話の内容が飛び飛びになっていたりしたら
すいません。
余裕がある日に直しておこうと思います。
「ごちそうさまでした。」
「..ごちそうさまでした。」
美味かった。少なくともジョージアのエセ中華料理店よりは美味かった。
「なるほど..まさかネリーさんのお父さんがそんな事になっているとは露知らず、無理やり聞き出すような真似をしてすみませんでした。」
「いや、ネリーの方こそ悪かったよ。気が立っていたとはいえ、いきなり怒鳴ったのはどう考えてもネリーの落ち度だった。」
ネリーはここが日本で本当に良かったとホッとしていた。もし相手をいきなり怒鳴るなんてことをジョージアでやったら間違いなく喧嘩沙汰になっていたところだ。
「じゃあ、下の雀荘に入ろうとしていたのは..」
「うん、次の職探しの為にもお金がいるだろうと思ってパパに仕送りする為のお金を稼ごうとして..でも日本に来たばっかでそういう場所を知ってるか話せる相手がいなくて..だから麻雀部で噂になってる怪しい雀荘ならもしかしたらってさ。」
最初は警戒心MAXだったネリーも気づけば彼女に気を許していた。彼女はネリーを無理やり引っ張って畳のある和室の座布団の上に着席させるとすぐに料理を注文した。その間ネリーは恐怖で震えているだけだったが、少女から放たれていた黒いオーラが消え失せて、代わりに暖かな白いオーラが放たれ始めた事で震えは止まった。彼女のオーラの変化に関心してじっと観察していたネリーだったが、厨房から漂ってくる香辛料の匂いが強くなるにつれてしだいに頬を緩ませ、料理が運ばれてくる頃には満面の笑みであった。
ジョージアではいつ紛争に巻き込まれても良いように、日持ちする乾燥物しか食べられなかった。日本に来た後も日用品を揃えるための大量の出費を経験した後だったため安い物しか食べないようにしていたネリーは、目の前の机に並べられた美しい紅色の料理に夢中になって食いついた。
そうして料理を食べるのに夢中になっていた為、少女が何故雀荘に入ろうとしたのか聞いてきても正直に答えてしまった。答えてからしまったと後悔しても時すでに遅し。こうなれば全部話して楽になろう、という思考に切り替えたネリーは次々に繰り出される少女の問いに正直に答え続けた。
そうして料理を食べ終わる頃にはネリーの個人情報のほとんどを開示してしまっていた。もっとも、教えたところで大して困る内容でもないと開き直り、今は目の前の不審な少女に関心を向けていた。
(それにしても不思議な人だなぁ。てっきりネリーを黒いオーラで色々やって殺すのかと思ってたけど、まさか”白いオーラ”でネリーを落ち着かせてくれるなんて。)
少女から放たれた黒と白のオーラ..アジアの小さな麻雀大会でもオーラを放っている選手は何人も見てきたが、どの選手もオーラを放ったり纏ったりするだけで手足のように精密に動かす事はしてこなかった。目の前の少女のオーラは手足どころではない、針の穴に寸分違わず通し続ける事ができると思えるほどのオーラの動き、いや機動を見せていた。
そんな動きで黒のオーラに全身を弄られていたため怖くて仕方なかった。いつこのオーラが刃物の形と成って襲い掛かってくるのかと冷や冷やしていた。そしたら今度はオーラが反転、黒から白に変わりネリーの全身を母親が抱くように包み込む。それはまるで春の陽気の如く穏やかな感覚をネリーに与えた。それに加えて美味しそうな中華料理の数々に完全に警戒心は溶けてなくなった、というのが気を許すまでのあらましである。
食べ終わって会話も一区切りついた頃、あいかわらず少女の事をジロジロと観察していたネリーを見て少女が首を傾ける。
「私のサングラスが気になりますか?」
「え?ああいや..失礼を重ねるようで申し訳ないんだけど、貴女のオーラの動きが凄いなって。」
