「はい・・はい・・分かりました父上、それでは・・・・はぁ、面倒だったな。」
プロとの交流会が始まってから1時間半が経ちそろそろ皆の興奮も落ち着いた頃、白糸台麻雀部部長こと弘世菫は父親からの着信に対応していた。もっともその顔は苦虫を嚙み潰したような表情を作っていたが・・そんな忙しそうな彼女に話しかける後輩が一人。
「部長、お父さんからの電話はどうでした?」
「ん、誠子か。特に何とも、団体戦優勝を逃した事をグチグチ突かれただけさ。全く、普段は麻雀の事なんて一切話さないのに、優勝できなかった途端にこれだよ。」
「ははは、典型的なすれ違い親子って感じですかね。」
「そうだな。ま、いずれ龍門渕のように親の残した会社を継ぐか継がないかで揉める事になるのは確実だからな。今の内にすれ違いを楽しんでおくよ。」
「(強いなぁ・・)龍門渕と言えば・・さっき衣ちゃんと龍門渕さんに混ざって何か話していましたけど・・もしかしてその事で?」
「半分はな。もう半分は今後の麻雀界の未来予想と、それに伴って自分達はどう動くべきか・・30分じっくり話し合ったさ。」
そう言って机の上の瓶ジュースを手に取りグラスに注いだ。そのまま飲むかと思ったが口には付けずに、グラスを傾けては戻す手慰みを何度も繰り返しながら語り始める。
「透華曰くさっき咲ちゃんが言った通り、麻雀界はこれから大きく変わる。その最初の一歩が師弟システムの浸透だそうだ。」
「私も少し前に理沙プロから聞きました。今後は高校生や中学生をプロの方々が引き抜く形に移行するって。」
「そうだ。今までのシステムでは、プロ入りを目指す子は本人の希望にある程度応じる形でどこかの団体に所属するか、もしくはフリーの賞金稼ぎになるのが基本だった。でもこれからはそれが逆になる。」
「プロが気に入った子を早い段階から唾付けする事が出来るって事ですよね。でもそれって大丈夫なんですか?なんか大人が有利すぎる気がしますけど。」
「その点は大丈夫だ。大人が出来るのは悪魔で目を付けるだけ、誰に師事するかを決めるのは最終的には弟子の一存に委ねられるらしい。まぁ他にも色々問題がありそうな気もするが・・その都度修正するんじゃないか?なんたってこのルールを監修しているのはプロの能力者達なんだからな。」
そこまで話してようやくグビッとグラスを傾けた菫。一方で、能力者達という単語に引っ掛かりを覚えた誠子は、内に秘めた不安を素直に吐き出す事にした。
「部長、その・・私達みたいな能力者って今後はどうなるんでしょう?」
「・・・何が言いたい?」
「さっき淡達が壇上で実演して見せたじゃないですか。能力者同士の戦いってやつを。」
「そうだな。」
「・・ハッキリ言って怖かったです、あの場にいた淡達が。どうしてアイツ等は平気な顔で能力を人に向けて使えるのかって。」
「最悪相手を殺す可能性もあるのにって意味でか?」
「はい・・私だったらとてもそんな・・あんなの怖くて出来ませんよ。でもアイツはそれが出来て・・・だから麻雀も強いんだろうなって思ったら・・・・なんだか自信が無くなってきちゃいまして。」
肩を落として分かりやすく落ち込んだ部員誠子。そんな彼女に右手で隣の椅子を引いて座るよう促す部長菫。
「まぁ座れ、そして今は飲め。ほら、グラス持て。注いでやるから。」
「ありがとうございます部長。すごく高そうなグレープジュース・・頂きます。」
金を出したのはホテル側にオーダーした龍門渕なのだが、何故かその分まで菫に感謝してグビッといった誠子。その飲みっぷりは居酒屋で酔っぱらうサラリーマンそのものだった。
「ぷはぁ・・ほんと、何であんな生意気な一年があそこまで強いんだって、4月に嫉妬に狂ったのがはるか昔の事のようですよ。」
「はは、その気持ちは私もよく分かるぞ誠子。私も照の麻雀を初めて見た時は同じように嫉妬に狂ったもんだ。」
「部長が?・・照さん程じゃないにしても、かなり強い能力を持ってる部長がですか?」
「いや、私の能力は照に目覚めさせてもらったものだからな。そっちの方でも嫉妬に狂ったよ・・なんで私じゃなくてコイツなんだってね。」
「え?そっちってどういう・・あっ!」
言いかけて気づく。弘世グループの跡取りである菫は、いずれ大勢の部下の上に立って彼らを導く指導者になる事を運命づけられた存在である。そんな彼女にとって、相手の心を読み才能を見抜く事が出来る照魔鏡の力は喉から手が出る程に欲しい力であった。
