犬を飼いたい支配くんと飼われたい悟ちゃん   作:やるまる

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初投稿です。
マキマTS成り代わりとTS五条悟でわちゃっとする序盤です。

※キャラ崩壊注意



限界ブラック企業犬飼いたい株式会社御中

五条家専属拷問官に就職しました

 

 

 

五条家で任された仕事は至極簡単である。

捕縛された刺客に『質問』をする、それだけだ。

『質問』された刺客は洗いざらい、依頼主から仲間の有無、私物の呪具の場所から今日食べた朝食のメニューまで、聞いたことや聞いてもいないことをべらべらと人生の不順な羅列を教えてくれる。

 

───今朝はトーストと目玉焼き、素晴らしい。歯磨き粉が無くなった、はい。今度会う友人の結婚式に着る服…お祝い事ですね、トップスは明るい色で。この前犯した女の連絡先、ふむふむ。昔飼っていたの犬の名前……ポチですか、いいですね。クレーンゲームの景品に好きなゲームのやつが、はい。この依頼をこなした後の旅行先は……エジプト?先週テレビで見たんですか。うちはテレビがないですからねえ。気に入った目玉を収集、はあ。女子どもの悲鳴の録音が趣味、はいはい。自慰の方法はさすがに遠慮します。僕ですか?犬派?はい、そうですね。猫派を全員殺す。過激ですね。僕はきのこ派ならまあ、いえいえ。

 

必要そうなことだけをサラサラと書きつける。どうでもいい話が多いが、刺客の大半はこの後処理されてしまうから、僕にとっては機会の少ない会話をついつい続けてしまう。悪癖だとはわかっているし、知り合いになった人間が直後に死ぬのはとても気分のいいものではない。やめた方がいいのはわかっているし、実際気が滅入っている。いずれやらなくなるとしても、それでも無駄な時間とは思わなかった。僕はこの世界の人をあまりに知らなすぎたから。

 

拷問部屋は、本家から少し離れた端、あまり人気のない長屋の隅の角部屋にある。

周囲はなんだか薄暗いし、下水が近くて変な臭いもする。

中に入ると妙に天井が低くて、壁には前任者の残した見るだけで気分が悪くなる血のような痕跡と、僕が使用することが一生無さそうな、挟んだり穴をあけたり切ったりする器具がずらりと威圧的に並んでいる。壁だけ見ると不衛生極まりないが、不必要な怪我や感染症予防のためか、一転して床はしっかりと掃除され、汚れを水で流せるように水路のような溝と排水溝の穴が見える。僕が来てからそのままだから、たぶん定期的に掃除していたのだろう。肉片なんかが残っていたら夏に虫が湧いて地獄を見るんだろうなあ。じゃあ壁も掃除すればいいのに。僕がうっかりして汚すようなことをしなくても定期的に掃除をしているらしいから案外、拷問部屋や死体安置所の方が普段の生活スペースよりも清潔だったりして。壁以外。

そんなくだらないことを考えながら、刺客から得た重要事項だけを書いた紙を、ろくに会話もしたことが無い五条家の人に渡す。

刺客の人はもう処理されてしまった。たまに術式に生贄が必要な時はそちらに連れていかれることもあるのだが、今回はそうではなかったようだ。

 

こういう仕事をしているんだし、知り合いの増減はいつものことながら、ほとほと気が滅入る。

つくづく、10かそこらの子どもにさせることではないと思う。

中身は大人だが、それでもこういう『必要だが精神的に重量級の仕事』はあまり向いていない。当主である祖父の斡旋してきた仕事とはいえ、もっと他になかったのか。

子どもにそんな仕事をさせる悪逆非道の五条家の人間は、僕が子どもということを認識していない。白亜家から派遣されてきた拷問役とだけ認識し、それ以上の情報は顔や背丈、術式や本名に至るまで何一つ知らず、これからも知ることは無い。

分家の紹介とはいえ、こんな怪しい人物を本家に潜り込ませる当主は辣腕というより悪辣で、こちらも認識阻害の術を操る老害であるから、五条家というのも一枚岩ではないと実感する。穴が多すぎる。

