明日香に案内され、ユーゴはDホイールを引きながら夜の街の路地裏を進んでいく。
街灯が少なく、迷路みたいな道のりではあるが、幼いころからコモンズとしてスラムのような街中で生きてきたユーゴにとっては慣れた道のりだ。
知らない道というだけで、雰囲気は特に変わりがない。
そんな道を進んでいくと、粗末な板でできた看板がそばに置かれている木製のドアの前で明日香の足が止まる。
「誰も後をつけていないわね…。ここに、あなたに会わせたい人がいるわ」
「会うのはいいけどよ、お前らは何者なんだよ?アカデミアじゃあねえみてーだけど、いまいち胡散臭いぜ」
直感に従って行動はしているが、ここまで移動している間、明日香は一切ユーゴに自分のことを話していない。
それが彼にとっては疑念を生む大きな理由となっている。
そのことは明日香も分かっており、話そうとは思っているが、話すべき場所はもう目の前にある。
「ごめんなさい。けれど、あまり知られたくないから…。一緒に中へ入って。それから、悪いけれど、そのバイクは隠しておいて」
「はぁ…?隠せって言われても…」
周りを見渡して、隠せる場所を探すユーゴだが、唯一あるとしたら隅に押し込めるようにして積み上げられたゴミの山だ。
デュエルの時の相棒と言えるDホイールをそんな汚いところに隠すのは気が引けて、近づくと何とも言えない臭い匂いがして、ゲンナリしてしまう。
だが、隠さないと中に入れず、治安の悪いコモンズで手癖の悪い輩に見つからないように、時にはもっと汚い場所にDホイールを隠さざるを得なかったこともある。
ユーゴはやむなくゴミの中にDホイールを押し込める。
明日香はドアについている小さな窓を開け、そこから自分のデッキから出したカードを中に見せるようにかざす。
すると、中から鍵が開く音がして、明日香は扉を開けると戻って来たユーゴを手招きする。
ユーゴはゴミの中にいる相棒の身を案じながら、明日香に連れられて中へと入っていった。
「静かに進んで。子供たちが起きてしまうから…」
ランタンを手にして進む明日香の後ろをついていくユーゴは小さな窓からそばにある部屋の中を見る。
そこには数人の子供が明日香と同じくらいの年齢の少年と一緒に雑魚寝となっており、彼らは全員まだ小学生くらいの年齢に見えた。
この部屋だけでなく、進んでいく中で通った2つくらいの部屋にも同じくらいの人数の子供たちと明日香と同年代の少年少女が眠っている。
先ほど門番をしていたのは自分と同年代くらいの少年だった。
「あいつら…どうして、こんなところにいるんだ?それに、遊勝塾ってなんだよ…?」
塾や学校の概念などないユーゴにはそこでは何をするのか全く分からない。
ここまでの光景からすると、世話になっていた孤児院と同じような存在のように思えてしまう。
ただ、その認識はここの場合では半分正解だろう。
「彼らは…アカデミアから脱走してきた子供たちよ。見つかったら、カードにされてしまうわ…」
「アカデミアから脱走…?」
アカデミアの一員としたら、頭に浮かぶのはオベリスクフォースをはじめとしたデュエル戦士とリンをさらった男、ユーリくらいだ。
プロフェッサーのため、アークエリアプロジェクトのためというお題目で非道の限りを尽くす彼らばかりだと思っていた分、明日香の話は信じられなかった。
「信じられないのも仕方ないわ。それだけのことをアカデミアはしている…それを知ってしまったから…」
「知ってしまった…?」
「ここに、あなたに会ってほしい人がいるわ」
ユーゴの疑問を遮り、明日香は一番奥の部屋のドアをノックした後で扉を開ける。
古いベッドとタンス、そして小さな丸いテーブルが置かれているだけの粗末な部屋の中には車いすに乗る一人の男性の姿があった。
暗がりの部屋の中で、テーブルの上にある小さなろうそくだけが視界の頼りとなっており、男性の視線が明日香たちに向けられる。
「やぁ…ようやく、見つけてくれたか…。明日香、彼が例の…」
「はい、アカデミアと戦っているデュエリストです、先生」
「先生…?」
「紹介するわ、ユーゴ。彼がこの遊勝塾の先生、榊遊勝よ」
ランタンの明かりでその男の姿をユーゴはしっかりと見ることができた。
ライオンの鬣のように棘のあるオールバックな髪形をしており、薄髭を蓄えた40代くらいの男性で、気になるのはその顔色と服装だった。
若干顔色が悪い様子で、車いすに乗っている彼の体は青い病人服に包まれていて、若干痩せているような感じをしていた。
