雀荘荒らしの咲   作:ロクナナエイト

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訪れた未来

 

「さぁ、今年もいよいよといったところでしょうか!第5回師弟団体戦、その決勝戦!師匠から教えを受けた弟子達が、その看板を背負って最強の座を取り合うこの大会も大詰めです!決勝戦の解説はもちろんこの人!元世界ランク2位!そしてアラフォーの小鍛冶健夜です!」

「・・・・・うん、アラフォーだよ・・私は。」

「ちょ、ちょっとすこやん大丈夫?昔はアラサーだよ!ってアピールしてたじゃん?そん時みたいな元気な返事が聞きたいな~、なんて。」

「いやでも・・アラフォーなのは事実だから。」

 

 あれから10年が経った。かつて27歳だった彼女ももう37歳、40手前である。その現実に歯を食いしばって耐えている。

 

「あ、あははは・・え~それでは選手の入場です!先陣を切るのはもちろん彼女!始まりに風の噂でその存在がほのめかされ、10年前に突如として表舞台に降り立ち、見事その年のインターハイ団体戦で清澄高校を優勝へと導いたこの人!」

 

 大きな歓声に迎えられながら堂々と姿を見せた彼女。かつてのショートヘアは今は綺麗なストレート、しかし彼女の一族特有の癖毛は未だ健在。そんなところもチャームポイントだとばかりに恥ずかしげなく舞台に上がった。そんな彼女の名前を恒子は高らかに叫ぶ。

 

「大将、宮永咲の登場だ~!」

 

 叫びに呼応して観客も大声で声援を送る。その中には当然、麻雀が大好きな子供たちも含まれていた。そんな彼女達が咲を見て口を開く。

 

「きゃーすごい!あんなに沢山の‘お化け’を飼ってるなんて!」

「お化けじゃないよ、神様だよ~。」

「いやいや、私に言わせればアレはたぶん妖怪だよ妖怪。」

 

 正解はその全て。優勝したあの時ですら様々な神様から魅入られていた咲だ。10年の時を経て様々な出会いを重ねてきた彼女は・・いつの間にか超常の存在達からも崇められるようになっていた。

 

(あら~、あの子達鋭いわね~・・どうします咲さん?引き入れますか?)

(いや、放っておいていいよ。)

(左様、彼奴らはまだまだ未熟な苗木。青い実を付けてからでも遅くはあるまい。)

(そうそう!それよりこの大会を楽しもうよ!小鍛冶さんの元に集った中から選んだ最強のドリームチーム!それがいよいよ優勝目前なんだよ!ワクワクしない?!)

(アタシは全然?咲様がいる時点でこっちの勝ちは必然でしょ?ねぇ咲様?)

 

 適当に頷く。彼女たちの下らない口論にも慣れたものだ。

 

「さぁ続いて登場したのは・・お魚大好き!水族館でプライベート姿をよく見かけると噂の中堅、宮永光だー!最後の最後で相手を引きずり込む河底!そのプレイスタイルが今日も炸裂するのかー!?」

「ふふふふふ、さーき!とうとうここまで来たね。」

 

 ねっとりと腕を絡めてくる光。その瞳はトロンと溶けた様だ。そんな愛しの光の言葉に、咲は彼女の身体を抱き寄せる事で応えた。

 

「あっ・・うふ、嬉しいよ咲。今日も頑張ろうね。」

「おっと!今日も二人の仲は絶好調のようです!そんな二人に急ぎ足で近づくのは副将、原村和!次鋒、荒川憩!そして最後に余裕を持って現れたのは先鋒、宮永照だーーー!!」

「ちょっと光さん!何度も言ってるように公共の場では控えてください!」

「そうですよ光さん。私達だって抱き着きたいんですから。」

「はぁ・・言っても無駄よ。お姉ちゃんの私が言っても聞かないんだから、んもぅ。」

 

 小鍛冶の名を背負ってここまでたどり着いた5人。しかし緊張感は全くない。そもそも小鍛冶本人がそういった名声にこだわってないのだ。弟子である彼女達なら猶更である。

 

「いやー、相変わらず仲が良いですね~小鍛冶さん。」

「そうですね、でも出来れば私が教えている間くらいイチャイチャしないで欲しいんですけどね。」

 

 棘のある物言いで弟子に遠慮の無い師匠小鍛冶。それほどまでに普段の彼女たちのイチャ付きっぷりは目に余るのだ。

 