御三家ってみんなこんなチョロいのか?術式即看破の六眼持ちの次期当主がいなければ、御三家なんて手に取るように……例えば、禪院家あたりならあっさり掌握できたりして?などという驕りは、僕の現実感のない強い術式のせいなのか、肉体(マキマ)()を侵食しているからなのか。

ゾッとしない話だが、もしそうなら、やはり急いだほうがいいだろう。

魔眼封じ、あるいはその対抗策を。

 

 

 


 

 

 

一仕事を終えた僕は、本棚から目立たない程度に引っこ抜いてきた家系図や術式解説本の積まれた机に突っ伏す。

拷問部屋の隣、という陰気極まりない上少し臭い、家賃が低そうな部屋で寝起きしているが、本当にもっとまともな仕事はなかったのか。位置関係上、気分転換の散歩もままならない。なんせ本家の屋敷には例の六眼がいるし。外出もおちおちできやしない。部屋の四隅には簡易的な帳の札も張って、ある程度の対策にはなるだろうが心もとない。

 

「……あ゛〜、いぬ〜、犬が飼いた〜い…」

 

生まれてから今までと、これからの苦労全てに対しての諦観、あと精神衛生上劣悪すぎる労働環境への苛立ちからこぼれ出た、些細な願望だった。

日常で誰しもが口にする機会のある、何気ない一言。

理不尽な現実から動物に癒しを求める、駄々をこねるような子どものようなそれ。

鬱屈とした仕事から解放された直後の気の緩み。他人の未来とか、運命とか…尊厳なんかを狂わせるものだとは全く思っていない、素の自分から発せられた、無責任な言葉。

 

────そんな言葉一つで簡単に呪われてしまうのだ、この世界の人間というものは。

 

 

 

「わんっ」

 

 

 

声がした方向に振り返ると、白髪で青い目(・・・・・・)のかわいらしい子どもがこちらを見ていた。突っ伏して気が付かなかった、音を立てないように開かれた襖。

キラキラと輝く瞳はどことなく虚ろで、首を傾げながら舌を出している。

い、イッヌ…?犬のつもり?

 

「…………えぇ〜」

 

状況を理解するのにかかった時間は1分。

立ち上がってマジマジと、己の術式にまんまとかかってしまった被害者を眺めること3分。

この先に襲いくる面倒ごとの全てに対して現実逃避をすること5分。

 

────や〜〜〜ってしまった。

 

畜生同然の己の所業に頭を抱える。

どれだけ細心の注意を払い、気をつけていようとミスは起こる。それにしたって致命的すぎるミスだが、今はなんとかこの失態を挽回しなければいけない。

 

子どもは何の言葉も発さず────仮に、仮に術式がマジ掛かりしているならば、忠犬よろしく主人の命令を我慢強く待っているのだろう────期待するような爛々とした目つきで、まるで遊んで欲しくて尻尾を振る犬のように此方の様子を伺っている。

 

あー、もう仕方がない、なんでもいいから何か言うしかあるまい。

僕は生まれてこの方へばりついて離れない薄ら笑いのまま、感情としては眉間に大きな皺を寄せながら、渋々と口を開いた。

 

「…こんにちは、五条悟さま」

 

「わん!」

 

いいお返事をしながら、五条悟はしゃがみ込んだ、ように見えた。

 

「えっ」

 

一瞬の困惑の後、胃がひっくり返りそうな光景に仰天する。

────現在世話になっている五条の家に生まれた至宝、五条悟その人が四つん這いになっている。

正しくは犬のおすわり。どっちもダメだ。

 

「だ、だめだめだめ、だめです四つん這いは」

 