「やぁ…こんな病人のような格好で迎えることになってしまってすまないな。俺が榊遊勝だ…。よろしくな、…ユーゴ君」
車いすを動かそうとする遊勝を止めるように、明日香が車いすまで移動する。
そして、彼女が車いすを動かして遊勝をユーゴの前まで連れていき、遊勝はすまなそうに明日香に笑みを向けた後で、ユーゴに右手を差し出す。
戸惑った遊勝だが、見る限り友好的である以上は応じなければならないと思い、握手した。
(なるほど…彼に、遊矢に似ているな…)
ユーゴのことは明日香をはじめとした遊勝塾のメンバーの情報収集によって、ある程度把握していた。
彼のいでたちなどを聞く中で、息子である遊矢そっくりだということは分かっていた。
「で、おっさん。やつれてるみてーだけど…何か病気してるのか?」
「ストレートに言ってくるな…。そうだな、ここ半年…体を弱らせていてね。今では車いすがないと辛いところまで来ている…。本当に、年はとりたくないものだ」
話していると、発作を起こし始めた遊勝は胸を抑え、明日香はそんな彼を心配そうに見ながらも、タンスの中から使い捨ての空気注射器を持ってくる。
注射器を受け取った遊勝は首筋にそれを突き立て、中に入っている薬品を押し込んだ。
注射を終えた遊勝はゆっくり深呼吸をしていき、抑えている腕を放していく。
「おいおい、ガキばかりな上に病気のオッサン。とんだ隠れ家だな…。そんなんでよく脱走した奴らを…」
「そう、だな…。エンタメデュエルの先駆者、などと言われてきたが、一皮むけば、このザマだ…。…いや、すまない。こんな話をするために君をここに連れてきたわけじゃないのにな」
なぜか初対面で、あって間もないはずのユーゴに弱い本来の自分の思いをベラベラと話してしまう。
最愛の息子である遊矢に似ているから、ついつい甘えてしまうのか。
だが、今は感傷に浸っているわけにもいかず、彼は遊矢ではなくユーゴだ。
そのことを自分に言い聞かせ、本題に入る。
「ユーゴ…。俺は3年前からここで脱走してきた子供たちを匿って、デュエルを教えている。デュエルの楽しさと、侵略の道具じゃないことを伝えるために…。今はごくわずかだが、そのことを理解してくれる人がこの次元の中にも出てきていて、彼らに助けられて暮らしている…。だが、それもそろそろ限界を迎えようとしている」
「アカデミアが先生の居場所をつかんで、捕まえようと動いているの。もし、見つかってしまったら…」
その後どうなるかは誰も言わずとも分かることだ。
見つかって、本気を出して来たらこんな古ぼけたアジトに隠れる遊勝達にはひとたまりもない。
「俺はともかく、彼らをこのままにするわけにはいかない。だから…ここから移動しなければならない。彼らを匿ってもらった上で、アカデミアへ向かう…プロフェッサーと決着をつけるために」
「決着をつけるって…何があったんだよ??話が見えねえけど…」
「順を追って説明しよう。おそらく、君は別の次元から来たのだろう。だから、きっと俺の話も分かるかもしれない…。俺は元々、ここでもシンクロ次元でもなく、スタンダーヂ次元と呼ばれる次元で暮らしていた…そこで俺はエンタメデュエルの先駆者などと呼ばれ、プロデュエリストとして、俺なりにみんなを笑顔にするためにデュエルをしてきた」
それを続ける中で妻となる洋子と出会い、彼女との間に最愛の息子である遊矢を授かった。
そして、エンタメデュエルの理想を子供たちに伝えるべく、後輩である修造と共に遊勝塾を作った。
転機を迎えたのは3年前で、零児がアカデミアに対抗するためにランサーズを結成しようと計画を立て始めたことだ。
そこでその隊長として選ばれたのは遊勝だった。
彼が選ばれたのはエンタメデュエルの先駆者であり、プロデュエリストであることもそうだが、彼がプロフェッサー、赤馬零王と友人関係であったことも大きい。
アマチュアのデュエリストとして活動していた遊勝は同時期にレオコーポレーションの前身といえる町工場を作っていた零王と出会い、彼に誘われてリアルソリッドビジョンを活用した新しいデュエルを共に作っていた。
その傑作が今のアクションデュエルで、それがきっかけで二人は親友の間柄となった。
そして、遊勝はプロデュエリストとなり、そのアクションデュエルを娯楽として人々に普及することに尽力し、零王は工場をレオコーポレーションへと発展させ、同時にLDSを立ち上げた。
これはリアルソリッドビジョンが扱い方によっては兵器として、戦争の道具としても使えてしまう技術でもあることから、そうなってしまう前に人々の平和と笑顔の象徴にしようと約束しあった結果だ。
