出身はラブコメ大学イチャイチャ学部で純愛専攻ですが、殺伐回です。どうして?
軽度の暴力表現注意
その日は騒がしかった。
護衛に数人を引き連れた悟が祓除に行ったその帰還後の会話で、僕は事態を知った。
「悟っ!!」
部屋の中や外にいた数人の護衛を術で無理やり下がらせ、襖を開けた。
「ご主人…っ」
「起きなくて良いから!」
悟はあちこち包帯をしていて、特に顔の大きな絆創膏が目立っていた。
悟は僕が来て驚いたのか、嬉しそうな声を上げて布団から起きあがろうとする。僕はぎょっとして声で静止し、すぐに布団に駆け寄る。
護衛に付いていた人間が呪詛師とグルだったらしい。呪霊を祓い悟が術を解いたタイミングで襲い掛かられたという。
悟が怪我をしたと聞いた後、治療が終わるまで気が気ではなかった。本当は運び込まれてすぐに駆けつけたかったが、またうっかりで術を使ってしまう可能性が無ければ、他の有象無象など屋敷の外に放り出していただろう。
「ああ、痛くない?痛いよね…?」
傷が無いか恐る恐る確認しながら、無傷な方の手に触れる。いつもよりも冷えている手のひらが、ぎゅうと僕の手を握る。
「こんなの痛くない!」
悟は大きな声で無痛を主張するが、包帯やガーゼに
強がりの言葉が余計に哀愁を誘う。
治療痕のある頭には触れるに触れられず、握っている手に頬を寄せる。
「う、こんなことなら着いていけば…うあ、こんな、」
苦渋に満ちた声が腹の奥底から出てくるようだった。
「痛くないよ!」
必死に否定する声は親に見捨てられない様に縋る子のようで、大丈夫だと声をかけてやりたいのに、傍にいて助けてやれなかった後悔が喉を引きつらせる。
まだ10歳、まだほんの10歳なのに、こんなことをする人間がいるなんて信じられない。許せない。
「ほら、ばあやが包帯巻きすぎなの!」
「動かなくていいから!じっとしてて、お願いだから…」
腕を上げて無事をアピールしようとする悟の肩をやんわり押し留めてそのまま寝かせる。
「一番ひどいのはお腹の怪我?殴られたって…」
「顔と腕は擦り傷だけだよ!すぐに反撃したもん俺!弱くないもん!」
布団で片側は見えないが、腹を攻撃された後派手に吹き飛ばされて細かい傷を負ったらしい。
次期当主としてあらゆる訓練を受けてきた自負からか、今回の負傷は思いがけない事だったのだろう。快調を示そうとする悟に、怪我の予後が悪くなってはいけないと言い聞かせる。
「落ち着いて、悟。悟は弱くないし、裏切って不意打ちしたやつが全部悪いよ。怪我に響くと良くないから、静かに、じっとしてよう?」
「……う、おれ」
「大丈夫、悟のこと嫌いになんてならない。無理に動いて怪我が酷くなったらそっちの方が怒る」
「う、ん…」
「いい子」
ようやく落ち着いた様子の悟の、包帯が巻かれていない頭の部分をそっと撫でる。
「んん~」
ふにゃ、と悟の顔が安心したように緩む。
無事な方の手で頭を撫でている手に触れ、「ふへへ」と柔らかく笑う顔に、痛々しい大きな絆創膏が張り付いている。
常日頃からこんな脅威に晒されている悟の無防備な様子に鼻がツンと痛む。
こんな、こんなことは。許しておけない。
現場にいなかったこと、人間として信頼されていないこと、怪我を治すこともできない無意味な術式、全てが腹立たしい。素の自分のままで関われない今の状況が心底歯痒い。
無能な自分への怒り、怪我をさせた人間への憎しみ、悟があっさりと死んでしまったかもしれない可能性への恐怖が頭の中を占める。
怪我に触れないように悟の頭を抱え込む。ボロボロと勝手に流れる涙をそのままに、外で聞こえる追討の計画に耳を側立てる。
────絶対に殺す。
「…んむ、また泣き虫?」
頬に水滴が落ちたのか、悟がペロリと舐め取っている。
「うん。悟に怪我させた奴、ただじゃ置かないから」
「ええ〜俺自分で仕返しできるよ!」
「僕が許せない。悟は怪我してるから、いい子で待っててね」
笑ってから、額に口付けを落とし体を起こす。悟は少しびっくりしたような顔をして、へにゃ、と愁眉を寄せた。
「……ああ、そうだった」
