【第一章完】この厳島甘美にかかればどうということはありませんわ!   作:阿弥陀乃トンマージ

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第12話(3)歌唱対激震

「……こうして先に来たのは良いのですが……」

 

 甘美は周囲を見回す。

 

「しかし、この夢世界……やはり相当な広さですわね……」

 

 甘美が冷静に呟く。

 

「このまま闇雲に走っても仕方がないのかもしれません……」

 

 甘美が腕を組んで考え込む。

 

「……」

 

 甘美は再び周囲を見回す。

 

「この夢世界は恐らく、大学を模している可能性が高い……」

 

 甘美は自らが走ってきた道を振り返る。

 

「カフェテリアのあたりからこの夢世界に入って……ほぼ真っ直ぐにここまで来ておりますわよね……大学に照らし合わせて考えてみると……」

 

 甘美が額に右手の人差し指を当てて目を閉じる。

 

「……!」

 

 甘美はハッとなって目を開く。

 

「……ちょうど講堂のある建物あたりに向かっているということになりますわね……」

 

 甘美が頷く。

 

「そのあたりにボスさんがいらっしゃるということかしら……」

 

 甘美が再び腕を組む。

 

「……まあいいですわ。とにかく行ってみることにしましょう」

 

 甘美は再び走り出す。

 

「むっ!」

 

 人の形をした影が複数体現れる。

 

「……厳島甘美……」

 

「なっ⁉ か、影がはっきりとわたくしの方を見て喋った……!」

 

 甘美が驚く。

 

「周りにチヤホヤされていてウザい……」

 

「むっ……!」

 

「ちょっと美人だからって調子に乗ってない?」

 

「!」

 

「お金持ちって言ったって全部親のおかげじゃん……」

 

「‼」

 

 影たちがぶつぶつと呟きながら甘美を囲み、距離を詰めてくる。

 

「~♪」

 

「……‼」

 

 甘美がマイクを通して歌うと、影はたちまち霧消する。

 

「……妬み、嫉み、僻み……その類の負の感情を向けられることにはわたくし、子どもの頃からすっかり慣れっこなのですわ……」

 

 甘美が髪をかき上げながら、その場から走り出そうとする。

 

「厳島さん……」

 

「! まだいらっしゃいましたの!」

 

 甘美が振り返ると、さきほどより大きな影が何体か現れる。

 

「学業が疎かになっておりますよ……」

 

「なっ⁉」

 

「音楽などにうつつを抜かしている場合ではないのではないでしょうか……」

 

「うっ!」

 

「そろそろ進路についても真剣に考えるべき時期でございますよ……」

 

「ううっ!」

 

 甘美が思わず立ち止まって耳を塞ぐ。

 

「厳島甘美さん……」

 

「み、耳が痛いことをおっしゃるのは、教員の方々を模した影⁉」

 

「厳島甘美さん、指導します……」

 

 影たちが甘美を壁際に追い詰める。

 

「くっ、後がないということですか……しかし!」

 

「………」

 

「~~♪」

 

「………‼」

 

 甘美の歌声の圧に押されて、影たちが霧消する。

 

「……わたくしは歌、音楽の道を進んでいこうと思っておりますの……」

 

 体勢を立て直した甘美が呟く。

 

「甘美さん!」

 

「‼ まだいらっしゃいましたの!」

 

 甘美が周囲を見回すと、さきほどよりも影が多く現れる。

 

「写真撮っても良いですか⁉」

 

「握手してください!」

 

「SNSに書いても良いですか⁉」

 

「な、なんですって⁉ ぐっ……!」

 

 甘美は無数の影に手足を掴まれてしまう。

 

「キャアアア……!」

 

「~~~♪」

 

「…………‼」

 

 甘美の歌声によって、影は霧消する。

 

「ね、熱狂的な影……そういうパターンもございますのね……」

 

 甘美が衣服を直しながら呟く。

 

「人気者は大変だね~」

 

「むうっ⁉」

 

 甘美が視線を向けると、そこには小柄でスタイルの良い、緑髪のポニーテールが印象的な女性が悪戯っぽい笑みを浮かべて立っている。甘美が声を上げる。

 

「貴女は……うんぬんのかんぬん!」

 

 甘美の言葉にポニーテールがズッコケる。

 

「な、なにも分かってないじゃないのさ……!」

 

「そのお顔の方はよく存じ上げております!」

 

「そ、そう……では、あらためて……アタイはトロイメライのドリームだよ……」

 

「一体何の御用でしょうか⁉」

 

「……別にわざわざご丁寧に答えてあげる必要はないかねえ……」

 

 ドリームがポニーテールをつかんでくるくると回しながら呟く。

 

「な、なんですって⁉」

 

「……聞きたいかい?」

 