零児に呼ばれ、零王が家族や会社を捨てて、プロフェッサーとして他次元への侵略行為を始めたことを聞いた時はその約束もあって、信じることができなかった。
だが、零児が自分の父親を貶めるような嘘をつくような人間ではないことを分かっていたこともあり、それを信じるしかなかった。
しかし、デュエルを戦争の道具にする愚を自分まで犯すことができないと考え、決心したのは零王への説得だった。
遊勝はレオコーポレーションの試作次元転移システムを使い、零王がいる融合次元へ飛ぼうとした。
だが、たどり着いたのは融合次元ではなく、エクシーズ次元だった。
そこで遊勝は融合次元へ向かうための手段を探しつつ、その次元の人々にエンタメデュエルを教えていた。
そして、半年前にアカデミアの侵略が始めり、遊勝はそれを止めるためにエドに挑んだ。
勝利を収めたものの、彼の手で再び次元転移させられたことで、棚から牡丹餅という形で融合次元にたどり着いた。
アカデミアへ向かい、零王の元へたどり着いて説得しようとしたが失敗し、逃げる中で脱走していた明日香と出会った。
そして、彼女と共に遊勝塾を作って、そこで脱走した子供たちを匿う日々を過ごしている。
「情けのない話だ…。親友だと思っていた彼の心を理解できず…説得に失敗して、戦争を止めることができなかった…。エンターテイナー失格だな」
「先生…」
「俺はもう1度、彼に会わなければならない。何としてでも、彼を止める。それが今が…あいつにしてやれることだ」
リアルソリッドビジョンを戦争の道具にさせない、その約束は今での遊勝の胸に宿っている。
その約束を交わした時の彼を今も心に焼き付いている。
零王はその約束を破ったが、だからこそそれを止める義務があると思っている。
「アカデミアへ向かう手段はできている。だが…彼の元へ行くためには今の戦力では足りない。だから…君の力を借りたい。アカデミアのデュエル戦士達と戦えるだけの力を持つ君の力を」
「んん…難しいことは分からねえけど、あんたに協力したら、アカデミアに行けるんだろう?ていうんなら…」
少なくとも、嘘をついておらず、この戦いを止めたいという思いがある。
直感としてそれを感じとったユーゴに断る理由はなかった。
承諾してくれたことで安心したように、遊勝は静かに目を閉じる。
「ありがとう…協力してくれる人が3日後には船を用立ててくれる。それを使ってアカデミアへ向かう。それまではここで…子供たちの世話をしてくれ」
「世話だぁ…??俺、そういうことしたねえけど…」
孤児院では年少の子供たちの世話をした覚えがなく、やったことがあるとしたらデュエルに付き合ったり、教えたりすること、そして自分のDホイールを操縦したり整備したりしている姿を見せることくらいで、彼の言う世話をやっていたのはリンくらいだ。
彼女の真似事ができるとは思えず、どうしたらいいのか悩んでしまう。
「簡単なことよ。私たちにできることを…まずは朝、一緒に見せてあげましょう」
「俺たちにできること…?」
翌朝、太陽の光でランタンやろうそくが不要となった遊勝塾の一番広い部屋には遊勝を除く全員が集まっており、中心で対峙する明日香とユーゴを囲むように全員が座っていた。
「みんな、今日からみんなを助けてくれるユーゴさんがデュエルを見せてくれるわ。シンクロ召喚っていう召喚法を見せてくれるわよー!」
「シンクロ召喚…?」
「融合召喚とどう違うのかな…?」
「俺、聞いたことないぞ??楽しみだなー」
明日香の言葉に子供たちがシンクロ召喚に興味を持ち始め、ユーゴに視線が向けられる。
フレンドシップカップ以来の多くの人目を感じるデュエルとなるが、ここまで大勢の子供たちに近くから見られるのは今回が初めてで、軽いプレッシャーを感じてしまう。
「ユーゴ、このデュエルはあなたの実力を確かめるという意味合いもあるわ…。手加減はなしでお願い」
「そんなこと、はなっからするかよ!そんなこと言うなら、見せてやるぜ。俺の実力を!!」
「ユーゴ、彼女の実力は未知数です。用心深く、ですよ」
「んなこと分かってるっつーの!」
2人のデュエルディスクが展開し、互いに5枚のカードを引く。
「「デュエル!!」」
ユーゴ
手札5
ライフ4000
明日香
手札5
ライフ4000
「先攻は俺だ。俺は《カードガンナー》を召喚!」
カードガンナー レベル3 攻撃400
