VIPRPG×ざくざくアクターズ×ハルスベリヤ叙事詩2 もしもクロスオーバーだったら   作:泉 とも

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昔語り

 ――フトンガフットバナイ山のとある別荘にて。

 

「昨日は邪魔が入ったが、何とかここに来ることができたな」

 

 小高い崖に面したその建物は、庭から眼下の海と空とを一望することが出来る。

 

 絶望的な居住性と引き換えに、圧倒的な景観を誇るこの家は、やみっちが不動産屋を名名乗る男から7500ドルで買った廃墟を、取り壊して新たに建てたものである。

 

やみっち「今も昔も、変わらないよ。ここは」

 

 騙されたと分かって黄昏ていた際、写真家を名乗る不審者に写真を撮られたときは、思わずピースまでしてしまった。

 

 しかしその後も様々なksgや祭りに参加し、数々の冒険で手に入れた財産、起こした事業でここまでやって来た。

 

 自分では闇社会のクイーンとか言ってるがドナルド・トランプばりにタフな商人人生を歩んでいる。

 

「そうかな。歳を取ると、昔が思い出せなくなるから」

 

 ギー・ド・カダンがそう言うと、三つの風が吹いて、彼女の髪を揺らした。

 

 普通の風、海からの風、山からの風。それらが混ざり合い、多くの匂いを運んで、通り過ぎていく。

 

「しかしお前が言うのなら、きっとそうなのだろう」

 

 庭に置かれた安楽椅子に座り、ゆらゆらと揺れながら、ギーは微睡む。

 

やみっち「違ってたら最初にそう言うわよ」

 

「……思い出すな。もう何年になるか」

 

 回想シーン。

『人生色々』の続き。

 

「その服を着ないで逃げ出したら、どこかに消えちゃえるかも、知れないから」

 

やみっち「えっ、消えちゃうって、死んじゃうってこと?」

 

 問われて幼き日のギーは、首を横に振った。

 

「事務所を首になって追い出されたら、きっとおうちに帰してもらえるから……」

 

 彼女は俯いて背を向けた。傷付いた笑顔を浮かべて。

 

 物盗りにでも遭ったかのような姿が、あまりに痛々しくて。

 

 それ以上に、追って来たのに諦める態度に。

 やみっちは、声をかけずにはいられなかった。

 

やみっち「待ちなよ」

「えっはい。何ですか」

 

やみっち「ちょっと、話そう。そしたらこれ、帰してあげる」

 

 何故そんなことを言ったのか、今でも当人には分からない。

 

 ただこのゴスロリ服は、奪ってはいけないような気がしていた。

 

やみっち「あんたって、ここの事務所の子だよね?」

 

 二人は楽屋に戻ると、改めて話し始める。室内には他の者はおらず、皆撮影に出るか、帰りの時間まで、どこかに出掛けているのだ。

 

「はい。三つの頃から、色んな所に預けられて、転々として。今はここに置いてもらってます」

 

「親とか学校はどうしてんの」

 

「お母さんがいます。でも今どうしてるかは、分かりません。学校も撮影が無い日は、行かせてもらえるの」

 

 聞けば彼女は親によってその辺の木っ端事務所に入れられ、そこが潰れたりお払い箱になる度に、移籍を繰り返して来たのだという。

 

やみっち「こう言っちゃアレだけど、親に辞めたいって言わないの?」

 

 やみっちは楽屋の茶菓子とお茶を勝手に飲み食いし始めた。あまりにも無遠慮もやってのけるので、ギーは少し感心した。

 

「言ったけど許してくれない。もう何年も会ってないのに、会いたいって言っても、あの人は言ってくれない」

 

 最初の内は優しく諭すようだったり、励ましてくれたが、最後には怒るようになり、最近は連絡も取れないのだと、幼いギーは言った。

 

「何だかね、芸能人の娘がいる自分が大事なんだって、まるでお化粧してるみたいだって思った」

 

 ギーの言葉は震えており、現実を噛み締める度に、味わう恐怖に苛まれる。

 

「帰りたいのに、会いたいのに、皆がダメだって言うの。こんなのおかしいよ。自分の家に帰って親に会うのが、どうして出来ないんだろう」

 

 そこで一息を入れた所で、やみっちは真っ直ぐに少女を見つめた。

 

 ふさけは無しで、確かめるように。

 

やみっち「変なこと聞くけどさ、どうしてそんなに帰りたいの?」

 

「どうしてって」

 

やみっち「だってあんた、そこに思い出は無いんでしょ?どうして帰りたいの」

 

 問われてギーは唇を震わせ、苦痛に顔を歪ませる。

 

