VIPRPG×ざくざくアクターズ×ハルスベリヤ叙事詩2 もしもクロスオーバーだったら   作:泉 とも

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ゆきずりの白百合

 二日目夜、ポテチ王国ちゃんとしてるホテル。

 

 ヌーディストビーチから戻ったハグレ王国の三人は、それぞれに眠れずに悶々としていた。

 

 こドラはいち早く先に戻ったが、ジュリアたちがいないことに気が付くと、慌ててビーチへ引き返した。

 

 ジュリアと柚葉は男たちの裸踊りを見終わった後、浜辺にいた他の女性利用者たちに、コナをめっちゃかけられていた。

 

 背も高く愛嬌のある彼女たちは、同性から見て『いいな』と思われたのである。

 

 ジュリアは魔法使いの女性たちから、柚葉は戦士系の女性たちから、モテモテだった。連絡先まで貰って、こドラに声をかけられるまで、すっかり舞い上がっていた。

 

 そう、終わってみれば、結構オイシイ思いをしていたのである。

 

(なんだか自分がくだらないことをしてると、最初はすごく戸惑ったけど、こんなに言い寄られてしまうなんて。でも私は、私には)

 

 ジュリアは自分の親友と、その弟を思い浮かべて、ベッドの中でもじもじした。

 

 しかしこの出会いから、何かが始まるような気もしていた。

 

(とても真似ができない、スケールの大きな、捨て身の芸を見た。彼らは己の信心から、正に体一つで祈りを体現した。望んでいた猥褻ではなかったが、これはこれで)

 

 柚葉は昼間の男性たちを見て、神妙というものへの、見識の幅を広げていた。

 

 それはそれとして、男性たちの股座を真剣に思い出して、ちゅっと赤くなったりもした。

 

 そしてこドラは。

 

 ――どうせそっちも興味あるんでしょ?

 

「うう……」

 

 ――今晩ここにいるから、良かったら来て。でもそのときは、帰してあげないから。

 

 昼間エロリアに言われた言葉が、ずっと頭から離れなかった。

 

 メモを何度も読み返し、その度に行こうかどうか悩んでいた。

 

(こんなのどう考えたっておかしいじゃん。行っちゃダメだって)

 

 冷静に考えれば、ヌーディストビーチの常連で、初心者のフォローをするのが趣味の女などいない。

 

 どう考えても後ろにヤバい人たちがいると思うべきである。また彼女が純粋にエッチなことが好きなだけの女性だとしたら。

 

 それはそれで、ヤバい。

 

(でも、あの人、私のこと、気に入ってくれたん、だよね)

 

 悪戯っぽい、屈託のない笑みを浮かべて、裸を晒していたエロリア。企みも裏表もない感じられない、好色な瞳。

 

(この先、こドラに好きな人って、できるのかな)

 

 如何に魅力が10あろうと、それ以上魅力的な人が世の中には沢山いて、それなのに恋人が出来ずに消えていく男女が、歴史の中には幾らでもいる。

 

(女の子同士の友だちはいるけど、そういう仲の人は、たぶんできないよね)

 

 こドラはもぞもぞした。

 

 ハグレ王国の砦内で、集団生活を送っている。昼に起きて、自分の店に行き、働いて、帰って来る。

 

 当然集団生活の中で、自慰をする時間も空間もない。出先で済ますのが、暗黙の了解であった。

 

(異世界の自宅に帰ったり、人が入れない場所に行けたり、そこそこ長期間出張できる人と、うちは違うじゃん)

 

 秘密結社調べでぶっりぎりでステータスが最下位のこドラは、オナニー弱者でもあった。

 

 いい年とわがままボディをしながら、性知識が小学生並みの秘密結社のボスよりマシだが、それだけに辛いものがあった。

 

(ちょっとだけ、ううん。断るだけ、断りに行くだけ。もういないかもしれないし)

 

 こドラには予感があった。柚葉や自分がたまに大勝するときの、あの空気。アレが今、間違いなく自分に向いてきていると。

 

(行こう!)

 

 自分でも自分のことは全く信じていなかったが、彼女はエロリアのメモを見て、こっそりと部屋を出ると、目的の場所へと急いだ。

 

 夜のポテチ王国は明るかった。その辺に酔っ払いが倒れ、その懐を浮浪者が漁り、その金で酒を買っては倒れ、また別の浮浪者が懐を漁る。

 

 昼間はいなかった怪しげな客引きたちが蔓延り、同業者で激しいケンカとなっては、突然賭けが始まったりする。

 

 そういった喧噪から離れつつ、こドラはメモの場所まで走った。見知らぬ街で、一人の夜が怖かった。

 

「はあ、はあ、はあ、はあ」

 

 街の音が遠ざかると、不思議と安全になったような気がした。当然そんなことはないのだが、この日に限っては、より危険な存在が、うろつくこともなかった。

 

「はあ、はあ、はあ、あっ」

 

 こドラが見つめる先には、夜の浜辺を前に、街の灯りを背にして佇む、一人の少女がいた。エロリアだった。

 

 普段は黒を基調とした服装だが、今宵は白いワンピースと、つば広の帽子を被り、幽霊のような美しさで、夜に浮かび上がっていた。

 

エロリア「あら、本当に来てくれたの」

 

 昼間少女の臀部とその周辺を毛剃りした女は、口を押えて軽く驚いて見せた。

 