「《カードガンナー》の効果発動。デッキの上からカードを3枚まで墓地へ送り、墓地へ送ったカード1枚につき、攻撃力を500アップさせる」
デッキから墓地へ送られたカード
・スピードリバース
・SR電々大公
・貪欲な壺
カードガンナー レベル3 攻撃400→1900
「更に俺は墓地の《電々大公》の効果発動!このカードを墓地から除外することで、手札・墓地のスピードロイドチューナー1体を特殊召喚できる。俺は手札から《SR三つ目のダイス》を特殊召喚」
SR三つ目のダイス レベル3 攻撃300(チューナー)
「チューナーモンスター…??もしかして、これってシンクロ召喚の…??」
「その通りだ!チューナーはシンクロ召喚のための必須カード。今からそれを見せてやるぜ!俺はレベル3の《カードガンナー》にレベル3の《三つ目のダイス》をチューニング!十文字の姿もつ魔剣よ。その力ですべての敵を切り裂け!シンクロ召喚!現れろ、レベル6!《HSR魔剣ダーマ》!」
HSR魔剣ダーマ レベル6 攻撃2200
初めて見るシンクロ召喚に子供たちの目が釘付けとなり、中には声を挙げずにただ笑っている子供もいた。
「俺は《魔剣ダーマ》の効果発動!こいつは俺の墓地の機械族モンスター1体を除外することで、相手に500ダメージを与えることができる。俺は《カードガンナー》を除外!!」
《カードガンナー》の幻影が弾丸となって明日香を撃ち抜く。
「キャッ!!」
明日香
ライフ4000→3500
「更に俺は手札から装備魔法《カッチン・ボール》を《魔剣ダーマ》に装備!こいつはスピードロイド、またはクリアウィングシンクロモンスターにのみ装備できる装備魔法だ!」
《HSR魔剣ダーマ》の周囲に2つの透明な玉状のエネルギーが発生し、旋回し始める。
「《カッチン・ボール》の効果!1ターンに1度、装備モンスターのレベル×100のダメージを相手に与える!」
2つのエネルギー玉がぶつかり合うとともに衝撃波が発生し、それが明日香を襲う。
「1ターン目から、ライフを削ってくるなんて…!」
明日香
ライフ3500→2900
「そして、その後で装備モンスターの攻撃力を500アップさせる」
HSR魔剣ダーマ レベル6 攻撃2200→2700
「俺はこれで、ターンエンドだ!」
ユーゴ
手札5→2
ライフ4000
場 HSR魔剣ダーマ(《カッチン・ボール》装備)レベル6 攻撃2700
カッチン・ボール(装備魔法)
明日香
手札5
ライフ2900
場 なし
「先攻1ターン目でいきなり1100もダメージを与えてくるなんて…。やるわね」
「こんなのはまだ序の口だぜ!まだまだこれからだ!!(それに、墓地には除外することで相手の攻撃を封じる《三つ目のダイス》がある。そして、《魔剣ダーマ》は俺のスタンバイフェイズ時にフィールドにカードがない場合、墓地から復活する効果もある。やられたとしても、立て直しはできる…!)」
「私のターン、ドロー!」
明日香
手札5→6
「私は手札から魔法カード《逆境の宝札》を発動。私のフィールドにモンスターが存在せず、相手フィールドに特殊召喚されたモンスターが存在するとき、デッキからカードを2枚ドローする。そして、手札からフィールド魔法《祝福の教会-リチューアル・チャーチ》を発動!」
発動と共に殺風景だった部屋が白と赤がベースのきらびやかとした教会へと変わっていく。
「《リチューアル・チャーチ》の効果。私のターンのメインフェイズ時に、手札の魔法カード1枚を墓地へ送ることで、デッキから光属性儀式モンスター1体か儀式魔法1枚を手札に加える。私はデッキから《機械天使の儀式》を手札に加える」
手札から墓地へ送られたカード
・融合
「更に私は手札から永続魔法《昇華する魂》を発動。1ターンに1度、儀式召喚に成功したときにリリースしたモンスター1体を手札に戻すことができる。手札に加えた《機械天使の儀式》を発動!手札・フィールドのモンスターをリリースして、手札からサイバー・エンジェル儀式モンスターを儀式召喚できる。私は《サイバー・エンジェル-伊舎那-》をリリース!《サイバー・エンジェル-茶吉尼-》を儀式召喚!」
青い肌をした、三度笠とオレンジ色のビキニアーマー姿をした四本腕の女戦士が現れる。
両手に握るのは錫杖で、残り2本の手には蛮刀が握られていた。
サイバー・エンジェル-茶吉尼- レベル8 攻撃2700
「そして、《昇華する魂》の効果発動。リリースした《伊舎那》を手札に戻すわ」