こんなところを家の人間に見つかったら問答無用でズタズタにされる。殺されるだけでは済まない、ありとあらゆる苦痛を受けるだろう。

────貴様何をしている!違うんです〜この子が勝手に〜。ええい悟様に何をした、ものどもであえであえ〜。脳内再生余裕。

怒り心頭の成人した術師複数人相手ではおそらく部が悪い。激怒した人間には術が効きづらいし、1人に術をかけた後他の人間が対策する等で即死エンドまっしぐらだ。支配ってそんな痛み止めみたいな即効じゃないから。たぶん五条悟の場合六眼とかが相性が良い(悪い)だけだから。

 

もういっそ逃げ、逃げ…いや────。流石に、流石にぃ………元に戻すか。

『責任』の二文字になんとか己を奮い立て、覚悟を決める。

 

「────立ちましょう!」

 

僕が五条悟の目を見て(・・・・)指示を出すと、ビクリと反応した五条悟はすぐさま直立二足歩行形態に戻り、これでいいか?とでも言うように小首を傾げながらこちらをまっすぐ見ている。

 

「はい、よくできました。えらいですよ〜!さすが人間国宝!」

 

「ウ!ぁあ〜…」

 

ヨシヨシと、自分とほぼ同じ位置にある頭を撫でる。立ててえらい!ガンダムと同じくらいえらい!

五条悟は抵抗もせずにこちらのナデを受け入れている。顔がフニャ、と緩んでいてまあ愛らしい。

 

「ふァ〜」

 

1ナデごとに1フニャとしていて、そのうち溶けるんじゃないかと心配になる。

短く白い毛髪は見た目よりもさらさらでふわふわとしている。さらふわ。丸くて白くてふわふわの、まるで…。

チワワだ。ああ、これがチワワならなあ…。

遠い目をしつつ、思ったより撫で心地が良くて名残惜しいふわふわから手を離し、次の命令を下す。

 

「はい、じゃあ人の言葉も思い出してください!今すぐに!」

 

おっと。うっかり大声になってしまった。気をつけなければ。犬は大きい声が苦手な仔もいるからね。

 

「ウ〜…ゥ、うん。これでいい?俺、えらい?」

 

考えるようにぎゅうと目を瞑ったかと思うと、こちらを見てすぐさま人の言葉を発するニコニコスマイルの五条悟。とてもかしこい、さながらボーダーコリーちゃん!

 

「はぁあ〜、よかったぁ…」

 

先ほど失った言葉をすぐに取り戻せたようで、思わず落とした吐息に安堵が満ちる。

よかった。これで2度と喋れなくなりました〜って場合、周りの認識との整合性を図るために一生駆けずり回ることになっただろう。

ていうかその場合は高専に入学するどころじゃない。原作ルートが一切合切全部詰む。あと多分日本の将来も詰む。原作ではすでに詰んでいるからそれはまあいいか。

しかし、仮にどれだけイカれた状態で入学しようが世紀の天才育児マン夏油傑にかかれば強靭、無敵、最強の3拍子揃った原作五条悟(教師の姿)に育成可能なんじゃないかな。どうかな。たまごっちとかやらせたら初回でまめっち作れそうじゃないか?夏油傑。犬ルートでも案外どうにかできるのでは。

 

まあそんな事はさておいて、五条悟の心身に障害が残りそうな状態異常(犬化)は無くなって一安心である。あんまり何回も掛けすぎると精神に良くないから、シンプルに2回でキメれたのはよかった。

 

「……ン〜、えらい〜?」

 

1人で回想に入っていた僕は、不満そうな目で見ている五条悟(犬の姿)に気が付かなかった。

頭を僕の肩ぐりぐりと押し付けてくる姿は、テレビに集中している飼い主にナデを乞う犬のそれ。憐れかわいい。

いけないいけない。ほとんど人間に戻ったのでもう安心していたが、なつき度リセットしなければいけないのを忘れていた。僕は飼い主じゃないよ~。なんだこの発言怖いな。

はいはい、と誤魔化すように無理矢理笑顔を浮かべた僕は、報酬のようにナデナデを過剰に与える。

撫で納めだし、もうちょっと撫でておきたい。離れがたい魅力的なフワフワだった。猛烈に犬飼いたい。

 

