【第一章完】この厳島甘美にかかればどうということはありませんわ!   作:阿弥陀乃トンマージ

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第3話(3)さしすせそ

「むう……」

 

 現が戸惑い気味の声をあげる。

 

「どうかしましたか?」

 

「いや、なんというかこう……派手じゃないか?」

 

 現が両手を広げて夢世界を指し示す。

 

「確かに今までは薄暗いレンガ造りの夢世界がほとんどでしたわね……」

 

 甘美が頷く。現が頷きを返す。

 

「そうだ……まさかこんなに……」

 

「でもそんなに驚くことかしら? これまでも普通とちょっと違う夢世界の持ち主の方はいらっしゃったわ。例えば……」

 

「いや、問題はちょっと違う……」

 

 現は甘美の話を遮る。甘美が首を傾げる。

 

「ちょっと違う? 具体的には?」

 

「あの伊藤先輩の人柄からは想像も出来ない……」

 

「なるほど、そういう話ですか……」

 

「そういう話だ」

 

「まあ、とにかく進みましょう」

 

「あ、ああ……」

 

 現は戸惑いながら甘美に続く。

 

「む!」

 

 甘美たちが角を曲がったところに小太りの黒い影が数体うごめいているのが見えた。影たちも甘美たちに気が付き、ゆっくりとふらつきながら近寄ってくる。

 

「グフフフ……」

 

「なんだまだいるじゃあないかあ、綺麗どころが……」

 

「君ら、ヘルプに入りたまえ!」

 

「なっ⁉」

 

 現が面食らう。甘美が声をかける。

 

「現、援護をお願いしますわ!」

 

「あ、ああ!」

 

「~~♪」

 

「~~~♪」

 

 甘美の歌に合わせて現が演奏を奏でる。

 

「!」

 

「! zzz……」

 

 小太りな影たちが霧消する。

 

「ふむ……」

 

「優しげな歌だったな……」

 

 現が感想を伝える。

 

「子守唄をイメージしました……」

 

「子守唄?」

 

「酔っ払いの方にはちょうどいいでしょう」

 

「酔っ払い?」

 

 現が首を捻る。

 

「先を進みましょう」

 

「う、うむ……」

 

 甘美がスタスタと歩き、現がその後に続く。

 

「ん?」

 

 甘美たちが角を曲がったときに細身の影が数体立っているのが見えた。影たちも甘美たちに気が付くと、足音をツカツカと鳴らして近づいてくる。

 

「なに? 新入り?」

 

「もしかしてあの娘の知り合い?」

 

「有名女子大だかなんだか知らないけど、ムカつくんだよ……!」

 

「こ、これは⁉」

 

 現が驚く。

 

「現!」

 

「あ、ああ!」

 

 現がキーボードを構える。

 

「~~~♪」

 

「~~~~♪」

 

 先ほどと同じように、甘美の歌に合わせて、現がメロディーを奏でる。

 

「‼」

 

「‼ 泣ける~」

 

 細身の影たちが霧消する。

 

「ふう……」

 

 甘美が一息つく。

 

「どこか儚い歌だったな……」

 

「攻撃性を少しでも鈍らせようと思いまして……」

 

「そうだ、それだ」

 

「え?」

 

「随分とむき出しの敵意を向けられた。一体なんだったんだ?」

 

「……妬みじゃないですか?」

 

「妬み?」

 

「ええ……」

 

「妬まれる覚えなんてないぞ。それに……」

 

「それに?」

 

「影から足音が聞こえた、あんなことは初めてじゃないか?」

 

「まあ……商売道具でしょうからねえ……」

 

「商売道具?」

 

 現が腕を組む。

 

「先に向かいましょう」

 

「う、うむ……」

 

 甘美が前を歩き、現がそれに続く。

 

「おっと……」

 

 甘美が角を曲がると、細身だが、先ほどよりは長身の影が数体うろついているのが見えた。影たちは甘美たちに気が付くとするすると寄ってくる。

 

「お姉さんたち、綺麗ですね?」

 

「稼げるアルバイトがあるんだけどさ……」

 

「お姉さんたちならすぐにナンバーワン狙えるよ~♪」

 

「な、なっ……⁉」

 

 現が露骨にうろたえる。

 

「現、援護を!」

 

「う、うむ!」

 

「~~~~~♪」

 

「~~~~~~♪」

 

 さっきと同様に甘美の歌に合わせて現がメロディーを奏でる。

 

「⁉」

 

「⁉ い、田舎に帰ろうかな……」

 

 細身で長身の影が霧消する。

 

「ほっ……」

 

「どこか懐かしさを感じさせる歌だったな……」

 

「心に寄り添ってみました。都会ですり減った心に……」

 

「し、しかし……」

 

「どうかしましたか?」

 

「影が話しかけてきたぞ?」

 

 甘美の問いに現が問い返す。

 

「それもそこまで珍しいことでもないでしょう」

 

「いいや、珍しいだろう!」

 

「どうしてそう言い切れるのですか?」

 

「それはこちらが聞きたい。夢世界で豊富な経験を積んでいるわけではないだろう?」

 

「それはお互いさまですわ」

 

「ま、まあ、それはそうだが……」

 

「厳密に言うと、わたくしの方が若干ベテランですわね」

 

「誤差の範囲だろう」

 

「そうでしょうか?」

 

「そうだ」

 

「まあ、それは良いとして……何に対して違和感を覚えたのですか?」

 

 甘美が重ねて問う。

 

「いや、あれは……だって……」

 

「だって?」

 

「勧誘だったぞ⁉」

 

「ああ、そういうニュアンスでしたね……」

 

「どういうことなんだ……?」

 

 現が頭を抑える。

 

「推理力があるのではなくて?」

 

 甘美が笑みを浮かべる。

 

「その態度……なにやらもう分かっているようだな」

 

「まあ、大体は……」

 

「……教えてくれ」

 

「伊藤先輩は夜のお店……いわゆるキャバクラで働いているようですね」

 

「そ、そんな⁉ 先輩に限ってそんなことが……」

 

「太い影はお客さま……お酒に酔って千鳥足で歩いておりました。細身の影は同僚のキャバ嬢……人気のある先輩が気に食わない、ツカツカという足音はハイヒールの発するもの。長身の影はお店のボーイやらスカウトマンの男性……」

 

「む、しかし、それだけでは……」

 

「そもそも口調ですわ」

 

「口調?」

 

「『さすがね』、『知らなかったわ』、『すごいわね』、『センスを感じるわ』、『そうなんだ』……これはキャバクラ嬢の会話テクニック、『さしすせそ』!」

 

「‼」

 

 現が前日の伊藤との会話を思い出してハッとなる。

 

「お分かりになりました?」

 

「し、しかし、何故真面目そうな先輩がキャバクラに? お金に困っているのか?」

 

「その辺はもっと先に向かってみましょうか……」

 

 甘美が夢世界の奥を指し示す。

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