「だき…いしゃ、な…?よく分からねえ名前のモンスターだけど、まさか実質素材なしで儀式召喚するのかよ…??」
ユーゴのいる次元でも、儀式召喚を使うデュエリストはいたが、明日香のようにそれ主体としているデュエリストとは会ったことがない。
あくまでもシンクロ召喚の補助という意味合いの方が大きい。
ユーゴは知らないことだが、他の次元でも儀式召喚を使うデュエリストは存在し、まれにはそれに完全特化したデュエリストも存在する。
そのもっともな例が遊矢が依然戦った方中ミエルだ。
「そして、《茶吉尼》の効果発動!このカードの儀式召喚に成功したとき、相手は自分のモンスター1体を墓地へ送らなければならないわ!」
「何!?俺が墓地へ送れるモンスターは1体だけ…」
《サイバー・エンジェル-茶吉尼-》が錫杖を《HSR魔剣ダーマ》に向け、呪文を唱える。
呪文を受けたそのモンスターは勝手にバラバラになってフィールドから消滅した。
「くっそぉ!!だが、《カッチン・ボール》は装備モンスターがフィールドから離れたことで墓地へ送られた場合、ターン終了時に手札に加えるぜ!」
「けれど、これであなたのフィールドはがら空きよ。バトル!《サイバー・エンジェル-茶吉尼-》でプレイヤーへダイレクトアタック!」
《サイバー・エンジェル-茶吉尼-》が2本の蛮刀を振り回し、剣閃がユーゴに向けて飛んでいく。
「俺は墓地の《三つ目のダイス》の効果発動!こいつを除外することで、攻撃を無効にする!!」
《SR三つ目のダイス》の幻影がユーゴをかばい、剣閃を受け止めた後で消滅する。
「抜け目がないわね…私はカードを1枚伏せて、ターンエンド。同時に、《サイバー・エンジェル-茶吉尼-》の効果発動。私のターン終了時に、墓地の儀式モンスターか《機械天使の儀式》1枚を手札に戻すことができるわ。私は《機械天使の儀式》を手札に戻す」
「なら、俺も《カッチン・ボール》の効果を発動。こいつを手札に戻すぜ」
ユーゴ
手札2→3(うち1枚《カッチン・ボール》)
ライフ4000
場 なし
明日香
手札6→3(《機械天使の儀式》、《サイバー・エンジェル-伊舎那-》)
ライフ2900
場 サイバー・エンジェル-茶吉尼- レベル8 攻撃2700
伏せカード1
昇華する魂(永続魔法)
祝福の教会-リチューアル・チャーチ(フィールド魔法)
カッチン・ボール
装備魔法カード
「SR」「クリアウィング」Sモンスターにのみ装備可能。
このカード名のカードは自分フィールドに1枚しか表側表示で存在できない。
(1):1ターンに1度、装備モンスターのレベル×100のダメージを相手に与える。その後、装備モンスターの攻撃力が500アップする。
(2):装備モンスターがフィールドを離れたことでこのカードが墓地へ送られたターン終了時に発動できる。墓地に存在するこのカードを手札に加える。
「くぅー、実質リリースなしで儀式モンスターを召喚してくるなんてなぁ」
《昇華する魂》と《サイバー・エンジェル-茶吉尼-》、そして《祝福の教会-リチューアル・チャーチ》。
3点セットで儀式モンスターを次々と召喚してくる。
「(逆に言えば、そのどれかを崩せば…流れを持っていくことができる!)俺のターン!!」
ユーゴ
手札3→4
「俺は墓地の《魔剣ダーマ》の効果発動!こいつは俺のフィールドにカードが存在しないメインフェイズ時、墓地から特殊召喚できる。ただし、この効果を発動したターン、俺はモンスターを召喚できない。蘇れ、《HSR魔剣ダーマ》!!」
HSR魔剣ダーマ レベル6 攻撃2200
「そこから《カッチン・ボール》を装備して、効果ダメージを与えるつもり!?」
「そんなことするつもりはねえ!俺は手札から魔法カード《ワン・フォー・ワン》を発動!手札1枚を墓地へ送り、手札・デッキからレベル1モンスター1体を特殊召喚する。俺はデッキから《SR赤目のダイス》を特殊召喚!」
SR赤目のダイス レベル1 攻撃100(チューナー)
手札から墓地へ送られたカード
・アーマロイドガイデンゴー
「いくぜ!レベル6の《魔剣ダーマ》にレベル1の《赤目のダイス》をチューニング!」
2度目のシンクロ召喚のモーションが始まり、子供たちは次に難のモンスターがシンクロ召喚されるのか楽しみなようで、前のめりにユーゴのフィールドを見始める。
「その美しくも雄々しき翼翻し、光の速さで敵を討て!シンクロ召喚!現れろ、レベル7!《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》!」
