雀荘荒らしの咲   作:ロクナナエイト

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宮永咲の門出

 

「ま、待って咲ちゃん!」

 

 小鍛冶の咄嗟の制止も虚しく、二人は互いに一歩踏み出して一つになる。

 カッ!と二人を閃光が包み込み、白い光が皆の視線を遮る。思わず手を顔の前に出したその時・・

 

「大丈夫です、小鍛冶さん。」

 

 閃光の中から・・声が聞こえたような気がした。

 次第に白い光は落ち着いていき、やがて人一人が入れるくらいの小さな球体状にまで萎んだ。と思った瞬間、パカッというカラッとした音が響いて球体は割れ、そのまま空気に溶けて消えた。

 割れた球体から出て来たのは・・宮永咲であった。

 

「ふーー、ただいまみんな。」

「さ・・咲?大丈夫なの?色々と?」

 

 照が恐る恐る声を掛ける。すると咲は今までの彼女からは想像も出来ないような無邪気な笑顔で、

 

「うん!元気だよお姉ちゃん!」

 

 年相応の活力ある声を張り上げた。当然周囲の反応は驚き一色に染まった。

 

「え?咲ちゃん?」

「ん?どうかしましたか小鍛冶さん?」

「(意識がしっかりしてる?)・・無事ならいいんだけど、結局どうなったの?」

「ああ、大丈夫ですよ。ちゃんと元に戻りました。」

「元に戻った?」

「はい!光ちゃんの中にいた私とこの身体にいた私、二人の意識は矛盾なく混ざって私になりました。」

「じゃあ咲ちゃんは・・両方の記憶を持っている新しい咲ちゃんって事?」

「はい!でも安心して下さい、まだ二人は私の中で僅かに混ざらずに息づいています。だから完全に混ざり切るまでは2人にも会えますよ。もっともその必要もないと思いますが。」

 

 

 そう言うと唐突に会話を切り上げた咲は座っている光の方へ向いて喋り始めた。

 

「まずは光ちゃん。あの日、私の意向を組んでくれてありがとう。光ちゃんがいなかったら、私はこの未来に辿り着く事は出来なかっただろうから。」

「ふぇっ!?・・う、うん。私の方こそありがとう。咲がいなかったら私はきっと死んでいたんだろうし、咲は命の恩人だよ。だからこれからも・・咲が嫌じゃないなら、一緒にいてもいいかな?」

「もちろん・・足が治るまではね。」

 

 足が治るまで・・一気に顔から血の気が引いていく光。そんな光に何とも言えないアンニュイな視線を送りつつ、顔は姉と母の方へ向けた。

 

「お母さん、お姉ちゃん。色々あったけど巻き込んじゃってごめんなさい。本当はこの件は私と光ちゃんだけで解決する予定だったのに、気づけばこんなに沢山の人達の運命を狂わせることになっちゃって・・。」

「いいえ咲、謝るのは私の方よ。私は貴女にアークタンデの呪いを全て背負わせてしまう事になってしまった。でもそれをこんなに綺麗な形で終わらせる事が出来た事は、母親として誇りに思うわ。よく頑張ったわね咲、貴女は私の誇りよ。」

「誇り・・ありがとうお母さん。でもそんなに綺麗に終わったかな?」

「もちろんよ。少なくともこうして咲一人が責任を負う形になった点は分かり易くて良いわ。」

「そう!そうだよお母さん!みんな!」

 

 突然照が大声で遮る。会場中の視線が彼女に集まった。

 

「どうしたの照?」

「どうしたもこうしたも・・咲は光の脚を治す為に莫大な借金を背負ったんじゃない!」

「ああ、そういえば・・」

「光の事や二人の咲の事で忘れてたけど・・この問題に何一つ解決策が上がってない!」

「だからこのままじゃまずいって?お姉ちゃん?」

「そうよ咲!他人事みたいに言ってるけど今一番焦らなきゃいけないのは貴女なのよ!それを分かってるの!?」

 

 照の大声は会場中に響き渡り、それを聞いた皆も同様にひそひそと話始める。そんな彼女達を安心させるべく咲は流れを変える。

 

「ああそうだった。すっかり忘れてた・・・御会場に集まって頂いた皆さん!」

 

 今度は咲が大声で注目を集める。

 

「改めまして、本日は集まって頂き誠にありがとうございます。そしてここまで宮永家の私的な話に付き合って頂き、本当にありがとうございました。そのお礼と言ってはなんですが、最後に皆さんに重大な発表があります。」

 

 そう言うと咲は小鍛冶の左手を右手で掴んでハイッ!と挙手した。

 

「これはまだ予定の話なのですが、我々麻雀協会は近い将来プロ雀士とその弟子による師弟関係の大会を開こうと考えています!」

 

 師弟関係の大会・・そのワードで一気に少女達の顔付きが雀士のものに変わった。

 

「詳しい事はまだ決まっておりませんがこれから先の未来、協会に登録されているプロ雀士一人につき最低一人弟子という形でチームを組み、それらチーム専用の大会を多数開催する事でさらに競技人口を上げよう!という計画を思案中なのです。これにより従来の団体戦と個人戦の他に新たに師弟戦という項目が追加され、ゆくゆくはインターハイやインターミドルなどの公式戦でもと考えております。」

 

 公式の師弟戦と聞いて何人かの雀士はブワッとオーラを膨らませ、戦意をたぎらせた。

 

