VIPRPG×ざくざくアクターズ×ハルスベリヤ叙事詩2 もしもクロスオーバーだったら 作:泉 とも
八日目の朝。やみっち商店にて。
らいち「やみっちただいまー」
ワンピース姿に天使のような羽を生やした、光属性の闇が店のドアを潜る。
やみっち「おいすー。久しぶりだあね」
らいち「いやー福引で当たった異世界旅行、すっごい良かったよ!これお土産」
やみっち「こっちはまた国の一大事だったってのに。運の良いやっちゃなあ」
土産物の『べるぐるみ』をカウンターに乗せると、らいちは店の中を物色する。
らいち「聞いたよー。何かすっごいモンスターが出て危なかったんだって?」
やみっち「まーね。でもそこは闇社会のキュエーンたる私!ちゃっかり仕事してガッポリ設けてやったわ。まあその分掘り出し物や目玉商品は放出しちまったけど」
らいち「あー、あの伝説級の装備?本当に売れたんだ」
こうみえて二人は歴戦の冒険者でもある。可愛い顔をして数多くの修羅場を経験していたりするのだ。
やみっち「代わりと言っちゃなんだけど、別のお宝は沢山ゲットしたった」
そう言ってやみっちはカウンターの上に大量のサイン色紙を並べた。くるくると回転しジャキーンという効果音、ドヤーという声と共にジャンプして画面を光らせる。
らいち「何これ?芸能人のサイン?」
やみっち「そ。観光客に事務所の団体さんがいてね、ちょっと手を貸してやったらこの通りよ!」
らいち「へー、あっこれ8402プロのじゃない!」
やみっち「流石にこの手のお宝は、あんたのほうが詳しいか。そう、特にこのギー・ド・カダンの色紙は」
らいち「ヌイ―・ド・サンシールのサインじゃん!」
らいちは血相を変えて一枚の色紙に近寄った。
らいち「本編で助演女優賞を受賞し、映画『提督と皇帝』で主演女優賞を取った超大物の女優だよ!うわー、私の分も欲しかったなあ!」
やみっち「そ、そうなの。でもこっちの人」
らいち「こっちはメディオラちゃんのサイン、うわ、やみっちすっごいことになってる」
やみっち「そんなにすごい事務所なの?」
らいち「価値が!分かって!ない!」
知り合いの自慢をしたかったが、どうも世間の評価や人気とはズレがあるらしい。
やみっちはそれからしばらく、大興奮のらいちに8402プロの話を聞かされ続けるのであった。
やみっち(あいつ本当に出世したのかよ……)
らいち「他には!?色紙以外にも何か貰ってないの!?」
やみっち「あーはいはい。それもちょっと待ってね……」
これは会わなくて正解だったかもな、と、未来のキュエーンは内心で肩を竦めた。
その頃、洋上にて。
「はっくしゅんっ」
「ギーさん、風邪ですか?」
「気が抜けて疲れが出たのかも知れない」
心配するミシェルからブランケットを受け取りながら、ギーは遠ざかるポテチ王国を見つめた。
「どうだった?」
「はい?どうって」
「何か面白いことや、思い出になることはあったか」
「そりゃまあ。あんなこともありましたし」
「それ以外は」
「それ以外……」
ミシェルは勇者アレックスのズタズタになった菊座と、それを友だちを呼んで鑑賞会をしたことを思い出し、首を横に振る。
「ありましたけど、人に言うことじゃないですね」
「そうか。まああの国だからな。詮索はせんよ」
「でも意外と楽しかったです」
「そうか。もしもまた来ようと言ったら?」
「お断りしますね」
「ぷっ、早かったな」
ギーの質問にミシェルは即答した。その真っ直ぐな様子に、思わず吹き出してしまう。
――ギーさーん。
「いたいた。探しましたよ」
「チェッチカにメディオラか。どうかしたのか?」
「ほら、あの国でお世話になった人たちから、餞別を預かりましてね」
