「はあ、はあ、はあ…」
真っ暗な廃墟の中、ボロボロになった黒咲は目の前のアカデミアとデュエルをしている。
お互いのライフは1000で、相手フィールドには《古代の機械巨人》が残っている。
しかし、黒咲は先ほど、《RR-ライズ・ファルコン》のエクシーズ召喚に成功し、自身の効果でパワーアップもさせていた。
「《ライズ・ファルコン》で《古代の機械巨人》を攻撃!ブレイブクロー・レヴォリューション!!」
炎のようなオーラを纏った《RR-ライズ・ファルコン》の突撃によって、《古代の機械巨人》は消滅する。
しかし、相手のライフを0にすることができず、そのまま相手のターンになる。
「私のターン…」
相手の声が聞こえるのと同時に地面が大きく揺れ始め、彼のフィールドに《鋼の歯車最古人類》が現れる。
「何!?このモンスターは…まさか、貴様は…!!」
「眠れ、誇り高きレジスタンスの戦士よ」
相手の姿がブーンに変わると同時に、《鋼の歯車最古人類》の剣が《RR-ライズ・ファルコン》を貫き、爆散させた。
「うわあああ!!!」
黒咲
ライフ1000→0
爆発の衝撃で吹き飛んだ黒咲は壁にぶつかり、前のめりに倒れる。
「く…くそぉ…」
周囲が炎に包まれていき、その炎を悔しげに見る黒咲の眼に信じられない光景が浮かぶ。
「あ、あれは…」
そこには倒れたユートと瑠璃の姿があり、彼らはオベリスクフォースによって担がれ、どこかへ連れていかれつつあった。
「ま、待て…ユート、瑠璃を…放せ…」
追いかけようと地面をはいずる黒咲だが、その右手をブーンが踏みつける。
右手に伝わる激痛に耐えながら、黒咲はブーンを見た。
「アカデミア…め…!」
「お前の戦いは、ここで終わりだ」
ブーンがデュエルディスクを操作し、そこから紫色の光が発生する。
それは人間をカードに変える、黒咲たちにとって忌まわしき光だった。
「うわあああああ!!!!」
「ユート、瑠璃!!」
「黒咲!?」
「大丈夫?黒咲…」
いきなり目を覚まし、親友と妹の名前を叫んだ黒咲に遊矢と柚子は驚きを見せる。
遊矢の手には交換された包帯が握られていて、柚子の手には濡れたタオルがあった。
周りを見ると、そこはスペード校の難民キャンプのテントの中のようで、そばにあるランタンが唯一の光源となっていた。
「スペード校…か…?」
「うん…」
「そうか…俺は、敗れたのか…。だが、なぜここに…?」
黒咲は必死に記憶をたどるが、夢の中に出てきたブーンとのデュエルで敗れて以降の記憶がぷっつりと途切れてしまっている。
あの軍人のような性格をしているブーンが自分を破ったにもかかわらず、なぜ柚子がさらわれずにここにいるのかが分からなかった。
質問された柚子は何も言えず、暗い表情となって目をそらす。
「柚子…黒咲、俺が説明するよ。あの後、何があったのかを…」
《鋼の歯車最古人類》の一撃を受け、敗れた黒咲はあおむけになって力尽きた。
「黒咲!!」
「レジスタンスの戦士は倒した。あとは…」
ブーンは黒咲をカードに変えることなく、穴から出てくる遊矢たちに目を向ける。
彼らは翔太が病院から調達したはしごで脱出していた。
「柊柚子、任務遂行のため、来てもらうぞ」
ブーンの言葉に従うように、《鋼の歯車最古人類》は柚子に手を伸ばす。
「まずい…逃げろ、柚子!!」
「間に合わない…!!」
登って出てきたばかりの柚子はすぐに走り出すことができず、そのまま巨大な手が柚子をさらおうとしていた。
「柚子ちゃん!!」
その時、伊織が柚子をかばい、《鋼の歯車最古人類》に捕まってしまった。
「伊織!!」
「何…??」
翔太の叫ぶように読んだ彼女の名前を耳にしたブーンはピクリと反応する。
そして、《鋼の歯車最古人類》がつかんでいる伊織を自分の目の前まで動かせた。
彼女を見たブーンはデュエルディスクを操作し、転送を開始する。
「おい、逃げるつもりか!?」
直にでもデュエルができることをアピールするかのように、翔太はデュエルディスクを展開する。
しかし、ブーンたちを包む青い光は消える気配がない。
「この少女は預かる。取り戻したければ、この次元の我らの拠点まで柊柚子と共に来い」
そう言い残したブーンは《鋼の歯車最古人類》と伊織諸共光の中へ消えてしまった。
「…くそぉ!!俺が…奴に敗れたばかりに…!!」
遊矢の話を聞き、やり切れぬ思いをぶつけるかのように床に右拳をたたきつける。
しかし、同時に包帯で包まれている右腕から激痛が発し、左手でそれを抑える。
