遊戯王ARC-V 戦士の鼓動   作:ナタタク

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第113話 ドクターNとアカデミア

クレイトスが吹雪に包まれた人工島に止まり、防寒着を身に着けた集団が出てくる。

一番小柄な素良が先頭に立ち、遊矢と柚子、権現坂、零児、沢渡、黒咲、翔太、伊織、侑斗、ウィンダが出てくる。

「ああーーーー!!なんだよ!防寒着着てんのに、どうしてこんなに寒みーんだよー!!」

「団長は寒がりっすねー。こんなの寒いうちに入らないでしょー?」

「うっせー!寒さ感じねーのに、偉そうに言いやがって!!」

寒さでいらだつ中、沢渡は笑うサッシー・ルーキーに怒りをぶつける。

傍から見るとたった1人でそこにはいない誰かと大喧嘩をしているようにしか見えず、黒咲達が若干引いていた。

(そういえば、シンクロ次元から戻ってから、沢渡のそばに何かいるような…)

訓練中、何かと話している様子を何度か見た遊矢は彼のそばに何かがいるのを感じていた。

それは伊織や翔太のそばから感じる何かと同様だが、それが何かという明確な答えは出ない。

オッドアイズやナヴィから感じるものとはまるで違っていた。

「翔太君、止めたほうがいいんじゃない…?」

「いや、むしろ騒がせてやれ。面白そうだしな」

「うわ…翔太君が悪い考えになってる」

その証拠に録画しようとスマホまで出している始末だ。

犯罪に使うことはないかもしれないが、それで沢渡に恥をかかせようという気持ちは感じ取れた。

「沢渡、気が狂うほどの寒さではなかろう。正気に戻れ」

「大丈夫、沢渡君は正気だよ。ただ、普通は見えないもの、聞こえないものと話しているだけだよ」

「…あなたの言う精霊のことですか?」

黒咲の言葉を肯定するように、侑斗が首を縦に振る。

零児と黒咲は精霊のことを侑斗からある程度説明されており、実際にウィンダが精霊に戻った姿も見たことがある。

侑斗の両目が風の眼へと変化する。

すると、口論中のサッシー・ルーキーの姿が遊矢達の前にさらされた。

「嘘…!?これって、沢渡の《サッシー・ルーキー》??」

「やはり貴様にも精霊が…」

「こんなの、俺の精霊じゃねーよ!俺が持つべき精霊はもっとグレートで…」

「ええーー、ひどいッスよ団長ー!俺は1ターンに1度、破壊されないうえに、破壊されたとしても…」

「黙ってろ!さっさと…カードに、戻れーーー!!」

沢渡の平手打ちによってサッシー・ルーキーは姿を消し、沢渡は荒くなった息を整える。

そんな彼を冷めた目で見終えた素良は進むべき方向に目を向ける。

「この方向へ行けば、ドクターNのいるラボに行くことができる。けれど、ここはアカデミアが存在を抹消した場所。けれど、仮に侵入者が入って来た時の備えがあるかもしれない。気を付けて」

「吹雪がひどい、固まって動くぞ。決して、離れるな」

素良を先頭に、そして権現坂が殿となって進んでいく。

雪と風によって足音がかき消され、足跡もまた簡単に消えていく。

先導無しでは迷い、氷の彫像となるその島を進んでいく。

素良が警戒する備えの気配は感じられず、白一色だった景色に徐々に灰色の箱物の影が浮かんでくる。

「あそこだよ。あそこがドクターNのラボで、アカデミアの秘密が眠っている」

「この中に…」

その秘密を知ることができるというなら、アークエリアプロジェクトの真相を知ることができるかもしれない。

もしかしたら零王が自分たちを捨てた理由もわかるかもしれない。

思えば、それを知るために零児はこれまで戦い続けてきたのかもしれない。

「入口…かな?人がいる」

「人…?もしかして!」

侑斗の言葉に、全員が身構える。

「おい…素良、こいつらは待ち伏せか??」

「もしかして、僕たちがここに来ることをアカデミアに知られた??」

「勘弁してくれ…うん?」

警戒する中で、翔太のデュエルディスクの通信機能が起動し、表示された番号に翔太は舌打ちする。

その番号はエリクのもので、得体のしれないものにためらいはしたが、回線を開く。

「もしもし…」

「翔太さん、お久しぶりです。申し訳ありませんが、この音声は録音されたものです。ですので、あなたからの発言や質問には一切お答えできませんので、ご容赦の上、聞かれてください」

「ちっ…手の込んだことをしやがる」

「この音声はあなたがこのファウスト島のドクターNのラボの近くにたどり着いた時にかかるようにプログラムしています。ここまで来たということは、おそらくここからランサーズによるアカデミアへの攻撃が始まるということでしょう。その点はお祝いさせていただきます。おめでとうございます」

