VIPRPG×ざくざくアクターズ×ハルスベリヤ叙事詩2 もしもクロスオーバーだったら 作:泉 とも
ポテチ王国闇市。
国内における脱法的な物品や、主に盗品を扱う犯罪市場であり、観光客の私物を扱う入り口と、危険物を取り扱う奥とで別れおり、チェッチカたちが紹介された場所は、丁度その中間地点にあった。
「ここが噂のやみっち商店」
「見た感じ普通のお店ですね」
メディオラとチェッチカは、如何にもスラムと言った路地裏に佇む、小綺麗な雑貨屋の前で足を止めた。
「ごめんくださいっと」
???「うちはスマイルしか売ってないよ」
ドアを開けると、チリンチリンという鈴の音と、からかうような声がした。店内は商品で狭くなっており、何ともいえない安心感がある。
その真正面のカウンターに、一人の少女がいた。
黒いゴスロリ服に身を包んだ、小憎らしい顔をした少女が。
やみっち「やみっち商店へようこそ!観光ですか!ゆっくり見て行ってください!何かこういうのが欲しいってご相談があれば、是非承らせて頂きます!」
営業用の言葉を高いテンションで言う彼女は、外見ならメディオラと同じくらいに見えた。
「あっあの、えっと、チェッチカさん、合言葉って何でしたっけ」
「アレックスと最終戦争と9人の少女」
やみっち「なんだい、あんたらきばりの紹介?ったく、あいつのせいでうちは飯屋になりつつあるよ」
やみっち、ダークネスⅠは肩を竦めると、店の奥へと引っ込んだ。
やみっち「そっちの席に座って、お代置いといて」
チェッチカとメディオラは、顔を見合わせると、内心でカレー屋の言葉は本当だったと、ちょっとだけ興奮した。
「待ってる間に店の物でも見ましょうか」
「そうっすね」
二人はきばりから聞いた料金を席に置き、店内を物色しにかかった。
置いてある物は武器や防具、変な機械から怪しげなアイテムまで、様々。
「へえ強欲の誅、MP自動回復+15」
「こっちは投石器ですって。『ラスボスを埋め立てる際にどうぞ』」
ドワーフに岩を投げられ続け、子どもの分身にまとわりつかれ、エルフのサンダーを滝のように浴びてやられる奴がいるらしい。
「HP回復がほんのり+される外套かあ。変わっちゃいるけど、真面じゃないすか」
「ね。イイ感じのお店だし」
などと話していると、店内に良い匂いが漂ってくる。見れば調理服に着替えたやみっちが、二人分のカルボナーラを席に置く所だった。
「お待ちどうさま。やみっち特性カルボナーラだよ。うちはこれしかないから、他の注文は無しね」
深皿の中にはたっぷりのパスタと、温かみのある、しかし何の変哲もないソース。
それなのに、二人は生唾を飲んでいた。席に戻り、頂きますと言う。
本日二度目の昼食だったが、まだまだ食べられるという気持ちになっていた。
「ずずっあ、おいしい」
「むお、お、おお。うまいな」
カルボナーラを食べる二人は、カレーのときとは異なり、小さなリアクションだった。しかし、全くの無口になり、食べることだけに集中した。
否、集中ではない。極めて穏やかな忘我の中、食べるという行為に安らいでいた。
「おや、先客がいたか」
ドアが開いて、再び鈴の音がする。二人ははっと我に返ると、一度パスタを飲み込んでから、入り口のほうを振り向く。
そこには漆黒の外套に身を包んだ、小柄な淑女がいた。
「ギーさん!」
「あっど、どうも、こんちわっす!」
二人は慌てて立ち上がると、事務所の大御所に頭を下げた。
「止してくれ、今は休暇中だし出先なんだ。身バレするような真似は、控えてくれると嬉しい」
『はっはい!』
「私にもカルボナーラを一つ」
「あいよ。随分と偉くなったんだねえ」
「恥ずかしい限りだよ。スナフキンの悩みがよく分かる」
などと言いつつ、ギー・ド・カダンも席に着く。
「私のことは今は普通の人として接して欲しい。せっかくの食事が冷めてしまうよ」
『はっはい!』
二人は食事を再開したが、突如現れた人物と、この店の店主の関係が気になって、味が分からなくなりそうだった。
辛うじて美味いということだけは、消えずに済んだが。
「ほいカルボナーラ一丁」
「ありがとう。ふう、ふう、ん、おいしいよ」
チェッチカたちは自分の隣で、事務所の大先輩が同じ飯を食っているという光景に、度肝を抜かれていた。
漫画で例えるなら一般人がワンパンマンのキングや、ドラゴンボールのサタンと相席したのと同じくらいの価値がある。
「……二人はどうしてここに」
ギーは一度食事を中断し、若手二人に質問した。彼女たちは既に食べ終えて、自分が席を立つのを待っていた。
業界の礼儀は時に法律を超える。そのことに頭を痛めながら、ギーは気を回した。
