遊戯王ARC-V 戦士の鼓動   作:ナタタク

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第111話 決戦の地へ

「まったく、戦争しに行くとはいえ、こいつは大げさすぎじゃあねえか?」

出発時間が近づき、翔太は舞網市の港で、改めて決戦の地への乗り物となる船にため息をつく。

自衛隊が保管していた退役イージス艦をレオコーポレーションが購入し、改修したもののようで、武装は完全に取り外されているとはいえ、それでも現役で働いていたイージス艦というだけあって、張り詰めた気にさせるものには変わりない。

レーダーはレオコーポレーションが開発した多機能レーダーが装備されていて、召喚エネルギー反応の探知も可能になっている。

また、単艦での次元転移も可能となっており、転移可能な乗り物としては最大規模の大きさといえる。

「しかし、これほどのものを用意しなければ、アカデミアに対抗できない。ランサーズ、転移の手段、ペンデュラム召喚…アカデミアに対抗する手段はすべて整った」

「ま、解決できていねえ問題は多いがな。特に、俺のな」

翔太の中にいるベクター、遊矢とユート、ユーゴ、ユーリの4人のうり二つの用紙の少年、さらわれた柚子とうり二つの3人の少女たち、BAT-DIEにアークエリアプロジェクト。

解決していない不安定要素が多い中での決戦となる。

だが、エクシーズ次元を解放し、戦力が充実し、アカデミアが浮足立っている今がアカデミアに総攻撃を仕掛けるチャンスだ。

(それに、私の体もどれだけ持つかわからないからな…)

「だがま、さっさとケリをつけることには賛成だ。本部でふんぞり返っているプロフェッサーって野郎を蹴り落としてやろうぜ」

手をひらひらと降り、翔太はイージス艦に乗り込んでいく。

そのあとで遅れて侑斗とウィンダがトルネイダーに乗った状態でやってくる。

「ごめん、遅くなった」

「零児君。あれの準備はできてるよ!これでスタンダード次元の守りは大丈夫!」

「感謝する。ヴァプラ隊も多くが同行してくれるようだな」

「うん。もちろん、大事を取って最低限のメンバーは残す形になるけど。それにしても、ようやく時が来たね…」

「10年…。長かった。本気でそう思う」

父親の暴走が招いたこの戦争を止めるため、本当に長い時間をささげてきた。

母親の日美香と弟の零羅、そしてレオコーポレーションの社員を除くと、侑斗とウィンダが一番長くともに戦った関係になる。

「でも、大丈夫なの?もしかしたら、この戦いで君はお父さんを…」

「覚悟はもうできている。真意を知りたいという気持ちはあるが、それ以上に4つの次元の平和を取り戻したいという気持ちがある。もし、止めることができないとするなら…父を、いや…プロフェッサーをこの手で殺す覚悟もある」

「そっか…。親子って、難しいんだね」

零児と零王。

この2人の親子はどういうわけか、ぶつかり合うことしかできなくなっていた。

侑斗自身は前世では親の顔を知らずに育ち、人間として生まれ変わった時も数年前に両親を事故で亡くしている。

一緒に過ごす時間は少なかったが、2人とも自分を愛してくれていたことは知っている。

そう考えると、そういう親子関係しか知らない自分はある意味幸せだったのだろうと思えてしまう。

本当なら、そのような悲しい戦いは止めなければならないが、これは零児と零王の2人の問題だ。

だから、答えを出すことができるのも、終わらせることができるのも、彼らしかいない。

「だが、ある意味私もあの男と変わりないかもしれん。この戦いに、あなたをはじめ、大勢の人間を巻き込んでしまった…」

次元戦争を終わらせるという大義名分があるだろう。

しかし、零王もまた、すべての次元を一つにして、理想郷を作るという大義名分を掲げている。

そして、そのために人を集め、戦わせている。

そんな自分と憎むべき父親と何が違う?

最近になって、そう思えてしまう時がある。

これも、『欠片』を使いすぎたことで、精神的に弱っているせいなのだろうか。

それを否定するかのように、侑斗は首を横に振る。

「僕は自分が正しいと信じて行動して、結果として君についていっている。それだけだよ。きっと、プロフェッサーという人は誰にも真実を打ち明けることができなかった。そして、デュエル戦士たちは彼の答えに縛られているだけ。君はプロフェッサーと同じじゃないよ。じゃあ、中にいるヴァプラ隊のみんなに声をかけてくるよ」

