※キャラ崩壊注意
依頼主と実行犯の始末を終え五条家へと戻った僕は、突然送りつけられた間者の死体にざわめく人々を一瞥し、
「裏切り者は始末できました。通常業務に戻ってください」
と指示を出す。
皆一様に頷き、各々の持ち場へと戻っていくのを見て、僕は肩の力を抜いた。
何も問題ない。この屋敷の誰も、この件を疑問には思わない。
…五条悟には、気取られるだろうけど。
間者の死体が処理のために移動させられていくのをぼんやりと眺めながら、ふと、我に返ったように疑問が降ってくる。
────あれ?人、殺しちゃったなあ。
なのになんで、こんなに普通なんだろう。
僕はこういう、
感情が欠片も揺れ動いていない。
…そういえば、殺人はストレスが強く、現場には犯人の毛が抜けて残ることが多いという。現場に証拠が残らないために頭全体を覆う目出し帽はそういう意味でも犯罪向きだとか、なんとか。実に理にかなっているなあと感心する。なんでそんなのを作って売るんだろう?本来の用途は防寒具なのかも?
────いや、だから。待って欲しい。
思考が宙に浮いたまま、ぐるぐるととぐろを巻き始める。
人を殺したんだよな。僕。
えっと。
あー…。
混乱して、いる。
衝動的な殺人だ。悟が攻撃されて逆上し、その報復で元凶1名実行犯2名、実行犯の家族2名を無意味に痛めつけ、計5名を殺害。
日車寛見がこの場にいたら10-0で死刑が確定しただろう。絶対に会いたくない。
しかし、罪悪感も何も感じない。情状酌量の余地もない。単なる私怨による犯行。精神鑑定による無罪判定はまあ、まあ…今はいい。
頭を抱えて縁側に座り込む。
よく手入れをされた庭には、季節を彩る草花が植えられ、池には錦鯉が泳いでいる。
古式ゆかしい日本庭園。人の心を癒すはずの景色にも、何も感じない。
後悔すらないことを恐ろしく思った。
悟という、よく懐いてくれている───仮初の感情ではあれど───子ども1人と、その子どもを害した大人3名+その家族2名が乗った天秤が、いとも簡単に人数が少ない方へ傾いてしまっている事実を、僕は受け止めきれないでいた。
使い魔越しに耳を澄ますと、悟の控えめな呼吸が聞こえる。
浅い眠りなのか、傷が痛むのだろうか、時折呼吸が詰まっている。
女性というだけでこのような仕打ちを受ける悟の現状を、僕は全く看過できなかった。これっぽっちも許すことはできなかった。今後似たようなことがあれば、同じように相手を殺すだろう。そこに疑問はなかった。
これからもこんな風に傷付けられるなら、悟が辛い目に遭うのなら、どこか遠くで僕と暮らした方が幸せなんじゃないだろうか。呪いも悪魔も関係ない世界で、無邪気な悟とただ、共にご飯を食べて眠って、生きるだけの方が。
それの、何が問題なのだろう。僕が好きな子を危険から守って何が悪い?
思考がどんどん極端に先鋭化していくのを、どうにか食い止めようと反論する。
問題その一。
五条悟が居なくなったら、原作は始まることすらせずに終わるだろう。もしかすると夏油傑が離反することはなくなるかもしれないが、虎杖悠仁は確実に死刑になるだろう。乙骨憂太も同じく。
────女性の五条悟という要素で原作からはすでに離れている。なによりも僕という不確定要素は大きい。そして、仮に原作の人間だろうと、僕は会ったこともない他人に興味を持てない。今回の犯行に直接関与していないあの二人のように、理由があれば殺すことも躊躇しないだろう。
問題その二。
五条悟が
そして本来の人格とかけ離れた命令をし続ければ、精神が崩壊した木偶の坊になる恐れがある。
────それは。
二つ目の問題は、ある仮定があれば突破できてしまう。
五条悟が僕との逃亡を受け入れた場合、もしくは僕自身が五条悟の傀儡化を実行した場合だ。
後者は、後者はダメだろう。それは一番してはいけない、しないと決めたはずだ。
────でも、もしも人間の悟が、僕を受け入れてくれたなら?
そんなことは。あり得ない。希望的観測にも程度がある。
名前も顔も知らない人間を信頼するわけがないし、逃げることなどしなくても、五条悟という人間のスペックは既に他を圧倒している。今回のように裏切りや、余程の動揺でもしない限り、獄門疆などの障害は物の数にも入らない。そういう存在だ。
────もし、僕に悪感情が無いなら?友人や側近、使用人として側に置いてくれるなら?気兼ねなくその障害を排除できる。
あり得ない、だろう。
現状の僕に対する彼女の認識は不審者、怪しい人物、嫌悪対象が順当だ。
顔も見せずに信頼して欲しいなんて、虫が良過ぎる。
────もしも、この先呪具が完成して、ありのままで会えたなら?
