閉じられた瞼に白くて柔らかな光がわずかに差し込む。
柔らかな布団に包まれた、次元戦争が始まってからは味わったことのない、普段なら当たり前の暖かな感覚。
違いがあるとするなら、体中からひどく感じる疲れで、まるでそこかしこに鉛のついた枷をつけられているような、そんな感じだ。
ガチャリと扉が開く音が耳に聞こえる。
「こら、遊矢。いつまで寝てるんだい?早く起きなきゃ、塾に遅れるよ」
「母さん…」
「父さんのようなエンターテイナーになるんだろう?」
母親の、いつも通りのおせっかいが懐かしい。
いつもなら、これから起きて洋子が作ってくれた朝ごはんを食べて、遊勝塾へ行く。
そこで柚子のハリセンツッコミを受け、修造の暑苦しい言葉を聞き、時折来る権現坂とデュエルをする。
その当たり前が始まる。
だが、遊矢はゴロリと洋子に背中を向ける。
「いいんだ…寝かせてくれよ、母さん…」
「どうして?何かあったのかい?」
「なんでもないよ…もう、どうでもいい…。もう、起こさないでくれよ…」
だが、もうその当たり前の日々へ戻ることなどできない。
ペンデュラム召喚を初めて使ったときから…いや、遊勝が失踪してから?
そのどちらでもなく、榊遊矢としてこの世の生を受けたときからとっくにこの道は決まっていた。
次元戦争がはじまり、それを止めるためにランサーズとして異世界へ飛び、その中で知った、かつての自分であるズァーク。
ズァークとして、世界を破滅させ、そしてこの次元戦争の原因を生み出してしまった。
その罪深い自分はもう父親のようなエンターテイナーになるなど、口が裂けても言えない。
望むのはただ、こうして眠り、すべてを終わらせること。
眠ってさえいれば、もう何もする必要などなく、ただ痩せ枯れていき、やがて死んでいく。
それが今の遊矢の望みとなっていた。
「はあはあはあ…ウィンダ、これで…何匹、倒した…?」
「えっと…多分、20だと思うよ…ユウ…」
甲板には傷だからの侑斗とウィンダ、そして零児達の姿があり、その周囲には数多くの小型の《覇王龍ズァーク》というべきモンスターたちが存在していた。
アカデミアに陣取り《覇王龍ズァーク》は動く気配を見せず、その代わりに次元の裂け目から現れたのがこの小型のモンスターたちだ。
彼らが《覇王龍ズァーク》に代わって攻撃を開始しており、侑斗たちが応戦している格好だ。
1体1体は大したことがないが、恐ろしいのはその数であり、この船に攻撃しているモンスターだけでも千単位でいるのではないかと思えるほどだ。
更には《覇王龍ズァーク》の元となった4体のドラゴンに似たモンスターもいて、それらの強さは小型のモンスターたちよりもはるかにある。
「ニヴルヘイムもいるまでも持つものではない。このままでは…」
「倒すしかないよ、ズァークを…」
「伊織ちゃん、大丈夫かな…。翔太君も…」
島に残っている意識不明の翔太と、彼のそばに残った伊織。
アカデミアの中心部への攻撃する様子がないことから、そこにいる2人には被害がないとは思いたいが、このまま次元統合が進めば無事では済まないだろう。
「遊矢…俺はお前が思うほど…お前にあこがれられるほどの男じゃない。俺はお前に…父親として最低なことをしてしまった。お前と、母さんに寂しい思いをさせてしまったな…」
眠る遊矢の左手に触れ、そこから伝わる冷たい鉄の感触に遊勝はかつての己の行いを後悔する。
次元戦争を止めるために何もかもを放り出してきて、結局は何もできず、すべての子供たちに押し付けてしまった。
左腕を失い、それを義手で補ってなおも戦い、そして過酷な宿命を知った遊矢に何もできていないことを思い知る。
「おじさん…」
「だが、一つだけ言えることがある。少なくとも、俺がそばにいたあの時間…お前の父親として過ごした時間、そこで見たのは悪魔なんかじゃない。本当に誰かを笑顔にしたい、楽しみたいと思い、行動する…俺の自慢の息子だ。遊矢…」
「呼びかけ続けろ、呼びかけた後は…奴次第だ」
「いつまで寝てるんだよ、遊矢。まだ眠ってる場合じゃないだろ?」
「え…?」
急に耳に届いた、もう二度と聞くことがないと思っていた素良の声。
身を起こすとそこは真っ暗な空間で、あるのは自分が眠っていたベッド、そして椅子に座る素良の姿。
いつものように好物であるキャンディーを口にしている彼は穏やかに笑っていた。
「僕はもう目を覚ますことなんてできない。けど、遊矢は違う。まだ生きてるだろ?それに…僕を笑わせてくれた…戦争以外のデュエルを教えてくれたのは遊矢、君だよ」
「素良…でも、俺は…俺は素良を遊勝塾へ連れて帰れなかった。それに…死んでいくのを見てるしかなかった…。素良だけじゃない、エドだって…俺は救えなかった…」