クリアウィング・シンクロ・ドラゴン レベル7 攻撃2500
「新しいシンクロモンスター…」
「俺は手札に加えた装備魔法《カッチン・ボール》を今度は《クリアウィング》に装備だ!さあ、効果ダメージを受けてもらうぜ!!」
発動と同時にエネルギーの球体2つが《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》の周囲を旋回し、ぶつかり合うと同時に衝撃波が再び明日香を襲う。
「同じ攻撃を二度も受けるつもりはないわ!罠カード《レインボー・ライフ》を発動!手札1枚を墓地へ送り、ターン終了時まで私が受けるダメージはすべて回復に変換されるわ」
明日香
ライフ2900→3600
手札から墓地へ送られたカード
・儀式魔人リリーサー
「くっ…だが、これで《クリアウィング》の攻撃力はアップするぜ」
クリアウィング・シンクロ・ドラゴン レベル7 攻撃2500→3000
「これで攻撃力は《茶吉尼》を上回ったぜ!バトルだ!《クリアウィング》で《茶吉尼》を攻撃!!旋風のヘルダイブスラッシャー!!」
《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》がドリルのように回転しながら《サイバー・エンジェル-茶吉尼-》に向けて突撃する。
胴体を貫かれた《サイバー・エンジェル-茶吉尼-》は爆発するが、その体は緑の粒子となって明日香をいやす。
明日香
ライフ3600→3900
「俺はカードを1枚伏せて、ターンエンドだ!!」
ユーゴ
手札4→0
ライフ4000
場 クリアウィング・シンクロ・ドラゴン(《カッチン・ボール》装備) レベル7 攻撃3000
カッチン・ボール(装備魔法)
伏せカード1
明日香
手札3→2(《機械天使の儀式》、《サイバー・エンジェル-伊舎那-》)
ライフ3900
場 昇華する魂(永続魔法)
祝福の教会-リチューアル・チャーチ(フィールド魔法)
「私のターン、ドロー!」
明日香
手札2→3
「私は《サイバー・ガード・エンジェル》を召喚」
左手の天使の羽根が描かれた純白の盾を装備した、目元を金髪で隠している白衣の天使が現れる。
サイバー・ガード・エンジェル レベル4 攻撃1200
「このカードの召喚・特殊召喚に成功したとき、デッキからサイバー・エンジェル儀式モンスターとサイバー・エンジェルのカード名が記された儀式魔法カードを1枚ずつ手札に加える。私はデッキから《機械天使の儀式》と《サイバー・エンジェル-美朱濡-》を手札に加える。そして、《機械天使の儀式》を発動!私は手札の《伊舎那》と墓地の《儀式魔人リリーサー》を儀式の供物をするわ!」
「何!?墓地のモンスターを素材にできるのかよ!?」
「《リリーサー》は墓地から除外することで、儀式素材とすることができるの。無窮なる力を秘めし光の天使よ。今あまねく世界にその姿現し万物を照らせ!降臨せよ!《サイバー・エンジェル-美朱濡-》!」
白いヴェールを腰につけ、一輪の花を模したかのような服装と頭髪のした美女がフィールドに舞い降りる。
背中には黄土色の歯車のような円盤がついており、降臨したそのモンスターは6本腕をユーゴに向けて伸ばした。
サイバー・エンジェル-美朱濡- レベル10 攻撃3000
「レベル10の儀式モンスター…攻撃力は《クリアウィング》と同じか…!」
「安心するのは早いわよ。《昇華する魂》の効果により、リリースした《伊舎那》を手札に戻す。そして、《美朱濡》の効果発動!このカードの特殊召喚に成功したとき、エクストラデッキから特殊召喚された相手フィールドのモンスターをすべて破壊し、破壊した数×1000のダメージを与える!」
「んなことさせっかよ!《クリアウィング》の効果発動!1ターンに1度、レベル5以上のモンスターの効果の発動を無効にし、破壊する!ダイクロイックミラー!!」
6本の手で印を切り、呪文を唱え始める《サイバー・エンジェル-美朱濡-》に対抗すべく、《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》が両翼からプリズム状の光を発射する。
「そして、破壊したモンスターの元々の攻撃力をこのカードに加える!これで、せっかくの儀式モンスターは…」
「そうはいかないわ!あなたが自慢にしている《クリアウィング》には大きな穴があるわ。この《美朱濡》はその穴を容赦なく襲う。《美朱濡》の効果発動!1ターンに1度、フィールドのカードを破壊する効果が発動したとき、墓地の儀式モンスター1体をデッキに戻すことで、その発動を無効にし、破壊するわ」
