雀荘荒らしの咲   作:ロクナナエイト

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ネリーがすごくヘタレな感じになってしまいました。
でも16歳の高校生ってこんな感じですよね?

今回はそんな感じの内容になっております。


ネリーとカンドラの出会い1

 

「カンドラ!」

 

扉の先にはカンドラが立っていた。その見た目は相変わらずのロングコートに黒いマスク、黒いサングラスに長髪のウィッグという変装スタイルだった。

 

「それじゃ、私はこれで。」

 

「うん、いつもありがとう。」

 

「いえいえ、この程度お安い御用っすよ!それじゃ!」

 

そう言って桃子は能力を使って姿を消した。

 

「さてと、それじゃあネリーさん。改めましてこんにちは!」

 

「ふふ、こんにちは!」

 

愛くるしく笑うネリー。その笑顔は普段の冷徹な彼女からは想像し難いものであった。

 

「4月にあの雀荘で初めて会った時から結構経ちましたね。お金の方はあれから大丈夫でしたか?」

 

「うん、カンドラのおかげで問題なく家族に送金し続けられてる。」

 

「なら良かったです。ええ本当に、大切な家族を見捨てるなんて事にならなくて本当に良かった。」

 

まるで自分の事のように喜ぶカンドラに、ネリーは少し照れくさくなって自身の前髪を弄りだした。

 

(懐かしいな..あの日を思い出す)

 

端から見れば異国の少女と不審者が和気あいあいと会話を楽しんでいるという不思議な光景。だがこうして2人はめぐり逢い、言葉を交わしている。いったい何故こうなったのか、ネリーは自身が心を許しているカンドラとの出会いを刹那に振り返った。

 

 

 

 

 

今年の4月

 

 

「・・やっぱり、もうこれしかない!」

 

雨がしとしとと降り続ける薄暗い午後の東京、とあるビル。高度経済成長期の波に乗って建てられたであろうそのビルは、違法な博打を打てるという疑惑のある雀荘を含むビルであった。そんな怪しいビルの階段の前で、一人の少女が立っていた。

 

(まさかパパが仕事をクビになるなんて思わなかったな..)

 

 

 

 

少女の名はネリー・ヴィルサラーゼ。故郷ジョージアから出稼ぎに来た留学生だった。

 

大前提としてネリーの家は貧乏だった。そもそもネリーの生まれた国ジョージアは世界基準でもあまり治安が良い方ではなく、明るい都市の裏では強姦、強盗、殺人などが平気で行われているディストピアと表裏一体の関係を持つ国だった。

なぜそこまで治安が悪いのかと言われると、やはり紛争が多発しているのが最初に上がるだろう。次に公務員の汚職、次に若者の学力の低下などなど、紛争が原因で国力そのものが無くなっているのが総合的な理由として上げられる。

 

そんな中、貧乏な家庭に生まれたネリーにとって、生まれ持った”運を操作する能力”というのは、まさにジョージアに住むものにとっては喉から手が出る程欲しい能力であった。

物心ついた時からネリーはその能力で家族を助けてきた。最初は不幸を引き寄せる人間と運が寄ってくる人間の区別を覚え、次に運の引き寄せには波がある事を知覚して、中学に入る頃には自身の運の波を自在に操り未成年で”上手に”お金を稼げるようにまでなっていた。

 

しかし、それは悪魔で法の支配が緩い故郷ジョージアでの話であり、日本のような完全法治国家では、ネリーがジョージアでやっていたような”グレーなやり口”は出来なくなってしまっていた。

日本に留学した頃はそれでも良かった。むしろ、そういったグレーなやり口を卒業する為に、日本に留学に来たと言っても過言ではなかった。

 

ネリーの両親はネリーへの罪悪感をずっと抱えていた。ネリーは幼いころから、両親に高級品を”拾った”と言って貢いでくれた。しかしそれは、拾ったのでは無く、”運悪く”どこかの誰かが殺された時に”運良く”犯人が見つけられずに残していった高級品をネリーが死体から盗んできた物であった。

それに気づいたネリーの両親は日に日に消耗していった。自分達の稼ぎが悪いから、自分達の娘がどんどん犯罪紛いの行為に慣れていく事実に耐えきれなかったのだ。そんな両親が娘に明るい道を歩いて欲しいという親心で教えたのが、麻雀であった。

 

相手の運が視えるネリーにとって麻雀は最高の遊戯であった。ネリーの前に立つ者は、みなことごとくネリーの運命視の前に崩れ去っていき、いつの間にかアジアの中でも指折りの中学生雀士としてネリーは名を轟かせていた。

そんなネリーは数々のアジア麻雀大会に参加して勝利を手にし、中学生にしては多すぎる富を手にする事になった。もちろんネリーはその富を家族に献金して生活を豊かにする事に使った。それと同時に死体漁りをする頻度は減っていき、やがて日本の高校に留学する頃には死体漁りから完全に足を洗っていた。

 

両親はネリーを日本に送り出す時に泣いて喜んだ。これでもうネリーが死体漁りをする事は無くなる。もう暗い道を歩くことは無い。戦争の無い日本という異国の地で幸せに生きてくれ。そういった思いでネリーを日本に送ったのだった。

 

もちろんその思いにネリーは気づいており、同時にそんな風に自分を愛してくれる両親を、ネリーもまた心から愛しているのだった。だからこそ、父親が職を失って困っているという知らせに酷く動揺して、後先考えずにこのような行動に出てしまったのである。

 

(ごめんパパ、ママ、私はまた、暗い道を歩きます。)

 

過去を振り返りながらビルの階段を上っていると、あっという間に雀荘のある階までたどり着いてしまった。

 

(..1回だけ、1回だけなら学校も見逃してくれるかもしれない。)

 

そんな淡い期待を抱きながら、意を決して雀荘の扉を開けようとしたその時!