「何を言っているんだ、君は。言っただろう、君は僕を救ったんだと」
ベッドのそばに現れるエドがそんなことも分からないのかとあきれたように口を開く。
二人とも本当に死んだ彼らの魂なのか、それともただの妄想なのか、今の遊矢には区別がつかない。
「大丈夫、遊矢は悪魔なんかじゃない。そうだな…思うのは本当にペンデュラムみたいな奴だな、なんて思ったよ」
「え…?」
「悲しい時はしっかり悲しんで、笑うときはとことん笑う。ま…メンタル弱いなって思うところはあったけど、それだけ人の笑顔と悲しみに寄り添える。そんな遊矢だから、僕は託せた。すべてを終わらせてくれると信じて、あの時にいけたんだ」
「アカデミアの理想に縛られ、心をなくした僕にもう1度、デュエルの楽しさを教えてくれたのを忘れたのか?確かにそれで死んだかもしれないが、あの時に僕は生き返ったんだ。死んでいくだけの僕の心を、君はもう1度よみがえらせた。だから…」
「あきらめないでよ、遊矢。君がみんなを笑顔にしていく姿…ずっと見てるから」
「ああ…」
椅子から立ち上がる素良、そしてエドが徐々に離れていき、暗闇の中へ消えていく。
体を起こす遊矢だが、急に起きた体は思うように動かず、ベッドから降りると同時に倒れてしまう。
パジャマ姿の遊矢は体を起こそうとするが、パジャマの袖から伸びているはずの左手がないことに気づく。
やむなく右手だけで体を起こすと同時に、目の前に柚子によく似た顔立ちの女性が現れる。
「初めまして…っていうべきかしら?」
「柚子…じゃない。君は…もしかして、レイ…」
「そう、赤馬レイ。こんな形であなたとお話ができるなんで思わなかったけれど…。あなたの頭の中にある『欠片』のおかげかしら」
「頭の中…それって、俺が撃った…!!」
確かに、ヒイロから受け取った自決用の銃の中に入っている銃弾は1発だけだが、まさかそれが『欠片』を材料に作っていたというのは想定していなかった。
そんな銃の銃弾が何なのか、用途が決まり切っている以上誰も見ることなどないだろうが。
「かつて、一つだった世界にも『欠片』が存在したわ。それを使ったのがズァークよ。彼はそれを英知のカードって呼んでいたわ」
レイが右手を広げると同時に水晶でできたカードが出現する。
それは遊矢とユーゴが共鳴したときに見たズァークが手にしていたカードそのものだった。
「当時はみんな、これはただの特殊なカードというだけの認知だった。そのカードの力でズァークはモンスターの声が聞こえるようになったらしいわ。けれど、より激しく、より強く、より刺激のあるデュエルを求めるようになった観客に応えるように、ズァークは戦った。そして、その願いに反応するかのように、英知のカードは彼のためにモンスターを生み出したの。それが、《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》、《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》、《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》よ。そして、その核となったのが《オッドアイズ・ドラゴン》。みんな…英知のカード、いいえ、『欠片』が人々の思いをズァークを介して叶えたもの、それが人の手に余る、世界を生み出し、作り変えるほどの力を持つことを知った時には…もう、すべてが遅かった。それでも、父はズァークを止めるためのカードを作った。この4枚のカードよ…」
遊矢の周囲を包むように出現した4枚の魔法カード。
そして、それぞれのカードの前にはブレスレッドも出現し、少なくとも2つ、遊矢には見覚えのあるものがあった。
「これは…柚子とセレナのブレスレッド…ただ、俺たちを遠ざけるだけの存在じゃなかったのか?」
「本当はこの4枚のカードの力を発揮するためのものよ。世界を作り出す自然に可能性を求めたの。《エン・フラワーズ》、《エン・ムーン》、《エン・ウィンズ》、《エン・バーズ》。この力を使って、私はズァークを倒したわ。いえ…倒したという言葉はおかしいわね。《覇王龍ズァーク》となった4体のドラゴンをズァークともども4つに強制的に分離させたというべきかしら。その反動を受けた私は4人に分かれ、そして…世界も引き裂かれた。そして…残った父は、やがて記憶を取り戻して、私を取り戻すためにこんな計画を…」
あの4枚のカードは元々、零王が自ら使い、ズァークと相討ちになる覚悟だったものだ。
だが、父親が犠牲になることを拒んだレイの善意が今回の事件の遠因となり、再び世界が破壊される呪いとなり果ててしまった。