────もしも、手紙でやりとりできたなら?
────もしも、声だけでも会話をしてくれたなら?
もしかしたら、ひょっとすると、事と次第によれば。
非現実的な可能性ばかりが頭を占める。
無意味だ。
人間として欠陥品の出来損ないが、物語に出てくるような夢を見てどうする。
ほめてほめて、と間者の首を差し出して。やっていることは殺人鬼じゃないか。
僕はそういう風なんだ。
ひとでなし。畜生。化け物。
────悪魔。
望まず犬になった子どもに執着して、一生愛でるつもりでいるのか?気色が悪い、異常性愛者。
お前はそういう存在なんだ。
できることは離れる事だけだ。許されるのは退治される事だけだ。
あの子に幸せになって欲しいなら、二度と関わらないことが正解なんだ。
正しい道だ。
わかりきったことを何度も繰り返し自分に言い聞かせて、僕自身の
そうあってほしいと願う。
そうあれるように、なれるように。
普通の人になれますように。
祈って、祈って、祈った後、ふと、顔を上げる。
庭に咲いている、6枚の白い花弁を持つ花が目に入る。
月明りがぼんやりと照らす白は、薄暗い庭の中でひと際輝いて、目を引いた。
────なんだか、悟の髪の色に似てる。
そんな風に思って、一本手折る。
指でくるりと回して、花を口から出す手品をぼんやり思い出し、少しだけ笑った。
笑えるから、まだ大丈夫。
大丈夫だ。
まだ、余裕はある。きっと猶予もある。
寝ている悟のお見舞いでもして、すぐに寝よう。
今日は久々に遠出をして疲れたから、こんなにネガティブなのだ。
早く寝て、明日の仕事をして、呪具を作って、さっさと逃げよう。
どこか遠くへ。
六眼にも、誰にも見つからないところへ。
僕を受け入れてくれる場所へ。
指一本動かすのも億劫な、ゆったりとした動作でようやっと立ち上がった僕は、ふと思いついて自身の顔に触る。
「ああやっぱり」
そこは、全く濡れていなかった。
「…なんだ、これ」
目が覚めると、枕元に何本も花が散らかっていた。
寝る前にこんなものを置いた覚えはない。
寝ている間は術が解けてしまうから、襲撃を警戒してここのところ深く眠らないようにしていたというのに、やけにスッキリとした目覚めで眉間に皺が寄る。
間者の追討で家の連中が騒いでいた後少し寝て、それからずっと起きていたがうっかり寝入ってしまったらしく、外がもう明るい。
ぐ、と体に力を入れて起き上がると、腹に鈍い痛みが響いた。
ポトリと耳の辺りから何かが落ちる。
白い花。やはり見覚えはない。
屋敷の西の方角、例の奴の根城に目をやるが、いつもと変わらず結界が貼られて中を伺うことはできない。
布団の上には、赤、青、紫と様々な花が無秩序に放られているようであった。
────これを奴が?
襲撃を警戒していた俺に気取られず、このような訳のわからない行動を取ることができる人間は、西の奴の他に心当たりはなかった。
片方の手で一つ摘んで見てみるが、これといった術も仕掛けも何もない、ただの花だ。
なにか意味があるのだろうか?
符牒、予告、警鐘…あるいは油断して怪我をした自分を笑いに?襲撃するつもりであれば寝ている間に簡単にできただろう。花の意味するところが皆目見当もつかない。
束になるようにそれらを集めて、患部が痛むのも構わずに立ち上がる。
包帯まみれで少し歩きにくいが、草履が置いてある縁側に向かって歩き出した。
「っ、お嬢様!?もう、出歩いてよろしいので…?」
常駐の庭師が驚いたように声を上げる。
強張った顔は驚きよりも恐れを含んだそれだったが、俺の興味はそこにはない。
「この花、ここに生えてるやつか?」
「はっ?」
庭師は、差し出した花の束と俺の顔を、何か意外なものでも見たように交互に見比べている。
「どうなんだ?」
「え、ええ…最近咲いた花ばかりで…」
「何か…ないか?この花に、例えば……毒性があるとか」
「ええ!?そんな、弱い毒があるやつは探せばあるかもしれませんが、庭の花は葛様が切り花になさるんで、かぶれる種類は避けて植えておりますし…」
「………そうか」
無害な庭の花を摘んで置く行為の真意は全く汲み取れないままである。
仕掛けられた謎かけに手も足も出ず、なんだか悔しいような、情けないような気分になってしまう。
試されているのか、何か伝えたいのかさえわからないのに、名前も顔も知らない相手が何を考えているのか、手の中の小さな花ごときに振り回されている自分が滑稽で、段々と腹が立ってきた。