「何!?」
《サイバー・エンジェル-美朱濡-》をかばうように、《サイバー・エンジェル-茶吉尼》の幻影が現れ、ビームをその身で受け止める。
無傷で済んだ仲間を見て安心した彼女は促すように首を縦に振る。
促された《サイバー・エンジェル-美朱濡-》は呪文を唱え続け、《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》の頭上に巨大な白い魔法陣が生まれ、そこから巨大な光の柱が落ちてくる。
光を受けた《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》が消滅し、守っていた《サイバー・エンジェル-茶吉尼》も消滅した。
「くそ…!《美朱濡》は対象を取らねえ…!これじゃあ、《クリアウィング》のもう1つの効果も使えねえ…!」
「まさかとは思いますが…彼女はあなたのデッキを知っているということでしょう」
「んな…!?だから、《クリアウィング》の盲点を知ってやがったのか!?」
幸い、1つ目の効果で破壊されたわけではないため、ユーゴにダメージは発生しなかった。
しかし、それでも攻撃力3000の儀式モンスターを前にがら空きな状態をさらしている。
「1つ目の効果で相手にダメージを与えることに成功した場合、このカードはこのターン、2回攻撃することができる。けれど、ダメージを与えられなかった以上は不発ね。バトル!《美朱濡》でダイレクトアタック!」
《サイバー・エンジェル-美朱濡-》が歌声を響かせるとともに衝撃波がユーゴを襲う。
「ユーゴ!!このカードであなたの身を…」
「駄目だ!今は…うわあああ!!」
クリアウィングの助言を無視し、ユーゴは《サイバー・エンジェル-美朱濡-》の攻撃を受け、大きく吹き飛ばされる。
床に転がり、うつ伏せに倒れたユーゴはどうにか起き上がる。
「痛てて…リアルソリッドビジョンでこれだけ痛いのかよ…!」
ユーゴ
ライフ4000→1000
「まだよ!《サイバー・ガード・エンジェル》でダイレクトアタック!」
《サイバー・ガード・エンジェル》の盾から白いビームが発射される。
「罠発動!《シンクロ・スピリッツ》!俺の墓地のシンクロモンスター1体を除外して、シンクロ素材となったモンスター一組を墓地から特殊召喚する。俺は《クリアウィング》を除外!!戻って来い!《魔剣ダーマ》!《赤目のダイス》!」
「《リリーサー》を素材とした《サイバー・エンジェル-美朱濡-》がフィールドに存在する限り、あなたはモンスターを特殊召喚できないわ」
「何!?」
フィールドに戻り、ユーゴの盾となるはずだった2体のモンスターは最初から存在しなかったかのように塵となって消滅する。
守りの最後の一手を封じられ、《サイバー・ガード・エンジェル》のビームが一直線にユーゴに向けて飛んでいく。
「くそ…こんな、あっさり負けちまうなんて…!!」
ユーゴ
ライフ1000→0
サイバー・ガード・エンジェル
レベル4 攻撃1200 守備1200 効果 光属性 天使族
このカード名のカードの効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードの召喚・特殊召喚に成功したとき、デッキに存在する「サイバー・エンジェル」儀式モンスターと「サイバー・エンジェル」のカード名が記された儀式魔法カードの1枚ずつを対象に発動できる。それらのカードを手札に加える。この効果を発動したターン、自分はP召喚以外の方法でEXデッキからモンスターを特殊召喚できない。
「ちくしょうちくしょう!!まったくのいいとこ無しじゃねえかよぉ!!」
その場に座り込んだユーゴは悔し紛れに拳を床にたたきつける。
既に脱退したとはいえ、アカデミアのデュエリストに《融合》無しでやられてしまったことが悔しくて仕方がなかった。
そして、明日香の発言が正しければ、彼女は自分のデッキのことを知り尽くしている可能性が高い。
「あなたの実力はよくわかったわ」
座り込むユーゴの目前に立ち、見下ろしてくる。
視線を逸らすユーゴだが、敗北したという現実は受け止めざるを得ず、もしかしたら協力を撤回されるかもしれない。
敗者はすべてを失う世界で生きてきたユーゴにはそう思えて仕方がなかった。
「合格よ。ユーゴ」
「は…?」
破れたにもかかわらず、どうして合格なのか?