「なるほど~小鍛冶さんも大変なんですね。さて!気を取り直して次に登場したのは戒能良子プロの一番弟子にして大将、高鴨穏乃だー!」

 

 10年経って成長し大人びた雰囲気を纏っている穏乃。しかし元気なのは変わらずで、ダッダッダッと勢いよく躍り出る。

 

「ふふ~ん、今日こそは負けないよー咲ちゃん!」

「ちょっと!もう大人なんだから走らないの!」

「ああっと!ここで副将の新子憧、はやる大将を抑える為に続いて登場!」

 

 穏乃を諫める為に早歩きで現れた憧。二人の関係性は10年経っても変わらずに続いていた。

 

「うふふ、あのハツラツさ・・姫様にそっくりですね~。」

「ま、まぁまぁ抑えて抑えて。小蒔ちゃんが咲ちゃんの敵になりたくないって言って頑なにチームに入らなかったのは、霞さんにしてみれば面白くないかもだけどさ~。」

「穏乃ちゃん、咲ちゃんと公式で戦うっていうのに全く動じてないね~。私も頑張らなきゃ!」

「次鋒、岩戸霞!先鋒、獅子原爽!中堅、姉帯豊音!5人共戒能プロから直々に指名を受けた才能の塊達だー!それぞれが変則的な打ち方をする尖ったチームですが、全員揃ってその才能は未だ成長を続けている!7年前からずっと勢いに乗っている彼女達に勝てるチームはいるのかーーー!?」

「いや、ずーっと勢いに乗っているのは咲ちゃん達も同じだからね?」

 

 小鍛冶の指摘通り、10年前のインターハイで活躍した者達は皆漏れなく成長を続けていた。能力者としても、雀士としても・・そんな彼女達が中心となって世界のエンタメを盛り上げていく、すなわち・・世界は直きに、麻雀を中心に動き始めるであろう。そしてその中で能力を使える者達が天下を取る、麻雀を土台にした能力者社会の誕生はすぐそこまで迫っていた。

 

「はい続いて、はやりプロの弟子達の登場で~す!先陣を切るのはもちろん大将、ネリー・ヴィルサラーゼ!打倒咲ちゃんを公式に掲げつつプライベートでは甘ったるい関係を続けているという噂が絶えない、静と動の二面性を持った雀士として名を馳せてきました!麻雀の方でも静と動の動きでカウンターを打つ事で有名です!その隣にいるのは牌に愛されし雀士、天江衣!以前は海底で有名な選手でしたが今は様々な打ち方で場を翻弄するトリックスターの異名で知られています。その秘訣を聞いても行けると思ったから行った、といった発言から本人の地頭の良さが伺えますね!」

「本当に良かったのか衣?お前の能力を考えるならネリーに代わってお前が大将をやった方が・・」

「何度も言っただろう、衣はこれで良いと。それに・・衣では咲の遊び相手には成れても喧嘩相手には成れないからな。」

 

 わずかに表情に陰りが生えた衣。10年経って衣は‘能力者のまとめ役’として咲の側近の一人になる事が出来た。しかしそれは同時に‘能力者の王’たる咲に敵わないと認めたようなものであり、その事実がチクりと衣の心を刺す事も多いのだが。

 

「何言うてんねん。んな事言うたらウチなんて咲の玩具やで。」

 

 末原が自虐を交えて鼓舞する。

 

「末原・・」

「ウチみたいに全く能力やオーラに耐性の無いヤツでも咲を驚かせられるんやから。そんなしょぼくれたりしたらアカンで。」

 

 そう言って衣の背中を優しく撫でてあげた。

 彼女本人の言う通り、末原は10年経っても全く持って能力を開花させる気配が無かった。しかしオーラだけは何となく分かるようにはなれたので、何とか上位陣の中に食い込んでいられた。そんな彼女は月に1回の頻度で能力者をあっと驚かせるような戦法を取る事で有名であり、ある意味末原は能力者達全員から尊敬を集める存在にまで至れたのだ。

 

「末原の言う通りやで衣ちゃん。衣ちゃんには衣ちゃんの良さがあるんや、だから咲ちゃんだって衣ちゃんに仕事の面でいっぱい頼ってくれんるんやで。」

「竜華の言う通り!ウチ等にはウチ等の良さがあるんや!今は取り合えずそれで我慢やで・・な?」

「二人共・・そうだな、衣はまだ成長途中だったな。」

「そうや!ウチ等の成長はまだまだ止まらない!いずれ咲にも追いつく事だってあり得るんや!希望を捨てたらアカンで!」

 