「…お見舞いの花ですか?もしや、意中の方から?」
「は?」
「なるほど、お嬢様も年頃なんですなあ」
はっはっは、と快活に笑う庭師は、先ほどまでの怯えを忘れたように俺に語りかける。
「大怪我なさったんですから、見舞いの花くらい届きますよう。……庭の花を毟るのは頂けませんが、お嬢様も花を貰って一喜一憂するようなお可愛らしいところがあるとは…。いやしかし、昨日来客なぞあったか…?」
一方的に話した後、庭師は考え込んでしまった。
俺は無意識に手元の花を握り寄せ、花を手折った後の青臭さの中に仄かな香りが鼻腔に伝うのを感じ、ハッと気付いて大きな声で否定した。
「違う!!」
「は、なんですかっ?」
「違うからな!!」
大声で捲し立てて、俺はその場から立ち去った。
「はあ…」
後に残された庭師は、唖然としたままそれを見送ったのだった。
「かわいい〜!」
それは可愛かった。
それはそれは可愛かった。
「えへへ〜」
お見舞いに持ってきた花を、なんとなしに悟の短い髪を柔らかく飾る耳に添えてみたところ、あらかわいい.。まあかわいい。
にへ、とほんのり赤く染まる緩んだ頬や耳を見て「かわいいかわいい」と持て囃し、落ちてきた閃きのままに庭先に咲いた色とりどりの花をプチプチ千切っては飾り立てる。
「KAWAII〜!!!」
語彙を喪失した僕は、この世全ての花という花は悟に飾られるためにあるのでは?と本気で思った。
古今東西ありとあらゆる美少女が裸足で逃げ出すこの天元突破した可愛さの最高峰。過去現在未来においてここまで完成された可愛さの権化が存在しただろうか。いや、いない!
この完璧で無敵のゲッターこと五条悟、アイドル界でも強靭、無敵、最強の名を欲しいままにするスーパーウルトラ超人かもしれない。
「アイドルになろう悟。悟なら芸能界一、いや世界一のアイドルになれる。いや、する」
「アイドルってなに?」
「完璧で無敵の存在だよ」
「なる!」
即レスで実態を伏せたゲッターに将来の夢をシフトさせた悟。
じゃあまず大手事務所の従業員全員を術式でちょちょっと支配して〜…。
「アイドルってなにするの?」
「曲に合わせて歌って踊ったり、バラエティで頓珍漢なことを言ったり、ファンと握手し、たり…」
は?
ファンと握手?
アイドルの仕事を指折り数えていた僕は、アイドルの仕事である握手会やチェキその他を想像し、思考を一時停止した。
「ファンってなに〜」
ファンとは、不老の否定能力者…ではなく、アイドルに金を落とす客のことである。
僕は悟に声だけで命令する。
「悟、お手」
「ん!」
差し出された手をぢっと見る。
悟の手は、すべすべした年相応の少女の手ではなく、日頃の鍛錬によってできた細かな傷でザラつき、術式で何度も繰り返す掌印のためか、歳の割に節くれ立っているのが見て取れた。
呪霊との戦いのため、襲い来る刺客を撃退するため、人々を守るために積み重ねられた苦労が表れた、尊い手。
────この手を、ファンを獲得するためにほいほいと触らせる?どこの誰とも知れない有象無象に?
感触を確かめるように、もう片方の手で悟の手の甲をするすると撫でさする。
「うひゃあ」
くすぐったい、というように顔を綻ばせて手をもぞもぞとさせる悟。
感覚が鋭敏なのだろうか。努めて力を抜き、宝石を隠すようにそっと包む。
執拗に握手の時間を引き延ばす厄介ファンを思い浮かべ、困った顔の悟を想像する。うん、駄目だな。
「やっぱりアイドル辞めよう。悟は握手会NGだ」
「うひぃ…。おれ、俺もさわる!」
「はい、どうぞ」
そんなくすぐったがりなのか、悟。
僕は大した訓練もせずに引きこもっているから、悟ほど努力した手ではない。
戦闘力で並び立つなど考えもしていないが、ろくでなしの僕なんかが触れるには烏滸がましくて、なんだか目頭が熱い。
どう見積もっても、僕はアイドルの握手会に来る人間以下のゴミなのに。
「んふ〜!」
僕の手を顔まで引き寄せ、ご満悦な表情の悟。
振り払ってくれる方がこの子にとって正解なのに。
罪悪と背徳に満ちた僕の胸中などまるで関係ないというように、幸福と花で彩られた悟は、掛け替えがない程に美しかった。
性癖がねじ曲がったド変体野郎こと筆者ですが、本編進捗ほっぽってこの作品のドチャシコエロ小説ばっかり思いつくので概ね評判通りだと認識しています。
本編が進みません。催眠ロリショタエロを書く方が楽しくて申し訳ないです本当に。