悔しいが、実力で言えば今は自分よりも明日香が上だ。
おそらく、アカデミアには明日香以上の実力者がごろごろいるだろう。
そのことを考えると、余計にその合格という言葉が不自然に思えた。
「どうしてだよ?どうして合格なんだよ??あんたにいいようにやられたじゃねえか!」
「そうね。けど…時間はわずかだけれど、あなたはもっと強くなれる。そう感じたわ」
「何を、根拠に…」
「あなたのデュエルはどちらかと受け身ね。相手の動き、強いて言えば状況を逆手にとって勝利する。違う?」
明日香の指摘は間違っておらず、リンからもそうしたデュエルをしていることはよく言われている。
トップスとは違い、パワーカードやレアカードを数多く持つことが難しいため、《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》の存在も手伝って、それに勝つための戦術として、無意識にそうしたやり方を取るようになっていた。
実際、そのおかげで勝利を重ねてきたのは間違いない。
「それはどんな状況にも、どんな相手にも対応できるという意味がある。けれど、逆に言えば相手任せ、状況任せで自分がない。特に、そのおかげで発動できたはずの《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》のようなエースのカウンターをされた場合、何もできなくなる」
まさにそれは最後のターンに明日香にされたことだった。
《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》の力を発動しようとした瞬間、更なるカウンターで阻まれ、結果として負けてしまった。
おまけに特殊召喚制限の効果も手伝って、両手両足をふさがれた。
仮に、どうにかしてあのターンを凌いだとしても、勝利は難しかったかもしれない。
「けれど、そんなあなたが自分から動き出す戦術を得たとき、もっと強くなる。その強さなら、きっとあなたの大切な人を救うこともできるはずよ」
「大切な人…リンを、知ってるのか!?」
「情報を提供してくれる人がいて、その人が教えてくれたわ。その人とも、明後日会うことができる。その時、すべてを知ることができるわ」
「全部明後日かよ…なんだか、じれってえなあ…」
「それだけは我慢して。それより…あなた、あの子たちに気に入られたみたいね」
「え…?」
「ねえねえ、お兄ちゃん!さっきのシンクロ召喚、やり方教えてよ!!」
「お兄ちゃんのかっこいいドラゴン、俺も使ってみてーよ!!」
いつの間にか子供たちが負けたはずのユーゴに集まってきて、教えを請いてくる。
負けた自分がどうしてここまでと動揺するユーゴだが、悪い気分ではなかった。
そして、デュエル戦士として勝つための手段としてのデュエルして教わることのできないアカデミアのデュエリストたちよりも、彼らの方が幸せそうに思えた。
「ああ…仕方ねえな。教えてやるよ、シンクロ召喚を!!」
気持ちを切り替え、子供たちに自分のカードを見せながらシンクロ召喚を教え始める。
そんなユーゴを少し離れた場所から明日香は見つめていた。
(それに…あなたのデッキなら勝てるかもしれないわ…。彼に…ユーリに…)
アカデミア最強であり、最狂のデュエル戦士といえる存在。
彼は最終兵器であり、彼を倒さなければプロフェッサーに立ち向かうこともできない。
少なくとも、明日香は彼に勝てる実力はないと感じている。
しかし、光る原石のあるユーゴなら、融合次元にない戦術を持つ彼なら可能性があるかもしれない。
その可能性を信じるしかなかった。