 その表情は無邪気で嬉しそうであり、息を切らせたこドラに駆け寄って来る。

 

エロリア「バカね、本気にしちゃったの」

「あ、えっと。その」

 

 そう言われて、こドラはようやく、自分がからかわれている、という可能性に思い至る。一番最初に思い付いていい事柄だった。

 

エロリア「ありがと。それで、早速行く?私は構わないけど」

「あっそ、それなんですけど!」

 

 こドラは慌てて待ったをかけた。

 

「その、私、今日のお誘い、断ろうとって思って」

エロリア「あら、私じゃご不満かしら?」

 

「ううん、そんなことない。お姉さんキレイだし、カワイイし、きっと、後悔しないと思う。でも」

 

エロリア「でも?」

 

 そこで竜人の少女は、俯いて黙ってしまった。本当は性的なことに興味があって、誘いを断りに来たというていだが、それも嘘であることを、エロリアは見抜いていた。

 

 しかし、相手の言葉を待った。

 

 目の前の少女を見ていると、自分の獣性が宥められていくような気がしていた。

 

「こドラには、やっぱりまだ早いかなって!」

 

 言葉を選んだ末に出たのは、相手を傷付けず、それでいて自分が尻込みしたことを、暗に伝えるものだった。

 

 ※たぶんこの辺でBGMに二度寝が掛かってる、

 

「私のこと、褒めてくれたり、励ましてくれたの。素直に嬉しかったけし、私もえっちなことに興味はあるけど、ごめんなさい。やっぱり、まだ」

 

エロリア「……そう。じゃあ、しょうがないわね」

 

 そう言って、エロリアはこドラに背を向けた。街のネオンの光は、夜の水平線を照らし出したりはしない。

 

 せいぜいそこに波があることを、知らせるだけの光。手が届く範囲までしか、見えない光。

 

エロリア「あーあ、フラれちゃった!」

 

エロリア「せっかく久しぶりに、こんなオメカシまでして、馬っ鹿みたい」

 

「ごめんなさない、何ていうか。折角声をかけてくれたのに」

 

エロリア「よしてよ。ナンパ失敗しただけなのに。余計カッコ悪いじゃない」

 

エロリア「でも、まあ、逃がした魚は大きかったわ」

 

 風に嬲られる黒髪が、夜の闇を歪めて浮かぶ。

手を差し伸べるように、こドラへと伸びる。

 

エロリア(不思議な子ね。今日初めて会ったのに私、本気になりかけてる。たった今フラれたのに)

 

エロリア(まるで普通の女の子みたい。きっとこの子がそうさせてるんだわ。一緒にいたら、きっと本当に、普通の女の子にされちゃうかもね)

 

 緑色の髪に、琥珀色の瞳。

 

 もしも一緒にいたら、自分が汚すのが先が、彼女に染められるのが先か。

 

エロリア(勝負にならないわね)

 

「あの」

エロリア「なあに、まだ何か御用?」

「私たち、まだ自己紹介をしてなかったなって……」

 

エロリア「ぷっ、ふっはははは!やだ何それ!」

「えっ、いや、だって」

 

エロリア「こういうのって、お互いのこと何も知らないのが醍醐味じゃない!しかも話が終わったのに、自己紹介しましょって、くっクククク、ブフ!」

 

「そ、そうなの。こドラそういうの、全然わかんなくて、ごめんね」

 

エロリア「いーわ。完全に私の負け。私はエロリア。冒険者で、アンデッドナイ軍所属の闇勇者。それが表の顔」

 

「表の顔って、じゃあ裏の顔は」

エロリア「今見てるじゃない」

 

 こドラはその意味をまだ理解できなくて、少しの間、ぽかんとしていた。

 

エロリア「で?あなたは、子猫ちゃん」

 

「あ、えっと、こたつドラゴンです。私は落ちこぼれだから、人間みたいな名前は無くて。皆からはこドラって呼ばれてて」

 

「ハグレ王国から来ました!」

 

 自分のことは自信無げに、しかし王国の部分だけは、こドラは笑顔で元気よく言った。

 

エロリア「そう。こドラちゃんって言うのね。ねえ、私の名前、呼んでみてよ」

 

「えっその、エロ」

 

エロリア「そこで切らないの、ちょっとは気にしてるんだから!」

「わあ、ごめんなさない!えと、エロリア、さん」

 

 こドラはエロリアのあだ名を考えた、エロちんだと流石にあんまりだし、エロっちでも同様だ。エロで区切るの止したほうが良いだろう。

 

 しかしリアで始めたら、それはそれでエロを気にしたことになる。

 

エロリア「さんは要らないわ。呼び捨てで」

「じゃ、じゃあ、エロリアちゃん」

 

エロリア「よろしい。不思議ね。もうこれっきりなのに、その名前を覚えようなんて」

 

「そうかな。そっか。お別れ、なんだね」

 

 こドラは寂しそうな目で、白い少女を見た。この離別を、不当に思っているのだ。

 

エロリア「……しょうがないわね。朝までよ」

「え?」

 

 そう言ってエロリアはこドラの傍に行くと、そっと頬に口付けした。

 

エロリア「朝までは、返さないでいてあげる」

 

 そうして二人は、眠らない街と寝静まる海の狭間を、揺蕩うように時を過ごした。

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