「…ご主人?」
「
悟が虚な顔になるのを確認してから、僕は部屋を出て表門へと向かった。
男は逃げていた。
呪詛師との取引である程度現場から距離は稼げたつもりだったが、安心を得るには程遠かった。
男は海外に逃げた後も一般人として家族と過ごせるようと、逃亡資金を温存していた。
先に送った2人は無事だろうか。確認したくても、連絡するには危険が伴う。男はほぞを噛んだ。
────こんな計画、やはり加担すべきではなかった。
次期女当主が気に入らないとか、六眼と無下限の抱き合わせを弱いうちに痛めつけて戦力を削いでおくだとか、胡乱な連中から金は大量に集まった。
面白かったのは五条家の古株だ。女の六眼など紛い物だとかなんとか、自ら内通者に身内を選んで、呪詛師までわざわざ雇っておいて、これだ。
あんなの殺せるわけがない。
性別が女だろうが、まだ10歳の子どもだろうが、六眼は六眼だ。化け物だ。
呪詛師の場所を入れ替える術式で不意を打ったが、たった1撃入れただけですぐに無下限が張り直され、呪詛師の腕がもぎ取られた。気絶させられればあるいはそのまま殺せていたかもしれないが、容易く腹部を貫通する打撃に素の呪力だけで耐えた
結局、呪詛師も不利を察して、あるいは怯えて、2撃目を準備することもなくポイントまで逃げてしまった。
最後に自分を見た時の、恐ろしく冷たい眼差しが思い起こされ、身体が震える。アレが生まれた頃から警護役として共に過ごしてきた日々の何一つ、あの目には残っていなかった。
あんなのは人間じゃない。
アレの2つ下の息子は、たまに帰るだけの自分を見て飛び上がって喜び、好きな野球チームの話を感情豊かに身振り手振りで表現する。
一度たりとも、そんな風に振る舞う姿を…いや、人間らしさを装うことさえしないアレを、同じ人間だと認識できなかった。
赤子の頃から面識のある子どもへのなけなしの申し訳なさは、あの眼差しで完全に消え、ただ予後を悪くして死ねばいいという祈りだけがあった。必ず訪れる報復がただただ恐ろしかった。
呪詛師は自分を連れて定位置まで運びはしたが、その後は行方もわからない。
せめて確実に殺せる呪具でもあれば、という後悔が押し寄せるが、自分の手持ちには存在しなかったし、依頼主も持ち合わせていないようだった。子どもへのトドメを呪詛師にやらせようという、生半な覚悟であの場へ向かった自分の甘さが今は口惜しい────。
男の心境は焦りに満たされていたが、家族が待つ空港にさえつけば、海外まで逃げさえすれば、もう追ってはかかるまいとたかを括っていた。落ち目の五条家にそんな余裕があるものか。
空港へ向かうタクシーの中で無言のまま大汗をかいている男を不審に思ったのか、運転手がチラチラと男を見るが、そんな不快な視線などどうでもいいくらい、男は心の底から五条悟の死を祈っていた。
その時、「あ、」という運転手の声がして、心の余裕が欠片もない男が怒鳴りつけようと口を開き、閉じた。
道路の中心。小さな山のように無数に群がるネズミが、その中心にいる少年が。男の乗る車を、男を。フロントガラス越しに見ていた。
赤い髪の三つ編みに、長く垂れた前髪の少年は、車の傍まで歩み寄り、コンコン、と車の窓をノックする。
「開けてもらえますか」
凛とした、鈴のような声。
丁寧な、しかし有無を言わせない命令だった。
────遠目からは分からなかったが、その少年はゾッとするほど美しい、整った顔をしていた。
なぜ少年と思ったのかはわからないが、少女だと言われても…むしろ、少女だと言われた方がすんなり受け入れられるような、絶世と呼んで差し支えないくらい端正な貌をしている少年。幼さを感じさせる頬のまろい輪郭線が更に将来を嘱望させ、未完成の美に魅せられた幼児性愛者が遮二無二襲いかかりそうな、人々の理想像に限りなく近い容姿だった。
そんな顔がにこり、と魔性の微笑みを浮かべているので、こんな異常な事態にも関わらず思考が完全に止まってしまった。
少年の美貌を一際目立たせる黄昏色の瞳に引き寄せられるようにして、視線がかち合う。瞳にある同心円状の模様が、何故だか酷く印象的だった。