「ふざけたことを言いやがって…要件だけに録音しやがれ…」

聞かれていないことは分かっているが、それでも怒りをこみあげてしまい、愚痴をこぼさずにはいられない。

「さて、要件だけお伝えしましょう。あなたの仲間である榊遊矢のお父上、榊遊勝についてです」

「榊遊勝…?」

「父さん…だって!?」

翔太に駆け寄った遊矢は翔太のデュエルディスクをつかもうとするが、体をそらす。

「待てよ…今、スピーカー機能を動かす」

ここまで異常がない以上、スピーカーで音量を出したとしても問題ないだろう。

しかも、吹雪の中ではスピーカーを使ったとしても、かなり近づかないと聞き取れない。

翔太を中心に全員が囲み、スピーカーからエリクの声が流れる。

「彼もまた、このラボを目指しています。そこでお会いすることができるでしょう。彼もまた、この戦争を止めるために動いています」

「父さんが…あそこに…」

「おそらく、ここで知る事実は希望となるでしょう。しかし…ある意味深い絶望を与えることになるかもしれません。それを恐れるというのであれば、引き返すことをお勧めします。ですが…あなた方に真実を知ってもなお、立ち向かう。その覚悟があるというなら、どうぞ…お進みください。私からは以上です」

音声が切れると同時に、再び翔太達の周りを雪と風が包み込む。

しばらく誰もが口を閉ざす中、翔太が最初に口を開く。

「あの野郎…外からわけのわからねーことばかりしゃべりやがって」

「翔太君…」

「俺の中にも問題はあるが、今は後回しだ。俺は進む。次元戦争のことは知ったことじゃないが、これ以上あんな奴に踊らされるのは御免だ」

進む道があるなら進むだけ。

それは誰に命じられたというわけでもなく、自分が選んだうえで。

「俺も、進む。そのエリクって人のことは良く知らないけど、俺は父さんに会いたい。生きていて、そこにいるというなら、今すぐでも…会いたい」

「遊矢…」

「お前はどうなんだ、零児。その絶望ってのはお前にとってのものかもしれねーぞ?」

この次元戦争で、一番かかわりがあるとしたらランサーズの創設者である零児だ。

プロフェッサーが彼の父親であり、事実を知るとなる以上は無論、そのことも関係する。

零児は口角をわずかに上げると、眼鏡の位置を直す。

「愚問だな。私は真実をつかみ、この戦争を終わらせるために来た。ならば、これ以上好都合なことはない。その中にたとえ絶望があったとしても、払って見せる」

「じゃあ、進もう。あんまり長居はしたくないし」

再び歩みを進め、ようやくラボの間近にまでたどり着く。

そこには4人の人影があり、その中の3人については見覚えがあった。

「お待ちしておりました。やはり、あの警告を聞いてもなお、あなた方はここまで来ましたね」

「ああ、来てやったぞ。で、なんだバナナまでいるんだ?」

「バナナいうな!俺はユーゴだ!久々に会って、それはねーだろが!!」

(あれ…どうなっているの??)

ユーゴが一方的に翔太と言い争うのを見た柚子はブレスレットとそばにいる遊矢に目を向ける。

遊矢とユーゴが近くにいるのに、シンクロ次元で更にユーリが加わったときとは異なり何も異変が起こっておらず、おまけにブレスレッドにも何も反応はなかった。

「父さん…」

遊矢の視線が車いすに座り遊勝に向けられる。

服装は変わりないが、車椅子での生活が余儀なくされており、苦労もあったのか、少し肌色が悪く、やせているところが見受けられる。

車椅子を動かす明日香が遊勝の体が遊矢と向き合うように動かす。

「久しぶりだな…遊矢」

「父さん…父さん!!」

眼に涙を浮かべた遊矢が遊勝に向けて駆け寄る。

笑みを浮かべる遊勝だが、そんな彼の頬を遊矢の右拳が襲う。

無抵抗でそれを受けた遊勝の口の中が切れ、口元から血が流れる。

「ゆ、遊矢!?」

今まで誰かを殴ったのを見たことのない柚子にはその光景が信じられなかった。

その視線を気にすることなく、再び遊矢は弱っている遊勝を殴る。

「どうして…どうして3年も、3年も俺と母さんを放っておいたんだ!!何も言わずに次元を超えて、融合次元まで行って音沙汰無し!!しかも…しかも、そんな車椅子になんか座って、弱った姿になって…!!」