「それと皆で撮った映像の上映会を始めるから、見に来るようにって社長が」
大量のポテチとアンパンを渡して伝言を済ませると、二人が加わり四人パーティが出来上がる。
「そうか分かった。犠牲を出してまで止めなかった撮影だ。値千金となればいいが」
ちなみにニンニンは後々レイズをかけられたので、ちゃんと蘇生した。この辺の生死の緩さがポテチ王国である。
「修羅場の間にも笑いあり涙ありの珍道中でしたからね。あの三人組もうちに誘いたいくらいでしたよ」
「うむ、愛嬌という点では満点だったからな」
ハグレ王国の冒険者たちの姿を思い浮かべつつ、四人は船の甲板から船内へと移動する。
「忍者の人たちも格好良かったですよね」
「ニンジャかあ。うちにはいないなあ」
船の中の何人かは、まだ『もどき』から戻れていないようで、話のタネに茶化されてはもだもだしている。
「社長の性格からして撮影した映像を編集し、一本撮るつもりだろうが、しかしなあ」
「何か気になることでもありやした?」
「たぶん脱いでる場面は着せないだろうと思って」
「でも大勢が服を脱いでいい撮影場所なんて……」
ギーはそこで歩みを止めると、来た道を振り返る。
彼女が何を考えているかに気付き、他三名も顔に渋面を作った。
「案外、早く戻ることになるかも知れんな」
そして、ハグレ王国にて。
「お帰りなさーい!」
「お帰りー!お土産よこせー!」
「うひゃー、みんな久しぶりだな!」
久しぶりにハグレ王国の本拠地こと砦に戻ったジュリアたちは、デーリッチたちに盛大に出迎えられた。
「どうどう、そう焦らずともよい。辟易してしばらく食べたくなるほどのポテチを買って来た故、皆で食べてくれ」
「その説明でちょっと食欲が失せるな……」
苦笑するローズマリーが、デーリッチとヅッチーの首根っこを掴んで引き寄せる。
じたばたする二人を他所に、入り口のマップを埋め尽くす量のポテチ袋が、他の者たちに回収されていく。
「あれ?ハピコたちがいないでちね」
「イリスは帰って来たのにな」
「もう少し残るそうだよ。土産話になるんだが、今回も大変なことが起きてね」
「大変なことって?」
「うむ、これだ。幾ら食べても太らないゴーストぽてち。流石本場は格が違った」
今回の件で反省した国は、廃棄されるぽてちを贄にし、その怨念を糧に文字通りゼロカロリーのポテチを作り出した。
これにより新たな需要が爆発。食品ロス問題に一筋の光明が差した。
「絶対違うでしょ。とりあえずそれは後の楽しみにするとして、あれ、こドラは?」
「ああ、たぶんそれが一番大変な話だろうな」
ジュリアと柚葉がチラリと視線を向けると、そこには心ここに在らずといった様子の、こドラというよりこたつドラゴン(高頭身)がいた。
「……はあ」
ぽーっと頬を赤らめ、物憂げに溜息を吐く。
「ど、どうしたんですか。なんか色っぽいというか」
「一言で表せば」
「一夏の恋、と言った所か」
『ええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!』
どこにいたのか拠点内の全員が殺到し、保護者役の二人を取り囲んだ。
と、ここで回想シーン。
ポテチ王国側神界空港にて。
「いよいよ帰りかあ、長かったような、短かったような」
「こたつは残念だったな、完全に壊れてしまった」
「アレはスペアだから問題ないよ。最初の奴は傷んだから、王国に置いて来たんだ」
「もしかしてちょくちょく交換してることを知らなかったのか?」
「知らなかった……てっきり同じ物だと」
エロリア「こドラちゃーん!」
そんな話をして、ジュリアが思わぬ情報に衝撃を受けていると、一人の少女が三人の元へと走って来た。
「おや、あの子は」
