「ありがとうございます!はい!・・はい、それでは!えへへ・・やった!」
一方その頃、戒能プロから直々に師弟関係のオファーを受けた穏乃は、ウキウキ気分でいた。そんな彼女の元へゆっくりとネリーが近づいていった。
「随分嬉しそうだね穏乃?」
「ええそれはもう!実はあの戒能プロから直々に弟子にしたいって言われちゃったんですよ~、エヘヘ。」
「それは良かったね。(ふ~ん、穏乃も弟子に加える気なんだ。じゃあ淡の方は・・)
「・・ただいま~。」
「淡さん!どうもお疲れ様です。」
「淡、そっちは瑞原プロが?」
「お、当ったり~。私はハヤリプロに弟子入りする事になったよ。でもあの人の話しぶりからして、私たち3人を特別扱いしたいって感じだったけどね。」
特別扱いという単語に目を輝かせた穏乃。反対にネリーは胡散臭く感じた。
「特別扱い・・と言いますと?」
「どうもこうも・・私たち3人をサキのライバルに仕立て上げる気満々でさ。それは別にいいんだけど、大人の都合に振り回されてる感じがするのが嫌だな~って。」
淡の屈託のない意見にウンウンと頷いたネリー。やはり大人達は子供を利用しようとしているのだ、本当の意味で信じられるのは同年代の仲間だけだ。と疑いの目をいっそう強く輝かせていた。そんなネリーに後ろから
ガシッ!
と肩を掴んで前後に揺するこの人は・・
「まぁまぁ、そう固くなるなよ~。」
三尋木咏プロその人だった。思いもよらない登場に穏乃はびっくりした。
「うおっ!?三尋木プロッ!?」
「うっす穏乃ちゃーん、決勝戦最高に輝いてたぜー!」
分かりやすい社交辞令、真に受けて赤面する穏乃。しかし淡とネリーは警戒心MAXだ。そんな二人を落ち着かせる為にも咏は本心を躊躇いなく話そうと思い、ネリーの座っている椅子の背で頬杖を作り猫のように身体を曲げて・・語り出した。
「・・私達もさ。咲ちゃんには結構助けられたんだよねー。」
「え?サキに?」
「そ。で、そんな咲ちゃんにどんな恩返しが出来るのかな~って、プロ同士が集まって話し合った結果さ・・咲ちゃんが絶対に寂しがる事の無いようにって結論になったわけよ。」
その説明にいまいちピンとこない二人。しかしネリーだけはなんとなくだが分かった気がした。
「ふーん・・だから咲といい感じの距離感保ってるネリー達に、これからも咲の尻を追っかけて欲しいって事?」
「そういう事!でも今のままじゃレベル差がありすぎるから、私達がアンタ等のレベリングをしてあげるってわけ。」
してあげる・・その部分にカチンときた淡がたまらず吠える。
「してあげるって・・正直余計なお世話なんですけどね。」
「ほぉ・・言うねぇ淡ちゃん。じゃあ何かな?淡ちゃんはこれから自力だけで咲ちゃんに追いつけると?」
「当然!なんたってこっちにはサキのお姉ちゃんであるテルがいるんだし!来年には無理でも再来年できっと・・」
「あははははっ!!・・・断言していい?それ絶対無理だよ。」
ヘラヘラした態度が一変、真面目な顔つきになって鋭く尖らせたオーラを首元に突き付ける。これには淡も一瞬死を覚悟し呼吸も止まった。
「っ!?」
「・・はぁ、この程度のオーラも捌けないのに咲ちゃんに追いつけるとマジで思ってるの・・全然笑えないんだよねー。」
そう言ってオーラを引っ込めた咏。死が遠ざかったのを理解してようやく呼吸を再開できた淡。二人の実力差は歴然だった。それを理解した淡は改めて、先程言われた言葉を反芻した。
「私じゃ絶対に無理・・。」
「そ、咲ちゃんは今みたいなオーラの攻撃を麻雀中に何度も捌いて反撃してきた。それも初対面の時にね。」
「三尋木プロと咲ちゃんが初めて会った時・・つまり中3!?」
もうこれで何度目か、咲の凄さを実感して驚く穏乃。その反応を見て後方お姉ちゃん面のニンマリ笑顔をつくった咏。
