VIPRPG×ざくざくアクターズ×ハルスベリヤ叙事詩2 もしもクロスオーバーだったら 作:泉 とも
8402プロの船がポテチ王国の港に到着し、事務所の関係者たちが下船していく。
「はー、着いたー!ここがポテチ王国なんですね!」
「うむ、そのことだがミシェル、一つ言っておくことがある」
「何ですかか、ギーさん」
「この国は恐ろしく汚いものと、素晴らしく美しいものが混在している。非常に混沌としているのだ。あまり一人で出歩かず、気を付けるようにな」
「あー、観光地の貧富の差、みたいな奴ですか」
「違う。そんな現実的な話ではない」
とそのとき。
兵士「待て待て待てーい!そこの観光客もどき!お前ら王国が許可してない麻薬を持ち込みやがったなー!死刑だ死刑!」
通りの向こうを数十人の集団と、無限にも思える兵士たちが走り去って行く。
「今のは、いったい」
女兵士「こらー!そこの女止まれー!服を着ろー!外で裸が許されるのはヌーディストビーチ区域までだぞー!」
通りの手前を裸の女と、やはり無限にも思える数の女兵士たちが走り去っていく。
「さ、ホテルに行って荷物を降ろそう」
「え、ちょっと待って。何今の」
ミシェルの表情が曇る。不穏な一団がいなくなった今は、さっきと同じ賑やかな風景が広がっているだけだ。
「こんなことは日常茶飯事だぞ。今日の魔王把握はもう終わってしまったようだな。残念だが、明日もあるだろう」
「え、ギーさん待って!麻薬って何!ヌーディストビーチって何!」
「おおそうだ、そのことについて言わないといかん。いいかミシェル」
「はっはい」
「もしもそこで知り合いを見かけても、他人の振りをしろよ。それが最低限にして唯一のルールだ」
「えっ何その言い方。まるで私たちの中に、そういう場所を利用する人がいるみたいに」
「だから、表向きはいないんだ。いいな」
「……はい」
そして二人は現地のガイドに案内されながら、安全圏であるホテルへと移動した。
「わー、ちゃんとしてるホテル!」
「それはそうだろう」
「いや、さっきの流れでドッキリみたいなのがあるかなって」
「ミシェル、迂闊なことを言うな。この国はそういう国だ。その場のノリでここのオーナーがやり始めるかも知れない」
「えっそうなの」
「この国には数々の『笑いの神』が存在する。彼らの無茶ぶりが託宣の如く降りかかって来ても、おかしくないのだよ」
「それがおかしいんじゃないですか」
「だがそれがいい」
「ギーさん?」
ミシェルはこの国に着いてから、ギーの様子がおかしいような気がした。それは単にポテチ王国に順応しているという、それだけのことだったが、それが異常に見えた。
「賽は投げられた。この休暇が一生モノのゴミになるか、或いは美しい人生の叙事詩になるか。楽しみだな」
フロントでそれぞれの部屋の鍵を受け取ると、二人はエレベーターで高層階に移動した。
「私の部屋はこっちだ、出掛けるときに誘うなら、連絡をくれ」
「あっはい。ありがとうございます、ギーさん」
そして二人は別れると、自分の部屋に入った。
一方その頃。
「着いてしまったじゃん」
「ここがポテチ王国か」
「空港の土産物屋がポテチ一色だった」
ハグレ王国一行の三人、こドラ、柚葉、ジュリアはポテチ空港に到着していた。
「まさか次元の塔の神界から飛行機が出るとは、ここも神様たちの世界なのか?」
ジュリアはいつもと同じ重装備で辺りを見回した。空港のボディチェックで武器や防具が取り上げられなかった辺りで、既に嫌な予感がしていた。
「いや、神様はいるようだが、人間の世界のようだ」
既にガイドブック片手にポテチを開けていた柚葉が言う。
長い艶やかな黒髪に侍のような着物姿をした、女浪人である。本人はダイミョーなるものを目指しているが、実はデーリッチ以外に友だちがいない。
「ここからはもうデンジャーゾーンじゃん。いつ安価が来るか分からないじゃん」
「安価、何だそれは」
「安価はアンカーの訛りで、この国では神様のお告げと言う名の無茶ぶりじゃん。これが言い渡された相手は、それをネタに芸をしないといけないんじゃん」
「ガイドブックにある笑いの神々のことか」
カナエール、コトワール、エターナル、カオス、サタナエル、レジェンド、知恵子、武神、ゴメス博士、魔神の十人の神々の名が、ガイドブックには記されていた。
「博士と知恵子だけおかしくないか?」
「恐らくうちの福ちゃんみたいなものだろう」
「あーそっか。うちと同じノリなら分からんでもないが」
「この恐るべき笑いの神々が、国民に分け隔てなくネタを振るじゃん。大半の人にはトラウマもんの恐怖だよ」
「この国の人々は、毎日自分に雷が落ちるのを悩んでいるようなものだな」