「はい、私たちは食べ歩きの最中で、そこでたまたま他の店から、ここを紹介して頂きました」
「緑化委員会のカレー屋さんです」
チェッチカとメディオラは緊張しながらも、粗相がないように注意を払った。
「なるほど。五大組織の店にはもう行ったかな?」
「いえ、まだこれからです」
「そうか。この国の食事は外れがないからな。楽しむといい」
「ええまあ、予算の許す範囲ですが」
「……ふむ。そうだな。チェッチカ。ちょっとこっちへ」
「はい!? あっはい!」
ギーはチェッチカに一枚の磁気カードを渡した。
それは漆黒のカードであった。
「これで好きなだけ食べるといい。帰りには返してくれ」
「え、は、えっえ!?」
「それ、ブラックカードじゃ」
「気にするな。使い道のない金だ。むしろお前たちがどれだけ使えるか楽しみだ。そういう土産話をこれで買いたいとも言える」
「あの、ほ、本当によろしいんで」
「無論だ。折角の縁だし、ここの払いも私が持とう」
『ありがとうございます!!』
突然羽振りの良すぎる行為に、二人は完全に舞い上がっていた。もしかしたら気に入られたのだろうか。そんなことまで考えていた。
「さ、もう行くといい。食べ終わるまでもう少しかかるが、私といると肩が凝るだろう」
「あっ、いえ、それじゃあ私たち、これで失礼しますです」
「ギーさん、お土産沢山買ってきますね!」
「あっそれとカルボナーラ、ご馳走様でした」
「すごく美味しかったです」
やみっち「あいどーも」
そうしてチェッチカとメディオラは、バタバタと店を出て行った。
やみっち「……エラく出世したもんね、あんたも」
「恥ずかしい話さ。仕事仕事で、友だちもいない」
小さくため息を吐いて、ギーは食事を再開した。
やみっち「あんたがこの国を出て行って、もう何年かな」
「ダークネスは変わらないな。私はもうこんなに歳を取ったよ……」
やみっち「私をそう呼ぶのも、今じゃあんたくらいだね」
「幸い背は伸びずに済んだが、後は頑張って若作りしているよ」
回想シーン。
例の路地裏。
「逃げなきゃ、逃げなきゃ……!」
「またやられちゃうよ……!」
雨が降る中を、少女が走る。その先は行き止まりで、下卑た男たちに追い詰められ、嬲り者にされる。
それがその日の収録だった。
――お疲れー。上がっていいよー。
「はい、ありがとうございました」
私はまだ8402プロに拾われる前、どこにでもいる大部屋の子役だった。
自分がどこの誰かも分からないのに、誰かになれと言われて生きる毎日に、擦り切れて行くだけの存在。
行き場も無く、何処にも行けず、誰にもなれない。そんな人間の一人だった。
私は収録が終わって、着替えようとしたが。
「あ、あれ?」
その日は服がなくなっていた。
「あの、すいません。ここにあった服知りませんか」
「ええ? ああ、それならさっき他の子が来てたよ」
「それ私の服です。他の子が間違って着て行ったのかも」
「そうなの?後でうちに出入りしてる子の確認するからさ、それまで他の服着ててよ」
他の服なんてありはしない。撮影用の服はスタジオに返さなくてはならないし、着替えもない。何より。
自分の服、親の贈り物、そんな物はそれくらいしかなかった。
自分に全く似合わない、趣味の悪いゴスロリ服。
「お前は直ぐに見つかった。嬉しそうに見せびらかして、ほっつき回ってたな。私よりもずっと、似合ってた」
やみっち「まーね。私は闇社会のキュエーンだったからね」
「ふふ。そうだな」
私はお前に返してと、言えなかった。自分の中で、大事じゃないと分かっていたから。
回想シーン。
「それ、欲しいの?」
やみっち「えっあ、これは、これは私のだよ!私の!」
「じゃああげる」
やみっち「え?」
「私その服、好きじゃないもの。似合わないし、それに……」
「その服を着ないで逃げ出したら、どこかに消えちゃえるかも、知れないから」
私はお前に背を向けて、逃げた。
思えばあれが、私たちの始まりだったな。
やみっち「あんた、こっち来る度に昔話をするね」
「すまんな。年寄りの悪い癖だ。邪魔をした」
やみっち「ねえ。」
やみっち「今度はいつまで、いられるの」
「一週間で、昨日が初日」
やみっち「あと五日ね。だったら」
やみっちは店の奥からでっかいコーラのペットボトルを持ってきた。子供っぽいコップを二つ持って。
やみっち「続きは最後にしましょ。今はあんたの近況を聞きたいわ」
「そうか。そうしようか。お代はお前の話で」
やみっち「いいわ」
店の中には古馴染みが二人。歳の差を乗り越えて、歓談に勤しんだ。