男が唖然としている間に、後部座席のドアが開いていた。
「おい!」
男が思わず運転手に怒鳴るが、開いた扉の前では少年が警戒心を薄れさせるように微笑み、男に声をかける。
「こんにちは。探しましたよ」
まるで女性をエスコートするような仕草で降車を促す少年からは、攻撃の意志を感じられなかった。
変声期が来ていない高い声が少年をますます性別不詳に感じさせ、男は戸惑う。
戦闘の構えも無く悠然と目を細める少年に一瞬瞠目した男は、こいつはもしかすると逃亡の手助けか、あるいは五条悟の追撃を指示しに来た協力者なのではないかと考えた。
前者は、あの祖父のことだ、あり得ない、と即座に切り捨てる。後者であれば面倒だ。男の術式では警戒下の無下限呪術に対抗できないし、自滅覚悟で特攻など無意味極まる。そもそも、そんな命令を聞く義理などない。妻子を残して逝く気もない。
────この使者を死なない程度に黙らせて、一刻も早く妻子と共にアメリカへ行く。
そのためにも、男は一旦車から降りることにした。
「………チッ」
男は、少年をナメていた。
同年代にあんな化け物がいるとはいえ、こんな小さな子どもが本来、大人の術師に敵うわけがないのだ。
男はそう高を括って、運転手の虚ろな顔にも気が付かないまま、開けられたドアから外に出た。
「五条家の…誰かか?にしては知らない顔だな」
「本家で何度かすれ違っていますよ?」
おかしいな、と疑問を顔に浮かべ首を傾げる少年が、男と目を合わせたまま告げる。
「よく
途端、ギリギリと締め付けるような軽い痛みが男のこめかみを襲う。
「…あ、ああ……そういえば、」
────居た。
確かに、数ヶ月前からこの赤い髪をちょくちょく見かけるようになっていた。
だが、五条本家には次期当主以外存在しない、10やそこらの子どもが彷徨いていて、なぜ今まで声もかけなかったのだろう。息子と近い歳で、親や保護者も連れずたった1人で寄越された子ども。その時の自分であれば、心配して声くらいかけただろうに────。
男は少年について急に思い出したことを不審に思い、この少年の術式がそういう
目だ。あの目を見てはいけない。
おそらく目を使って他者に干渉する術式。そう考え、足元を注視する男。
「ああ、そうだ。あなたに忘れ物を届けにきたんですよ」
少年はドーナツチェーン店のロゴが入った手掴みの紙袋を取り出すと、警戒する男に突きつける。
「奥さんとお子さんからです」
「……は、」
聞き捨てならなかった。男が一番安否を気にしている存在を、このどこの勢力とも知れない少年が口にしたのだ。
男は動揺を隠せないまま、紙袋を凝視する。
「空港で、あなたを待ってますよ」
安心させるように微笑む少年に、男は、少年が足がつくのを恐れた依頼人から男を逃がすよう頼まれた人物なのではないかと思った。五条悟や本家が把握していない存在の自分を空港へ促す行動から、少年は味方なのではないか、と。
そんな希望的観測に男は少しの間逡巡した後、少年から差し出されたそれを受け取る。
「おまけもあります」
「……?」
内緒話でもするように口元に手を添える少年。妙に愛らしい仕草で付け足された言葉に、違和感を覚えつつも男は袋を開けた。
「────ッ、はァ!?」
男が中身を見て思わず落とした袋から、ごろりと転がる4つの球体。そして、
「ゆ、指と……目!?だれ、の……ッ、」
「親指です」
「そんなことは聞いていない!!」
大人のものにしては細い、親指が2本。
声を荒げる男に、少年はニコニコと、まるで学校での楽しい出来事でも話すかのように、軽やかな声で告げる。
「野球が好きだと言っていたので」
────敵だ。
こいつは、子どもでも味方でもない、人の心を持たない化け物だ。
男は直感的に確信し、すでに自らの拳の射程範囲に存在する敵の顔を殴りつけようとした。
「おっと。動かないで」
しかし、激情に駆られた男の体は、子供の落ち着き払った声により硬直する。
「────ッ、───ッ?!」
