「咲・・?」
光を熱い抱擁で落ち着かせる咲。そのまま彼女はこう続けた。
「ごめんね光ちゃん、変な勘違いさせちゃって。」
「かん・・違い?」
返事はせずに抱擁を解く。しかし咲は両方の手で彼女の両肩をぎゅっと掴んで離さない。そして二人はようやく立って・・同じ目線で見つめ合いながら対話を始めた。
「率直に言うね光ちゃん。私はこれからも、貴女と一緒にいたい。」
呼吸が止まる。咲は今なんと言ったのか?
「確かに光ちゃんの言う通り、今の私は一人でも大丈夫。色んな人達と交流を重ねて成長して、沢山の関係性を知ったから。」
そう言って周囲の雀士達をゆっくりと見渡す。
「私達みたいに能力によって繋がっている関係から普通の友達関係、親友関係、師弟関係・・他にも色んな関係性を見てきて思った。私ももっと多くの人達と繋がりたいって。」
「・・そうでしょ。だったら・・」
「でも、それには私の一番近くに・・光ちゃんがいないと駄目なんだよ。」
自分がいないと駄目・・その台詞に涙がブワッと湧き出る。泣き顔が見られるのが嫌でとっさに手で覆う。それを咲は優しく止めて、代わりにその手で掬ってくれた。
「光ちゃんにも知って欲しいんだ、他人と関わる事の温かみを。大丈夫、怖がることは無いよ・・私がずっと傍にいるから。私は光ちゃんのものだから・・私は、何処にもいかない。」
「ああ・・咲。」
「そしてあわよくばみんなに自慢したい!私の生涯の半身はこんなにも素敵な人なんだよって!光ちゃんの事をみんなに知って貰いたい!」
思わずフフッと笑みが漏れる。ああなんだ・・そういう事だったんだって。
自分が咲に愛されていると分かり、もう大丈夫だよと伝えようか迷い始めたその時、咲の顔に陰りが見え始めた。
「それにさ・・私、光ちゃんの脚を治すのにここまでの事をしたんだよ?」
「え?あっ!うん!それは本当にありがとう!本当にうれしく思ってるよ?」
「そう・・でも光ちゃんはその意味を本当に分かってる?」
「え?どういう意味?」
「・・光ちゃんはさ、私の事を脚を治す為のお金を出してくれる、都合の良いATMとしてしか見てないんじゃない?」
「っ!?そんな事・・」
「分かってる。光ちゃんの中にいたからね、頭では分かってるんだよ。でも・・」
不安そうな目で光を見つめる咲。震えるその手で再び光を抱き寄せる。
「怖いんだよ、光ちゃんが私の傍から離れていってしまう可能性が。」
「咲・・・」
「もちろん光ちゃんがその脚で何処へ行こうと構わないよ。でも私も、光ちゃんやお姉ちゃんと本質的には同じなんだよ!どうしても二人を手放したくないんだよ!ああでもお姉ちゃんは放っておいても勝手に付いてくるから、そっちの心配はあんまりしてないんだけどね。」
それを聞いて思わず笑顔になる光。咲の暗くてジメジメした一面を知る事が出来てご満悦だ。
「ふふふ、なんだ。咲も私達と一緒で離れ離れになるのが耐えられないんだね。」
「そりゃもう・・それに呪いを完全に克服出来たとは言い切れないし。」
「え?・・それはどういう・・?」
「ほら、私が遺伝子に動かされて光ちゃんを愛していた訳じゃないって証明したでしょ?もちろんきっかけは遺伝子だったけど・・結果的には遺伝子とは関係ない、私の自由意志だった。」
「うん・・だから咲はこれから色んな人達と交流を・・」
「そこなんだよ。私は出会った能力者達に親切に接してきたけど・・それも遺伝子によるものなんじゃないかなって、ちょっと疑問に思ったんだよね。」
「・・?何でそこで遺伝子が出て来るの?」
ニコッと笑って咲は答えた。
「私達の遺伝子は最終的にアークタンデの繁栄の為に、子孫が能力を収集する事を目的に動くように仕向けるものだった。だから私は光ちゃんの遺伝子に眠る能力を回収して、光ちゃん自身も手に入れようと無意識に誘導されていた。なら他の能力者はどうなの?私が他人と関わりたいと思うのも遺伝子の影響なの?」
光はすぐに、そんな事はないはず!と否定しようと口を開けて・・止まった。
(確かに咲の言い分は正しい、私達の遺伝子が他者の能力を求める性質を持つならその懸念も頷ける。でも他人と関わろうとするのは全ての人間に当てはまる特徴でもあるよ。例えどんなに孤独な人間だろうと、誰かの温もりに身を委ねたいと渇望するのは避けられない。でも咲はそれを自分達の遺伝子によるものだと警戒している。そんなの・・・)
「確かめようがなくない?」
「うん。だからそれを・・今度は時間を掛けて調べていきたいんだ。」
ゆっくりと光から離れると、咲は真剣な顔で光に言い放った。
「私はこの呪いに一生を懸けて向き合っていこうと思ってる。人生に悔いは残したくないから。・・・改めて、光ちゃんにはこんな私に最後まで付き合って欲しいの!」
そう言って光の右手を取って跪き、
「私と・・一生を共にして下さい。」
ちゅっ・・・その手の甲にキスを落とした。もちろん光の返答は、
「っ!!!・・・はいっ!喜んで!」
「・・・はは、良かった。これで咲と光と私の3人で、昔みたいに仲良くやっていけそうね。」
そんな二人のやり取りを後ろから見ていた照。最大の懸念事項が消えた今、次にしなければいけない事を見据えていた彼女は、急ぎ足で小鍛冶の元へ向かった。
(小鍛冶プロ・・とりあえずあの人に咲の借金について色々と聞いておかなきゃ。でも出来ることなら借金を今すぐ帳消しにするような方法を思いついていてくれれば・・!)
