VIPRPG×ざくざくアクターズ×ハルスベリヤ叙事詩2 もしもクロスオーバーだったら 作:泉 とも
三日目 ブライアンパンマン工場
アンパンマンの工場って『アンパンマン工場』じゃないの?
『ジャムおじさんのパン工場』でパン工場なんだって。
所有者がジャムおじさんだもんね。よく考えれば当たり前だわ。
そんなことを話しながら、チェッチカとメディオラは、五大組織の一つ、アンパン軍の本拠地を訪れていた。
『ようこそ!ブライアンパンマンのパン工場へ!』
施設敷地の入り口に立てかけられた、ポップな看板が可愛らしい。
赤い鎧を着たちびキャラが、アンパンを美味しそうに食べている。
ダナエ「いらっしゃいませ。観光ですか」
「あっはい。これ滞在許可のコピーっす」
「私も」
ダナエ「はい、確かに。それではごゆっくりどうぞ。中でアレルギー検査も受けられますので、試食の前にそちらを済ませてくださいね」
『はーい』
二人は受付にいるのが女神とは知らず、そのまま中へ進んだ。
「そういやメディオラちゃん、アレルギーってある?」
「ないと思いますけど、折角だし受けて行きましょう」
「まあ減るもんじゃないですしね」
二人は工場とは少し離れた位置の、献血会場みたいな場所へ行き、検査を受けて、無事にこれをパスした。
「よし、じゃあ早速アンパン食べ放題行きましょうか」
「お持ち帰りも出来るそうですけど」
「いいですねえ。タッパー持って来て正解でした」
チェッチカは懐から空の容器を取り出して、得意げにして見せた。
メディオラは潰さないと入らないのでは、と思ったが言わないことにした。
「こういうのって小学校の社会科見学以来だから、ちょっとわくわくしますね」
「私行ったことないです、すいません」
「おっとこりゃ失礼。じゃあその分楽しみましょうか」
子役の芸能人は学校にいけないことも多く、行事に参加できないことはザラにあった。
それを思い出してチェッチカはばつが悪くなったが、明るく振舞ってこれをケアした。
この辺の面倒見の良さ、付き合いの良さが、彼女の芸人人生を支えている。
「あ、チェッチカさんアレ」
「アレって、何だアレ」
メディオラが指差した先には、奇妙な一団がいた。
皆一様に同じ鎧を着込んで、自社製品の宣伝をしている。
アンパン「私はブライアンパンマン。通称悪のブライアンです」
ダーブラ「俺はダークブライアン。通称の闇のブライアンだ」
ブライアン「そしてオレがブライアン。オレを仲間に入れてくれ」
ダーブラだけ鎧の色が黒紫色である。いやよく見ると後ろにいる一卵性を思わせる少女たちにも、同じ色の子がいる。
とはいえ紅白か、黒紫かの二種類だけなのだが。
アンパン「今日はアンパン工場の見学に来て頂いて、どうもありがとうございます!アンパン及び餡子の試食コーナーはあちら。工場見学はこちです!」
ブライアン「お土産コーナーにのっくんぬいぐるみもあるぞ」
ダーブラ「楽しんでいくがいい!」
「パンフには秘密結社とか悪の傭兵軍団って書いてましたけど」
「普通の会社っすね。いやまあそのほうがいいんだけど」
チェッチカたちは安心と失望が半々といった心持ちで、見学ツアーに参加した。
名前の通りもう少しふざけて欲しかった反面、食品を扱う会社なんだから、ちゃんとしてて欲しいという思いもあった。
「こちらが製餡子工場となります。あちらの機械に大量の原料を入れ、蒸して柔らかくしたり、煮込んだりします」
社長自らツアーガイドとなり、観光客を案内するアンパン。
アンパン軍は五大組織中では最も戦闘力に劣るが、いち早く企業のていを整え、最も経済力と社会への影響力を確保した軍団である。
ポテチだらけ、じゃがいもだらけのポテチ王国で、それ以外のお菓子や農作物を扱うこの組織は、他の中小団体や商人たちを味方に付けているなど、中々強かな面を見せる。
ナイ軍や魔王軍には弱いが、王国軍や玉露軍には強いのが特徴である。
という設定。
「おお、あんなに小豆が……!」
観光客の中に一人、食い入るように餡子の加工現場を見つめている女性がいた。
柚葉だった。
「あのアツアツの鍋の中に手を突っ込みたい。大やけどしてもいい。それで餡子をじゃぶじゃぶ救って、浴びるほど餡子を飲みたい」
「チェッチカさんあの人」
「しっ!指差しちゃいけませんぜ!」
女侍は仲間たちを離れ、一人餡子を求めてここに来ていた。
何故か。自分がそうしたかったからだ。
ジュリアかわいそう。
アンパン「それではここで、餡子の食べ比べ試食会となります。餡子は数十種類あります。ここにはまた後で来られますから、焦らないで大丈夫ですよ」