「こドラにお熱の」
「え、エロリアちゃん、見送りに来てくれたの」
エロリア「あったり前じゃない!レズは狙った獲物を逃がさないもんよ!」
「えっれっ!?」
突然のカミングアウトにこドラが戸惑っていると、エロリアは遠慮なく彼女を抱き締めた。白いワンピースのスカートと、黒い長髪がふわりと膨らむ。
「ちょ、ちょちょちょっと待ってエロリアちゃん、私」
エロリア「分かってるわよ。あんたにその気がないってことは」
エロリアは少し体を離すと白い歯を見せて、屈託のない笑顔を浮かべる。子どものように無邪気な笑顔だった。
エロリア「だから、今日はお友だちで返してあげる」
「あ、うん。ごめん」
顔を赤らめつつ、好意を拒む罪悪感にこドラが俯く。
「私、あなたの気持ちにはその、答えられなくて」
エロリア「何度も振らないの。ほら、こっち見て」
白い手がこドラの頬を包み、彼女の視線の先に、エロリアの顔が近付く、そして。
「あっ」
『おお!』
エロリア「これは私をソデにした罰よ。ごちそうさまでした」
そこで解放されると、こドラは自分の頬を触った。唇の触れた感触が、夢のように残っている。
エロリア「本当は口にしたかったけど、泣かれたらヤダしね。こドラちゃん、今度この国に来たら、その時こそ本当に襲っちゃうからね」
「え、ええええええ!?」
事態に頭が追い付かず、狼狽える続けるこドラは、目の前の女性から目を離せなくなっていた。
エロリア「だから、これでお別れ。さよなら」
「エロリアちゃん……」
打って変わって儚げな笑みを浮かべると、少女が背を向けて歩き出す。髪とスカートがまたふわりと膨らむ。
「危ない所だったな、隊長」
「ああ、色んな意味でって、こドラ……?あっおい!」
こドラは駆け出した。
心に有るのは友情である。
しかしだからこそ、彼女は駆け出したのだ。
エロリア「なによ、もう時間がっ」
緑色の髪が、靡いた黒髪の中に埋もれた。
「んっ、んん!ぷあっ」
唇を離すと、こドラは肩で息をしながら、一言だけ呟く。
「これ、お礼だから」
一瞬だけ前を向いて、すぐにまた俯き、柚葉たちの元へと引き返す。
「またね・・・!」
そうして飛行機に乗り込む彼女を追って、ジュリアたちも後を追った。
エロリア「っふふ、お礼ね」
三人の姿が見えなくなっても、少女はしばらくの間、そこに残っていた。
エロリア「またね、こドラちゃん」
そして今に至る。
「まったく、私はこドラが取られるかと思った」
「取られるって、お前の物じゃないだろうに」
「いや、こドラとこたつは私のだよ。隊長」
珍しく少しだけ湿度の高い発言をする女侍に、ジュリアは鼻白む。普段は飄々としているが、その実大きな感情を持っていることが窺がえる。
「全く、ポテチ王国恐るべし!」
そういう間にも、こドラは小さく溜息を吐いた。
「ほら、こドラ元気を出せ。また行けばいいじゃないか。な?」
ジュリアは周囲の目にも気付かない、こドラの肩を叩いた。
「そうだね……、うん。いつか、また行こうね」
少しだけ潤んだ瞳でそう言うと、こドラは静かに去って行った。
「ほんと、ポテチ王国、恐るべしだな」
しかしこドラのこのテンションは案の定長続きせず、皆がお土産のポテチを食べ切る頃には、いつものこドラに戻っていた。
他の世界の者たちも、自分たちの日常へと帰って行った。
幾らかの非日常を経験し、旅の思い出を増やして。
――お、私たち宛てに郵便が届いている。
――何だろう。
――あっポテチ王国で撮った写真だ!
――おーい三人とも、王国会議を始めるでちよー!
――今行くじゃーん!
――流石にもう次の場所とか無いと思うが。
――隊長それ、フラグだぞ。
そしてまた、いつも通りの日々が始まる。
<了>