「動くな、黒咲!体のあちこちが火傷していて、打撲もある!しかも、右腕と六傑が何本も骨折しているんだぞ!?」
「その傷が何だと言うんだ!?仲間がさらわれたのなら、すぐにでも…うう…」
無理に起き上がろうとした黒咲だが、痛みと共に脱力感に襲われ、抗うことができないまままた横になった。
「今は安静にしてくれ、今は剣崎さんと神代さんが作戦を立ててる。だから…」
「…くそっ、くそぉ…」
左腕で目を隠した黒咲を見て、遊矢は柚子の腕を握り、そのまま外へ連れ出す。
1人だけになったテントの中で、黒咲は声を殺して泣いた。
破れたにもかかわらず、生き恥をさらす屈辱と仲間をさらわれた無念をかみしめながら。
「遊矢…黒咲、大丈夫かしら?」
テントを出て、談話室へ向かう中、柚子はテントに残した黒咲の身を案じていた。
体へのダメージ以上に、ブーンに敗北したショックの方が大きく思えた。
遊矢達も黒咲があのような一方的に負けたのを見るのは初めてだ。
「今は立ち直るのを信じるしかないよ…。俺たちは、俺たちの今できることをやろう」
「そう…そう、よね…」
アカデミアと何年も戦い続けた黒咲に、数カ月程度しか戦ったことのない自分たちが言葉をかけたとしても、彼の心に届くことはない。
みんなを笑顔にしたいと思う遊矢はその何もできない悔しさを胸にしまい、侑斗とウィンダ、凌牙の待つその場所へ向かうしかなかった。
「違う…もう少し罠カードを入れるべきか…」
一方、翔太は外で自分のデッキと向き合いつつ、抜くカードと新たに加えるカードの選別を行っていた。
魔装カードそのものは石倉純也が使っていた既存のカテゴリーであるものの、翔太が使うそれとは勝手が違う。
使えるとしたら、比較的汎用性の高い効果を持つ物しか入れることができない。
「仲間が捕まったにしては、かなり冷静みたいね」
レジスタンスのメンバー3人の監視を受けながら、グレースが翔太に声をかける。
3人とも疑いの眼差しを向けているが、それについてはあまり気にしないことにしていた。
そんな彼女に目を向けることなく、翔太は黙々とカードをいじる。
そして、ある程度カードの選別を終え、カードケースにしまうと、グレースに声をかける。
「あのブーンって野郎が言っていた、エクシーズ次元でのアカデミアの拠点の場所は分かるか?」
「…知って、どうするつもり?」
「言わないと…分からないか?」
じっとグレースをにらむように見ながら、小さいもののわずかにいらだちの色のこもった声で問いかける。
それを知った場合、彼がどうするかはグレースには手に取るように理解できた。
「たった1人で向かうつもりでしょう?それは…あなたのボスが許さないと思うわ」
「放っておけ。あの野郎はボスじゃない。それに、遊矢もたった1人で治安維持局の本部をつぶしたんだからな。俺にもそれくらいのことはできる」
「その話は聞いてる…。けど、わけが違うわ。それに、『欠片』が使えない限りはそこへ向かうのは不可能。ハートランド中を探したとしても、見つけられない」
「何…?」
確かに、レジスタンスはこれまでハートランド中のレジスタンスの掃討を兼ねて、しらみつぶしに本部を探していたが、見つかったという報告がいまだにない。
今のレジスタンスの行動範囲はハートランドの2分の1程度で、残り2分の1を探せばいいとばかり翔太は考えていた。
だが、グレースが言うにはそのような話では終わらないようだ。
「アカデミアのエクシーズ次元本部があるのはハートランドであって、ここのハートランドではないわ」
「…何を言っている?」
「どうやったかわからないけれど、アカデミアはここと同じもう1つの次元を作って、そこを拠点にしているわ。そして、そこから転送装置を使って出撃していたの」
「転送…?」
翔太はここを出発する前、アカデミアの中継拠点をつぶしたレジスタンスが帰ってきたときのことを思い出した。
彼らは奪取した物資とカードと一緒に、何か球体が載ったピラミッドのような不可解な端末を持っていた。
それはこれまでつぶした中継拠点に必ず1つはあったようで、レジスタンス内では解析ができないということで、1つはスタンダード次元へ送り、残りはすでに解体している。
「おかしいとは思わないかしら?なぜ転送装置で次元転移を含めた瞬間移動ができるアカデミアがこうした中継拠点を作っているのかを…」
「まさかとは思うが、そのピラミッドみたいな端末を設置することで、転移できる範囲を広げて…」