「ふはは、アイツはあの力を咲ちゃんに通じないって理由だけで、あまり役に立たない能力だと決めつけていたけどな・・いらないなら私にくれよ・・本当に。」
「部長・・・」
口では笑っているが目が全くもって笑っていない菫。跡取りの立場に苦しむ彼女には、照の自由気ままな振る舞いが気に障って仕方がないようだ。
「でもああいう奴だからこそ麻雀も能力も強くなっていくんだろうな。照も淡も何か一つの事を目いっぱい追いかけてる、他の事は気にしない。だからあそこまで能力を使いこなすし人に向けて打てるんだろうな。」
「能力を信頼してる・・自分なら殺さずに痛めつけるだけに留める事が出来るって、自信があるって事ですか?」
「そうだろうな。で、ここから本題に戻るんだが誠子・・これから能力者がどうなるか、だったか?」
「はい、部長なら何かご存じかなって。」
「ああ、その事もさっき透華から聞いた。」
ここでグラス2杯目に突入した誠子と菫。まだ5分も経っていない。
「じゃあやっぱり、能力者は競技人口の増加に伴って増える見込みですか?」
「ああ、ついでに言うとこれから先100年の間に地球上の半数が能力に覚醒し、全人類がオーラを使えるようになるまで改革するのが、上の連中の目標らしいぞ。」
「ぶへぁっ!!??」
あまりに壮大な計画を聞いて思わず吹き出してしまった誠子。そんな誠子のリアクションを予期していたのか、菫は一切表情を崩さないで続けた。
「その際に若い金持ち能力者を中心にした、新しい連盟を発足する話が持ち上がっているらしくてな。連盟は最終的に100年後の日本のトップに立って、日本人の能力者達を公的に導く機関として君臨する予定だそうだ。その連盟に創設者の一人として、次期弘世グループトップの私も龍門渕家と同じタイミングで加わってくれないかって誘われたのさ。」
「はぁはぁ・・へ?部長がですか?」
「ああ、その見返りとして照を私にくれてやる・・というニュアンス的な事も言われたよ。」
グイッと飲み干して3杯目に突入した菫。3分も経っていない。
「はい?くれてやるって?」
「照を他の連中からの強引な引き抜きから守ってやるから今の内に手綱を握っておけ、って意味だろうな。」
「・・え?でも照さんの意思は?」
「あー、えっとな・・照の目的って覚えてるか?」
「はい、咲ちゃんと仲直りすることですよね?」
「そうだ、そしてそれは今日叶った。じゃあ次にアイツはどうすると思う?」
「そりゃもう、咲ちゃん光ちゃんとべったりしながら生きていくんじゃないんですか。」
「そうだろうな。でもそれは叶わない、咲ちゃんには莫大な借金がある。少なくとも10年以上は火の車で働かなければいけない。その前提を踏まえて・・照はどう動くと思う?」
「んんーー・・早く借金が無くなるように、短期間でお金を稼ごうとするとかですかね?」
その答えが聞きたかった!とでも言わんばかりの表情で、思わず指パッチンをして笑顔になった菫。
「そう!そこで私がその借金を出来れば全額、最低でも半額負担する。その代わりに照は私の秘書として働いて、弘世グループの社員連中を少しずつ能力者やオーラ使いに覚醒させていってもらう。そうすれば連盟創設者の一員としての面目も立つし、宮永家も早い段階で借金が無くなって肩の荷が降りる。一石二鳥って訳だな。」
そこまで聞いてようやくなるほどっ!と納得した誠子。
「ほーお。じゃあ能力が弱い私でも、大勢の能力持ちの後輩を指導する立場に配属になるんですかね?」
「(何だ、随分やる気だな?)ああ、お前が連盟に自薦するなら私がコネで幹部まで引き立てよう。麻雀部で私と一緒に事務作業を手伝ってくれていたお前なら、いきなり幹部に挙げても問題ないだろうしな。」
「ホントですか!やった!これでみんなに置いて行かれずに済む!」
さらっと自身の闇を見せた誠子。5人の中で一番能力が弱い彼女は何よりも孤独を恐れていた。弱い自分など誰も必要としない・・だったらそれなりの社会的地位を得て自分を納得させるしかない。そんな姿を見た菫は・・誠子に同情の目を向けた。
(分かるさ誠子。私だって照に置いて行かれるのは耐えられない。私に力をくれた、私に新しい景色を見せてくれた・・あの強くて自由な子猫が誰かの首輪をハメるところなんて見たくないんだよ。だから私は照の意思を無視してでも、照を手に入れる。)
菫もひっそりと内なる狂気の炎を燃やして覚悟を新たにしていた。そんな時、菫達に後ろから声を掛ける存在が。
