有名なリュウグウノツカイ、体色も今までの一色とは違い色鮮やかな七色に発光していた。そう、その魚は自ら輝きを放っているのだ。その輝かしい光から感じる温かさは、おそらく中に詰まっているであろう記憶が光本人にとって素晴らしいものなのだと他者に理解させるには十分なものであった。

 

「さぁ、私が人生の中で一番幸せを感じた瞬間・・・事故に遭う前、私が咲に能力を使った前後の記憶だよ。」

 

 リュウグウノツカイは光の手から離れて大きく宙へと跳ねた!瞬間、輝きが会場を照らし注目を集める。輝きは段々と収まっていき・・その中から三人の少女が姿を現した。

 

「照ー!もっとブランコ押してー!」

「いいよ、私は二人のお姉ちゃんだもん!」

「・・雨上がりは何か気持ちいいなー。」

 

 光と照と咲、三人が公園のブランコで遊んでいた。背丈と雰囲気からして、おそらく小学校低学年か中学年あたりだろうか。

 

「・・お姉ちゃん風起こしてー。」

「何でよ?今光を押すので忙しいんだけど。」

「ほら、もうすぐ5時だから。」

「5時だと何なのよ?」

「夕日が見れる。」

「それと風が何の関係があるって言うのよ?」

「・・絵になる。」

「絵になる?」

「アハハ!確かにそういう絵あるよね!」

 

 自分達の昔の姿に純粋に懐かしさを覚える三人。中でも、今と違って昔は自分が姉を振り回す事が多かったんだっけ?などと特に感傷に浸っていた咲だったが、

 

(あれ?この後どうなったんだっけ?確か三人一緒に帰ったんだっけ?それともバラバラに帰った?あれ?)

 

 疑問が脳を止める。どうもこの後に起こる内容を思い出せないのだ。まさか自分の記憶がこんなにあやふやだったとは。普段から一人精神世界で過去を振り返っているのに、我ながら情けない!とここで、

 

「アハハ、ハハ・・・はぁ。」

「どうしたの光?ブランコもういいの?」

「・・・帰りたくない。」

 

 光から何やら不穏な空気が漂い始めた。

 

「帰りたくない?何でよ?」

「・・・二人ともっと遊んでたいから。」

(・・言えないよね。本当はお母さんが私の事を見てくれなくて寂しいから、なんて・・二人にそういう目で見られるのも嫌だし。)

 

 その独白にそうだったの!?と驚いたのは当事者の照。実はこの時に何を話したのか照はハッキリと覚えており、いつもと違ってどこか苦しそうな様子の光を純粋に心配していた。しかしその内容は、もっと私達と遊んでいたいからこんなに苦しそうなんだ!と若干的外れな辺り、愛の子供とは思えない程鈍感であると言わざるを得ない。そしてそんな幼少の照はやはりどこか見当違いなアドバイスをしてしまう。

 

「大丈夫だよ光!ほら、あの夕日を見て!」

「・・・うん、綺麗だね。」

「あの夕日と同じで、私は光を夜の間は照らせない。」

「うん・・・うん?」

「でも朝がくれば!私が名前の通り光を照らしに会いにいくよ!だから今はお別れ、ね?辛いだろうけどまた明日、一緒に遊ぼう!」

「うん?うん・・・・そうだね、ありがとう。」

「うん!えへへーー!」

 

 良い事言ってやった感を出して得意げになっている子供の照。それを見てあまりの恥ずかしさに顔を覆って赤面する現代の照。そうこうしている内にいつの間にか三人は公園を後にし、光は1人で暗い路地をトボトボと歩いていた。

 

(・・嫌だなぁ、帰ったらまたお母さんに挨拶しなきゃいけない。いつもお父さんばっかり愛されて、私はそれをただ見てるだけの毎日。・・私だって、あれくらい愛されたいよ。)

 

 愛されたい・・その独白に黙って聞いていた小鍛冶はウンウンと無意識に頷いた。他の何人かの学生達も首を縦に振って共感していた。とここで、

 

「そんなに帰るのが嫌なの?」

「っ!?咲!?何でこの道を!?」

 

 いつの間にか後ろから咲がついて来ていた!どうやら咲は光の事を心配して引き返してきたようだ。

 

「何でって・・光ちゃんが心配だから。」

「心配って、別に明日も会えるんだから!これが一生の別れって訳じゃないんだから・・だから・・」

「光ちゃん?泣くほど別れるのが寂しいの?」

 

 光の心はもう限界だった。物心ついた頃から愛を知らずに生きてきた彼女にとって言葉だけじゃなく行動で親愛を示される事は、自分を無条件で受け入れてくれる母親の理想像そのものであり、欲しくて欲しくて仕方がないものでもあったのだ。そんな無償の愛を弱ったところに与えられた光は・・・心の底から嬉しくなり思わず咲に抱き着いた。

 

「咲っ!!!」

「うわっ!?光ちゃんどうしたの?」

 

 突然のタックルじみた抱き着きも難なく受け入れすぐさま抱き締め返した咲。その行動にまたもや光の心は絆され、

 

「ううっひぐっ!咲!咲ぃぃ・・・」

「・・よしよし、辛かったよね。いいよ、このまま一緒にいよう。光ちゃんが泣き止むまで。」

 