「えらいえらいえらいこの世の何より、天地万象よりもえらい!二足で立てて言葉も喋れる賢さ、国の重要文化財待ったなしですヨシヨシ」

 

「っ、ンふ〜」

 

大層可愛らしいご満悦な表情をしているが、元凶の手に撫でられて喜ばないでほしい。なけなしの良心が痛む。

 

「ンふ、ふふ〜……ふあっ。俺、さとる!ご主人はだれ?名前は?」

 

しまった正気に戻ったか。

 

「今のことは全て忘れて自室に戻ってください、あなたは人間です。さんはい」

 

パチンと手を叩く。

問答無用、2度と僕を視界に入れないで生活してくれ。

 

「っ!」

 

柏手の音と衝撃にビクリと震えた後、五条悟は虚ろな顔で踵を返し去っていった。

 

ふう〜危なかった。

最近仕事以外で言葉を発することがなかったとはいえ、うっかり漏らした限界独身サラリーマンの如き独り言にも術式が発動するとは。

六眼とは頭の後ろからでも目を見れるのだなあ、恐ろしい。

 

このまま対策もなしに五条の家に世話になる訳にもいかなくなったが、行動範囲を把握する程度であの六眼の射程範囲から逃れられるだろうか。それに、まだこの家の書庫に用があるのにどうしたものか。

 

「……もう会わないよう祈るしかないか」

 

そう現実逃避をしながら、布団にもぐってそのまま寝た。

 

 


身の上話

 

 

五条の術式は無下限呪術だが、その術式の深奥は六眼を持ってる者でしか発揮できない。

術式の効果だけではまともに術の発動すらできない五条家の人間は、稀に生まれる六眼だけではない、別の力を求めた。

すなわち、眼術と呼ばれるものである。

 

眼術は俗に魔眼とも呼ばれ、これまた術式の有無により効果にもバラつきがある不安定な代物だが、六眼の『継ぎ』も兼ねている五条の血は魔眼と親和性が高かった。

その五条の分家やらが、ほとんど一代限りと思われる魔眼の血を入れて更に分かれ、係累として名を連ねているものの一つが僕の家らしい。

蛇目の紋様を継ぐ狗巻家のように、相続する家に大小様々な厄介ごと、目を開くだけで起こる超常現象に悩まされ、家ごと非術師に落堕することが後を経たなくなったとかなんとか。古臭い草書体で「嘆かわしい」みたいに書いているが、当然の帰結だと思う。六眼が大して身内に害がないだけでふんぞり返っているが、主に被害を受ける婚家の方が嫌がるに決まっている。縁談が減って継ぐのが不可能になった家もごろごろあるんだろうなあ。当たり前だわ。

 

魔眼には色々ある。

石化だの魅了だの、メジャーなやつは名前だけで周辺の被害を察してしまいご愁傷様なのだが、もちろん絶えて久しい伝説上の存在だ。

僕の家は催眠をかける魔眼だったらしいのだが、この体の元の持ち主が発狂し、前世の僕が出てきた時から、もう僕は僕という災厄を知っていた。

 

 

────支配の悪魔、マキマ。

 

 

マキマと呼ばれる、黙示録の四騎士の名を冠する悪魔が鏡の向こうにいた。ただし男児。

 

赤い前髪をナユタっぽく長く伸ばし、できるだけ他人から目が見えないようにと悪足掻きをしている陰気な見た目の10歳児が僕である。

毎日顔洗うたびに顔だけは最高なのに鬱になりそうだ。

え?魔眼は鏡を見たらダメのセオリー?自己暗示は言葉がセットで、鏡を見ながらお前は誰だと繰り返すやつが有名だが、自我崩壊したら被害想定規模デカすぎるし絶対にやらないだろう。

 

今世の僕が発狂後は、同じく発狂していた被害者(母親)をなんやかんやとした後、スルッと五条家に入り込み現状把握のため資料漁りの日々を送っていた。

家のジジイが眼術対抗術を当然のように持っていたので支配が効かなかったのが痛恨の極みだが、魔眼やら術式について知りたいと言うと嬉々として五条家へ潜り込む算段を整えられてしまった。しかしこいつはいつか殺す。

父親は知らない。任務先で死んだらしい。

身の上話以上!