嬉しいはずなのに、急にこみあげてくる怒りの衝動を遊矢にはコントロールできない。

遊勝がいなくなったあの日の夜、暗い部屋の中で一人で泣いていた洋子の姿を見た。

子供心でそれを放してはいけないと思い、ずっと黙っていた。

妻であり、大切な人であるはずの彼女まで悲しませた。

そのことが許せなかった。

「なんで…なんで何も言ってくれなかったんだよ。家族じゃないのかよ…父さん、父さん…!!」

段々殴る拳の力が弱まり、ペチペチと頬に当たるだけだ。

次第に膝から崩れ、彼の膝に顔を押し付けて泣いていた。

左手で流れる血をぬぐった遊勝はそのことを責めることなく、遊矢の頭を撫でる。

「すまない…すまなかった…。お前たちを巻き込むまいと思っていたが、結局…こんな形になってしまったか。それに…」

遊勝の視線が膝に置かれている遊矢の左手に向けられる。

手袋で隠されてはいるが、わずかに見える赤い機械。

義手となってしまった左腕を見た遊勝は何も言うことができなかった。

「遊勝さん、なぜあなたが融合次元に…?」

「零児君か…。済まない、それは…」

一瞬、答えるのをためらった遊勝だが、勝手に試作次元転移装置を使って次元を超えてからここにたどり着くまでのいきさつを説明した。

戦争を未然に防ぐためとはいえ、勝手に、しかも実証実験もろくにされていない次元転移装置を使ったとなると無謀ともいえた。

実際、それでたどり着いたのはエクシーズ次元で、結果としてプロフェッサーを止めることすらできなかった。

「この償いは必ずする。話したいこともあるかもしれないが、今は…」

「ええ、あまり時間はありません。私についてきてください」

 

暗がりの、多くのコンピュータと装置、端末に囲まれた部屋の中、ドクターNは部屋の中央に新たに作られたベッドに横たわっている。

口元には生命維持装置が、左腕には点滴用の注射が刺されており、ベッドの真上には複数のモニターが取り付けられていた。

「ああ、そうか…ようやく、時が来たのか…。ああ、そうか…」

モニターに映る、エリクに先導されて中へと入っているランサーズと遊勝の姿。

ずっと、ドクターNは心待ちにしていた。

そして、その中には最も会いたいと思っていた少女の姿もある。

彼女がランサーズに加わり、ここに来るというのは運命なのかと錯覚してしまう。

科学者として、運命という存在はないと信じているというのに。

だが、これですべての心残りを消すことができる。

成すべきことに集中できる。

逡巡する中で、自動ドアが開き、足音と車椅子の音が近づいてくる。

「久しぶりに見るよ…この部屋」

部屋に入る素良は目覚めてから、シンクロ次元へ向かうまで短い間世話になったその暗がりな部屋を思い出す、

そこでドクターNと出会い、彼に救われた。

「暗い部屋だな…。で、どこにいるんだ?時間がねえんだろ?」

「こちらです…ドクターN」

「ああ、待っていた…。真実を伝える時を…過ちを終わらせるときを…」

「遅くなりました、ここまで弱られていたとは…」

「ナノマシンを体内に入れることで、人は勝手に健康になると言われることはあるが…やはり、難しいものだな。ひどく疲れて、体を壊すだけだ」

「そう、ですね…。同感です」

フフ、と少し表情を暗くしながらもエリクは低い声を出して笑う。

「榊遊勝か…。こうして、もう1度会えるとは思っていなかったよ…」

「私もだ。お互いに…」

「知っているの?父さん」

「ああ、私が融合次元に潜伏しているとき、助けられた。彼がいなければ、今頃私はこの世にいなかっただろう」

「危険じゃねえのか?あんた、アカデミアの関係者だろう?そんなあんたが裏切りを…」

「裏切り…」

遊矢の脳裏にBAT-DIEとその発作で死んだエドの姿が浮かぶ。

その時の悲しみが胸を締め付けるが、今はそれに付き合っている時間もない。

「そうだ…。これは裏切り行為。アカデミアへの…プロフェッサーへの…友への、な」

「友…?」

「アカデミアで使われている次元転移装置、カード化システム…多くの技術を私はプロフェッサーと共に作り上げた。特に、次元転移装置については私が基礎を作り上げていた。アカデミアが作られる前から…」

「何のためだ…?」

アカデミアができる前だとしたら、おそらく別世界のことを何も知らないはずだ。

シンクロ次元でも、エクシーズ次元でも、アカデミアの存在が知られるまでは別世界の存在など認知されたことすらなかった。

ノーヒントにも等しいそれをどうやって知ったのか。

「私はしがない研究者だった。若いころには妻もいた。だが…」

ドクターNが寂しげな目になって、そばに置かれている写真立てを見る。

その中には若いころのドクターNと思われる白衣の男性と同じ白衣を身にまとう、黒い髪の女性の姿が映っていた。

翔太の視線が自然にその写真に向けられ、無意識に口が開く。

「いお…り…?」

「へ?」

「伊織に似ているな」

口元のほくろや目の形、髪の色。

髪形は違うが、その容姿は大人になった伊織そのままの姿のように思えた。

「彼女は研究者であると同時にデュエリストだった。子供を授かったときは夢を見ていたよ。いつか生まれてくる子供とデュエルがしたいと…。だが、彼女は…子供を産んですぐに死んでしまった。失った空白に耐えられなかった。そんな時、私は…見つけたのだ。これを…」