「ふふ、あの時は私もびっくりしたねー。まさかプロ3人の攻めを耐えつつ反撃入れてくる中学生がいるだなんて、夢にも思わなかったからさー。」
小鍛冶ほどではないにせよ、咲との馴れ初め話を冗長に話す事で知られる咏。今回もつらつら語り始めると思われた矢先、
「咲が中3でそこまで上だったなんて・・あれ?でも今の咲って・・・。」
ネリーが今の咲と零した事で意識がそっちに持っていかれる。実は今の咲は、咏にとっても不安の種であったのだ。
「そうなんだよねー、今の咲ちゃんがちょっと問題でさー。」
「問題・・と言いますと?」
「知っての通り、さっき咲ちゃんが過去の記憶を取り戻して一つになっちゃったじゃん?その記憶の中には、咲ちゃんのご先祖様達全員の能力の情報も当然入ってる訳でさー。だから今の咲ちゃんは100を超える能力を自由自在に操れる、全知全能の神にすごく近づいちゃったって事でー・・・それってつまり、私が教える事なにも無くねーって事で・・・」
長々と語り出したと思ったら急に黙りこんでしまった。どうしたのかな、と穏乃が顔を覗こうとして黒百合が気づき教えた。彼女の頭が僅かに揺れている事に。
(咏さん?・・っ!右足を無意識に揺すっている。不安なんだ、この人も。)
プロも自分と同じ人間、どうしようもない現実に打ちのめされる事もある。そう思った穏乃は優しく声を掛けた。
「えっと、咲ちゃんが遠くに行っちゃったようで辛いって事ですか?」
「大正解・・・はは、案外穏乃ちゃんが一番早く咲ちゃんに追いつくのかもね。咲ちゃんと同じで相手の気持ちを察して慰めるのが早いし。」
項垂れながらも気を使ってくれた穏乃にエールを送った咏。素直に受け取って内心で喜ぶ穏乃。それが面白くなかったネリーは咏に噛みつく。
「ふーん、ずいぶんと弱気な発言だね?ネリーだったらそんな弱気な心の声には絶対に負けないのに。」
「はは、言うねぇ。その心は?」
「ネリーが直接咲に宣言したからだよ。いつかネリーは咲の右腕になるって!そんなネリーを咲は優しく肯定して信じてくれた。だからネリーは信じてくれた咲に報いる為に、絶対にいつか追いついてみせる!追いついて、咲の相棒として世界にその名を轟かせるまでネリーは進み続ける!今は一歩でも早く進む事しか考えない!だからネリーの中の弱い声に構ってなんかいられない!」
自身の座る椅子の後ろで嘆いている存在に強く思いをぶつける。若き雀士の闘志・・その熱に触れた咏は、ゆっくりと背もたれから立ち上がる。
「・・ウケる、マジウケるわぁ。」
「ウケる?変わった日本語だね、どういう意味?」
「いやいや気にすんなって、ただナヨナヨしてた自分にサヨナラ言っただけだから。」
そう言って顔を上げた咏。そこに先程まであった恐怖の色は、綺麗な情熱の紅に塗りつぶされていた。
「んでまー話を戻すけどさ。言いたくないけど、今のアンタ等じゃ咲ちゃんに敵わないし、敵うようになっても精々足元の小石程度。壁として立ちはだかるなんて一生掛かっても無理って事。」
軌道修正して再び現実を突きつける。当然噛みつくのは淡だった。
「その解決案がプロの皆様方に師事する事?それはそれは素晴らしいお考えだ事で。サキが世界ランク2位に師事する傍ら、私達は牛の歩みで歩調を合わせながら友と共に研鑽を積むと!まるで漬物ですね、願う事なら彼女が生きてる内に再び相まみえたいものです。」
一度格の違いを思い知らされた程度で態度を変えたりはしない。ましてや少し前まで精神的に参っていた奴に媚びるなんて!と言った具合で、皮肉たっぷりな返しで反骨心を露わにした淡。それに咏は現実的な理論を展開する。
「アンタの言う事も分かるさ。確かに咲ちゃんの師匠はあの小鍛冶だ、現師弟コンビの中では間違いなく最強だろうね。でもね・・あの二人のコンビには致命的な弱点があるのさ。」