 

 

 

…ところで、漫画の五条悟って男じゃなかったっけ。女の子に見えたんだけど。そのくらいかわいいってだけ?そっか~。

 

 

 


二度見は運命

 

 

「わんわん!」

 

「ぅ〜わ」

 

バンッという音と共に襖が開け放った美少女の開口一番がこれである。

ドン引きだ。自分自身に。そしてこの世のすべてに。

 

 

+++

 

 

「あ〜、ん〜んんん。なんだこれは」

 

「ご主人、手が止まってる」

 

「あ〜はいはいヨシヨシ」

 

混乱の極みの中、求められるがままに五条悟のフワフワ頭を撫でている。

なんだこれは。

支配が解けてない?しかし人間に戻れとは言った。犬ではないのにナデを求めるとはこれ如何に。

重ねがけは対象の許容量によって精神が不安定になる(例:発狂した母親)ため、あまり多用しないようにしている。この状態で無理に命令を重ねるより、先に掛かっているやつを解かなければいけない。

しかし、自意識とかけ離れた精神は周囲の反応や指摘であっさり解けるものなんだが、意識して掛けたわけでもない「犬になあれ」という術が解けないのは何故(なにゆえ)

 

「かわいいなあ〜。悟さまかわいいな〜」

 

「うふふ」

 

「素直な良い子だなあ〜かわいいかわいい」

 

ああ~!触れ合いに飢えた心が満たされちゃう。

アニマルセラピーすごい。猿もまたアニマルってことだし、猿セラピーしろ夏油傑。この五条悟は犬だけど。

 

【急募】犬を飼わないと社会的に死んだ後支配が解けた五条悟に殺されてしまう!【タスケテ】

犬、犬飼いたいよぉ~。安定した職と余裕のある貯金とペット可の住居……一つもない。助けてくれ〜犬飼いたいよお〜。

 

目ん玉からドバドバと苦労が煮詰まったヘドロのような涙を流しながら犬、…じゃない。五条悟のまるまるふわふわとした頭を撫でていると、

 

「なんで泣いてるの?」

 

等と言って目元をぺろりと舐めてくる五条悟。

 

うううっ、助けてくれ〜!

心が、心が折れそうだよ〜!

 

叫びだし暴れ回りたい衝動と、一言も漏らせない泣き言を唇を噛み締めて堪える。助けるって何からだよ。この世全部だよ。

己の言葉の全てが六眼の子どもには酷である。暗い感情を乗せた言葉は特に。

 

 

ビチャビチャの目を袖で拭い、母親と思われる女性の、呆けたように口を開けた顔を思い出す。

赤ん坊の感情任せの支配を浴びせられ続けた末路。廃人になった女性が、食事も排泄も他人に世話される(ザマ)を思い出す。

その人の記憶を全て消して、赤子からまた精神を、人生をやり直させたことを、思い出す。

もはや母親ではない赤の他人、1人の少女になった女性が、遠くで明るく笑う声を思い出す。

 

この5年、心をどこかに落ち着ける事なくがむしゃらに己を無害化する方法を探してきた。

母親に自分の世話を命じていた祖父に頭を下げて、術式のコントロールを身につけた。

人と触れ合うことは相手を壊す事だ。

目が合うことさえ相手の害になる。

目から人の精神に無遠慮に触れて、吐いた言葉で侵蝕する。なんて、人権無視も甚だしい。

だから人に関わるべきではない。

喋ってはいけない。見てはいけない。触ってはいけない。

見れば見ただけ、喋れば喋るだけ、相手の心を侵してしまうから。

 

 

「泣き虫?」

 

 

────でも、この手はあたたかいなあ。

 

 

「…あったかいなあ」

 

「え〜?なんでえ」

 

後から後から溢れる涙に、疑問の声を上げて目元にちゅうと吸いつくいぬ…じゃない、五条悟。

 