「これは…」

モニターに映る青水晶の、まるで遊矢が持っているペンデュラムにも似た物質に零児の目が止まる。

遊矢も驚きながらも、ぶら下がっているペンデュラムを掌に載せ、柚子と権現坂の視線もそこに向けられる。

「妻の亡骸を葬り、悲しみに暮れる中で、私はそれを見つけた。今はアカデミアの手の中にあるが…。それに触れたとき、私は知った。異世界の…数多くの平行世界の存在を。そして、ほんの一瞬だけ見えたのだ。失った妻の笑って、私に手を伸ばす姿を…」

その光景を見てから、ドクターNは再び研究に励むようになった。

別世界へ行くための技術を作り上げ、もう1度妻に、人目でもいいから会うために。

それが死んだ彼女と同一人物でないことは分かっている。

それでも、探さずにはいられない。

それが彼の生きる目的となっていた。

いや、本音を言うと死にたかったのかもしれない。

彼女と同じ時に一緒に死ぬことで、いつまでも一緒のいたかった。

「そして、試作機を作り上げた。私はそれを使って、妻がいる次元へ旅立とうとした。それを実証実験とした。しかし…研究は失敗した。装置は暴走し、どうにか私は緊急停止コードを入れた。だが…その装置は私と妻の大切なものを奪い取った。彼女のデュエルディスクとデッキも、一緒に…」

実験の際、赤ん坊である我が子にもその光景を見せようと連れてきてしまった。

このようなことになると分かっていたなら、連れてくるべきではなかった。

「私は…妻を失い、我が子とも生き別れた…。再び一人になって、それから私は酒浸りになった。私の行った研究が取り戻すどころか、私のもう1つの欠け街のない者を私自身の手で手放すことになったのだから…。研究を捨て、何もかもを捨てて、生き続ける私は10年前に出会った」

アカデミアは零王主導の元で作られたばかりの小規模な組織に過ぎないものの、多くの資金と資材、更には技術力まで持っている将来有望と称される組織だった。

世捨て人のように暮らしていた彼の耳にも届くほどだった。

「彼に…プロフェッサーに。彼は言っていたよ。あなたにも失ったものがあるように、私にも失ったものがある。それを取り戻したい。そのために力を貸してほしいと…」

「取り戻したい…だと?」

それが零王がアカデミアを手にし、アークエリアプロジェクトによって人々をカードに変え、柚子たちを捕まえようとする目的なのか。

「ふざけるな!取り戻したいものがあるから…そのためには他人の…関係のない者の大切なものを奪ってもいいというのか!!」

「お前は…そうか。奪われたのだな…プロフェッサーと同じ目をしている…」

「馬鹿なことを!奴と同じ目だと!!俺を…」

「待つんだ、黒咲君!」

振り上げた拳を侑斗がつかみ、彼の顔を見た黒咲はフウウウ、と長く呼吸して自分を落ち着かせる。

「済まぬな…。すべてを話し終えたら、私をどうするかは好きにするといい。憎しみを捨てきれぬのであれば、その手で私を殺してもいい。プロフェッサーの犯した罪の一部を…私もまた、背負っているのだから…。私は彼と共にもう1度、研究をつづけた。このファウスト島で。アカデミアからの資金援助もあって、順調に進んだ。最も、援助の条件として、転移装置開発と並行して別の技術の開発も頼まれたがな」

プロフェッサーはスポンサーであると同時に、個人的にも付き合いを重ねていた。

その時、彼の肉親のことも言っていて、その姿はどこか妻と我が子を失った時の自分と重なって見えた。

お互いに大切なものを失い、それを取り戻そうとしているために、シンパシーを感じていたのかもしれない。

プロフェッサー本人が本気でそう思っていたかは今は確かめようがないが。

確かに、並行して開発しなければならないものにも時間を割く必要はあったが、研究スタッフや資金、設備の手配をプロフェッサーがしてくれたおかげで、独力で続けていた時以上に順調に開発は進んだ。

プロフェッサー自身も、次元転移装置を作って融合次元に転移しており、そのデータを提供してくれたが、完全に彼一人しか転移できないもので、操作をわずかでも誤るとほかの次元へ転移することになり、二度と元の次元にも融合次元にも変えることができなくなる可能性のある危険のはらんだものだった。