翔太の予測を肯定するように、グレースは首を縦に振る。
シンクロ次元の一件の後、レオコーポレーションはシティと舞網チャンピオンシップ中の舞網市の監視カメラの映像データを解析し、アカデミアのデュエル戦士たちの転移地点を割り出した。
解析した結果、次元転移可能であるにもかかわらず、デュエル戦士たちが転移したポイントが一部に集中しており、任意の場所へのピンポイントな転移は難しいことが明らかになった。
実際、黒咲のデュエルディスクを解析して開発した次元転移装置である《ディメンション・ムーバー》も同じで、現在もシンクロ次元でで転移できる場所はごく一部に限られていて、シティの外へ転移することは不可能だ。
そう考えると、エクシーズ次元侵攻のために、無線LANの子機のような中継地点を各地に置くのも分かる。
「中継拠点をつぶすという方針は正しいけど、その中継装置の量産体制は既にできてる。このままでは鼬ごっこよ」
「そうだな…」
「だから、行くとしたら、『欠片』の力を使った転移しかないわ。ちなみに、私のデュエルディスクでは、もうそこへの転移は不可能よ。アカデミアの遠隔操作で、ブロックをかけられてる…」
「…」
カードをしまった翔太は何も言わずにその場を後にする。
その後ろ姿をグレースは静かに見ていた。
(でも…わからない。あの子にいったいどんな価値があるというの?)
「しばらくここでおとなしくしてもらうぞ」
電子ロックがついた独房に入れられた伊織はブーンの無機質な物言いに不満を感じ、頬を膨らませる。
そんなことを気にする男ではないブーンは静かにその場を後にし、赤服のデュエル戦士が見張りとなる。
手足の拘束はないものの、デュエルディスクもデッキも没収され、手持ちの道具は何もない。
脱出手段のない伊織にできることは何もなかった。
「でも…ここってどこ…?」
気絶させられることなく、転移させられた伊織はこの場所の光景を見ていた。
廃墟と化したハートランドとは思えないような整った町並みで、アカデミアのデュエル戦士ばかりであることをのぞいたら、普通の町と変わりない。
この牢屋は地下にあり、その景色をもう1度見たいと思っても、今は見ることができない。
「町並みは…黒咲君が言っていたのとよく似てるけど…」
ランサーズの面々はハートランドのかつての光景を黒咲から聞かされていた。
町の中心部は遊園地になっていて、モノレールと車が通常の移動手段。
オボットという卵のような形のロボットが町中を循環し、ごみの処理をしていることも聞かされており、実際にハートランドの廃墟の中にはオボットの残骸もあった。
「もしかして、ここってもう1つのハートランド…って、そんなわけないよねー…」
考えすぎだと思い、いったんここがどこかを考えるのをやめることにした。
しかし、もう1つの問題が伊織の脳裏に浮かぶ。
「どうして私をカード化しないんだろう…?それに…」
ブーンはあの時、やろうと思えば柚子をあのままさらって帰ることもできた。
しかし、伊織だけを連れて帰り、カード化することもなく、牢屋に閉じ込めている。
まるで自分に利用価値があるかのように。
それに、ブーンは伊織の名前を聞いたとき、ピクリと反応を見せていた。
もしかしたら、自分の出自に関係があるのかもしれない。
「私って…何者なんだろう…?」
「『欠片』を使うことで、拠点に乗り込むことができる。けれど、問題はその間にクローバー校が攻め込む可能性があるということ。その間…」
「ここは丸腰になる。それに、レジスタンス同士が戦うとなると、士気にかかわるだろうな…」
スペード校に戻ってから、黒咲が負傷したことだけは伝えたものの、彼がアカデミアに敗れたこと、そしてクローバー校がこちらに攻め込んでくる可能性があることは伝えることができなかった。
できれば、ランサーズだけでクローバー校の問題をどうにかしたいものの、黒咲の負傷離脱は痛い。
アカデミアとの闘いであればともかく、同じレジスタンスのクローバー公と本気で戦えるメンバーは果たしてどれだけいるか。
「ランサーズは二手に分けるしかないね…でも、優先すべきはレジスタンス同士の戦いを終わりにすることだよ。アカデミアについては陽動をかけたほうがいい」
「陽動って、どんな陽動をかければいいの…?」
「…竜司だったら、何かいいアイデアを出してくれたかも…」