 その囁きでダムが決壊、今まで心の内に溜め込んでいた痛み辛みを狂ったように泣く事で発散させた。

 

「ゔわああああああああああああああああんんん!!!!!」

「・・・公園に戻ろう光ちゃん、ここじゃ大人の人の迷惑になるよ。」

 

 住宅街に潜む目を気にしてゆっくりと移動を開始した咲。ほとんど動こうとしない光を半ば引きずるような形でゆっくりと・・二人は公園に戻ったのだった。それから1時間経って午後5時45分、自身の境遇がどれほど酷く辛いものだったのかを延々と喋っていた光。その間咲は黙って相槌をつくだけだった。

 

「酷いんだよお母さんって!わざわざ私に見せつけるようにお父さんのほっぺにキスなんかしちゃってさ!ここ日本だからね!やるなら自分の国に帰ってからにしなよって感じ!」

「うん・・辛かったね。」

「それでさぁ・・って、もうかなり暗くなっちゃったね。」

「うん・・・」

「・・ごめんね咲、本当は咲をこんな下らない事に巻き込むつもりは無かったんだけどさ。」

「そう・・・なんだ。」

「・・・・本当にごめんね咲、正直引いたよね。こんな厄介ごとを抱えてる奴がいつも一緒に遊んでる従妹だなんて・・さ。」

 

 咲は何も言わない、無言を貫く様を見てやっぱりかと悲しみに暮れる光。

 

(やっぱ引くよね、でもそりゃそうか。まさか普段一緒に遊んでる仲良しがこんな面倒な事情を抱えてるなんて思ってもみないだろうし。でも嫌われたくない。せめてちょっと距離を置かれるくらいで済んでくれれば、私はこれからも咲の傍にいる事が出来る。あとはちょっとずつ距離を縮めていって、またさっきみたいに分け隔てなく接せられるようになれるまで1年ってところかなー。)

 

 まだ何処か能天気な事を考える余裕がある光。だが、

 

「・・・えっと、咲?」

「・・・・・」

「・・あのー、咲?」

「・・・・」

 

 何かをじっと考え込んで喋らなくなった。その変化を見た光は段々と呼吸が荒くなっていく。

 

(何で黙ってるの咲?まさか!私の事無視して・・もしかして本気で嫌われた!?嫌だ!それだけは嫌だ!今咲に嫌われたら私、居場所がなくなっちゃう!もう私が私らしく生きられる場所は咲の隣以外無いの!私の全部を知って、それでも私を優しく抱き留めてくれた咲の隣以外!私は・・・生きていけないよ・・)

 

 次第に目も虚ろ虚ろで過呼吸気味になり、ついに視界に靄が掛かり始めた頃・・

 

「光ちゃんは・・私達と遊んでて楽しい?」

「はぁはぁ・・んへっ!?」

「だから、お姉ちゃんや私と遊んでいて楽しいの?」

「え、えっとぉ・・ふぁい!楽しいです!」

 

 突然自分の世界から戻され混乱気味に答えてしまう。その返事を聞いた咲はうんと頷いて、

 

「なら間接的にずっと一緒にいればいいんじゃない?」

「はい!?どういう意味?」

「えっとね・・前に本で読んだんだけど、私達人間って記憶から人格が造られているんだよね。」

「うん。」

「だからさ、他人の記憶を沢山持てばそれだけその人の人格が自分の頭の中に生まれるって事だと思うんだ。」

「・・・・うん?」

「えーーっと、光ちゃんは私やお姉ちゃんとよく一緒に遊ぶでしょ?」

 

 取り合えずうんと頷く。咲が何を言っているかはまるで理解出来ていないが。

 

「でもその記憶って視点が違うってだけで、内容は私達三人の中で共通のものでしょ?」

「ああうんそうだね、それは分かるよ。」

「で、それらの記憶を元にして造った、自分の中だけに存在する自分だけの光ちゃんとお姉ちゃんが私の中に居るの。その二人は私が選択に迷っている時とかにこっちだよ!って手を引っ張って助けてくれるんだ。光ちゃんはそういう体験した事ない?」

「ああ・・手を引っ張られた事は無いけど、アドバイスを貰う事ならちょいちょいあるかな。」

「でしょ?ならあとは簡単!その光ちゃんの中だけに存在している私に、私の記憶をあげちゃえばいいんだよ!」

 

 

 突然訳の分からない事を言い出し始めた過去の咲。黙って聞いていた周りの人間はこの後に何が起こるのか、各々が物凄い嫌な予想を立てていた。一方で咲の方は、そもそもこの日は普通に帰ったはずでは?いやどうだったかな?とひたすらに首をかしげるのであった。

 

 

つづく

 

 

 

 





次回、咲が何をしたのか!謎が全て解ける・・・予定です。

決勝戦はどんな展開を望みますか?

  • 能力を使った麻雀対決をがっつり書いて
  • 麻雀対決はあっさりでいい
  • 麻雀はいいから能力で直接戦って欲しい
  • 麻雀シーン少な目、キャラ同士の会話多めで
  • 試合中の回想シーン中に会話を多めで
  • 特になし、作者のお好きにどうぞ
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