そんな危険を冒してでも成し遂げたいものがあるなら、それを助けるだけ。

そうして試作機を完成させることができた。

「そして、どうにか私は完成させたよ。次元転移装置を。それは5年前の話だ」

「5年前…ちょうどあんたが公には死んだとされた時だな」

「ああ、だが、知っての通り、次元転移装置も私とプロフェッサーが生み出した技術も…すべてこの次元戦争に使われた。私がやったことは…戦争の火種を生み出すに等しい行いだった。だが…それによって、私はようやく願いをかなえることができた…」

「願い…」

「そうです。ドクターNが取り戻したかった子供…それは、あなたのことなのです。…永瀬伊織」

「写真のあの人がお母さんで…この人が、私の…お父さん…」

伊織の頭の中が真っ白になっていく。

せっかく会いたいと願った肉親と会えたというのに、病気のせいなのか弱った体となっている彼が見ていられないのか、何も感情を出すことができない。

「伊織…スタンダード次元にいたのだな。どうやって、生きて来て…」

「…スタンダード次元の、舞網市っていう町で、冴島栄次郎っていう人に拾われて、孤児院で育ったの…」

「そうか…そうか。すまぬな…16年も、ずっと私はお前のそばにいてやれなかった…。こんな私が今更…」

「そんなこと、言わないでよ。やっと、会えたのに…お父さん…」

幼いころからずっと、親と共に過ごす同年代の少年少女をうらやましいと思い続けてきた。

確かに親代わりとなる大人はいるが、それでも本当の血の通った親ではない。

なんで自分だけ、お父さんもお母さんも分からないのか。

不公平だとさえ思い続けてきた。

でも、形はどうであれようやく知ることができた。

ようやく感情が出て来て、目から涙がこぼれる。

「伊織…」

「ねえ、聞かせて。転移したときから持ってるデッキがあるの。この…E・HERO…これって、お母さんが使っていたカードなの?」

「ああ、そうだ…。そうか、ずっと使ってくれていたのだな…。母さんも喜ぶ…」

「そっか…こんなに近くにあったんだ。お母さん…」

デッキを抱くように握り、目を閉じて今はいない母親に思いをはせる。

そんな彼女を優しく見つめた後で、ようやく話を戻した。

「装置を完成させた翌日、プロフェッサーは私に教えてくれた。自分が取り戻そうとしているものと、その手段を…そして、この世界の真実を…。ここからの話は…お前たちにとっての希望、そして…絶望…。パンドラの箱だ」

「世界…?」

遊矢達がここに来るまでの間、彼もまた悩んだ。

プロフェッサーから伝えられた真実、彼とアカデミアからの決別を決める引き金となったそれはこの世界だけでなく、4つの次元すべての根底を揺るがしかねないものだ。

伝えず、ただ流れを見送ることも選択肢にあるかもしれない。

だが、娘と娘がこれから歩む未来のためにも、老人たちが生み出した負の遺産は清算されなければならない。

それを受け継がせないためにも、今知る限りのすべてを伝えなければならない。

「赤馬零児…君と君の母親の存在はプロフェッサーから聞いている。だが、聞いたことはないだろう。君には…同じ父親を持つ姉がいたことを」

「姉…ですと??」

「信じられんことだろう。彼女の名前はレイ…。デュエリストであり、モンスターの声を聞くことができたという」

「モンスターの声…?」

それで翔太達が真っ先に頭に浮かんだのはそれぞれが持っている精霊だ。

精霊と彼の言うモンスターが同一なのであれば、自分たちと同じものを持っていたのかもしれない。

「レイ…馬鹿な…」

「そして、レイと同じく、モンスターの声を聞くことのできる人間が存在した。彼の名前はズァーク」

「ズァーク…!?」

その名前を聞くと同時に、ほんの一瞬だけ遊矢の心臓が高鳴った感じがした。

遊矢の中にいるユート、そして今ここにいるユーゴも同じだった。

「なんだよ…?その、ズァークって奴は?レイとズァークが何か関係があるのかよ?」

「ある意味では、同じ素質を持った人間であったのかもしれないな。プロフェッサーは否定するかもしれないが。そして…ズァークは世界の破壊者となった。英知のカードと己が持つ素質を使って…」

「世界の破壊者、英知のカード…」

シンクロ次元で見た幻覚。

その中にいるデュエリストがその名前のカードを使っていた。

仮にその英知のカードがそれであるなら、幻覚の中のデュエリストはズァークということになる。

(どうして…そのデュエリストの姿が…)

「ズァークもレイも、モンスターの声が聞こえること、それ以外は特別な能力を持たない平凡なデュエリストだった…あくまでプロフェッサー、いや…零王が言っていたな」

 