「我々も打ち合わせをしておくべきだろう」
「こんなこともあろうかと、台本は用意しといじゃん!」
こドラは荷物の中から、三人分の台本を取り出した。
「でかしたぞこドラ!これでいざというとき、助けに入れるな!」
「さ、それじゃ早速、私たちの泊まるホテルにでっぱつじゃん!」
三人は空港からタクシーに乗って、安全圏であるホテルまで移動した。
「まともなホテルじゃん!?」
「ドナウブルーとどっちが立派かな」
「二人とも、荷物を置いて早く探検しよう、早く!」
チェックインを済ませて、エレベーターで高層階へ。
「しかしこのホテルは人が少ないな、見た所高級そうなのに」
ジュリアは周囲を観察しながら言う。まるで危険な秘密基地のような静けさだった。
「どうも本来は芸能事務所の貸し切りだったらしい。我々の旅行券は時期が被ってしまったという、まあ要するに運営側のミスだそうだ」
「でもそのおかげで有名人に会える大チャンスじゃん! すごい幸運だって!」
こドラはサイン色紙を買いに行きたいと鼻息を荒くしていた。
「おいおい、有名人って言っても、私たちはそういうのに疎いから、誰が何か分からないぞ」
「それでもいいじゃん!」
などと言いつつ、ハグレ王国の三人も、無事に自分たちの部屋へと到着した。
そして。
――ポテチ城の偉い人が集まってご飯食べたりするなんか広い部屋。
魔王「どうやら今年もこの季節がやって来たようだな」
死の支配者「何も知らない愚かな観光客共……」
アンデッドナイ「我々の糧となるために、遠路はるばるご苦労様です」
Bアンパンマン「それで王様、今年は如何致しましょう」
ポテチ王国内に存在する、各勢力の長たちが一堂に会し、今後の予定を話し合う。
王様「うむ、例年通りで概ね構わんが、一つ注意事項がある」
魔王「何かな?」
王様「一部にVIP待遇の団体客がいる、友好国からのな」
ナイ「ほほう、それはまた随分な上客で」
アンパン「その方たちに粗相のないよう、注意すればよいのですね」
王様「左様。あくまで『お前たちは』の話じゃがな」
しーちゃん「私たちはって、他がやらかしても良いって訳?」
王様「うむ。どうせ国全体で取り繕うのは、不可能じゃからな。しかしちゃんとしてる場所はある。そういうメリハリが大事なんじゃ」
魔王「この国の性犯罪率の高さと、性犯罪者の死亡率の高さは、どうにもならんからね」
※ポテチ王国では性犯罪は重罪であり、自首も許されない。被害報告と共に懸賞金が掛けられ、あっという間に金に換えられる。そのため中には観光客を狙って一服盛り、わざと関係を持たせてから濡れ衣を着せ、犯人を作り出し、自分で打ち取る『一人美人局』などが横行している。例の路地裏に連れ込まれるのは、何も女性だけとは限らないのだ。
ナイ「皆が皆ゴメスの真似をしたらこの世の終わりですし」
アンパン「だからこそ私たちが、それなりの規範を示す必要があると」
しーちゃん「私ら一応悪の組織だったんだけどなあ……」
王様以外の全員が溜息を吐いた。
下品と下世話と下種が溢れるポテチ王国、方向性の異なる悪役たちだったが、国民の道徳意識や倫理的な水準が思ったより下振れしていたため、統制が取れている集団という存在そのものが、この国の治安維持を担うシステムとなっていた。
曰く、支配する価値が無く、王様も国を導く気が無い。
善玉の王国を脅かす数多の敵対勢力、ではなく腐敗した王国を支える互助組織。
それが彼らの現状であった。
王様「めんご。うちが滅びたら皆で好きにしてくれたらいいんで」
恐らくこの場で最も質が悪い男が、悪びれもせずに言い放つ。
アンパン「ぞっとしないですね。月並みですが、お互い頑張りましょう。では魔王様」
魔王「うむ、今回の臨時首領会議はこれにて終了、解散!」
王様「ちょっおま」
かくてそれぞれの勢力の長たちは、自らの組織の説明とか無しに、会議を終えて帰った。
翌日。
――今朝のポテトチップタイムス。
観光客に扮した麻薬密売組織摘発。数十名の大捕り物の末、犯人グループは全員が殺処分。死体は公開処刑広場にて、○日まで公開。
ヌーディストビーチから集団脱走。国外から持ち込まれた脱法薬物の使用が確認され、検疫のため現在ひるみ病院に収監中。状況の確認次第、犯人の奴隷市場へ順次出品が予定されています。
一人美人局摘発、人権団体から抗議も王国はこれを一蹴。観光客保護の促進を強調。
ミシェル「あの、ギーさん、今朝の新聞に物騒なことが」
ギー 「安心しろ。私たちは真っ当な観光客だ」
柚葉 「この国は海外の大使館がほとんどないらしい」
ジュリア「これは、とんでもない国に来てしまったかもしれん」