2人を乗せたトルネイダーがイージス艦に入っていく。

零児は何も言わずに空を見上げる。

(剣崎はああ言ってくれたが、それでも私もまた、この戦いの元凶の一つ。いずれ、その裁きを受けなければならない時が来る。だから、終わらせなければ…私自身が潔く罰を受けるときを迎えるためにも…)

 

「へええ、メチャクチャ広い部屋があるぜ!くぅーーー!!それにこのソファー、気持ちいいぜーーー!」

まぁ、俺様の家のソファーと比べたらまだまだだけどな、と自慢を忘れずに、沢渡はソファーにもたれかかる。

今、沢渡を含めたランサーズは全員この部屋に集まっており、このイージス艦の中では一番大きな空間だ。

ソファーがいくつもある上に、テーブルやカウンター、ステージまであり、とてもイージス艦の中のものとは思えない場所だ。

やろうと思えば、結婚式もできるかもしれない。

「ああ、なんだかムズムズする場所だな。居心地が悪い」

漁師を目指す漁介にとって、この場所は慣れた空間とは言えず、船であるにもかかわらず存在するこの異質な空間に息苦しさを感じていた。

「とても、これから戦いに行く感じじゃないな」

「ええ。軍艦って、こんな部屋もあって当たり前なのかしら…」

現代の戦艦にあまり詳しくない柚子でも、この部屋があまりにも場違いだということはわかる。

「はいはい、みんな注目。まずはしっかりご飯を食べないと」

「その声、もしかして!!」

ミルフィーユ風とんかつやアクアピッツァのにおいと聞き覚えのある柔和な少年の声に遊矢は反応する。

厨房があるであろうとなりの部屋から料理を乗せたカートを引いて入ってきたのは、かつてジュニアユース選手権出場のために戦い、一度はオベリスクフォースに敗れた未知夫だった。

「未知夫!?どうして…」

「どうしてって…。僕も同行するんだよ。ヴァプラ隊兼料理担当として、ほら。おいしいごはんを食べないと、ちゃんと戦えないだろう?両親と塾長にも許しはもらってる」

「でも…」

「それに、やられっぱなしで終わるのも、悔しいからね」

「ミッチーのいう通りや!ワイも、カードに変えられたこと、倍返ししてやりたいんや!」

続けて、厨房から出てきたのはクジラを模した帽子をかぶった、カバのような顔をした、権現坂ほどではないものの、それでも大柄な体をした少年だ。

見るからに釣りが趣味の男に見え、ほっそりとしているが、日焼けしているうえに引き締まった体をしている漁介とは対照的だ。

「おぬしは大漁旗鉄平。まさか、おぬしまで参加するとは…」

彼もまた、翔太に助けられたとはいえ、カードにされたことのある身だ。

本当なら、その時の恐怖を覚えているのなら、戦うのをためらってしまうはずだ。

「ほらほら、みんな。食べて食べて。もうお昼だしね!」

「じゃ、じゃあ…あたしはこれを!」

「私はこれ!翔太君も、食べようよ!」

「おいおい!この沢渡シンゴ様を差し置いて、勝手に料理を選んでんじゃねー!!」

著名な少年料理人である茂古田未知夫の料理ということで、部屋にいる多くのメンバーがこぞって料理をとっていき、舌鼓を打つ。

「料理もいいけど、僕はこれがいいかな」

素良は料理よりももってきているお菓子を口に運ぶのに夢中な様子だ。

遊矢達がエクシーズ次元に行っている間、素良は捕虜という扱いにはなったが、ヴァプラ隊の下で訓練を受けて、今回の戦闘に参加することになった。

元アカデミアのデュエル戦士であること、そして日影やデュエリストたちをカード化してきた人物ということで、懸念の声も上がったものの、侑斗の説得やセレナという前例があることから受け入れられた。

「大丈夫、まだまだお変わりは用意しているから。順番だよ!鉄平君、お代わりを取りに行こうか」

「はぁ…なんでワイが肉体労働せなあかんのや」

「皆、よく集まってくれた」

急にステージから零児の声が響き、部屋にいるメンバー全員の手が止まり、視線がステージの上に立つ彼に目を向ける。

「赤馬零児…」

「皆、よく集まってくれた。これから私たちが向かうのは融合次元、アカデミア。そこで我々はアカデミアと決着をつける」

「いよいよか…瑠璃、カイト…」

零児の言葉で、唐揚げを口にしていた黒咲がようやく待ち望んでいた決戦の時を感じ、同時にこれまでの戦いのことを思い出す。

自分ひとりだけになったとしても、アカデミアと戦い、瑠璃を救い出す。

そのつもりで戦ってきた。

だが、戦いの中で侑斗に、次元を超えて零児や遊矢といった多くの人と出会った。

仮に彼らと出会うことがなかったら、きっと一人で戦い続けることになり、何一つ成し遂げることなく敗れていたかもしれない。

憎しみにとらわれてしまったカイトのように。

(今なら言える。この戦いは俺だけのものではない。この次元に生きているすべての人のための戦い…負けるわけにはいかない戦いだということを)