 怜と竜華も末原と一緒になって衣を励ます。彼女達も咲の贔屓になった事で時代の波に乗る事が出来たのだが、逆に言えば咲に出会っていなければただの悲劇のヒロインとして人生を終えてしまう可能性も十分あったのだ。だからこそ二人は謙虚に咲に尽くす道を選んだのだ。咲の実力を程よく引き出す為の配役として。同時に虎視眈々と咲を追いぬく努力も忘れずに。

 

「中堅の末原恭子!持ち前の粘り強さから一転攻勢を仕掛ける事で有名ですね!次鋒の清水谷竜華!蛇のような鋭い目つきは相手の点棒を全て喰らいつくす!最後に先鋒の園城寺怜!まるで未来を知っているかのように単騎待ちを次々成功させる事から麻雀界の占い師としての異名を持っております!いやー小鍛冶さん!この5人をどう見ますか?」

「全員はやりプロの教えを受けて防御がかなり上達しましたからね。おそらく決勝で一番点棒を堅実に稼ぐチームだと思われます。」

「なるほどー、では逆に決勝で一番ハジケるチームはどこだと思いますか?」

「当然・・最後に舞台に入ってきた彼女達、咏プロのチームでしょうね。」

 

 咏の代表として選ばれた5人。その先頭に立ってニヒルな笑みを浮かべながら最初に入場したのは大将、大星淡。彼女の瞳には打倒咲の炎がメラメラと燃え盛っていた。

 

「クックック!長かったわ・・今日という日をどれだけ心待ちにしていた事か!サキ!今日こそアンタをたおんむぐっ!!??」

 

 さっそく盛大に目立とうとした淡だったが、後ろに控えていた先鋒、弘世菫が急いで止めに入る。

 

「バカッ!淡!今はまだ入場の途中だろうが!そういうのは後にしろ!」

「うっさいスミレ!私は今日というこの日を10年待ったのよ!今日やっと!10年前の屈辱を公式戦で果たせるチャンスが来たの!ここを逃したら次はまた20年後になっちゃうわ!そうならない為にもここはビシッと決めてフラグを立てておきたいの!だから今は見逃して・・」

「お前それ2か月前の地方団体戦の決勝でも同じ事言ってただろ!あの時も今日はイケるって言っておいてイケなかったじゃないか!というかお前、10年前の決勝のリベンジって名目であの時の面子全員集めて麻雀なんて毎年8月に私の別荘でやってるだろ?それじゃダメなのか?」

「うっさい!私は公式戦でサキをメッタンギッタンにしてやりたいの!だからその為にも名乗りを・・」

「はいはいそこまで、しゃっしゃと挨拶済ませるばい。」

 

 いつまでも取っ組み合いが続きそうな二人に代わって先頭に立ったのは次鋒、白水哩。当然その横には中堅、鶴田姫子の姿が。

 

「お先失礼します。行こう白水しゃん。」

「もちろん!今日も二人で頑張るばい!」

 

 惚気ながらも後ろで騒いでいる二人より早く歩くカップル二人。そんな二組に挟まれながらだるそうに歩くのは副将、小瀬川白望。

 

「はぁぁ・・私にも神様か妖が憑いていれば戒能プロのチームに入れたはずなのに・・・はぁ、だる~い。」

 

 カップル二人が舞台に上がり、その次にシロが一歩一歩ゆっくりと段を上がって、最後に淡と菫が何かを言い合いながらやっと舞台にあがった。それを確認した恒子が大声で宣言する。

 

「はい!これで決勝戦に参加する全ての選手が出揃いました!いやー圧巻ですね!小鍛冶さん!」

「そうですね。ちなみに大将の四人は10年前のインターハイ決勝戦でも、それぞれの高校の大将として戦った事があります。」

「おおう!懐かしいですね!出来る事なら今すぐ四人に卓を囲んでもらいたいところですが、彼女達が戦うのは大詰めも大詰めの大将戦!なら余計に最後まで見逃せない試合になりそうですね!TVをご覧の皆さん!最後の最後までTVのチャンネルは切り替えないようお願いします!では改めまして第5回師弟団体戦決勝・・・開幕です!!!」

 

