海原駆ける龍 ―霧嫌いの霧― 作:直接脳内にファ〇チキ
音が、聞こえる。ザザーン、或いはザパーンという水が何かにぶつかり、弾かれるような……そんな音が聞こえる。
この音は……波。随分と穏やかな音がしている。
耳に入る、海でよく聞くそんな音にふとそう思い、慌てて起き上がる。
……変な音も鳴ったし相当な速さだったように思った。
「はっ、はぁ…はぁ、はぁ……」
胸に手を当て、少しずつ呼吸を落ち着かせて行く。
若干の違和感こそ感じたものの、すぐに呼吸を安定させることが出来た。
落ち着いたから、じゃあ次は骨の確認を………と、体の各部を擦りながら目を開けてみて、思考が停止した。
「え……」
眼前に広がっていたのは、太陽の光を反射しギラギラとした光を放つ揺れる水面。
どこまでも広がるその景色の先には、水平線すらも見えている。
――おかしい。
ワタシはそう思った。
人間である以上、睡魔に負けて途中で居眠りすることは確かにあるだろう。
だが、これは絶対におかしい。
目を覚ましてみれば海――それもどこからどう見ても浅瀬には見えない遠洋――ということは、少なくとも眠った時点で海原に出ていたということになる。
普通の人間であれば、身一つで海に出るなど自殺行為もいい所であり、なんならこうして目覚めることなく永眠なんて自体も有り得た筈だ。
……ということは少なくとも、何かしらの”船"に類する物に乗っているということになるのだが、そう考えるとまたこれもおかしいと思う。
窓越しでもなんでもなく、直接海原を見渡せる――それは逆に言えば雨風を凌ぐ遮蔽物が何も無いということの証左でもあり、著しく天候を変えやすい山程では無いものの、この地球という星の下にいる限り雨は降るし、風も吹く。
なら普通は対策の一つや二つはする筈なのだ。というかしていない方が変だろう。
だが現に今こうして思考を巡らせている間も、空から降り注ぐ日光は何にも遮られることなくワタシに到達している。
「……」
そこで、チラリと視線を海から外し、足元へと向けた。
その際に一瞬視界に入ったワタシ自身の体に激しい違和感を覚えたが、今は置いておく。
とにかく今重要なのはそちらでは無い。
今考えなければならないのは……この軍艦が持つ甲板と似た物を有する船が、一体何物なのかということだろう。
見たところ、材質は未知の物質のようだ。
理由こそ分からないものの、先程からまるでまるっきり別の物からこの甲板へと形――だけなのかは不明だが――を変えているように感じる
そもそもの話、物語に出てくる魔法や錬金術でもない限り、全く違う物質から新たな物質を生み出すことなど不可能なのだ。
そんな万能とも言える技術、或いは物質が存在するのならば、人類は今も人類という体裁を保ってはいなかっただろう。
人間というのは本質的に強欲な種族。
そう考えれば、自ずと察しはつくというもの。
……とまあ長々と否定したとはいえ、眼前のソレには何も言えず黙り込んでしまう。
現に、仮称:船であろう物と触れている手からは、鋼鉄の冷たさを感じているのだから、今の自分の考えにどれだけの信憑性があるのかも分からない。
結局のところこれは一般的な考えを元に口にしただけであり、ワタシが一人で考えたものでも――?、いや待て……そもそも
そんな一人称をこれまで使った事は無い筈……
それに、改めて考えると口調にも違和感がある………
「
警鐘を鳴らす頭脳を無視し、先程激しい違和感を抱いた己自身の体を見つめた。
"黒い”
ワタシはとにかくそう思った。なにせ頭から足先まで、黒一色なのだ。
そう思ってしまうのも無理はないと思う。
黒一色の飾り気のないバイザーから始まり、同じく黒一色のサイバージャケット。
膝丈のズボンとロングブーツもまた同じく。
極め付きには、それらの服を纏う
髪は暗黒色のロング、当たり前のように目も真っ黒で、違うのは肌の色くらい。
そんな統一感すら感じる黒の中に、たった一つだけ放り込まれた、この病的なまでに白く血の気の無い肌だけが、この体で異彩を放っていた。
それにしても、いくらなんでも黒が多過ぎる……それに元々抱いていた違和感に加え、強烈な不快感まで湧き上がってきた。
このなんとも言えない感覚……まるで、別人の体に入り込んだような嫌な感じ……
違和感と不快感の正体を探ろうとすればするほど、思考はドンドン深みへと嵌って行く。
ドツボに嵌った思考は抜け出そうとしても中々抜け出せず、更なる深みへと落ちて行く。
……あれからどれほどの時間が経過したのか。
不意に意識が覚醒した時、辺りには帳が落ちていた。
あれほど光を放っていた太陽は、既に沈みきってしまっていたらしい。
「―――はっ」
頭を抱えた。
こんな何が起こるか分からない場所で考え込むなんて、普通に考えて危険過ぎる。
ましてやこの海には■の連中が……?
