健気系ヒロインのシノンに愛情たっぷりに心配されるの凄い良くない? 作:わっしょい丸
鈍め無頓着男子の行動に、意味を求めるシノン。なんか良い…
長らく感じていなかった寒さ。
それなりの厚着をしているはずなのに、思わず身を震わせる。
そういえばSAOを始める前も、これくらい寒い時期だった。
SAOの生存者達が、現実世界に帰還してから2ヶ月弱。
アインクラッドでも、充分に季節感の表現はされていたが、やはり現実の人混みと織り成す雰囲気にはまだ及ばないらしい。
以前は煩わしく思っていた人の波が、今だけはどこか感慨深い。
同時に、アインクラッドが少しだけ懐かしく思えるのは慣れ故か。
世間は、12月25日の土曜日。
いわゆるクリスマス。
休みが重なったからか、まだ午前10時頃だと言うのに街はカップルで賑わっている。
医者に驚かれつつ、早々にリハビリを終えて退院した俺は、のんびりと年末を惰眠とゲームで暖かく謳歌するつもり満々だった。
しかし、家へ帰って服を着てみるとあら不思議。
普段使いの服はおろか、寝巻きですらパツパツで家族に笑われる始末。
運動も出来ずにゲームしていたはずの体が、8cm強も成長してくれていたのである。
そんな有難迷惑に伸びた身長に合わせるため、恋人たち跋扈するクリスマスの街へと服の調達に1人ぶらつく事になったのだ。
傍で、腕に抱きつく少女さえいなければ。
「まだお昼じゃないのに、人が多いわね…」
人混みは得意でないはずなのに、何故か意味もなく俺に着いてきた幼馴染。
その右腕は、ここが定位置だとでも言わんばかりに俺の左腕へ巻き付いていた。
「適当に服買って帰るだけだから、わざわざ付き合ってくれないでいいって言ったろ」
「つい最近まで、まともに歩けなかった人が何言ってるの?
おばさんにも頼まれちゃったし、危なっかしくて心配だもの」
「でもお前こういうゴチャゴチャしたの嫌いじゃん」
「2年も寝たきりだった幼馴染を見捨てる程、薄情になったつもりはないわよ」
「別にフラついたりしないし、そんな気を遣わんでも…」
実際、久々に詩乃と歩いてみたかったのは事実だ。
何と言うか…、口には出せないけれど、俺にとっての日常はこの女の子なのだと。
隣で歩いているからこそ、実感しているところはある。
だが、だからと言っても。
「詩乃さん」
「なに?」
「そろそろ離してくれん?歩き辛え」
いくら周りがカップルばかりと言えど、恥ずかしいものは恥ずかしい。
こんなの知り合いに見られたら、何と言われるか。
隣の幼馴染ですら、それは同様のはず。
「イヤ」
そんな考えはお門違いですとでも言いたいのか、ご満悦な表情を浮かべる詩乃。
嬉しそうに、俺のお願いを一蹴。
自分が戻ってから、詩乃はこうして甘える事が多くなった。
以前はこんな直接的なスキンシップはあまりとらなかったというのに。
「さいですか」
どちらにしろ、自分と詩乃はそのような関係だと誤解されている。
今更どんな体勢を取ろうと、2人でいる時点で大して変わらないだろう。
これ以上抵抗しても、機嫌を損ねるのは間違いなく、早々に諦める事にした。
「ところで、まだ?」
「え、何が」
「今日会ってからずっと待ってるんだけど」
そして今度は、詩乃にしては珍しい要領を得ない発言。
全く主語が見当たらない。
年頃の妹を抱える兄は、どこの家庭もこんな感じに察する能力を試されるのだろうか。
「服」
「はい?」
「服、まだ何も言われてないんだけど」
あー、なるほど。
合点がいった。
久々に再会した兄貴分に褒めてもらいたいって感じか?
詩乃の奴、意外と可愛いところあるもんだ。
昔はこんな女の子っぽい服、たしかに着てなかったもんなぁ。
「おー、確かに可愛い。そりゃ2年もあれば女っぽくなるよな」
「……最低」
何故なのか。
これはクソゲーか?