「あったかい」

 

高い体温をギュウと抱きしめる。

 

駄目だ。

無理矢理子どもにやらせている行為に、救いなんか感じちゃいけない。

これが自分の願望じゃなければなんだ。これは身勝手なエゴで、この子は僕になんて触れたくもないはずだ。

さっさと手を離して、前みたいに忘れさせよう。

この子の心が壊れないよう、優しい言葉で。自分のお家に帰さないと。この子にはお父さんとお母さんがいるんだから。

 

────でも、

 

────でも、こんなに寒いのに、あたたかいのに。手を離していいのかな。

 

「あはは」

 

泣き続ける僕の何が面白いのか、声をあげて笑った子どもは、僕の首に腕を巻きつける。

 

────ああ、あたたかい。

 

心から湧き上がってくる安堵と歓喜を、遠いところの僕自身が非難する。

この子を僕のために使っちゃいけない。

早く手を離さなきゃ。

 

理性とは裏腹に、手はどうしたって離れてはくれない。

脳にチラつく女性の顔が笑っているような気がして、優しい幻覚を見る脳みそを理性が嘲笑う。

 

そんなわけがないじゃないか。

この子も壊して終わってしまう。

 

「なでて!」

 

他意が無さそうな、溌溂に笑う顔。

子どもの無邪気な要望が、そのまま己の願望の反映だと思うと、あまりに醜悪な図式に吐き気がする。

 

「…うん」

 

頬に触れる髪がくすぐったくて、うっかり笑ってしまった自分が嫌だ。

乞われるままに撫でた髪が柔らかくて嫌だ。

背中にしがみつく細い腕が嫌だ。

もしかして、と期待する自分が心底嫌だ。

 

僕の手を少しでも嫌がってくれれば、不快そうに顔を顰めてくれれば、「ああやっぱり」って、すぐに離れられるのに。

────勘違いはいつものことだけど。

言い訳なんかしないで早く、手を離せば、「ばいばい」「さよなら」って言って、あの誰もいない家に帰れば、もう誰も壊さないで済むっていうのに。

────それでも、手を伸ばすのをやめられない。

 

「もっとなでて〜」

 

ああ、かわいそうに。

僕を見つけなければよかったのにね。

寒いのは寂しいんだとわかる前に離せていたら、寒いままでいれたのに。

あったかいんだ。もう寂しくなくていいんだ。ごめんね、ごめんね。君の人生に関わってしまってごめんね。手を離せなくて、だって寒いから、ひとりは寂しいから。ごめんね。

きっと、君は会いたくなかったね。こんな化け物に。

 

心の中で何度も謝りながら、あたたかくて柔らかい子どもを撫でる。

これで終わり、これっきりにする。

そう誤魔化して、手を離す振りもできなくなったら、いよいよだ。

僕にだけ都合のいい一人芝居にいい加減嫌気が差して、自己嫌悪が頂点に達したらもう、死ぬしかないだろう。自分で自分が気持ち悪くてしょうがない。

 

 

────その時、無意識に、手が懐から鏡を取り出す。

新しい被害者が出そうな時にはそうすると、自分で決めていたから。

僕は前もって決めていた通りに鏡を見て、あらかじめ決めていた言葉を唱える。

 

「忘れろ」

 

腕の中の体が跳ねる。

僕ごと術式を受けたのだろう、酷いことにならければいい。心の底からそう思う。

次はこんなのに関わらないで欲しい。

 

そう心から願っているのに、温もりが離れることがどうしたって寂しかった。

これで効かなかったら、もう止められない。

支配の悪魔は欲しいものを我慢しないから。

前世の僕の自制がかき消えてしまうくらい、この世界は寂しくってしょうがない。

 

ぁあ、誰か、どうか。抱きしめて。

 

 

────だから、さっさと独りで死ねばよかったんだ。

 

 

 

助けて、チェンソーマン。

 

 

 

 


────────────────────

────────────

────

 

