【第一章完】この厳島甘美にかかればどうということはありませんわ!   作:阿弥陀乃トンマージ

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第5話(2)カゲの努力

「……ここが今日の会場か」

 

 陽炎が伸びをする。

 

「こうして岡山まできたわけだが……甘美」

 

 現が甘美に声をかける。

 

「なんですの?」

 

「やっぱり地域のお祭り的なイベントじゃないか」

 

「ええ、そうですわね」

 

「そうですわねって……」

 

「何か問題が?」

 

 甘美が首を傾げる。

 

「いや、問題というか……良いのか?」

 

「だから何が?」

 

「もっとこう……音楽フェス的なものに参加した方が良いんじゃないか?」

 

「ああ、それは正論かもしれませんわね」

 

「だったら……」

 

「ただ、わたくしの目指しているところとはちょっと違うので……」

 

「違うだと?」

 

 現が首を傾げる。

 

「ええ」

 

「なんだ、目指しているところって?」

 

「いわゆる音楽ファンという方々だけでなく――もちろん、そういう方々もありがたい存在ではありますが――もっと広く一般的に、わたくしたちの音楽を届けたいのです」

 

「ああ、それはまあ、以前にも何度か聞いたことがある気がするが……」

 

「何度か申し上げた気がしますわ、もっぱらお酒の席だったと思いますけど」

 

 甘美が笑みを浮かべる。

 

「少しばかり……いや、かなり壮大な目標だな……」

 

 現が腕を組む。甘美が首を捻る。

 

「そうかしら?」

 

「そうだよ」

 

「では現、貴女はどうすれば良いとお考えなのですか?」

 

 甘美が尋ねる。

 

「まずは音楽ファンに私たちの存在を認知してもらうことが大事だろう。そこから徐々に一般層にも浸透させていくのが良い……」

 

「目標を下方修正しろと?」

 

 甘美が掲げた右手を下げる。現が首を左右に振る。

 

「そういう言い方はしていない。まずは地道にやっていくことだ」

 

「悠長過ぎますわ」

 

「お前が性急過ぎる」

 

「のんびりとしていたら、あっという間におばあさんですわよ?」

 

「若ければそれで良いというものでもないだろう」

 

「今しか出せない、奏でられない音楽というものもあります」

 

「……」

 

「………」

 

 現と甘美が静かに睨み合う。

 

「……大体だな」

 

「え?」

 

「あいつも今日出すのか?」

 

「あいつって?」

 

「陽炎だ、他にいないだろう」

 

「ええ、もちろんそのつもりですわ。イベントの運営さんにもちゃんと伝えてあります。三人体制での初ステージになりますわね」

 

「音合わせもまともにしていないのに参加させるのか?」

 

「その為にリハーサルというものがあります」

 

「はっ、たった十数分かそこらの練習でステージを迎えるというのか?」

 

「そうなりますわね」

 

「それはいくらなんでも、さすがに舐めすぎだろう」

 

「聞き捨てならねえな、うつっつー……」

 

「うおっ⁉」

 

 現の前に陽炎がにゅっと顔を出す。

 

「オレを舐めんなよ、お前らに合わせるくらいわけもねえさ」

 

「簡単に言うな」

 

「簡単だよ。オレを誰だと思っている?」

 

「変な奴」

 

「情熱的なギタリストだよ!」

 

 陽炎が声を上げる。甘美が口を開く。

 

「現、陽炎さんの腕前は見たでしょう?」

 

「ああ、それは見たが……」

 

「大丈夫、心配は要りませんわ」

 

「大丈夫って……そんなに上手くいくものかね……」

 

「そろそろリハーサルの時間ですわ……出演者控室はあのテントですわね。さっさと衣装に着替えるとしましょう」

 

 甘美がテントに向かう。現と陽炎がそれに続く。

 

「…………」

 

 リハーサルを終えて、三人は控室に戻ってくる。陽炎が笑みを浮かべながら現に尋ねる。

 

「な~んか、言うことがあるんじゃねえか? うつつー?」

 

「……だったよ」

 

「ええ? なんだって?」

 

「ほぼ完璧だったよ! 特に何も言うことはない!」

 

「へへっ、そうだろ?」

 

 陽炎が鼻の頭をこする。

 

「昨夜ホテルで一晩中、わたくしたちの音源を聞き込んでいましたものね」

 

「うおい、カンビアッソ! それを言うなって!」

 

 陽炎が慌てる。現が頷く。

 

「なるほど、部屋の片隅でこそこそと何をしていたかと思えば、そういうことだったか……」

 

「むう……」

 

「努力家だな。まあ、手の指に出来たマメを見れば分かるが……」

 

「……将来、インタビューではその話はすんなよ、カゲは難なくこなしたって言え」

 

「ちゃんと憶えていたらな」

 

 現が笑みを浮かべる。陽炎が舌打ち交じりに呟く。

 

「ちっ、絶対ばらすやつだな、これは……」

 

「それはそうと、甘美、話を蒸し返すようだが……」

 

「はい?」

 

「やはりこういうイベントではなかなか難しいと思うぞ?」

 

「何がですの?」

 

「……メンバー集めだよ」

 

「ああ、そういえばそうでしたわね……」

 

「忘れていたのか……」

 

「ギタリストを抑えたら、次はベーシストかしらね……」

 

「陽炎、誰かいないか?」

 

「目ぼしい奴は大体バンドを組んじまっているな」

 

 陽炎が首をすくめる。甘美が腕を組みながら呟く。

 

「ほんの少しくらい目ぼしい方では駄目なのですわ……」

 

「お嬢さまはどういうベーシストがご所望なんだ?」

 

「ファンキーなベーシストですわ」

 

 甘美は陽炎の問いに答える。現が苦笑する。

 

「またなんとも曖昧な……うん? 次のバンドのリハーサルが始まったな……」

 

 音が控室にも流れてくる。それを聴いて、甘美と陽炎が口を揃えて呟く。

 

「「ファ、ファンキー……」」

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