「弱点?それはネリー達には当てはまらないもの?」
「ああもちろん。二人の弱点それはつまり・・成長が打ち止めって事さ。」
頭に疑問符が浮かんでいるのが丸わかりな表情で困惑する穏乃。反対に二人はピーンときたのがよく分かる笑顔を見せた。
「サキの成長の打ち止め・・なるほど、そういう事か。」
「そ、あの二人はもう完成されすぎてるんだよ。だからたぶん10年経っても大して実力が伸びないんじゃないかって、私達は考えてる。」
「私達っていうのは小鍛冶プロ以外の皆様方ですか?」
「そうだよ~、咲ちゃんが記憶を取り戻した後に私達はどう動くべきですか?って小鍛冶ちゃん抜きで散々話し合ったからね~。その時に全員口を揃えてこうなる事を予想したのさ。まぁ予想が当たってるかはこれから何年も掛けて検証していく訳なんだけどさ。」
ここまで話してようやく理解できたのか、二人と同様にピーンときた表情をやっとした穏乃。そこからは早かった。
「では私達はこれから10年掛けて、咲ちゃんの実力に頑張って追いつこう!という事ですか?」
「いやいや、少なくとも瑞原ちゃんは2年で3人掛かりで咲ちゃんを倒せるレベルにまで持っていく算段を付けてるよ。」
2年で3人掛かり・・その台詞を聞いて何故か3人共、2年で咲に追いつける事よりも3人で再び咲に挑めることに顔を綻ばせていた。
「そっかぁ、ネリーと淡と穏乃の3人で・・」
「そ、アンタ等3人は端から見れば今回の決勝戦で咲ちゃんと激闘を繰り広げたからね。TV的に絵になるっていうのもあるけど、一番は全員潜在的な力がまだまだ眠ってるって点よ。それに短時間で滅茶苦茶仲良くなれたって点も高評価だしさ。」
「何でもいい。またこの3人でサキにリベンジ出来るのなら願ったり叶ったりよ。」
「おうおう叶えてやるとも。アンタ等3人には優先的に私等プロ連中が教えにいくように予定を立ててるからさ。・・なんなら3人共、ルームシェアでもすれば?ハハハ。」
冗談のつもりで笑い交じりに提案した咏。鼻で笑われると思っていたが、返って来たのは3人の無言のアイコンタクトであった。
「・・え?何?そんな真剣に検討するレベルまで仲良くなってんの?」
「さぁどうだか。でもネリーの故郷では互いに信頼できる連中が同じ屋根の下で暮らすなんて日常茶飯事だったよ。」
その分嫌な事件も多かったけど、と内心零すがこの3人で同棲する場合に至ってはそんな事は起こりえないだろうな、とも確信していた。
そんな3人の様子を見た咏はフーンと良い笑顔になり、
「これは・・思ったよりも早く成果が出せそうだね。」
とボソリと呟き、3人に最低限の別れを済ませてその場を後にしたのだった。そして残された3人は、
「じゃあ、私は最初に戒能プロから基本を教わるって感じなんですかね?」
「となると、私にイロハを教えるのは瑞原プロって事?大丈夫かな?ちょっと技を教えるなら分かるけど基本を教えるとなるとなー。あの人のスタイルって私と全然違くない?」
「で、ネリーは咏プロからか・・・まぁ、何はともあれこれからもよろしくね。」
「もちろん!一緒にサキを倒して雪辱を果たすわよ!」
「はい!末永くよろしくお願いします!」
といった感じで、お互いに長い付き合いになる事を自覚し、打倒咲を目指して一致団結したのだった。
つづく
3人トリオの回です。
次回もこんな感じで他チームにスポットを当てていきます。
決勝戦はどんな展開を望みますか?
-
能力を使った麻雀対決をがっつり書いて
-
麻雀対決はあっさりでいい
-
麻雀はいいから能力で直接戦って欲しい
-
麻雀シーン少な目、キャラ同士の会話多めで
-
試合中の回想シーン中に会話を多めで
-
特になし、作者のお好きにどうぞ