【第一章完】この厳島甘美にかかればどうということはありませんわ!   作:阿弥陀乃トンマージ

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第5話(4)雲の夢世界

「こ、これは……!」

 

「雲の夢世界ですわね……」

 

 甘美が地面を強めに踏んでみて確認する。現が問う。

 

「雲⁉ 雲の上って立てるのか⁉」

 

「さあ? 立ってみたことがないから分かりませんわ」

 

 現の問いに甘美が首を傾げる。

 

「そ、それはそうかもしれんが……何故、雲だと言い切れる?」

 

「……この抜けるような青い空……」

 

 甘美が遠くを指差す。

 

「む……」

 

「この空気が若干薄い感じ……」

 

 甘美が両手を広げる。

 

「うむ……」

 

「なおかつそれでこのふわふわとした足元の白い物体……雲と考えるのが自然なことなのではないでしょうか?」

 

「ふむ……」

 

 現が腕を組む。

 

「違いますか?」

 

「いや、その見立ては恐らく正しいな……ある意味では」

 

「なんですか、その注釈は?」

 

「ここは夢世界だからな」

 

「それが何か?」

 

「何でもありといえば何でもありな世界だろう」

 

「それは確かに……」

 

「それ故に、これが空の上とは断定しきれん」

 

「う~ん……」

 

 甘美が首を傾げる。

 

「なんだ?」

 

「なにか……屁理屈をこねておりませんか?」

 

「そうか?」

 

「そうですわ。もっと自由に、柔軟に物事を考えて参りましょうよ……」

 

「うおおっ! 雲だ! オレは今、雲の上を走っているぞー!」

 

「……ほら、あの方のようにね」

 

 甘美がそこら辺を縦横無尽に走り回る陽炎を指差す。

 

「いや、ちょっと待て、どうして陽炎がいる?」

 

 現が首を傾げる。陽炎が甘美たちのもとに駆け寄ってくる。

 

「な、なんだ、これは⁉ っていうか、どこだ、ここ⁉」

 

「あ、今さらになって冷静になられましたね……」

 

「なんなんだこの状況は⁉」

 

「陽炎さん、少し落ち着いてください……」

 

「これが落ち着いていられるか!」

 

「どうやってここに来たんだ?」

 

「さあな! なんとなくノリで!」

 

 陽炎が現の問いに答える。

 

「ノ、ノリか……」

 

「ついこないだも砂漠に迷い込んだような夢を見た気がするけどよ……」

 

 陽炎が頭を抑える。

 

「ああ、それは覚えているのですね……」

 

「カンビアッソ、うつつー! どういうことか説明してくれ!」

 

「現、説明してないのですか?」

 

「てっきり甘美が説明したとばかり思っていたが……」

 

「……」

 

「………」

 

「……まあ、細かいことはどうでもよろしいでしょう」

 

「せ、説明を放棄するなよ!」

 

 陽炎が声を上げる。甘美が頭を掻きながら告げる。

 

「う~ん、要するにここは夢の中なのですわ……」

 

「大雑把な説明だな!」

 

 陽炎が現に視線を向ける。現が淡々と告げる。

 

「……まあ、私たちもよく分かっていないのが正直なところだ」

 

「わ、分かっていないのか……」

 

 現の言葉に陽炎が困惑する。

 

「どうしてなのか、わたくしたちもこういう夢世界に入れるので……よく分からない……それじゃあ、探索すれば良いじゃない♪ということで……」

 

「そんな『パンが無ければケーキを食べれば良いじゃない』みたいなお嬢様マインド⁉」

 

「いやあ……」

 

 甘美が後頭部を抑える。

 

「別に褒めてないと思うぞ?」

 

 現が冷ややかな視線を甘美に送る。

 

「あらら……」

 

「はあ……少し言い直すのであれば、夢世界に入れるような状態=その人物が心理的、精神的に何らかのストレスを抱えているケースが考えられる」

 

「ストレス?」

 

「ああ、そのストレス、もしくはストレスの原因を取り除くのが私たちの役目だと解釈している。勝手だと言われればそれまでなのだが……」

 

「ふ~ん……」

 

 陽炎が周囲を見回す。現が尋ねる。

 

「理解してくれたか?」

 

「っていうことは、ここはあの青メッシュの夢世界ってことか?」

 

「恐らくはな」

 

「よっしゃ、じゃあ、さっさとストレスを取り除いてやろうぜ!」

 

 陽炎が歩き出す。現が戸惑う。

 

「理解が早いな……いや、理解したのか?」

 

「わたくしたちも行きましょう」

 

「お、おい、ちょっと待て、そっちの方向で良いのか?」

 

「なんとなくこっちのような気がしますので……」

 

「そんな馬鹿な……」

 

「二対一、多数決ですよ」

 

「むう……」

 

 現が渋々、陽炎と甘美に続く。

 

「…………」

 

「な、なんだ⁉」

 

 突然大きな影が陽炎たちの目の前に現れる。

 

「こ、これは綿菓子か⁉」

 

「なんですの、それは⁉」

 

 現に甘美が尋ねる。

 

「そこからか! 生粋のお嬢様め!」

 

「お祭りとかで定番のお菓子だよ!」

 

「まるで雲みたいですわね!」

 

 陽炎の言葉に甘美が反応する。現が呟く。

 

「雲だけにか……」

 

「……!」

 

 綿菓子の影が甘美たちに襲いかかる。

 

「おらあっ! ~~♪」

 

「!」

 

 陽炎がギターをかき鳴らすと綿菓子の影が霧消する。現が驚く。

 

「ど、どうやったんだ⁉」

 

「甘い綿菓子にはビターなサウンドだぜ……」

 

「は、はあ……?」

 

「なるほど、相殺させたのですね!」

 

「そういうこった!」

 

「わ、分からん……ん⁉」

 

 小型飛行機の影が現れる。甘美が頷く。

 

「今度は飛行機ですか! ひこうき雲だけに!」

 

「なかなかファンキーな夢を見てんじゃねえの!」

 

「こ、こっちに向かってくるぞ!」

 

「任せろ! ~~♪」

 

「‼」

 

 陽炎がギターを速く鳴らすと飛行機の影が霧消する。現が聞く。

 

「……今度は何をした?」

 

「スピードにはそれ以上の速弾きだ!」

 

「はあ?」

 

「なるほど、圧倒したのですね!」

 

「わ、訳分からん! ん⁉」

 

 大きな体をした影が現れ、甘美たちに迫ってくる。

 

「お次は入道ですか! 入道雲だけに!」

 

「パワーで来るならば! ~~♪」

 

「……?」

 

「つ、通じねえだと⁉」

 

「ただ大きい音を出せば良いというものではないよ……」

 

 そこに青メッシュの女性がベースを持って現れる。陽炎が驚く。

 

「お、お前は⁉」

 

「合わせる……好きに鳴らして」

 

「おおっ!」

 

「現! わたくしたちも!」

 

「あ、ああ!」

 

「⁉」

 

 甘美たちの音の圧を受け、大入道の影は霧消する。それによって、四人や他の人たちも目を覚ます。その後、イベントは開催され、つつがなく終了した。

 

「……なんだか不思議な体験をさせてもらったよ。君たちと一緒ならボクの心も常に満たされそうだね……ボクは六口刹那(むぐちせつな)。君たちのバンドに参加させてもらうよ……」

 

「! よ、よろしくお願いしますわ!」

 

 甘美が刹那と名乗った女性と、がっしりと握手をかわす。

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