「協会はこれから先の未来で麻雀の競技人口が爆発的に増え、様々な雀士達が世に出回る事を予想しました。しかし今のままでは明らかに公式大会の開催回数が少なすぎる。このままではせっかく増えた雀士達も活躍の場を貰えず、競技人口もすぐに減少傾向になるのは必然。そこで協会は、ならば公式大会の開催数を増やせば良い、と思い立ちました。そう、私が雀荘荒らしでブラックな雀荘を潰してまわったのもその為。全国各地に点在している雀荘で小さな大会をすぐにでも開く為の地ならしだったという訳です。」

 

 おお~!と十数人が感嘆の声を上げる。そんな彼女達を見てしめしめと悪い笑顔を浮かべた咲は、次のように話を広げた。

 

「そしてここからが本題です!今日この場に集まって頂いた皆さんには、この会場内にいるプロ雀士の方達と会食を設けるという形で”個人的な繋がり”を作ってもらって構いません!」

 

 個人的な繋がり・・その意味をゆっくりと理解していった雀士達から順に目の色が変わる。ある者は自分に合った闘牌をするプロの顔達を思い出し、ある者は目につく範囲にいるプロ雀士の一人にちょっとずつ歩み寄る。そんな彼女達の頭にはもう咲の個人的な借金の事など頭に無い。

 

「ふふふ、どうやら皆さんやりたい事が出来たようですので、私の話はこの辺で終わりとしましょうか。では最後に、今日この場で出来た繋がりについては後日マスコミ関係者に聞かれた場合、素直に答えてもらって構いません。この場に集まった皆さん全員漏れなく!私カンドラに認められた雀士ですので、プロの方に胸を張ってアピールしていって下さいませ。では皆さん!この後の食事会をどうぞごゆっくりお楽しみくださいませ!」

 

 そう言って咲は深々とお辞儀をして小鍛冶の手を離し、光を抱きかかえた後に壇上を降りた。その姿を途中まで黙って見ていた照だったが、

 

「ちょっと!?まだ話は終わってないんだから!」

 

 慌てて咲の後を追った。残された小鍛冶も当然咲を追おうとしたが、

 

「おっと小鍛冶さん。ちょっとお話していきませんか?」

 

 愛が割り込んで半ば強引に舞台裏へと小鍛冶を連れ込んだ。

 そして壇上に誰もいなくなったのを見計らって次々とプロ連中に押しかける若き雀士達。それとは別にふーっと一息つく者達もいた。また料理に噛り付く者達も数名だがいた。

 そして壇上から降りた咲はすぐに近くの椅子に光を座らせて優しく微笑みかけた。そんな二人の様子を後ろから照が見守っていた。

 

「お疲れ様光ちゃん。今日一日色々な事がありすぎて疲れたでしょう?」

「ああ・・うん。そうかもね。」

 

 晴れやかな顔で語り掛ける咲とは反対に何処か不安そうな表情を浮かべる光。当然咲は尋ねる。

 

「ん?どうしたの光ちゃん?眠いの?」

「・・・咲はさ、もう私の助けがいらないんだよね?」

「そうだよ。」

 

 即答・・それは光の中に残っていた僅かな希望を引き裂く、風の如き鋭さを持った言の葉だった。

 

「・・じゃあさ、私ってもういらない子?」

「光ちゃん。」

「実はさ、私の足ってもう普通に動けるくらい治ってるんだよね。だから別に咲の手を借りなくても普通に歩けたんだ。」

 

 そう言って光はスッと立ち上がった。その滑らかな動作は健常者そのもので、10年近く足が動かなかったブランクなど微塵も無かった。

 

「でもさ・・そんな事したら咲・・私を置いてどっか行っちゃうでしょ?私は・・それが怖くて、だから出来るだけ時間を稼ごうと。でもそれも二人が一緒になっちゃったから意味ないよね。私の中にいた咲が私の想いを知らない訳ないんだからさ、咲にもう嘘は通じない。だから・・思ってる事全部言っちゃうね。」

 

 スーッと深呼吸して、語り出す。

 

「私は照と同じ、咲にどっか遠い所へ行かれるのが怖くてたまらなかったんだよ。私は最初から最後までアークタンデの遺伝子に屈した。でもそれで良かった、それが私にとっても無常の喜びだったんだもん。でも咲はその恐怖を乗り越えて更に先を目指し続けるんでしょ?そんな咲に私が出来る事なんて・・一つしかないじゃない。」

 

 ニコッと泣きながら無理やり笑顔を作る。咲が一人に戻った時に覚悟はしていた。

 

「・・・・・いってらっしゃい咲!私、ずっと応援してるから!」

 

 今はこれが精一杯、これ以上は彼女の心が持たない。

 

(大丈夫!私には咲がくれた足がある!きっと私は歩くたびに思い出す!咲に愛されていた事を・・。)

 

 そうして咲から別れの言葉を待っていたが・・返ってきたのは、

 

 ギュッ!

 

「え?」

 

 咲からの熱い抱擁だった。

 

 

つづく

 





お疲れ様です。
最新話更新です。

決勝戦はどんな展開を望みますか?

  • 能力を使った麻雀対決をがっつり書いて
  • 麻雀対決はあっさりでいい
  • 麻雀はいいから能力で直接戦って欲しい
  • 麻雀シーン少な目、キャラ同士の会話多めで
  • 試合中の回想シーン中に会話を多めで
  • 特になし、作者のお好きにどうぞ
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