工場内にはファンタジー世界に全く似つかわしくない、巨大な機械が設置され、様々な運搬車両と多数の人員を含め、止まることなく動き続けている。
「私あんこってあんまり食べたことないです」
「こうして見ると本場って感じですねえ」
二人は普段食べない季節のカボチャとか、サツマイモとか、栗とかの見かけるけど食べない餡子を纏めて食べるなどして遊んだ。
併せて提供されるお茶も含めて蘊蓄を聞いたりして、そこそこ楽しめていた。
「あれ、ここってアイスも売ってるんですね」
「えっアイス。どこ」
「ほらアレ」
メディオラが指差す先には、餡子をアイスクリームのタワーのようにしてムシャムシャしている女侍の姿が。
「チェッチカさんあの人」
「しっ!指差しちゃいけませんぜ!」
「私が何か」
「あっいえ、何でもございません。へへへ、うちの子がすいませんね。お構いなく、ほんと、お構いなく」
こちらに勘付いて寄って来た不審者に、チェッチカは間に入った。
顔にびっしょり汗をかきながら、まずたらしい愛想笑いを浮かべて、幼子を庇おうとしたのだ。本編の征伐騎士たちに爪の垢を煎じて飲ませたいくらいの活躍だった。
「いや、実は私も観光で来ているんだが、今日は生憎と一人でね。どうだろうか、一緒にここを回るというのは」
「ええ……」
チェッチカは後ろを振り向いた。メディオラに助けを求めたのだ。ここで毅然と断れないのが彼女である。
とはいえアイコンタクトを読み取られまいと、体を傾け深めに振り向いた辺り、まだまだ抵抗の意志を示してはいた。
メディオラは視線で、柚葉が帯刀していることを示し、真顔のまま手をパタパタと小さく振った。
『断れ』ではなく『抵抗するな』という警告である。
「アッハイ」
チェッチカはこれを完璧に汲み取ると、一度頷いてから目の前の腹ペコ浪人へ向き直った。
「分かりました。ここを出るまでの間、ご一緒しましょう」
「ありがたい。正直私一人だと浮いて困っていたのだ」
(それはあなたの行動のせいでは)
メディオラは思っても言わなかった。
十歳そこらとはいえ神童と言われた魔法使い兼子役である。内政選択により一ターン目から味方に殺されることもあるが、彼女は賢いのである。
アンパン「では次はお料理コーナーです。餡子を使った卵焼きやおはぎのお稲荷さんとか出ますよー」
「よし、行こう!私は朝ご飯を食べて来なかったんだ」
「どういう宣言なんだ」
「まあまあ、旅は道連れっていうし、ん」
その時だった。
さっき三人のブライアンズといた、少女の一人が血相を変えて走って来た。
彼女はアンパンに何やら耳打ちすると、直ぐに駆け戻って行った。
アンパン「……えー、次のコーナーの準備が少し遅れているようなので、もう少しここでの時間を延長させて頂きます。お詫びにお土産屋さんでどれでも一品、無料でお持ち帰り
頂いて構いません。様子を見てきますので、皆様もう少々お待ちください」
アンパンはそれだけ言うと、先ほどの少女を追って去って行った。
「トラブルっすかねえ」
「嫌な予感がする。少し見て来る故、二人はそこにいるように」
「あっちょっと!」
柚葉は剣呑な空気を察すると、チェッチカとメディオラを残して、アンパンたちの後を追った。
――なんだこいつ、見たことねえバケモンだ!
――観光客を下がらせろ! 巻き添えを食らうぞ!
――兄さんたち、私も戦います!
戦いの音と怒号が響き渡り、柚葉の耳にも届くようになる。
そして駆け付けたとき、彼女の目に飛び込んで来たのは、無残に破壊されたロビーと、ボロボロに傷付いた戦士たちだった。
「ぽてと、た べ て」
それは怪物だった。
異形の姿。細い手足を伸ばし、頭陀袋に落書きをしたような、貌。
この世の終わりを迎えた子供が描いたような、眼。
薄っぺらいのにそこだけ立体の、舌。
「ぽてと君……、だと……ッ!」
魔人ぽてと君。そう呼ばれたのは、とある王国で生まれたフォークロア。
公爵級の大物であり冥界の王と互角と目される怪異。
「兄さんたち、また来ますよ!」
『おう!』
ブライアンたちは、魔人の放つ大魔法に耐えて、懸命に戦っていた。
「逃げるんだ! そいつはこの人数で勝てる相手じゃない!」
柚葉は警告を発しながら戦列に加わる。
何故この場にぽてと君が、しかし今はそれを気にしている場合ではない。
この場にデーリッチはいない。それはつまり、敗北が死に直結することを意味する。
魔法キャラがいないのに、ぽてと君の相手をする。
絶望的な戦いが、始まろうとしていた。