オーラの事を指摘された瞬間、ビクッと机の上に乗っていた指が跳ねた。
「やっぱりオーラが見えていたんですね。」
「うん、ネリーも大会で沢山のオーラを見てきたけど、貴女みたいにオーラを自在にコントロールできる人間は見た事ないよ。」
そう言った後に少しの後悔が押し寄せてきた。今のは褒めたつもりだったのだが、些かデリカシーに欠ける発言だったかもしれない。何度も言うがオーラをここまで上手く使える人間は初めて見たのだ。でも当然、そこまで至るのに沢山の努力、能力の暴走などを経験しているはずなのだ。そんな過去を無神経に掘り返してしまったかもしれないと、ネリーは若干焦った。
そんなネリーの心配とは裏腹に、目の前の少女は快活に答えた。
「いえいえ!私なんてまだまだですよ!私にオーラのいろはを教えてくれた師匠..いや先生に比べたらまだまだです!精進あるのみです。」
それを聞いてネリーは安心した。そして少女の師匠に興味が湧いた。
「へー、オーラの使い方を教えてくれる先生がいるんだ!ネリーも会ってみたいなぁ!」
「ふふふ、私もいつかネリーさんや先生と一緒に本気の麻雀を打ち合いたいものです。・・今はそんな余裕無いですから。」
今度こそネリーはしくじった。この少女の触れてはならない部分に触れてしまった。だがそれは、ネリーの知的好奇心を満たすチャンスでもあった。
「・・やっぱり、貴女も訳あり?」
「・・はい、私もネリーさんと同じで家族を救う為に大金が必要な状況です。お恥ずかしい話ですが大金を稼ぐ目的で1年前から日本中のグレーな雀荘を荒らして回りったりもしました。最近は東京に場所を移していたのですが、まさか留学生の方が下の雀荘に入ろうとしていたのには驚きました。」
「ははは、やっぱりネリーみたいに賭け事で一儲けしようって考えの外国人はそもそも日本には来ないか。やっぱ行くならラスベガスとかかな。」
「やっぱり目立ちますからね。でもネリーさんと同じくらいの年の子は割とよく見かけますよ。まぁ大抵は悪い人に脅されたり仄暗い理由を背負ってる子ばかりなんですけどね。」
「へー、やっぱどの国にもいるんだね..不幸な子って・・」
「はい..でも私がそういった雀荘で出会ってきた子達って”麻雀は強くても負けちゃう子が多いんですよね”」
「?・・ああ、なるほど。”本来の力が出せないのか”」
「怖い人達に囲まれて、負ければ大金を失い人生が終わる..そんなプレッシャーに晒されては本来の力も出ません。」
「そういった子ってさ、結局最後はどうなるの?」
ジョージアにも色んな理由でギャンブルに手を出して破滅する子はいる。なら日本ではどうなのか?たぶん同じような結末をたどるのだろうと想像していたネリーだったが、思いもよらない答えが返ってきた。
「さぁ?私がそういった子に出会った時は麻雀で負けた分を取り返してあげて『もうこんなことはやめなさい』って言って帰しているので分からないですね..知りたくもないですし。」
それを聞いて納得がいったネリー。
(なるほど、どうりで今のこの状況に慣れてるわけだ。この人は言葉通り日本中を回って..一期一会だっけ?そういうのを数多く経験しているから初対面の外国人であるネリーにこんなに落ち着いて接せられるんだ。そして行く先々で困っている子に手を差し伸べて、道を誤らないように導いてきたんだ..そのオーラで。)
麻雀で負けそうになっている子に横から手を貸したりもしたのだ。きっとその度に危険な目に遭いもしただろう。それでも生き残ってこれたのは決して日本が安全な国だから、などという理由ではない。
(この人の生まれ持ったオーラの素質、それを開花させた心の変化、そしてその変化を正しく生かしたこの人の師匠。なによりこの人の弱者を見捨てない善の心。)