「こんばんは、楽しんでますか?」
「え?うおっ!?カ、カンドラさん!」
「ん?おおぅっ!?なんだ咲ちゃんじゃないか、おどかさないでくれよ。」
宮永咲・・彼女の独断がなければ自分は照と出会う事は無かった。菫にとってキューピットのような存在だった咲、そんな彼女が何故か自分達に話しかけてきた。
「どうしたんだい咲ちゃん?もう家族とのお話は済んだのかな?」
「はい、何だかんだで全員納得してもらう事が出来ました。ところで菫さん、菫さんはあの弘世グループのトップの跡取りだっていうのは本当ですか?」
「ああ、割と誰にでも言ってるから君が知ってるのも驚きはしないが・・それが何か?」
すぐに返事はせず、咲は菫の耳元に口を近づけて囁きで詳細を伝えた。
「菫さん、お姉ちゃんが欲しくてたまらないんですよね?」
「っ!?・・・ああ、可能なら嫁にしたいぐらいなんだが。咲ちゃんは私がお義姉ちゃんになるのは嫌かな?私がお義姉ちゃんになれば、君はお金の事を気にせず自由に遊んで暮らせると思うんだ。」
照当人の意思を無視してひっそりと商談、といった感じで互いの要求を素直に話す。動機はどうあれ互いにメリットのある関係を気づけそうだと理解した両者は、
「私は別に構いませんが、最終的に誰を選ぶかはお姉ちゃん次第なので保障はできませんよ。でも菫さんがお姉ちゃんに積極的にアピールするのを邪魔する気もないので・・上手くお姉ちゃんの手綱を握って下さいね。お姉ちゃんが将来どこに就職しようとどうでもいいですけど、代わりに能力者をじゃんじゃん増やしてもらうつもりですので。その意味でも首輪はしっかり付けておいて下さい。」
「ああ、もちろん。良かったよ・・君が照に執着してなくて。」
それを最後に互いに顔を離す。改めて顔を見合わせた二人・・どちらも悪そうな笑みを浮かべていた。
「では私はこれで。後でお姉ちゃんに言っておきますよ・・もう少し菫さんの苦労を労うようにって。」
「ははは、お気遣いどうも。近いうちにそちらのお母さんにも挨拶に行くよ。そしたら咲ちゃんも少しは肩の荷が降りるかもね。」
ニコッと笑って踵を返した咲。去り際に彼女が思った事は・・
(やっぱりお姉ちゃんも人たらしだよ。もっと上手に振舞えば、菫さんを依存症患者にしないで済んだのに。)
未来の姉に対する憐憫だった。
「部長?咲ちゃんは何て?」
「はは・・お姉ちゃんと上手く付き合えるよう、願っていますって。」
「それって・・」
「ああ、妹ちゃんも私の味方らしい。そして龍門渕も邪魔しないときた。ならあとはデートスポットのセッティングだな・・そうだな、同じ師匠に師事する都合で照と同居する事になった、というシナリオはどうかな?いやでもそんな都合よく・・」
途中から誠子を無視して自分の世界に浸り始めた菫。そのまま帰ってこないと思われたが・・
「おーいスミレー!」
「ん?どうした淡?もっとあの2人と一緒にいなくていいのか?」
「別にいいよ。これから何度も顔を合わせる事になるんだし。それより聞いてよ!他の高校の連中も何か卒業後に色々やるつもりみたいでさー。」
(他の?・・そうか、今いる能力者を総動員するつもりなんだな。ははは・・本当に、歴史が変わろうとしているんだな。)
宴もたけなわな雰囲気。しかし菫は一人でひっそりと・・新たな時代の幕開けを感じ取っていたのだった。
つづく
次回、最終回!
いよいよこのお話も終幕です。
決勝戦はどんな展開を望みますか?
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能力を使った麻雀対決をがっつり書いて
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麻雀対決はあっさりでいい
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麻雀はいいから能力で直接戦って欲しい
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麻雀シーン少な目、キャラ同士の会話多めで
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試合中の回想シーン中に会話を多めで
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特になし、作者のお好きにどうぞ