褒めたつもりが、返ってきたのはジト目と罵声。
そしてこれまた何故か、自らを抱くように防御体制を取る詩乃。
「ん? え、あ。いやそういう意味じゃねえって!」
再合点。
慌てて訂正をするも、もう遅かったようだ。
「すぐ思いつくってことは、そういう事も考えたんでしょ。ほんっと最低!」
セクハラの烙印を押され、売り言葉に買い言葉。
「どっちにしろ大してそっちは育ってないだろうが!」
「どこ見て言ってんのよ!」
「いっで!!!こちとら病み上がりみたいなもんだぞ!」
「変な目で見るからよ!ばか!」
顔を赤らめて、つい最近退院したばかりの男の肩をしばいてくる。
なんて奴だ。
こんな女の子になるような接し方をしたつもり、毛頭ないのだが。
俺は、とても悲しい。
「次そんなこと言ったら、口聞いてやらないんだから」
だが、詩乃が隣にいて、何気ないやり取りが出来る。
この何でもないやり取りが、俺の帰って来たかった日常だったんだろう。
この瞬間を、噛み締めるべきなんだ。
きっと、そのために俺はあの世界で刀を振るっていたんだ。
――そうに、違いない。
「ごめん。その、もしかして痛かった?」
「え? いや、大丈夫。なんだか戻って来たんだなって改めて実感してさ」
「今ので? ちょっとキモい…」
どうやら少し呆けていたらしい。
叩いたのは自分のくせに、心配してくる辺り性格が見えてくるものだ。
「日常ってそんなもんだろ?」
「……そうかもね」
呆れたように、詩乃が微かに笑う。
そうだった。
どんな時でも、俺はこの子の笑う顔が好きなんだ。
それが何よりも大事で、尊いと思えたから、俺は生き抜けた。
きっと、そうなんだ。
誰かが、脳裏で嗤った。
――よかったな、ハッピーエンドそのものじゃんか。
他人の生き血を啜ったにしては、反吐が出る程にな。
見えるはずのないその姿は、俺にとてもよく似ていた。
「まあこんなもんでいいだろ」
「ねえ青系多すぎじゃない?」
「いいんだよ、好きな色だし」
ショッピングモールの広大さを改めて実感する。
様々な格安衣服店を回っただけで、男には割かし重労働だ。
普段着れれば何でもいいくらいの感覚の男が、慣れない服選びなんてしたら、ある程度好みに寄るのも仕方がない。
「はぁ…。次は私が選ぶから」
「もうこれ以上はいらねえって。身長また伸びたら使えなくなるし」
「なら少し大きめなサイズを買えばいいでしょ」
「選んでくれるのはありがたいけどさぁ…」
「何か不満でも?」
買い物を始めて、かれこれ3時間強。
俺は少し気疲れ気味だが、流石は女子。
本屋だけで一時間潰して、俺にも付き合ってまだ平然としている。
「いやマジでそれはねぇけど、それより腹減って仕方ない」
「ああ、そうね。確かにいい時間かも」
正直なところ、流石に胃袋くんが限界だ。
病院食で我慢していた身にとって、まだまだカロリーが不足している。
何せ、2年も点滴生活。
重い食が通るようになってからも、その反動は未だ健在だ。
時刻も13時を回っているから飲食店のピークは多少マシになっているはず。
幸い、どこに行っても大して待つ事はないだろう。
「何食べる?」
「重たいのは嫌」
「えー、俺はガッツリがいいんだがなぁ…。じゃあフードコートにするか」
「賛成、それが無難ね」
「うし、行くとするか」
よっこいせ。
膨らんでしまった紙袋を持ち上げ、重い腰を上げる。
男子は、飯の前なら無敵なのだ。
「あれ?朝田さん?」
「あ、本当だ。朝田じゃん」
「奇遇だね、こんなところで何してるの?」
詩乃の苗字呼びに、思わず振り返る。
そこには見知らぬ2人の少年。
詩乃の学校の友人といったところだろうか。
うんうん、友達出来てたんだな。
お兄ちゃんは嬉しいよ…。
「詩乃、友達か?」
「ううん、ただのクラスメイト」