「スタンダード次元、シンクロ次元、エクシーズ次元、我々はいくつもの次元でアカデミアと闘ってきた。そして、その中で犠牲となっていった人々の姿、倒れた仲間たち、そして我々自らの手で倒していった敵がいる。次元戦争を終わらせるためとはいえ、我々もまた、力によって倒してきた。あまりにも矛盾したやり方といえるだろう。しかし、たとえ矛盾していたとしても、我々は勝たなければならない。このような過ちを未来へつなげないためにも、因果をすべてこの一戦で断ち切る。だからこそ、あと少し…諸君の力を貸してほしい。そして、全員で生きて…笑って、もう1度スタンダード次元へ戻ろうではないか!」

「生きて、笑って…か」

零児の演説を聞く中、素良は相変わらず飴をなめ続けていた。

アカデミアでの指導ではそんなことを言われたことはない。

あるのはただ、プロフェッサーからの任務を完遂することだけ。

そのための犠牲は敵も味方も、問題としていなかった。

その狂気に一度飲まれてしまったからわかる。

他者から与えられる、絶対的な答えがどれほど心地よいものなのか。

そして、それによって自覚なしに奴隷となってしまう恐ろしさを。

ステージの後ろのカーテンが開き、そこに隠されているスクリーンに海図が表示される。

「これはエクシーズ次元のアカデミア本部から接収した海図だ。シミュレーション結果としては、この船は転移後、予想としてはこの座標に出る」

そこは太平洋のような巨大な海のほぼ中央で、周囲に陸地がないことから地上からの監視を心配する必要のない場所だ。

そこからアカデミアへの航路が点と線で表示されていく。

「そして、そこからアカデミア本部へ直接向かうことになる。船旅は4日かかる」

港を経由することのない上に回り道のルートとなっていて、長い航海は船旅をしたことのない面々にとっては負担になる。

しかし、アカデミアにギリギリまで警戒されることなく進むにはこのルートしかない。

説明が続く中で、素良が無断でステージの上へあがっていく。

「…どうした?紫雲院素良」

「この海図で、一つ足りないものがあるんだ。アカデミアへ向かう前に、そこへ向かう必要がある」

「はぁ?お前がなんでそんなことを知ってるんだ?嘘じゃないだろうな?」

元々はアカデミアの人間だということで、素良に半信半疑なところのある沢渡が口を挟む。

口を出さない遊矢達とは違い、沢渡は素良とはあまり面識をもっていない。

だからこそ、むやみに信じることができず、警戒心を解くことができない。

「沢渡の言いたいこともわかる。でも、ひとまず僕の話を最後まで聞いてほしい。そのうえで、信じるか信じないかは決めて」

「よほどの自信だな…?その情報が俺たちにとって勝てるだけのものなのか!?俺たちは勝つためにやってるんだ。下手な情報だったら承知しねーぞ!」

沢渡以外は言わないが、これは素良とあまりかかわりのないメンバーでは共通した認識だ。

素良も簡単に信じてもらえるとは思っていない。

だからこそ、信じてもらえるように努力するしかない。

それに、素良自身にも残された時間が少ないから。

「ファウスト島…。かつて、リアルソリッドビジョンシステムや次元転移装置といって技術の開発が行われた島。そこで開発された技術が今でも、アカデミアで使われているんだ。そして…何よりもそこにはアカデミアの根底にかかわる秘密が眠っている」

「秘密…?」

「そう。それがどんなものなのかは僕も想像できない。けれど、アカデミアに勝てるだけの価値はある。だからこそ、ファウスト島についての情報はすべて抹殺されていたんだ」

「じゃあ、そんなのなんでお前が知ってるんだよ?」

「僕も、最近までは知らなかった。けれど…僕がシンクロ次元に行くことができたのは…そこに幽閉されているたった一人の科学者のおかげなんだ。その人の名前はドクターN。記録上では5年前に死んだとされている、かつてプロフェッサーと一緒に今のアカデミアを作った人」

「何…!?」

これまで零児が集めた情報の中には、今のアカデミアを作ったのは零王一人のはずだった。

それ以外の別の人物の存在については何一つつかんでいない。

そんな人物がどうして、死んだものとして幽閉され続けているのか、そして素良の実質的に離反の手助けをしたのか。

その意図を気にせずにはいられない。

「ファウスト島の場所はアカデミアの北にある。近いっていうけれど、それでも100キロ近く離れていて、雪と氷で隠されている。彼に会うことができれば、秘密を教えてくれて、手を貸してくれるはずだ」