………なーんてこともあったが、直後に目を覚ました五条悟にビンタされてすぐに全部思い出してしまった。

演劇じみた壮大な自殺はものの10分もかからず幕を下ろした。私的で詩的な独り言ごと、今度こそ首吊って死のうかと思った。

 

僕からさらに前世の人格に丸ごと全部押し付けたかったんだが、悲しいことに僕より()はないらしい。

もしかしたらマキマ人格が出てきたかもしれなかった、と冷や汗をかいたが、そんなことも忘れるくらいに僕は精神的に危ない位置にいるんだろう。ポエトリーリーディングするくらいだし。

男性体だからマキマにはならないしなれない、ということかもしれないが、どっちにしろ将来の僕が狂って似たような破滅思考にならないという保証もない。

全部置いていった今世()が憎らしいが、簡単で楽な自殺はこの世にないし、洗脳による他殺も難しいことはすでにわかっていたから、精神的に楽になる方法はもう無くなってしまった。洗脳で自殺はできない。自分に対しても然りというわけだ。

 

そういうもんだろう、人生。

 

地道な努力でコツコツやっていくしか道はないのだ。

 

 

 


抜けた隙間

 

 

ハッ、と意識が戻った瞬間、五条悟は自室にいた。

 

────おかしい。

 

自分は間違いなく、本邸から離れた使用人たちの使う長屋にいたはずだ。

 

────ここに戻るまでの、記憶が無い。

 

これは由々しき事態である。

 

誰が差し向けたのかはわからないが、本家の結界内部に出所の知れない人間が潜んでいる。

家の人間は何も言ってはこないし、怪我人や使用人が減ったという話は無いが、確実に内部に潜られている。

出入りする人間もいないではない五条本家で、知らない呪力というのは珍しくはない。珍しくないが、ずっと頭の裏にチリチリとした焦燥感だけが、『何かがいる』ことを確信させた。

得体のしれない相手に対する興味本位と、まあ、いうなれば遊びだ。

代り映えのしない日常に芽生えた好奇心と、コバエが視界にちらつくような不快感。その二つの感情でもって、侵入者を見物しに行った結果がこれだ。

 

誰も自分には攻撃できないという慢心は常にある。それは慢心ではなく事実だから、暗殺者や呪詛師を歯牙にも懸けず潰してきた。

驕りではないと思った。群がる術師を十把一絡げに扱ってきた経験はその考えをさらに補強する。

その自分が、記憶も、外傷さえなく自室に返された。脳や認識を操る術師だろうか。敵対意思が見られないのも、見下されているようで腹立たしい。

 

焦燥感の正体が、危機感だったと知るには十分だった。

 

────次は殺す気で行く。

 

五条悟はそう決心した。

長屋の隅が消し飛んでも誰も文句は言うまい。なんせ、自分に危機感を与えるような輩なのだ。

 

そう確信して日を改めた五条悟は、元気よく犬のお返事をすることになるのだった。

 

 

 

 


没おまけ

 

 

バチンッ

 

「ご主人起きて~」

 

視界に広がる青と白。

脳がひっくり返るような衝撃と、徐々に熱くなっていく右頬。

呑気な声を発する顔は眉根を寄せていて、心配しているようにも見えるが、羽虫の息の根が止まってなくて不思議そうな顔にも見える。

 

………え?ビンタされた?

 

「起きたあ!」

 

あっかるい声に術式の失敗を察するが、それはそうとなんでビンタを。

 

「……さ、さとブッ」

 

と、突進からのベアハッグ!?

すわ、トドメか!?

 

攻撃意図を感じ取った僕は瞬時に迎撃態勢へと移行する。このままではろっ骨を折られてミンチの出来上がりだ。

 

────ならばッ!

 

脇から腕を通し、腰を掴んでからのブリッジ姿勢、そのまま勢いを付け────

 

「えっ」

 

────決まった!ノーザンライト・スープレックスッ!!

 

いや、高度が足りないか!?

