健気系ヒロインのシノンに愛情たっぷりに心配されるの凄い良くない? 作:わっしょい丸
あれから、すっかり寒くなった。
年の暮れまで、あと2ヶ月未満。
秋から冬へと移り変わって、気温だけで言えば真冬と言って差し支えない。
不真面目な受験生は遅めの本腰を入れ始め、勉学に励む時期。
学校も、生徒と教師共に、ここからが最後の追い込みが始まると意気込んでる。
ゆったりとしているのは、私のような推薦受験組だけだ。
といっても、推薦だって落ちる事はあるし、まだまだ気は抜けない。
「寒…」
吐息は、もう真っ白。
つい癖のように、意味もないのに手袋の上から息を吹いてしまう。
外出も億劫になり、手袋とマフラーを常備してでないと寒さも凌げなくなった。
痩せ我慢で、防寒具を身につけない男子も今はもう極僅か。
そんな季節だ。
この頃、彼が、ほんの少しだけ静かになった。
あれだけ毎日私の中で騒いで引っ掻き回していたのに、今日はまだ、彼を見ていない。
記憶に残っている彼は、私と背丈はそんなに変わらないし、元々の子供っぽさもあってか自分の同級生の方がいくらか大人に見えるくらい。
歳が、追いついてしまったから?
貴方が私に見せてくれた部分がそうであっただけ?
それとも……
「耳当ても、必要かも…」
いつ雪が降り出してもおかしくない。
今年の東京は、11月にも関わらずそんな予報が出るほどに寒いらしい。
本当は、分かっている。
辛かった時に助けてくれた、昔の貴方に縋っている、私の弱さだってことくらい。
私の中で、貴方の時計の針を止めていることくらい、分かっている。
実際の貴方は、ベッドに横たわりながら多少なりとも身長は伸びているだろうし、ゲーム内でも精神的に年齢を重ねている。
そして2年も、ゲームという現実を過ごしている。
今の貴方にとっての、現実はそっち。
友達も仲間も沢山出来ているだろう。
恋人だって、出来ていてもおかしくはない。
あいつの家族も、いつ帰ってくるんだとばかりに軽口を叩いていたけど、ここ2週間程は少しその表情に陰を差している。
きっと、私もそうなんだろう。
辛いのは家族の方なのに、気遣ってくれているのがまた心苦しい。
貴方は、私に進んでくれと言うのだろうけど。
その足は、いつ踏み出すことが出来るんだろう。
貴方は、少し抜けてるけど私を気にかけてくれる、私のヒーロー。
頼んでないのにお節介を焼いてきて、その癖あれが食べたいとねだってきて。
2つも年上なのに子供っぽくて、いざという時はしっかりしてて。
私をイジメから助けれてくれて。
不安な時に隣にいてくれて。
そんな貴方の事だから、死ぬような事はない、と。
そう確信めいた気持ちが、少しだけ。
ここ数日、ほんの少しだけ揺らいでいる。
本当は、心停止に陥ってないだけで一生目を覚さないのでは。
そう不安に陥ってしまう。
もしかして私が足繁く通う病室は実は妄想で。
本当はお墓なんじゃないかって――
「あら詩乃ちゃん、こんにちは」
「こんにちは、おばさん」
私を呼ぶ、女性の暖かな声が、沈み切っていた私を引き上げた。
重い足取りで病院に向かっていると、彼の母と出くわしたようだ。
「元気でしたか、彼」
「あの子、今日も本当にただ寝てるだけみたい。
これでゲームしてるって言うんだから、いつ起きても良いのに」
もう2年も繰り返したやり取り。
そう溢したおばさんの声色は、いつものように暖かいが、心なしか表情はやつれているように見えた。
「そうですか」
――ああ、良かった。
まだ、彼は病院で寝ているだけだ。
僅かばかりの安堵。
信じていても、いつ吹かれて飛んで行ってもおかしくない彼の状況には不安は尽きない。
「もう、2年ね」
「……経ちましたね」
そっか、もうそんなに時間が過ぎたんだ。
認識していたはずなのに、他人に言われると、尚更この期間が重くのしかかった。
あれから2年が経過した今でも、新聞やネットニュースでは、SAOのトピックは未だに注目されている方だ。
もっとも報道されるのは、病院にて死亡確認された人数のみ。
初めの頃は、青少年少女を巻き込んだ凄惨なる事件として手厚く取り上げられていたが、最近は小さく記事の一面に乗る程度。
当初はしっかり命を落とした人が掲載されていたのに、ここ半年間はすっかり載らなくなった。
「詩乃ちゃんは、これからよね?