壇上の隅でこそこそしてる小鍛冶を発見し声を掛けようとして思わず止まる。どうやら愛が小鍛冶に詰め寄っているらしい。一体何を話しているのか気になった照は、忍び歩きで聞き耳を立てながら接近していった。
「それで小鍛冶さん?前々から思っていたのですが・・・貴女、咲の事をどういう目で見ているのですか?」
「いや、ですから何度も申し上げている通り!咲ちゃんとは師弟の関係だけでして!それもすべて今後の師弟麻雀への布石というだけの事でありますから!ほんっっっとうに!咲ちゃんをやましい目で見た事など一切!神に誓ってありません!」
これには聞き耳を立てていた照もドン引きである。話の内容から察するに愛は小鍛冶がガチで咲の事を狙っていると思って詰め寄っているらしい。
(えっ!?小鍛冶プロが・・?そういえば、淡が小鍛冶プロが咲を狙ってるってブツブツ呟いてたような。でもまさか・・えっホントに?あの人元世界ランク2位でしょ?なら選り取り見取りのはずじゃないの?)
照も照で小鍛冶が未成年を狙っているところよりも、あの咲を狙っているという点が気になる始末。照の中の咲は頼りになるが気難しい妹というイメージの為か、咲に好意を向けている小鍛冶に驚きを隠せなかった。そんな二人が同じようなやり取りをもう2、3回繰り返したところで。
「(なかなか認めようとしないわね。)分かりました。でもちょっと残念ですね、咲の様子から察するに・・咲は貴女の事を伴侶として認めているようにも見えたんですけどね。」
「えっ!?本当ですかお義母様<おかあさま>!!」
「その反応、やっぱり咲をそういう目で見ていたんですね。」
「はっ!?しまった!?」
押してダメなら引いてみる。咲が気を許していると適当な話を振れば案の定、ぐいぐい食いついた小鍛冶は欲望まみれの素顔を露わにした。
「まったく、最初から白状していれば良かったものを・・。」
「うう、すいませんお義母様。」
「そのお義母様って呼び方もやめて下さい、貴女にそんな呼び方をされる義理はありません。」
「はい~、すいません。」
「・・でも、貴女が咲に惹かれる気持ちは、誰よりも理解しているつもりですよ。」
「・・へぇっ!?」
思いもしない返しに素っ頓狂な声を上げた小鍛冶。照の方も思わず固まった。
「小鍛冶さん・・咲と何度も対局しているんですよね?どうでした、あの子のタフ差は?」
「は、はい!それはもう・・私も生まれて始めてでした。まさかあんなにオーラに耐性がある雀士がいるだなんて・・・。」
「ああやっぱり。さすが私たちの娘なだけあるわね。」
私たち・・それが指すところはつまり・・
「あの子のあのタフ差はね・・私の旦那、宮永界のものよ。」
驚き、目を見開いた。
「うふふ、実は当時の私も貴女と同じような悩みを持っていたのよ。誰と麻雀してもそう・・最後に立っているのは毎回自分。もちろん負けることもあったけど息切れしているのはいっつも相手側、私の息は全く乱れない。だから夜通しで私の麻雀に付き合ってくれるような人はいなかったの・・あの人を除いてね。」
「じゃあ・・界さんとご結婚された理由は。」
「ええ、貴女が咲に向ける感情と同じ。あの人は私の気が済むまで付き合ってくれるの。どんなに強力なオーラをぶつけても、どれだけ役満をぶつけ続けようと・・嫌な顔一つせずに、いつまでも私の前に立ってくれるの。能力者にとってこんなに幸せな事は無いわ。」
全くの同意見だと言わんばかりに首を激しく縦に振る。そんな小鍛冶に愛はこう締めくくった。
「以上の事から小鍛冶さん。私は貴女と咲の関係にとやかく口を挟む気は毛頭ありません。ですが応援もしません、貴女が本気で咲をものにしたいなら実力で奪いにいきなさい!」
「はい!お義母様!!」
「・・・ふふ、では今日はこの辺で。またいつか、今度はゆっくりと話し合いましょう。」
そう言って愛は一人、壇上を降りてゆっくりと人混みの中へ消えた。後に残された小鍛冶、そして二人の会話を物陰から聞いていた照が一言呟いた。
「・・・すごい意外、お母さんも乙女な部分があったんだ。」
つづく
投稿に時間がかかってすいません。
エンディングをどうするかですごい悩んでしまいました。
予定ではあと数話で完結予定です。
決勝戦はどんな展開を望みますか?
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能力を使った麻雀対決をがっつり書いて
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麻雀対決はあっさりでいい
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麻雀はいいから能力で直接戦って欲しい
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麻雀シーン少な目、キャラ同士の会話多めで
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試合中の回想シーン中に会話を多めで
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特になし、作者のお好きにどうぞ