「ズァーク…モンスターの声が聞こえる。まさか、そのようなオカルトが実在するとはな」

その日、アカデミアのプロフェッサーの自室で、プロフェッサーとドクターNは2人っきりで話をすることとなった。

開発の返礼として、自分の取り戻したいものについてすべてを話したいとプロフェッサーから言い出したことだ。

そして、娘のレイのこと、そして彼女がモンスターの声を聞くことができることを教えられた。

「私も、初めに聞いた時は信じていなかった。だが、科学というのは発展していくと、もはや魔法と何も変わらなくなる…そういう言葉もあるというのに」

「考えてみれば、私が次元転移装置を作るきっかけとなった物質…いや、君の言葉で言えば『欠片』か…。あれも魔法と変わりないな」

「話を戻そう。レイと同じくズァークもまた、モンスターの声が聞こえるデュエリストだった。だが、彼はデュエルで世界の頂点に立つという夢を持っていた。マイナーリーグから少しずつ勝ち上がり、ファンが増えていった。そして、その中で人々の想いに応えたいと思うようになった。それ自体は何も問題はないはずだった…。だが、リアルソリッドビジョンシステムが完成してから、それが徐々に歪んでいった」

「待て…リアルソリッドビジョンシステムを作ったのは君ではないのか?」

「確かに作ったのは私だ。だが、本当は二十年近く前に存在していたロストテクノロジーだ。それをもう1度作り直したに過ぎない。それによって、モンスターの声を聞く力によって、召喚するモンスターとの高度な連携が可能となり、それによってズァークは一気に知名度を上げていった」

彼とモンスターの連携による演出と更にそれによって磨かれたデュエルの技量によって、より多くのファンを獲得した。

まさにズァークにとっての黄金時代の幕開けであり、彼の夢である頂点に立つのも時間の問題かと思われた。

しかし、そんな中で決定打となる事件が起こった。

「彼がプロとして認定され、プロリーグで初陣を飾った日。そのデュエルは彼が白星を挙げた。しかし、とどめのダイレクトアタックの際、対戦相手に事故で重傷を負わせてしまった。その時、彼が使ったカードが…《オッドアイズ・ドラゴン》。彼の4体のエースモンスターの内の1体」

原因はリアルソリッドビジョンの不具合によるダメージレベルの一時的な上昇で、そのブレスを受けた対戦相手は壁にたたきつけられ、すぐに救急車が呼び込まれる事態となった。

最初はまさかの事態にズァークも観客も動揺した。

しかし、次第に観客の中で歓声を上げる人が出て、それからスタンディングオベーションが始まった。

次の試合では、再び対戦相手を負傷させることがあってはならないとズァークは可能な限り手を抜くこととなり、その結果として敗北ギリギリまで追い込まれた。

その時に起こったのはズァークへのブーイングだ。

昨日のようなデュエルはどうした、消極的なプレイでプロを名乗るつもりか、そんなデュエルしかできないなら田舎へ帰れ、と。

そんなブーイングの嵐の中で、ズァークは最後の1ターンで逆転勝利をおさめた。

だが、その時もまた対戦相手を負傷させるほどの強烈な一撃を与えてしまった。

その時の観客たちはそんな対戦相手に目をくれることなく、興奮する大逆転劇を見せたズァークを称賛した。

観客だけでなく、メディアでも。

「その結果、ズァークは観客が求めるままにより激しく、過激なデュエルを行うようになった。そんなズァークを手本として、後に続くデュエリスト達も過激なデュエルを楽しむようになった。たとえ、対戦相手が怪我をしようが、死のうが関係ないというほどのな。そして、彼はついにデュエルチャンピオンとなった…。だが、観客もズァークも、それでも満たされることはなかった…」

観客もズァークも、更に激しく、皿に興奮するデュエルを求めた。

血に飢えて、他には何も興味を示さなくなった狂気の飢狼と化していた。

そんな観客たちに応えるとして、ついにズァークははじけた。

「奴はデュエルを終えてもなお、召喚されたエースモンスター…《オッドアイズ・ドラゴン》、《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》、《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》…そして、ユーリというアカデミアのデュエリストが持つ《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》を使って…思うがままの破壊行動を開始した」

そこから始まったのは悪夢だった。

まずは観客たちにドラゴン達の攻撃が向けられた。

本来であれば、観客たちに攻撃がいかないようにプログラムされていたはずなのに、そのプログラムが機能しなくなっていて、ダメージも本来なら設定にすら存在しないはずの100%実体化が設定され、モンスターたちのブレスは一瞬で多くの人々の命を奪っていった。

