【第一章完】この厳島甘美にかかればどうということはありませんわ!   作:阿弥陀乃トンマージ

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第6話(3)水の夢世界

「……こうしてはいられませんわ!」

 

「ちょ、ちょっと待て、甘美!」

 

 正気に戻った現の制止を振り切って、甘美がステージに向かう。ちょうどリハーサルが終わったところであった。甘美がシニヨンの女性に声をかける。

 

「そこの貴女!」

 

「え?」

 

「シニヨンの貴女!」

 

「アタシ?」

 

「ドラムの貴女!」

 

「ええ、それは分かったけど……何かしら?」

 

 シニヨンの女性がステージ上から甘美の方に歩み寄る。胸元が大胆に開いた上着と、スリッドの入ったロングスカートを穿いている。

 

「え、えっと……」

 

「……」

 

「い、いや……」

 

「……何か御用かしら?」

 

 シニヨンの女性が問う。

 

「い、いえ、何でもありませんわ」

 

「あ、そう……」

 

「失礼いたしました……」

 

 甘美が回れ右をして、ステージから離れる。

 

「うおおい! 何やってんだ、カンビアッソ!」

 

「はっ⁉」

 

「そこで戻ったら意味ねえだろう!」

 

「わ、わたくしとしたことが、彼女の妖艶な雰囲気に呑まれてしまいましたわ……」

 

 陽炎に声をかけられて、甘美がハッとなる。現が呟く。

 

「珍しいこともあるものだな……」

 

「カンビアッソ!」

 

「ええ、分かっていますわ。気を取り直して……あ、貴女!」

 

 甘美がシニヨンの女性の方に向き直る。

 

「何か?」

 

「あ、貴女のドラム、とっても素晴らしかったですわ!」

 

「そ。 ……どうもありがとう」

 

「え、ええ……」

 

「それじゃあ失礼……」

 

 シニヨンがその場から離れようとする。

 

「ちょ、ちょっとお待ちになって!」

 

「……何?」

 

「単刀直入に申し上げます! わたくしたちのバンドに入りませんか?」

 

「え~嫌」

 

 シニヨンの女性が即答する。甘美が面食らう。

 

「な、何故⁉」

 

「何故って……今はこのバンドに入っているから。ヘルプだけど」

 

「ヘルプ! 正式なメンバーというわけではないのでしょう⁉」

 

「それはまあ、そうなんだけどね……」

 

「ならばよろしいではありませんか⁉」

 

「う~ん……」

 

 シニヨンの女性が首を捻る。

 

「ど、どうでしょうか?」

 

「やっぱり嫌かな」

 

「い、嫌⁉」

 

「うん、嫌」

 

「なにが嫌なのですか⁉」

 

「フィーリングが合わなそうなのよね~」

 

「フィ、フィーリング⁉」

 

「そう」

 

 シニヨンの女性が頷く。

 

「何を以ってそういうご判断を⁉」

 

「貴女とお友達の……雰囲気?」

 

 シニヨンの女性が甘美と陽炎を交互に指差して告げる。甘美が戸惑う。

 

「ふ、雰囲気って⁉ そんな漠然としたもので!」

 

「案外そういうものが大事になってくるのよ~」

 

「メ、メンバーは他にもいます! あの二人をご覧ください!」

 

 甘美が現と刹那を指し示す。シニヨンの女性がそちらに視線を送る。

 

「ふ~ん……?」

 

「い、いかがでしょうか?」

 

 甘美が恐る恐る尋ねる。

 

「やっぱり嫌かな~」

 

「そ、そんな⁉」

 

「だって見るからにノリが合わなそうなんだもの。巫女服にダウナー系ファッション……」

 

「また、そんなあやふやなことを!」

 

 甘美が憤慨する。

 

「だからそういう要素が意外と重要になってくるんだってば~」

 

「そんなアバウトなことで決めてもらっては困ります!」

 

「……『良さげなドラム』とかって言ってなかったっけ?」

 

「刹那、それは今言ってもしょうがない……」

 

 刹那の呟きに対し、現は静かに首を振る。甘美が右手の人差し指を立てる。

 

「で、では、こうしましょう!」

 

「は?」

 

「わ、わたくしたちの演奏を聴いて判断してください!」

 

「なんで条件を突き付けられているのか分からないんだけど……」

 

 シニヨンの女性が首を傾げる。

 

「だ、駄目ですか⁉」

 

「……まあ、聴くだけ聴いてみるわ」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 それから甘美たちのリハーサルの番になる。リハーサルが終了し、控室となっているテントに戻ってきた甘美が椅子に足を組んで座っていたシニヨンの女性を見つける。

 

「……」

 

「い、如何でしたか?」

 

「ボーカル、お上品過ぎ……」

 

「なっ⁉」

 

「ギター、走り過ぎ」

 

「ああん⁉」

 

「対照的にキーボードが大人しいわね」

 

「む……」

 

「ベース、小器用なのが逆にちょっとね……」

 

「ぎゃ、逆にちょっとって何?」

 

 シニヨンの女性の言葉に四人がそれぞれ面食らう。

 

「だけど……」

 

「だけど?」

 

「アタシなら……zzz」

 

「お、お眠りになった⁉」

 

 甘美が驚く。

 

「こ、これは……!」

 

 現が周囲を見回す。スタッフや他の出演者たちもどんどんと眠りについている。シニヨンの女性は腕組みをしながら、船を漕いでいる。

 

「恐らくはこの方の夢世界の影響! 行きますわよ!」

 

 甘美がシニヨンの女性をビシっと指差し、鈴を鳴らして、自分たちも夢世界に向かう。

 

「こ、これは……⁉」

 

 現が周りを見回す。多く並ぶレンガ造りの建物の間を川が流れ、まるで水上都市のような世界が広がっている。

 

「ふむ……さながら水の夢世界と言った感じですね……」

 

 甘美が腕を組んで頷く。

 

「っていうか、これはどういうこと?」

 

 刹那が尋ねる。

 

「……説明を」

 

 甘美が現に促す。

 

「いや、面倒臭がるな!」

 

「貴女の方が、説明がお上手ですわ」

 

「こういう時ばかり持ち上げて……」

 

「あの……」

 

「いや、先日も一面に雲が広がる世界に迷い込まなかったか?」

 

「そういえば、そんな夢を見たような気が……」

 

 刹那が顎に手を当てる。

 

「あれが刹那の夢世界だ」

 

「夢世界……」

 

「正直、詳しいことは私たちもよく分かっていない。ただ、何らかの心理的なストレスを抱えている場合に、こういう夢世界が展開されるようだ」

 

「ふ~ん……つまりここはあの女の人が見ている夢の中ってこと?」

 

「恐らくな」

 

「なんでボクたちは入れるの?」

 

「……さあ?」

 

「ああ、それも分からないんだ……」

 

 首を傾げる現を見て、刹那が困惑する。陽炎が声を上げる。

 

「細かいことは気にすんなって、セットゥーナ!」

 

「お前はもう少し気にしろ」

 

 現が呆れ気味の視線を陽炎に送る。

 

「要はノリだよ、ノリ! さあ、行こうぜ!」

 

 陽炎が小舟に飛び乗る。甘美が頷いて続く。

 

「そうですね、参りましょう。ボスさんを倒さないと、夢世界から出られないようですから」

 

「……一応聞くが、当てはあるのか?」

 

「……川の流れに身を任せましょう」

 

「はあ……」

 

 甘美の適当とも思える言葉にため息をつきながら、現たちも小舟に乗る。

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