いつも、本当にありがとう」
「いえ、そんな。
あいつが起きた時に、誰かいてあげたいですから」
「そうね…。
あっ、寒いのにごめんなさいね」
「あ、いえいえこちらこそ。足を止めてもらってすみません」
「いいのよそんな!あの子のこと、よろしくね」
「はい、それじゃあまた」
私の前では、いつも通り。
気落ちした様子を見たことがない。
本当は、誰よりも心配だろうに。
私は、不安を隠せているのだろうか。
私は貴方のように、強くいられているのだろうか。
「今日も、来てあげたわよ」
時刻は14時50分。
いつものように病室へ入り、彼が眠るベッドの横に備え付けられた椅子に座る。
「本当に、眠ってるだけみたい」
そうしていつものように私は貴方の頬へと手を添える。
「いつ、起きるのかしら。本当に」
頬を撫でる。
そうしても、貴方はくすぐったそうにしてくれない。
いつもみたいに、私の手を恥ずかしそうに退けてはくれない。
昔のように、仕返しとばかりに頭を撫で返してくれない。
「あとちょっと来たら、もう来てあげないわよ」
あと何度ここに来たら、貴方は起きるんだろうか。
「もうすぐ、あんたのお茶碗、捨てちゃうから」
あと何日で、貴方は私の料理を食べてくれるんだろう。
「もう一緒に、スーパー、行ってあげないんだから…」
ここから何週間か待てば、貴方は私の隣を歩いてくれるのかな。
「もう、あんたの顔、忘れてやるっ。わ、忘れてやるんだから…」
もっと何年か待てば、貴方の笑顔を見れるのかな?
「……っ、うっ、ひぐっ、」
おばあちゃんになるまで、貴方を待てばいい?
「うぇぇぇぇぇ…」
私は、私が死ぬまでに、貴方の声を聞けるの?
「し、の…?」
幻聴。
少しだけ、記憶の声よりしわがれた幻聴。
「…ぇ」
いま確かに、あり得ない声が聞こえた。
聞き間違える事は、ない、声がした。
「しの、泣いてる、、のか…?」
私の頬に、誰かの手が触れる。
「詩乃、、、どうした?」
私のではない、誰かの手に触れた。
「……バカ」
この声を、知っている。
この手が誰かを覚えている。
私は、この人が誰なのかを、忘れられるはずがない。
「……ばか」
「ごめん」
馬鹿だ。
「ばかぁ…」
「ごめん」
本当に馬鹿だ。
「ばかばかばか」
「ごめん」
こんなに心配かけて。
「ばか…!ばか!ばか!ばか!ばか!」
「ごめん」
頭を撫でたって許さない。
「ばかばかばかばか!!!」
「ごめん」
いくら肉じゃがを褒めてくれても、許してやらない。
「……」
「ごめん」
これから何度顔を見ようとも、許してやるもんか。
「ばか。ほんとに、ばか。ばかなんだから…」
「ごめん」
ずっと隣にいても、許してあげるもんか。
「一生、許さないから」
「ごめん」
何があっても許してあげない。
「おかえりなさい」
「ただいま」
絶対に許してあげないんだから。
それでも。
ただ、貴方が無事に帰ってきてくれたから、私はそれでいい。
――私は、それだけで幸せなの。
長い後書きなので、興味ない方はここで閉じちゃってくださいね。
くぅ〜疲れましたw これにて完結です!
3話投稿して酒飲みながらアクセス数見てニヤニヤしてたら、やたらとご好評だったので、ジェバンニが一晩でやってくれました。
一話とここだけは書きたいと決めてたので頑張れました。
プロットなし、頭の中の妄想を出力しただけの内容にも関わらず、沢山の方に読んで頂き、ご好評もしてもらって本当にありがとうございます。
全体を通して言えるのはシノンが書きたかっただけ。
本当にそれだけです。
折角肉付けしたし、もっとオリ主くんで色々やろうとか思った瞬間もありましたが、1日でもエタったら絶対終わらない自信があったので、とりあえずやりたい事優先しました。
この辺は酒テンションで書いたことを特に反省してます。
オリ主くんのリアルネームを最後まで出さなかったのは仕様です。
ロクに活躍してない知らん奴の名前出てきても没入感減ってしまうので。(あるのか知らんが)
ALO
オリ主くんが行く理由もないので、日常を少しだけやるかなぁくらい。
書くところがない。
シノンいない…、saoにもおらんけど
GGO
戦闘せざるを得ないし、シノンにおいて大事な部分なので、原作読んでアニメ見てからしっかりやるかどうか考えます。
書きたいところはかなりある。
健気シノンならぬ、相棒兼嫁シノンになりそう。
AW
戦闘メインなところあるし、謎設定は思いついたけど、そもそもそこまで行くかマジで分からんです。
書きたい所は割とある。
次なる健気シノンは多分ここにいる。多分。
まあやる気が出たら書きます。
酒カスチョロ男なので、酒飲んでる時に感想と高評価を見つけたら書くかもです。
最後はこれシノンかなぁ…?とか思いながら書いてたので、解釈別れると思います。
不一致の方にはすみません、貴方の熱いシノン像を是非教えてださい。
語り明かしたいので酒を奢ります。
長くなりましたが、とりあえず一区切りは間違いないです。
感想と高評価、誤字報告くれた方、並びにここまで読んでくれた皆様、マジでありがとうございます。
書き切れたのは皆様のおかげです。
P.S なんか日間ランキング載ってました、いやマジで本当にありがとうございます。