会場を破壊しつくすと、ズァークは今度はその矛先を街へ、国へ、そして世界へと向けていった。

各国の軍もそんなズァークを止めるために攻撃したが、そのドラゴン達に既存の兵器は通用しなかった。

「今思えば…その原因が彼の持つ英知のカード…『欠片』の力が大きかったのかもしれない。『欠片』が永瀬、君に平行世界を見せたように…」

「そう考えると、『欠片』は人の手に余る存在かもしれないな」

「そうだ。その手に余るものの力と己の欲望におぼれ、ズァークは破壊の限りを尽くした。そして、力を求めたズァークは自らと、4体のドラゴンを融合させた。英知のカードによって生み出したカード、《アストログラフ・マジシャン》の力によって…」

それによって、生まれたのは、己の全長に匹敵するほどの長い漆黒の翼を持ち、細長い蛇のような体を持つドラゴン。

その100メートル以上もの全長をもつドラゴンと融合し、ズァークは《覇王龍ズァーク》となった。

「世界は崩壊へと向かい、私はそれに対抗する手段を求めた。その中で見つけたのはこの地球そのものの力。太古より根付き、人間の欲望をもはねのける自然界そのものの力を4枚のカードに宿した。だが、そのカードは使った人間を依代として発動するもの。私は自らこのカードを使うことで、ズァークを倒そうとした。しかし…レイはあろうことかそのカードを奪い、私の代わりにズァークに挑んだのだ」

レイは4枚のカードを発動するとともに、《覇王龍ズァーク》を生み出した4体のドラゴンをズァークの魂と肉体もろとも分離させて封印した。

「確かに、これによってズァークは封じられた。しかし…レイもその代償によって…4人に一瞬別れて…消えてしまった。そして…気が付くと私はまったく別の世界に立っていた。そこは融合もシンクロもエクシーズもなく、リアルソリッドビジョンすら存在しない世界、スタンダード次元だった。私自身も、名前と技術者としての技量以外には何も思い出せなくなっていた…」

とにかく生き延びるために、零王は町工場を立ち上げ、リアルソリッドビジョンなどを作り出した。

その中で、榊遊勝と出会い、彼の考案によってアクションデュエルが作られ、その結果、アクションデュエルの生みの親であり最先端技術を持つ工場ということで知名度を得て、レオコーポレーションという巨大企業へと変化していった。

その中で妻子を得て、順風満帆な人生を送る中で、零王は時折夢を見るようになった。

ズァークと戦うレイの姿、そして4つに分かれる世界を。

「私は夢の正体を確かめるため、各地を旅して、夢で見た光景と同じ場所がないか探し続けた。会社そのものは私無しでもある程度機能するようになっていたから、問題はなかった。そして…私は見つけた。『欠片』を…」

それは夢の光景と何も関係のないはずのエジプトのピラミッドの中だ。

手がかりもなく、途方に暮れる中で偶然デュエルの起源であるとされるエジプトのピラミッドの調査への協力依頼があった。

それに応じて、ピラミッドの中を探し、そこにあったモンスターの石板のデータを集める中で、『欠片』を見つけた。

それに触れた瞬間、過去の記憶がよみがえり、同時に今のこの世界の真実を知ってしまった。

「この世界はレイとズァークによって、4つに分かれて生まれた世界だったのだ。そのことを『欠片』によって知った」

「待て、その『欠片』はどうした?なぜ今持っていない?」

「あれはスタンダード次元の私の友である遊勝にペンデュラムと称して譲ったよ。彼はズァークと関係を持たない。故に彼になら、渡しても問題はないと思った。それから私は今から10年前、どうにか私は次元転移装置を作り上げ、手掛かりを求めて融合次元にやって来た。そして、そこで私の娘の分かれた1人であるセレナ…そして、ズァークの分かれた存在であるユーリを見つけた。ようやく見つけることができたのだ、娘を…レイを取り戻すための手掛かりを。だが、同時に娘と世界を奪ったズァークの亡霊とまで出会うことになるとはな…」

「それで、娘を取り戻すために、まさか…」

「そうだ。レイの分身である4人を統合させる。そのための技術もある。あとは…仕掛けるだけだ。そのために、アカデミアを設立したのだからな」

 

「そして…話してくれた。どうやって、実の娘を取り戻すのか…。それは、4人を統合すること。そのためのエネルギーが…多くの人間を材料に作り出すエネルギーだ」

「まさか…デュエル戦士達が人々をカードに変えたのは…!!」

「そうだ。そのエネルギーにするためだ。カードに変えられた人々は融合次元に送られる。そして、エネルギーにするために封印される…」

その言葉に零児の拳が震え始めた。

ほんの少しだけ、曲がりなりにも世界をよりよくするために動いていると思っていた。

だが、そんなわずかな甘い気持ちもプロフェッサーはあざ笑うように吹き飛ばした。

自分の娘とはいえ、たった1人のために数えきれない人々を犠牲にする彼のエゴに恐怖した。

「私は反対したよ。そんなことをして取り戻したとしても、第2第3のレイを…零王の娘を作ることになるだけだと…」

 