今だからこそ分かる。最初にこの人が黒いオーラをぶつけてきたのは、そういう風に学んたからだ。相手がどんな見た目をしていても取り敢えずオーラで恐怖させる。そうすれば戦わずして勝利を収める事ができる。
そこまで思考したネリーが目の前の少女に改めて抱いた感情は”尊敬”であった。今だ紛争が続くジョージアで育ったネリーには彼女のオーラを操る力は喉から手が出るほど欲しいものであった。確かに運をある程度操れる方が良い場合もあるだろう。実際ネリーは運を操ってお金を稼いでいたのだ。しかし、いくら運を操ろうとそれ以上の危険が家族を襲うこともあった。運をある程度しか操れないネリーの能力は降りかかる火の粉を全て払えない。
最悪の場合、家が砲弾の直撃をくらってもネリーだけが”運良く”助かって両親だけが死んでしまう、なんて悲劇も起こり得るのだ。・・だがこの少女は違う。この少女はオーラを精密機械のように扱えるのだ。砲弾が直撃してもオーラで自身や家族を守る事ができるだろう。いや、むしろ砲弾を打ち返す事だってできるかもしれない。
数々のオーラを発する者を見てきたネリーはオーラがどんな事に使えるのかを知っていた。ある者は怒りで無意識に窓ガラスや電球を割り、ある者はオーラを無意識に腕や足に纏ってスポーツでの世界記録に迫ろうとしていた。またある者はオーラを他の動物に分け与えて傷を癒し、またある者はオーラを人にぶつけて怪我や病気になるよう仕向けていた。
ある種危険なオーラという概念。それを目の前の少女は当たり前のように使いこなしている。そしてその力を他者を救う事にも使っている。
(この人がジョージアにいたらどれ程の人間が彼女に救われただろう、どれだけの人間が彼女を神のごとく崇拝しただろう..本当に眩しいな、この人は。)
そんな風に物思いに耽っていたネリーだったが料理を食べて満腹になった影響か、少しウトウトし始める。それでもネリーは思考を重ねるが、若干変な方向に向いていく。
(なんて気高い心の持ち主なんだろう。ただ毎日を怯えて過ごしていたネリーとは格が違う。この人の元で自分も他者を助ける道を歩みたい。もしネリーがこの人みたいにジョージアで困っている子供に希望を与えられたら・・パパもママもネリーを誇りに思うだろうなぁ。よし決めた!パパになんとかしてお金を仕送りしたら、ネリーもこの人と一緒に雀荘を荒らす!そして本当に不幸な子を助ける義人?だっけ、なんかそんなのになる!)
もはや妄想じみた何かに耽りだしたネリーだったが、ふと違和感を覚える。・・明らかに睡魔が自身を犯すスピードが速すぎるのだ。
(あれ?確かにお腹は膨れたけど、それだけでこんなに眠くなるっけ?)
そう思い終わる頃には自然とアクビが出ていた。そんなネリーの状態を安じてか、少女は言った。
「ふふ、いいですよ寝ても。起きるまで待ってあげます。」
そう言うが早いか、少女はネリーの横に移動すると膝枕を促した。流石に悪いと思って断ろうと思ったネリーだったが、想いとは裏腹に身体は睡眠を求めた。
ボフッ
そんな擬音を出しながら少女の膝に倒れ込む。途端に白のオーラが全身を優しく覆う。ああ、心地よい。
「あ、そうだ。寝る前に一つ聞いておきたいのですが、ネリーさんはお父さんにどのくらい送金するつもりだったんですか?」
もうほぼ寝ていたネリーは反射的に答えた。
「2、200万..zzz」
その答えを最後にネリーの意識は睡魔によって刈り取られたのだった。
それから1時間経った頃にネリーは起きた。外はもう雨が止んでいた。
暗い顔をしながらネリーは"1人で客の居ない"中華料理店を後にする。
その手には、ズッシリと重い札束が2つ、握られていたのだった。