 

「むうっ」

 

あ、普通に両手ついてるぅ………。

 

「………あの、ちょっとタンマ、」

 

「遊ぶなら言って!」

 

「いや、もう逃げ────」

 

ヤバい、こいつは殺意が無くても人を殺せる…うわああああ!!!!

 

 




あとがき

ハーメルンの機能を使うのは初めてなので、読みづらかった部分があればコメントで教えてほしいです。できることが…できることが多すぎる!
Pixivの方では水平線≪hr≫をページ送り[newpage]で書いています。なのでちょいちょい変な読み心地になってるかもしれません。
手探りです。



登場人物

主人公
白亜 僧祇(はくあ そうぎ)
ナユタが単位の名前だからそこから。
折伏(しゃくぶく)術式(今考えた催眠とかする家の相伝術式)と支配の魔眼が相乗効果Best Matchして支配の悪魔マキマTS成り代わりになった可哀想な人。前世の享年20かそこらだが、目覚めてからのヘビーな5年と肉体年齢に寄った精神から人との触れ合いや動物による癒しを欲している。マキマができることなら何でもできるし漫画世界在住の2次元住人は全員支配下におけるが、仮にいたらデンジとポチタは無理。
五条家の人間には仕事を請け負う時以外は会話は最低限の思考誘導のみで済ませ、違和感を感じさせず記憶もさせないようにしている。
母親がベイビーの頃から散々無差別に放たれる魔眼を受けており、主人公が5歳ごろに術式が目覚めて重なり積もった幼児による矛盾した命令に発狂してしまう。それを見た今世主人公が「自分は存在してはいけないものだ」と鏡を見て精神的自死を選んだが前世の方が起きてしまい皺寄せ全部きて絶望中。
助けてチェンソーマン!

五条悟♀
主人公と同い年。
家に変なやついるから見に行っただけなのに犬にされた可哀想な女児。人格は原作から変わってない問題児。
自室に帰されてからは元の人間の状態に戻っている。
犬になってる時の記憶は無いが、犬は全部覚えてる。犬なので撫でられるのと遊ぶのが好き。
目を見て発動する魔眼と六眼の相性が最悪だったため最大効果で術式を受けた。この程度で発狂するような殊勝な脳なら最強になれないからSAN値は♾️に設定している。
実はガンガン無茶苦茶で非道な命令しても壊れないけど、精神惰弱(常人)な主人公のSAN値の方が削れる。SAN値0になったら別世界からチェンソーマンを召喚するために主人公が地獄を作る。

主人公の祖父
魔眼を受け継いだ孫に丁度いい傀儡をあげようと思って母親に何も説明せず世話を任せた呪術師の鑑で人間の屑。
手持ちの傀儡が結構いる。催眠特化の家系なので対抗術ももちろん持ってるため、主人公に操られる事はない。
五条の方が本家だし古い文献もあるよと(そそのか)して術式の封印を目指す孫を都合のいいポスト(拷問官)に送り出した。無下限術式六眼持ちを操れたらいいな〜と思っているが無理ならさっさと連れ戻す予定。上層部の裏担当。
孫から殺意を持たれていることを知っている。
孫のことは可愛がっているつもり。

主人公の母親
婚家当主の決定を違和感もなく受け入れたが5年で発狂。
今は第二の人生を送っている。子どもが好き。主人公(息子)のことは知らないし見たこともない。


チェンソーマン(黒)
忙しいから来ない。出したら話が終わってしまう。


追記 アンケートの項目たくさんあってテンション上がってしまいました。できたらご回答お願いします!

※原作ネタバレあります!この作品で将来的に登場して欲しいチェンソーマンのキャラクターは?

  • デンジ
  • ポチタ
  • コベニ
  • 岸辺隊長
  • トマトの悪魔
  • ブドウの悪魔
  • パワー
  • 天使
  • サメ
  • ビーム
  • 銃の悪魔(早川アキ形態)
  • 銃の悪魔(本体)
  • レゼ
  • 台風の悪魔
  • 公安退魔2課の中村
  • コベニの車
  • 吉田ヒロフミ
  • 地獄の悪魔
  • 闇の悪魔
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