「やめるんだ、零王!もっと別の方法があるはずだろう…??」

「いや、それ以外に…それ以外に方法がないのだ!わかってくれ、永瀬。君の娘はかかわらせない」

「それでもだ。零王、話してくれたのはうれしいが、そのようなやり方しか取れないというのが、残念だ」

「そうか…ならば、仕方がない」

プロフェッサーが手を挙げると、3人の男が入ってくる。

デュエル戦士のものではない、黒いコートを着た男たちで、全員がジェルマンのエンブレムをつけている。

「彼らは…ジェルマン!!」

「そう、君と私の研究成果だ。彼らが君を連行する。すべてが終わるまで、ファウスト島でおとなしくしていてくれ」

 

「そして、私はこのファウスト島に軟禁された。だが、軟禁されるだけで私の行動は自由にさせてくれていたよ。外部との通信もできて、研究もできる。頼めば、研究材料でも食料でも何でも調達してくれる。ある意味では、貴族のような暮らしだ。そして、ファウストの中にエリクがいてくれたこともだ」

「お父さんと、エリクさんってどういう関係なの…?」

「私は訓練中に重傷を負ったのです。それをあなたのお父さんに救われたのです。ジェルマンは私のような重傷者や志願者に改造・強化手術を行うことで強力なデュエル戦士に変えるプロジェクトです。今では、プロフェッサー直属の特務部隊、表向きは、ですが…」

「表向き…どういうことだ?本当はそうじゃないって言いたいみたいだな」

翔太の言葉を肯定するように、エリクが首を縦に振る。

ドクターN、いや永瀬だけではない、彼もまた、知る限りの真実を伝えるためにここに来た。

たとえそれがどのような結果が自分に降りかかることになったとしても。

「みなさん、お伝えします。今のアカデミアを率いているのはプロフェッサーではありません。今は…」

「そうだ。プロフェッサーのアークエリアプロジェクトを引き継いだ者がいる。だが、貴様らはそれを知る必要はない」

「その声…またお前かよ!!」

部屋の中で聞こえる、翔太にとっては何度も聞いた声。

翔太が振り返ると、そこにはバレットの姿があった。

「やはり、情報通りだ。ドクターN、そしてエリク…まさか特務部隊の中に裏切者がいるとは思わなかったぞ」

「永瀬さんのおかげですよ。知らないかもしれませんが、裏切者防止のため、ジェルマンには脳にインプラントを取り付けるのです。私の場合は、取り外しましたよ。結果として、体はこの状態ですが、それでも自由です」

「死ぬ確率の高い手段だな。だが、これで裏切りの証拠はそろった。貴様らはアカデミアの名のもと、始末する」

バレットが懐から拳銃を引き抜く。

その銃口がベッドに横たわる永瀬に向けられている。

「おい、てめえ…。ろくに銃を握れねえ2人に、銃を向けるのかよ?落ちたな、勲章野郎」

「なんとでも言え、任務のためであれば、私情も捨てる」

「私の命はともかく…若い命を無駄に散らせるわけにはいかないな…」

永瀬がつぶやくと同時に、ベッドとその周囲に集まる翔太達を網のような赤外線の箱が包囲する。

即座にバレッドが発砲するが、その障壁が受け止める。

「チッ…防御用の罠を用意していたか!ならば、解除させてもらう!」

この任務でファウスト島に入れられる際、デュエルディスクにこの施設のマスターキーを入れてもらっている。

これを操作すれば、その罠を解除して、任務を遂行できる。

「ちっ、そんな下らねえ任務をさせるわけにはいけねえよ!」

叫ぶ翔太が左手を伸ばすとともに痣が光り始める。

止めようと伸ばす伊織の手を無視し、前へ進んでいく。

痣の光に反応するかのように赤外線の光が翔太が進む箇所だけ消え、通過すると同時に元に戻る。

デュエルディスクを操作する手を止め、バレットがにらむように翔太を見る。

「貴様…なんのつもりだ?」

「スタンダード次元、シンクロ次元、エクシーズ次元…さんざんてめえと戦ってきた。てめえにもアカデミアにも、これ以上伊織と伊織の親父を邪魔させるわけにはいかねえ。あいつらに代わって、俺がてめえを止めてやるよ」

「…ふっ、どうやら貴様を倒さなければ、任務を遂行できないようだな」

口元を緩ませたバレットはデュエルディスクを展開し、デッキをセットする。

「貴様にはさんざんやられてきた…。今度こそ倒してやろう…」

「今度も、負けるのはお前だよ、紋章野郎!」

「「デュエル!!」」

 

バレット

手札5

ライフ4000

 

翔太

手札5

ライフ4000

 

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