「そんなこと、言われても……私、帰らなきゃ」

やみっち「どうして」

 

「だって私、お母さんの顔も、自分の家のことももう、思い出せないもの……!」

 

 そう言うと、ギーは静かに泣き始めた。

 肩を揺らし、力なく項垂れ、嗚咽を漏らした。

 

「怖いの……自分が自分でいられなくなるような気がして。もう、私」

 

 明日をも知れないカナリヤは、巣に戻ることも許されず、見知らぬ檻に囚われて、終わりの刻を待っている。

 

 その冷えた翼を、包み込む闇が在った。

 

「あっ」

やみっち「……………………」

 

 僅かに眉を寄せ、顔をしかめて、痛ましい物を見るような目で、やみっちはギーは抱き締めた。

 

やみっち「あんた、かわいそうだね」

 

ギー「う、うう、うううああっうああああああ!!うああああ~~!ああああっ!」

 

 胸を張る勇気も、歩き出す希望も、耐え忍ぶ強さも、何も要らなかった。

 

 このたった一つの同情が、少女に何より必要なものだった。

 

 やみっちは目の前にいる、自分になりかけている少女を、放っておけなくなった。

 

 ――そして、今。

 

「お前の温もりが、どれほどの慰めになっただろう」

「ちょっと、昔話は最後にするんじゃないの」

 

「そうしたかったが、生憎と大変なことになってな」

 

やみっち「街の騒ぎのことなら心配要らないわ。この街の連中って結構強いし」

 

「いや、さっき社長から連絡があってな。この騒動に便乗して参加して来いと言われてしまった」

 

やみっち「だから行くの?わざわざ危険を冒しに」

 

「ああ、だから話したのだ。最後になるかも知れないから」

 

 やみっちの言葉をギーは否定しなかった。この世で最もままならず、その癖ありふれているのが命の危機だ。

 

「別にサボっちゃえばいいじゃん?」

 

「私はな、プライベートな時間が最も退屈なんだ。お前と話す、この時間以外が」

 

 その時間を少しでも温存しておけるなら、と、彼女は語る。

 

やみっち「私も行こうか、こう見えて結構歴戦なんですけど」

 

「いや、お前には商人として振る舞ってもらいたい。恐らくこの戦いを解決する者の行く先で、店を広げられる者はそうはおるまい」

 

やみっち(絶対ぇーそんなことねえけど、ここでそれ言っちゃカッコ悪いわよね)

 

やみっち「そこまで言われちゃしょうがないね。でもこっちも危険が伴うんだから、ビタ一文まけないよ。恨まないでよね」

 

 やみっちが眩しい笑顔で言うと、ギーは微かにだが、確かに笑った。

 

「ふっ、怖い怖い。カード一枚で足りればいいがな。ああ、それとダークネス」

 

やみっち「何よ」

 

「船の手配をしておいてくれ。そろそろ私の船が、港に着いているはずだ」

 

やみっち「私の船ねえ、水夫の手配とかどうしてるの」

 

「必要ない。その笛を吹けば、手近な岸にやってくる」

 

 ギーは懐から犬笛のようなものを取り出すと、やみっちへと放り投げた。

 

「出番は無いと思うが、一応な。荷物の類は好きにしてくれて構わない。必要な装備も積み込むと良いだろう」

 

やみっち「オッケー。怪獣が来ても戦えるようにしといたげる」

 

 話が纏まると、二人はどちらかともなく、目の前に広がる空と海を眺めた。

 

「やみっち」

やみっち「あによ」

 

「あの日のお前のおかげで、今の私がいる。ありがとう」

 

やみっち「そういう態度と言い方って、死亡フラグに繋がるから止したほうがいいわよ」

 

「そうか。だが今更若者みたいにも行かなくてな」

 

やみっち「若作りにもほどがあんのにねえ」

 

 からかうように笑って、闇の魔法具現化は立ち去ると、別荘の奥に仕舞ってあった、装備品やアイテムの数々を取り出しにかかる。

 

やみっち「そういやパーティメンバーって決まってんの?」

 

「事務所の人間を適当に見繕うよ。それとなダークネス」

 

「あによ」

「若作りは余計だ」

「サーセン」

 

 安楽椅子から立ち上がっると、ギーはやみっちの後を追った。

 

 その背中はかつて追った、昔日のものと何一つ変わらない。妖精物語の登場人物のように、同じ姿をしている。

 

(いつか私がこの海の一滴となり、この風の一房となるとき、お前のもとへ帰れるだろうか。そのとき名前を、呼べるだろうか)

 

 内心に不安と寂しさを抱きながら、ギーは古い友人と山を下りた。

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