自分にとって、一番の切れ者だと思っている幼馴染である竜司のことを思いながら、侑斗は地図を見ながら何をすべきかを考える。
アカデミアへの陽動とカイトのこれ以上の狂行の阻止。
そのどちらも達成するための作戦が脳裏に淡く浮かぶ。
「凌牙君、今わかっている中継基地の場所は…この地図の中のものだけで全部?」
「いや、あとは…」
凌牙は地図のそばに置かれているノートパソコンにUSBメモリを差し込む。
そして、そのメモリの中に入っている地図を表示し、それについているマークに従って、地図に追記していく。
「クローバー校のデータかい?」
「ああ、逃げる前に失敬しておいた」
「うん…。あとは、いまレジスタンスで動員できる人数は?」
「お前…何がしたいんだ?」
「中継基地全部に対する一斉攻撃だよ。今はアカデミアのエクシーズ次元本部がハートランドにないことを把握したということを知られないようにするんだ」
グレースへの事情聴取で、凌牙と侑斗は本部が『欠片』を使って次元転移しなければ突入できないことを知った。
今は情報漏えいを避けるため、ほかの面々への公開はしていない。
今なら、レジスタンスのメンバーは中継基地への攻撃を依頼したとしても、あまり疑問を浮かべずにやってくれる可能性が高い。
「なるほどな…。で、少数の本命でクローバー校を攻撃か」
「うん。けど、よりアカデミアが本命だと思わせなきゃいけない。だから、ランサーズのメンバーの一部は陽動に加えよう」
「だとしたら、内情を知っている俺は陽動に回った方がいいかもな」
「あとは、カイト君の説得…だね。可能な限り、その方がいいけど…」
リーダーであるカイトを説得することができれば、平和的に事を済ませることができるが、残念なことにそれは理想論に過ぎない。
しかし、説得できるかもしれない黒咲は離脱していて、たとえ黒咲に説得させたとしても、聞き入れてもらえる可能性は低い。
「侑斗、黒咲とカイトのことは考えるな。悪いが…」
凌牙の言いたいことを理解した侑斗は沈黙する。
この作戦で、カイトの生死を目的に含めることはできない。
レジスタンスすら欺く形で仕掛ける、クローバー校を止めるための作戦。
失敗すれば、ランサーズとスペード校に大きな打撃が避けられない。
「よし…しれで、一つ提案だが…」
「提案?」
「ああ、サヤカのことだ。あいつをクローバー校攻略のメンバーに加えてほしい」
「それは…」
翔太とのデュエルの話を聞いているため、サヤカの技量が上がっていることは侑斗も理解できている。
しかし、それでもサヤカは遊矢や柚子よりも幼い。
そんな彼女を、場合によってはカイトを倒さなければならないその場所へ連れていくのは気が引ける。
「あいつにはクローバー校の裏の道を知っている。正面突破して、無駄な時間を使わずに済む」
「でも…」
「分かっているのか!?勝たなきゃならねえんだ…そのためには、使えるものは何でも使う!!それでも、お前はヴァプラ隊のボス、命を預かるリーダーかよ!?」
凌牙の一喝を受け、侑斗はハッとする。
エクシーズ次元、スタンダード次元へ向かい、レジスタンスの強化とヴァプラ隊とランサーズの結成をしたのはアカデミアを倒し、アークエリアプロジェクトをつぶすため。
そして、何よりも侑斗と凌牙自身のけじめをつけるためだ。
「俺たちの世界の戦いが…今回の原因を作ったんだ。だから、その責任を取らなきゃならねーだろ…。そのこと、よく考えておけ」
凌牙はUSBメモリを抜くと、談話室を出ていき、その部屋には侑斗とウィンダだけが残った。
「命を預かるリーダー…か…」
凌牙の言葉を反復するように、侑斗は静かにつぶやく。
凌牙の言うことにも一理ある。
だが、それでも侑斗の中には割り切れないものがあった。
「ユウ…」
「ウィンダ、正直怖いんだ…。仲間を…見知った誰かを犠牲にしてしまうんじゃないかって…」
両親を目の前で失った経験のある侑斗はそういう近くの誰かがいなくなる恐怖を敏感に感じているところがある。
最終的には戻ってきたとはいえ、あの戦いで次々と仲間を失ったことは侑斗にとって大きな衝撃だった。
侑斗の震える手をウィンダは優しく握る。
「ウィンダ…」
「大丈夫だよ、ユウ。何があっても、私はユウのそばにいる。ずっと…ユウはもっと信じてあげて。ユウ自身のこと、みんなのことを…」
「みんあのことを…」
ウィンダの手を握り返し、彼女の緑色の瞳を見つめる。
彼女のぬくもりがまるで自分を包む迷いの霧を吹き飛ばしているような気がした。