これは素良が彼と取引したためだ。

素良は任務失敗の責任によって、事実上の処刑ともいえる任務を言い渡され、それが可能となるように手術まで受けている。

しかし、どのような手段を使ったのか、ドクターNが素良を救い出し、ファウスト島にかくまってくれた。

そして、素良の望みにこたえて遊矢達の居場所を突き止めたうえで、彼をシンクロ次元へと送ってくれた。

それをする条件として提示されたのはただ一つ、アカデミアに抵抗するスタンダード次元のデュエリストをファウスト島へ連れてくることだった。

「手を貸してくれるって…そんなのどう信じたら…」

そもそも、そんな島があるなんて情報を立証することができない以上、素良の言っていることが嘘かもしれない。

そんなもののために遠回りな上にとてつもなく寒い場所へ行くというのは考えられない。

「しかし…仮にその秘密を手に入れることができるとしたなら、我々にとって大きな武器となる。武器は一つでも多いほうがいい」

不安定要素を抱えているうえに、必ず勝たなければならない勝負。

虎穴に入らずんば虎子を得ず、という言葉もあるが、その虎穴へ飛び込むには入念な準備も必要だ。

アカデミアという虎穴へ飛び込むため、手札は1枚でも多いほうがいい。

「俺は素良を信じる」

「遊矢、てめえ…」

「確かに、デュエル戦士としてやってきたことが消えることはない。けれど、あいつは本気でみんなのために戦って、情報をくれている。だから…俺は素良を信じるよ」

「私も、素良を信じるわ。同じ遊勝塾の生徒として。あなたの弟子として!」

「遊矢、柚子…」

素良にとっては遊勝塾生徒としての時間は短く、仮初の時間とさえ思っていたこともある。

だが、遊矢のエンタメデュエルに触れ、アカデミアでは感じることのできなかった驚きや楽しみといった当たり前を感じたことが、素良の本来の心を取り戻していた。

「ちっ…なら、そのよしみで俺も賛成ってことにするか」

「私も賛成!それに、ファウスト島ってなんだか気になるもん!」

「翔太、伊織…」

「ああ、甘い甘い。そんな理由で信用するなんてよぉ」

「ふっ…決まりだな。第一目的地はファウスト島、最終目的地がアカデミア本部だ」

 

場所と次元が変わり、シンクロ次元のかつてフレンドシップカップが開催されたスタジアムをホイール・オブ・フォーチュンが疾走する。

コースは最低限整備されているが、客席の修理は現在も行われている。

あの戦いの後、このスタジアムではデュエルが行われておらず、見に来る客もいない。

だからこそ、工事の音は気になるが、誰の視線も気にすることなくDホイールを走らせることができる。

ある程度走行を終えたホイール・オブ・フォーチュンはピットに止まり、そこにはヒイロの姿があった。

「驚いたな。もうDホイールに乗れるのか」

デュエルでのダメージ、そしてセルゲイの一撃を受け、大けがを負ったはずの彼の今の状態はヒイロには予想外なところがあった。

良くてようやく自分の足で走れるくらい、悪くて今も寝たきり。

その予想を覆してくれた彼に、ヒイロは仲間の、チーム5D'sを思い出す。

Dホイールから降りたジャックはジロリとヒイロをにらむ。

「ヒイロ・リオニス…。またこの次元に戻ってくるとはな」

「お前の迎えだ。場合によっては、おいていくつもりでもあったがな」

「ふん…。もう体は十分治した。それに、キングである俺がいつまでも寝ているわけにはいかんからな」

ジャックの頭になかにあるのはシンクロ次元をめちゃくちゃにした融合次元への怒り、そしてナヴィとともに魂を呼び覚ましてくれた遊矢だ。

アカデミアをこのまま放っておくと、またシンクロ次元で争いが起こるのは必定。

それに、遊矢に作った借りもある。

「そうか。なら、これをもっておけ」

「こいつは…?」

「遊矢とデュエルをしたお前なら、わかるだろう?」

ヒイロから受け取った数枚のカードを見たジャックは静かにそれをデッキケースに入れる。

本当ならここからテストプレイと行くだろうが、もうその時間もないのだろう。

「連れていけ、ヒイロ・リオニス。戦うべき場所へ」

「いいだろう。だが…覚悟しておけ。2度とシンクロ次元に戻れないかもしれないということを」

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