「お前そこはせめて少しは濁せよ…」
「だってそんなに話したことないもの」
束の間の喜び。
分厚過ぎる壁。
取り付く島もないとはまさにこのこと、
今、こいつに友達がいない理由が分かった気がする。
「あ、あはは。いいんです。本当ですから。
そっちの方はお兄さん?」
「ん?あ、俺か。俺はただの幼馴染」
「あー、俺らの先輩だっていう。どうりで見覚えあるわけっすね」
「緋村刀路だ、よろしくな元後輩くん達」
片や物腰柔らかな少年と、もう片や少しチャラいが運動部系敬語を使う少年。
詩乃が大して話したことがないと言う割には、食い下がらない感じ。
むむっ、あわよくば仲良くなりたいという甘酸っぱい匂いがする。
しかし、リアルネームを名乗るのも久しぶりだ。
ずっと使っていたトウシンの名も今では使うことはめっきりなくなった。
「2人は買い物ですか?僕達これからご飯食べるところで」
「お、そうなのか。俺らも丁度昼飯にしようかなってところで」
「お、マジすか。どうせだし、朝田と先輩も一緒に――」
諦めず、露骨に俺を出汁にした誘い。
自分がまともに過ごせなかった、青春の気配をここに感じる。
ここは残り少ない詩乃の学校生活を、より充実にするためにも一肌脱がねばなるまい。
「――デートよ」
ぴしゃり。
どこか浮つく男3人なんて、なんのその。
既に用はないとでも言いだけに、研ぎ澄まされた氷の一言。
思わず、雰囲気が呑まれる。
「だから今デート中なの」
「え、いや詩乃…、これはお前が…」
「刀路は黙ってて」
「でも折角の好意を無下にするのもだな…」
「黙って」
「はい」
意気消沈気味の勇者たちを助けるべく、孤軍奮闘を試みるもあえなく撃沈。
第二陣で攻撃を仕掛け、本陣諸共に粉砕。
困った、ちょっと勝てない。
「そういうことだから、私たち行くわね。じゃあまた学校で」
「え、おい詩乃!」
そして閃光もかくや。
こちらが言葉をかける間もなく、視界から消えていく詩乃。
あ、この感じ真面目にちょっとキレてるやつだ…
「ごめんな後輩くん達!別にデートじゃなくてただの買い物だから!
詩乃の事、学校でもよろしくな!」
「あ、はい」
「それじゃあ…」
気になる女の子に真正面から興味ないと言われたもの。
これは相当に堪えているはずだ。
放心する後輩たちには少し申し訳ないが、急いで詩乃を追いかける。
さらば、詩乃の友達候補…。
君たちの勇姿、俺は忘れないぜ。
機嫌を直すのに、パフェとクレープを要した。
現金なやつだ。
「いっっった!!!!」
「顔に出てるわよ」
女心は、難しい。
あれから刀路を連れ回して、色々と楽しんでいたら時間は一瞬だった。
似合いそうな服を選び、本屋に寄って、私なりに充実した1日だった。
すっかり早くなった陽は落ちて、辺りは特別な街灯と電飾で彩られている。
クリスマス恒例のイルミネーション。
一部の人は、足を止めてロマンチックな雰囲気に浸っているようだ。
「おお、イルミネーションかぁ!久々に見ると良いもんだ」
「そうね、誰かさんは見たくても見れなかったものね」
全く。
これが2つ上だなんて、本当に子供っぽい。
少し見た目が成長しただけで、中身は何も変わってないみたい。
――私が、どう思ってるかも知らずに。
「え、もしかしてまだ怒ってる?」
「ふふっ、冗談よ」
勿論、怒ってなどいない。
少し困ったような顔を見せる、貴方が面白いだけ。
――でも、知らなくてもいい。
貴方が、隣にいる。
なんて事ない、会話を交わせる。
それだけで、私は満たされている。
「手、貸してくれない?」
「詩乃、本当に昔から冷え性だよな」
「女の子は皆そうなの」
「はいはい。袋、片方頼んだ」
こうして怒ったフリをしたら、普段なら恥ずかしがるような我儘を聞いてくれる。
手袋をして来なかったのは、このため。
――本当に?