「いいえ!」

 

 甘美が手を左右に思いっきり振る。

 

「ええ?」

 

「おっしゃりたくないのならば別に構いませんわ!」

 

「え……」

 

「それでは!」

 

 甘美がドリームの横を通り過ぎようとする。

 

「い、いや、ちょっと待ちな!」

 

「え?」

 

「え?じゃない! そこは普通聞くところだろう⁉」

 

「こんなところで普通とおっしゃられても……」

 

 甘美が困惑気味の表情を浮かべる。

 

「だ、大体、黙って通すわけないだろう!」

 

「あ、やはりそうですか……」

 

「厳島甘美! アンタの身柄を抑えさせてもらうよ!」

 

 ドリームが甘美をビシっと指差す。甘美が少し距離を取る。

 

「むっ……どうやら本当に狙いはわたくしのようですわね……」

 

「そうだよ」

 

「……出来るものならやってごらんなさいな」

 

 甘美が身構える。

 

「ふ~む……」

 

 ドリームが甘美をじっと見つめる。甘美が首を傾げる。

 

「な、なにか……?」

 

「やめやめ……」

 

「なんですって?」

 

「アタイが直接やるまでもないってことさ……」

 

 ドリームが不敵な笑みを浮かべる。

 

「……言ってくれますわね」

 

 甘美がムッとする。

 

「さっさと終わらせるよ……」

 

 ドリームが右手を掲げると、痩身の影が現れる。甘美が戸惑う。

 

「な、なんですの?」

 

「……それ、やっちゃって」

 

「…………」

 

「むうっ⁉」

 

 痩身の影がなにやらぶつぶつと呟くと、影の口のあたりからなにかが飛び出し、甘美に向かって飛んでくる。甘美は驚きながらも、それをなんとかかわす。

 

「はっ、結構身軽だねえ……しかし、いつまでそれが続くかな?」

 

 ドリームが自らの顎をさすりながら呟く。

 

「……………」

 

「うおっ⁉」

 

 再びなにかが飛び出し、甘美に襲いかかる。甘美がそれもなんとかかわす。

 

「ははっ……!」

 

 ドリームが笑う。

 

「こ、これは一体……⁉」

 

「さあ……なんだろうねえ……?」

 

「それは教えてくれないのですね⁉」

 

「言いたくないのなら結構なんだろう?」

 

 ドリームが両手を広げる。甘美が舌打ちする。

 

「ちいっ……!」

 

「さて……そろそろ仕留めるかな?」

 

 ドリームが瘦身の影に視線を向ける。

 

「………………」

 

 影から三度なにかが飛び出し、甘美に当たる。

 

「うわっ⁉」

 

 甘美が体勢を崩しかけるが、なんとか踏みとどまる。

 

「へえ、踏みとどまるか……なかなかしぶといねえ……だが、次でとどめだ……」

 

 ドリームが笑みを浮かべながら、瘦身の影を促す。

 

「わ、分かりましたわ!」

 

「おっ?」

 

「~~~~♪」

 

「…………‼」

 

「~~~~~♪」

 

 甘美が歌うと、瘦身の影が黙り込む。

 

「‼ …………」

 

 痩身の影が静かに横たわって霧消する。

 

「……つまり、言の葉で攻撃してきたということですわね?」

 

 呼吸を整えながら、甘美が尋ねる。

 

「……察しが良いねえ……今のは詩人の影だよ」

 

「詩人の影……」

 

「詩人の操る言の葉をメロディーに乗せて跳ね返したか……」

 

「まあ、概ねそんなところですわ……」

 

 甘美が頷く。

 

「それじゃあ影じゃなく、アタイが相手をしてあげよう……」

 

 ハートが弦楽器を出現させ、それを手に取る。

 

「むっ……? ヴィオラですか?」

 

「へえ、よく知っているじゃないか」

 

「いや、それくらいは存じ上げておりますが……」

 

「行くよ! これでも食らうがいいさ!」

 

「⁉」

 

 ドリームがヴィオラを弾く。激しく強い音の圧が甘美を襲い、甘美は倒れ込む。

 

「弦鳴楽器の振動を、その身をもって味わってくれたかい? いや、もう聞こえてはいないね……さて、厳島甘美……身柄を確保させてもらうよ……ん?」

 

「片が付いたようだな」

 

「なんだ、助太刀しようと思ったのに……」

 

「フェーズとハートか……あいにく、アタイだけでもなんとかなったよ……むっ⁉」

 

 ドリームが甘美のもとに近づこうとすると、幻、刹那、陽炎、現が駆け付ける。

 

「そうはさせないわ!」

 

「ま、間に合った……」

 

「へへっ……」

 

「貴様らの好きにはさせんぞ、トロイメライ……!」

 

 現が声を上げる。

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