「■?――っ!?」
激しい頭痛が襲いかかった。
頭が割れるように痛いとはこういうことか、と思わず言いたくなるほどの激しい痛み。
人目を気にする余裕すらなく、声にならない悲鳴を上げながら、痛みに苦しむままに船の甲板らしき物の上でのたうち回った。
痛みが走る度に――まるで歯車がカチリと噛み合って行くような感覚がする。
痛みが走る度に――少しずつ思考がクリーンになって行くのを感じる。
痛みが走る度に――
そして何よりも――たった今ワタシは、忘れていた記憶を……思い出した。
「ハァ…ハァァ…ッ…ハァ………」
気付けばワタシは涙を流していた。
流さずにはいられなかった。
東洋方面巡航艦隊所属、軽巡洋艦テンリュウ。
それが今のワタシの名前。元の名前は……思い出せない。
両親の顔も、友人達の事も覚えている。
分からないのは”
好きな食べ物も、趣味・趣向も、どんな顔だったのかも、どんな性格をしていたのかも……何も分からない。
足元がガラガラと崩れていくような気持ちだった。
全身を無力感が包み、何かをする気力も湧かなくなった。
温もりの欠片も無い甲板に寝そべり、ボーッと海を眺める。
時間も気にせず、無力感に苛まれるままに、ただひたすら。
「――ぁ?」
気付けば、雨が降っていた。
この身は霧の戦闘艦、クラインフィールドを用いれば雨風など気にするにも値しない。
更に言えば、この身はメンタルモデル。
雨が気に入らないのならば、銀砂にでもしてしまえばいいのだ。
……分かっていても、できない。
それをしてしまえば、本当に"霧”になってしまう気がして。
「……」
不意にメンタルモデルと艦体をリンクさせ、操艦を行う。
目的地は海底。そこならば、少なくとも雨風には襲われない
……こうして艦を動かしている以上、半ば認めているようなものだが。
そして辿り着いた海底で、また意識を閉じようとして――センサーが接近する反応を捉えた。
「っ!?」
驚愕し、思わず体を跳ねさせる。
主砲と魚雷発射管を接近する何者かへと向け、近付くなと暗に告げる。
しかし、その何者かは気にする素振りすら見せずに悠々とワタシに近付いて来る。
「く、来るな!」
ワタシは迷わず主砲を放った。
放たれたレーザーは水中であるが為、少しの減衰こそされたが、目標たる何者かへと真っ直ぐ向かって行った。
何者かはまさか砲撃されるとは思っていなかったようで、動きに多少の動揺が見られたが、冷静に回避行動を取り、再度ワタシに向かって来た。
「来るな!来るなと言っている!離れて!」
ワタシは主砲を、魚雷を、果てにはミサイルすらも打ち出した。
重力子兵器を除く、ワタシの持つ全てを放つが、狙う余裕すら無くなって行った為か、相手は最初ワタシに向かって来た時のように、気にする素振りすら見せなくなった。
そして、突然何かを切られたような感覚が生じ、意識に暗幕が落ちる。
「セキュリティがあまりにもザル過ぎる……それに、なんだ?この反応は……」
最後に聞こえた小さな声は、困惑に彩られているように気感じた。
不意に目を覚ました。
間違っても気持ちのいい目覚めとは言えず、無理矢理起こされたようなものだからか、むしろ不愉快だった。
だがそんな気持ちはおくびにも出さない。
当たり前だ。この
それ程までに、目前の艦とワタシでは実力に差があり過ぎた。
「目覚めましたか。軽巡テンリュウ」
霧の艦隊総旗艦、超戦艦”ヤマト"。
それが、彼女の名前だった。
テンリュウさんはまだあちこち混乱状態で、人と霧の常識や知識、感覚等がごちゃ混ぜになっている状態だということを描写しようとした所、少々読みにくいところが出来てしまったかもしれません。
申し訳ございません。
それと、前に書いてからかなり間が空いてしまいましたが、これからもボチボチと続けていこうと思います。
出来れば応援よろしくお願いいたします(>人<;)