「今まで全然興味なかったけど、意外と綺麗なもんだな」
「そうね…」
2人手を繋ぎ、歩いて。
こうして、貴方の温もりを感じる事が出来て。
声を、聴くことが出来る。
幸せだと思える。
――正直に伝えるのは怖いから。
「また、来年も来たいな…」
「彼氏いなかったら連れてきてやるよ」
「いらないわ、そんなの」
「それ兄貴分として心配なんだが…」
これでなぜ気付かないのか。
男の子って、皆こうなんだろうか。
――貴方に、嫌われたくない。
「あっ、そうそう。これクリスマスプレゼント。渡せなかった分も含めてな」
「私に?いいの?」
「しょっちゅう見舞い来てくれたって聞いたし、そのお礼だよ」
「今開けても良い?」
「どうぞどうぞ」
こうして女の子にとっての大事な日に、プレゼントをくれる。
――でも、それだけじゃ嫌なの。
「あ、可愛い」
「本当は次会った時に渡そうと思ったけど、今日渡せて良かった」
「ありがとう、凄く嬉しい」
「気に入ったんなら良かった」
なのに、貴方はまるで私を妹扱い。
せっかく2人で過ごしていたのに。
会った時にも可愛いって言ってて欲しかった。
さっきクラスメイトに話しかけられた時だって、すぐに断って欲しかった。
――それだけじゃ、足りない。
「でも、伊達とはいえメガネをプレゼントする意味って知ってる?」
「いや、知らんけど…。似合うかどうかしか考えてなかったし」
「だと思った。まあいいわ」
「え、もしかしてヤバいやつ?」
「ナイショ、調べちゃダメよ」
「いや教えろよ、まあいいけどさ」
教えてあげない。
どうせこの辺りの意味なんて、勧んで調べなさそうだし。
――私をちゃんと見て。
「次はネックレスが欲しいかも…」
「随分と気が早いこって…」
「誕生日も2年分貯まってるでしょ?」
「え、それ俺が気遣って言う事じゃねえの?
でも、確かにそういうのは必要になってくるか」
「そうね。いくらあっても困らないだろうし」
「なら精算ついでじゃないけど、誕生日に送ってやるよ。8月21日だろ」
「意外、覚えててくれたんだ」
「忘れるわけないだろ」
これは本当に意外だった。
家族の誕生日ですら即答出来ないのに、まさか私の方を覚えているなんて。
――貴方と、ずっと、一緒にいたい。
「次のあんたの誕生日プレゼント、腕時計にしようかしら」
「お、良いね。詩乃はセンスあるしな、期待しとくわ」
でも異性に贈るアクセサリーの意味は、教えてあげない。
――貴方と、一緒の時間を過ごしたいから。
誤字脱字報告、感想、マジで感謝の御の字。
本当にありがとうございます。
おや…?オリ主くんの様子が…?
そりゃ設定上だけとはいえ、攻略組にいたんだし色々大変だったよね。
ここから大変そうだねぇ、オリ主くん。
でも名前出たよ、よかったね!
アクセサリーの意味は調べれば出ます。
分かりづらい配置になったけど書いてもいます。
メガネだけ勝手な解釈です。
シノン書いてて楽しいけど、割と暴走しがち。
自分の脳内シノンが勝手に動いちゃった。
読みづらくてすみません。
てかなんか、続いたんすよね…
凄え勢いでドコドコ増えていった感想とかお気に入りとかを見て、気が付いたら日間ランキング入りしててモチベ出ました。
それで書き出す、自分のチョロさに驚いてます。
一文一単語捻り出せす度に思いますが、本当に皆様のおかげです。
せめてキリよいところで消えれるように頑張ります。
オラに元気を分けてくれー!(感想や高評価等で溜まります)
文書書ける人、皆シノン書いて♡
多分、次くらいからGGO編入る…?
表現力が足りるかは知らんとです。