 

 

 

「あの、どうしました?」

 

背後からの不意打ちにビックリして振り返る!そこには如何にも不審者といった感じの少女が立っていた。一瞬たじろいだネリーだったが、背がネリーと大差ない事に気付くと大声で反撃した。

 

「見て分かるだろ!この雀荘に用があるんだよ!分かったらどっかいって!」

 

予想以上に大きな声が出た。ここまで大声を出すつもりはなかった。少し申し訳なく思うネリーだったが、そんな大声を浴びせられても目の前の少女は全く動じなかった。それどころか、

 

「・・良かったら一つ上の階の中華料理店にご一緒しませんか?私が奢りますよ。」

 

サングラスにマスクをしていたので全く表情が読み取れなかったが、ネリーはなんとなくだが少女が自分に対して哀れみの感情を向けているのを感じ取った。当然ネリーは激怒した。

 

「ネリーを馬鹿にしてるの!?ネリーがこの雀荘でカモにされるとでも思ってるの!?上等だよ!お前から焼き鳥にしてやろうか!」

 

さっきよりもずっと大きな声が出た。おそらくこの雨音でもかき消せないぐらい大きかった。しかし、それを聞いた少女は..何故かネリーにゆっくりと近づいてきた。

 

「な、なんだよ!?こっちくんな!?」

 

必死に威嚇しまがら雀荘のドアに背をべったりと張り付ける。若干へっぴり腰になって無様に足を開く様は、さながらホラー映画のやられ役のようであった。

 

少女はそのまま近づいて手をネリーの顔の横に

 

 

ドンっ!

 

 

と叩きつけた。属に言う壁ドンである。

 

ひっ!?という情けない声と共にネリーはその場に座り込む。かなりヘタレているネリーだが考えてみれば当然の事。日本という慣れない異国の土地で、その中でも日本の法律が通用しなさそうな場所に一人で来て、更にその中でも飛び切りヤバそうな雀荘に入ろうとして、その雀荘に慣れ親しんでいそうな不審者に背後を取られ、雨で暗い階段の隅に追い詰められたとあっては、さすがのネリーも己の死を覚悟していた。今のネリーには、死体漁りをしていた頃の記憶が蘇っていた。今度は自分が死体になる番だと悟った。

 

(こ、殺される!間違いなく殺される!!!)

 

なによりも、この少女から放たれているオーラがネリーを怯えさせていた。相手の運命を波として見る事が出来るネリーは、目の前の少女から放たれる強烈な黒いオーラに恐怖していた。ネリーは運命の波とは別に、人から常に放たれているオーラもなんとなく感知する事が出来る。このオーラが大きければ大きい程、運命の波をある程度感情に左右させる事が出来る事を知ったネリーは、幼いころからそういった人間を遠ざけてきた。

なぜなら、そういったオーラの強い人間の運命は、当人の感情次第で他人の運命すら巻き込んで不幸にする事が多かったからだ。そんな経験からオーラの強い人間と距離を取っていたネリーにとって、目の前のオーラを自在に操っていると思われる少女はまさに未知!恐怖そのものであった!おまけにオーラも黒くて威圧感がある!絶対命の危機に直面する事になると決まってる!そう思ったらもうまともでいられなかった。

 

若干パニックになりかけるネリー、そんな様子にこれ幸いと、カンドラは無理やりネリーを立ち上がらせて4階へ引っ張っていった。

 

(パパ、ママ。ネリーはここまでです、この黒いオーラの不審者にネリーは殺されてしまうでしょう。)

 

「ほら、シャキシャキ歩く!美味い中華料理を食べて、一緒に気分転換しましょう!今日は2人で女子会です!」

 

(ヒイィ!?中華料理にされる!?チャーシューにされる!?)

 

対局中ならこんな無様な事には絶対にならないのだが、悲しいかな。今のネリーは父の不幸と不審者のオーラに精神が参っているのであった。足をガクガクと震えさせながら、少女に手を引かれてゆっくりと階段を上っていく。逆らったら階段から突き落とされるかもしれない!そんな恐怖を感じながらネリーは歩を進めていた。

 

「ああ、神よ。ジョージアにはいなかったら神よ。どうかネリーを救いたまえ。」

 

「何訳の分からない事言ってるんですか?ホラ、もう中華料理店は目の前ですよ。」

 

中華料理店の扉を叩く少女。その慣れた様子を見て、改めてネリーは自身の死を覚悟したのだった。

 

 

続く

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