 恒子の開幕宣言と同時に会場内で大きな拍手と声援が巻き起こる!彼らの熱気は会場全体を揺らし、その中心にいる選手達全員の意識を切り替えさせた。全員目が鋭く輝き、互いに獲物を狩ろうとする鷹のように睨みを効かせながら一歩も動かない・・がしかし、そんな時間も咲の一言で終わりを迎える。

 

「では皆さん、今日も楽しくやり合いましょうね。」

 

 心からの笑顔を添えて・・咲の笑顔で一同毒気を抜かれる。それを確認した後、一足先に咲は控え室へと帰っていく。そんな彼女にピッタリついていく光と照。その後をゆっくりとした足取りで追う荒川と原村。二人が廊下の奥へ消えていくのを見届けて、ようやくその場の3チームもそれぞれの控え室へと帰っていくのであった。

 

 

 

      第五回師弟団体戦決勝メンバー

 

 小鍛冶チーム  咲  、原村、光 、荒川、照

 はやりチーム  ネリー、衣 、末原、竜華、怜

  戒能チーム  穏乃 、憧 、姉帯、霞 、獅子原

   咏チーム  淡  、白 、姫子、白水、菫

 

 

 

「ねぇ咲、今年も菫さんの別荘でやる?」

「もちろんやるつもりだけど・・何で?」

 

 控え室への帰り道、咲にくっついている光は儚げな表情を作りながら問いかける。

 

「だって・・もう相手にならないんじゃないかなって。」

 

 ピタリ・・思わず足が止まる。

 

「10年前のあの日、私の中の咲と一つになって能力を全て取り戻したあの日から・・本気の咲を倒した人は誰もいないじゃん。」

「そうだね・・・」

「もちろん私は楽しいよ!咲ほどじゃないけど私も結構な能力を使えるようになったし、それでも本気の私が勝てない人もまぁまぁいるから・・だから私や照は楽しいけど・・・咲は・・」

 

 そう。能力を極め敵もおらず、借金も完済し、世界中の素晴らしい景色を見て回った咲は・・端から見れば、何が楽しくて生きているのか分からない。

 

「だからね、咲が今の現状を辛いと思っているならハッキリ言って・・」

「光ちゃん。」

 

 遮る咲。しかしその顔は明るい笑みで満ち、楽しいという感情を湛えていた。

 

「私は今の現状に満足してるよ。」

「・・どうして?誰も咲に勝てないのに?」

「だって・・・」

「だって?」

「・・・・・・みんな勝つ事を諦めてないから。だから私は、みんなの目標であり続けるの。天寿を全うするその時まで、私はみんなの・・雀士達の目標でありたい。それが今の私の目標。」

 

 その答えに、そっかとゆっくり納得した光。

 

「でもその道ってすごく大変だと思うからさ。だから・・私の傍で永遠に支え続けてくれないかな?光ちゃん?」

 

 当たり前のようにプロポーズじみた台詞を吐いた咲。当然光の答えは・・・

 

「うん!私こそよろしく!」

 

 台詞は違えど似たようなやり取りをもう何度も繰り返したが、今回は違った。光の笑顔を見て咲は直感する・・・やっぱりあの時に雀荘荒らしの道を選んだのは正解だったんだと。光だけを求めていたらこうはなっていなかった。この先何があろうとも、二人は仲良く歩んでいける。沢山の仲間がいるから・・・そう確信したこの瞬間に、ようやくカンドラの・・・雀荘荒らしから始まった旅は、ひっそりと終わったのだった。

 

「ただいま、光ちゃん。」

「?・・・おかえり咲!」

 

 

 

  END

 

 

 

 

 

 






ここまで見てくれた皆様、ありがとうございました。
これにて「雀荘荒らしの咲」終幕でございます。
気が向いたら本編の補足という形で短話を投稿する事もあるかもしれません。

今後の方針としては、他のサイトで連載中の作品を全て終わらせる作業に入ろうと思います。

最後にここまで応援して頂いた皆さま、本当にありがとうございました。

決勝戦はどんな展開を望みますか?

  • 能力を使った麻雀対決をがっつり書いて
  • 麻雀対決はあっさりでいい
  • 麻雀はいいから能力で直接戦って欲しい
  • 麻雀シーン少な目、キャラ同士の会話多めで
  • 試合中の回想シーン中に会話を多めで
  • 特になし、作者のお好きにどうぞ
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