指一本たりとも、声帯さえ動かない身体に、混乱する男。おかしい、確かに目を見ないように警戒し、足元しか見てなかったはずなのに。疑問と同時に湧き上がる殺意に、男は硬直した身体をどうにか動かそうと、握ったまま微動だにしない拳に呪力を籠める。
「あっ。喋るのは大丈夫ですよ」
「あ、ああ!あああああ!!ふざけるな!!ふざけるなァ!!!」
「はいはい。あなたの雇い主は誰ですか?」
少年はまるで、聞き慣れているという風に男の慟哭を流すと、手慣れたように尋問を開始した。
「ご、五条、
「はあ?」
五条という単語に、少年は意味が分からないというような、疑問の籠った声を上げる。
少年にとってそれは予想外であることを表していたが、逆上した男にはすべてが些事なのだろう、少年を呪う言葉を叫び続ける。
「……わかりました。あと、呪詛師のお名前は?」
少し間が空いて、不服な様子の少年の声に男の罵詈雑言が途切れ、呪詛師の名前がまろび出る。
「多々良、唯巳……お、俺、なんで名前────、」
パンッ
少年は掌印のように両の手を開いたようにして交差させ、なにかの手ごたえを探るような動作で手を叩いた。
喋っている途中で、ふつりと事切れた男が路上に転がる。
「────ん、死んでないな。足りなかったかな」
少年は「人数?それとも価値か」とぶつぶつと呟いた後、「運転手さん、
空港まで、ほんの数100mの距離であった。
男の体は無情にもUターンし、男が最も忌むべき場所へと帰っていくのを、少年は見もせずに立ち去った。
あとがき
五条家所属の男
分家出身で非術師の女性と大恋愛の末結婚。術師としての才能が無い野球好きの息子(ベースボールも好きなので渡米を楽しみにしていた)が主人公と同い年。
五条悟が爆誕するまでは五条家の権力がほとんど無いに等しかったため家とも大して関わりのないほとんどフリーの術師だったが、五条茂(五条悟の戦闘指南役のじいや)に派閥に所属しておらず権力欲が無い丁度いい人物として五条悟の身辺護衛役に抜擢される。面倒な思想持ちの祖父に目を付けられ、嫁と子ども関係の弱みとか握られたから裏切った。嫁と子供諸共死亡済み。
取引した呪詛師
多々良唯巳。名前は展開上必要だったから今考えた。
ビーコンと自分の位置を入れ替える術式を持ってた。ビーコンになる物体には残穢が残らないため六眼の看破をすり抜けられた。死亡済み。
暗殺依頼主
五条隹《ふるとり》。名前はなんか爺っぽそうな名前にしたかった。
五条の分家の爺。扇みたいな性格。術式が相伝じゃなかった。死亡済み。
五条悟
怪我で弱ってる。強くなるぞ!と決心してるのは犬の方なので普段の修行に決心が活かされることは無い。
主人公
やったことの自覚は次で。
支配の悪魔の暴虐シーンが見たいなと思って書きました。
羽虫相手に倫理観とか発動するか?っていう話なんで普通に人殺しさせちゃったけど…ぐっちゃぐちゃな原作読んでたらまあいいかなって。
生贄にする人間の価値はサンタクロース理論を参考に、子ども>大人>老人で、美男美女の属性が+αくらいの感覚です。術師も勘定に入れると術師子ども>術師大人>非術師子ども>術師老人>非術師大人>非術師老人とかですかね。適当です。雰囲気と感覚で乗りこなしてます。
妊婦ならさらにアドなんで女の方が価値高そうな雰囲気ありますね。
今回は殺害対象が術師老人1、術師大人1に対して、生贄が術師大人1、非術師女1、非術師子ども1なのでやや生贄がオーバーしてます。子どもの方から生贄にしていたら足りました。まあ、目とか指とか欠けてるのでどっちにしろ不足分はあったかもしれません。
畜生台詞で「反転術式があるんだし指も目も取っておけば?」みたいなことを言わせる予定でしたが、冗長かなというのと展開上その余裕が無く、やむなくカット。
家入硝子は5年後くらいに世間に知られるはず、というのを加味したセリフだったのにもったいなかったのでここに書きました。
ド性癖の非倫理催眠イチャラブはどこにいった!?と思われた読者さんには本当に申し訳ない……犬化催眠ロリショタのちょっとえっちな展開への期待に、応えられなくて。
求めてない?うっそだ~!