「遊矢、今のズァークは全力じゃない。核となる肉体を持っているあなたを手にできなかったから。だから…今なら、ズァークを倒すことができるかもしれない。その願いをあなたに託すわ」
「そんな…俺は、ズァークなんだぞ!?それに…」
ユーリを倒し、ユーリと共鳴した状態で放った言葉を思い出す。
あの時、確かにズァークの思念が遊矢の中で目覚めていた。
その事実が自分もまたズァークであるという現実を遊矢に突きつける。
自分が目覚めることで、今度こそズァークの完全覚醒の呼び水となってしまうかもしれない。
そして、自分の手で世界を…。
震える右手を見つめる遊矢を安心させるかのように、レイが彼の手を握る。
その手のぬくもりは柚子のものとそっくりだった。
「大丈夫、あなたにならできる…。この次元戦争の悲劇の中でも、それでも誰かの笑顔をあきらめない、あなたなら…。もう一人の私を、柚子をお願い。これから、あなたを目覚めさせるわ」
「レイ…」
「こんなことに巻き込んでしまって…ごめんなさい…」
一筋の涙を流し、詫びの言葉を残したレイが消え、4枚のカードとブレスレッドが一つになる。
それが花の種となり、遊矢のペンデュラムと共鳴するように淡い光を放つ。
「柚子…」
種が発芽し、徐々に花となっていく。
それに向かって歩き出す遊矢の姿がパジャマ姿から普段着へと戻っていき、失っていた左腕に義手が出現する。
ピンクの花びらの花に触れると同時に周囲が光に包まれた。
「あ、あ…」
「遊矢…」
徐々に目を開けていく遊矢の右手を握る誰かの手。
しっかりと目が開き、視界に入ってくる、涙でぬれた柚子の顔。
顔がグシャグシャで、ずっと自分のために泣いてくれていたのがわかってしまう。
「柚子…」
「遊矢!!」
目覚めた遊矢に抱き着き、涙を流す柚子。
そんな柚子の背中に右腕を回した遊矢は目を閉じて柚子に体温を感じていた。
「心配かけて、ごめん…」
「本当よ…!!死んじゃったかと思った!!遊矢の馬鹿!!」
「ああ…そうだな、馬鹿だな…俺…。…柚子、俺、行くよ…」
「行くって、どこへ…?」
「もう1度、アカデミアへ。ズァークと、決着をつけてくる。デッキと、デュエルディスクを…」
「そんなの…ダメ!!遊矢は…お願い、もう…戦わないで…」
「柚子…?」
急に涙を浮かべる柚子の顔を見た遊矢は彼女の言葉を頭の中で反復させる。
そして、戦うなという言葉の意味を一瞬だけ理解できなかった自分に気づく。
「遊矢…あなたは、もう十分に戦った。ずっとあたしを守ってくれた。だから…もし、あなたが戦うというなら、私が代わりにズァークと戦う!あたしなら戦える!レイだった…ズァークを止めたあの人の一人のあたしなら…!」
「いい…いいんだ、柚子。これが…俺の、最後の戦いなんだ…。この戦いだけは、誰にも譲れない…」
「遊矢…」
今の遊矢を止めることができない。
ずっと彼のそばにいたから、そのことは頭ではわかっている。
けれど、柚子はどうしても止めたかった。
彼が死ぬかもしれないという恐怖を知ってしまった柚子には、彼を死地へ送り出す勇気が出ない。
そんな柚子に笑みをうかべた遊矢は彼女を抱きしめる。
「柚子…ズァークは、俺なんだ。俺の存在が、世界を狂わせてしまった。柚子の未来も…。だから、俺が止めなくちゃ」
「遊矢…」
抱きしめるのをやめた遊矢に遊勝が声をかける。
もしかしたら、これが息子と話す最後の機会になるかもしれず、伝えたいことが山ほどある。
だが、そのためなのか、今の遊勝にはかける言葉が見つからない。
本当は彼もまた、遊矢を止めたいと願っている。
「父さん…帰ったら、聞くよ。父さんがどんな思いで戦ってきたのか」
「遊矢…」
「じゃあ、行ってくるよ」
机に置かれているデュエルディスクとデッキを手にし、扉の前へ行く。
自動で開くとともに、戦いの音が病室に容赦なく響いてくる。
病室を出て、ドアが閉じる少しの時間、遊矢は口を開く。
「父さん…俺に、エンタメデュエルを教えてくれて、ありがとう。ヒイロさん、父さんたちを…お願いします」
扉が閉じるとともに、柚子がその場に崩れ落ち、遊勝は拳を震わせる。
「遊矢…すまない、すまない…」
「翔太、君…」
消滅した翔太の姿を信じることのできない伊織は彼が遺したカードを握りしめる。
ベクターの笑い声が響き渡るが、今の伊織の心を襲っているのは目の前で翔太が消えたことに対する絶望だった。
そして、それは次第に仇であるベクターへの怒りに代わっていく。
「キュー!!!」
それを代弁するかのように、ビャッコがベクターに威嚇する様子を見せ、尻尾には炎が宿る。
「おいおい、何を勘違いしてんだよー。こいつはただの幽霊。俺とええっと…誰だったかなあ、海の中で寝ぼけてたクソガキがぶつかり合った結果できたただの異物。それが元に戻っただけのことだろう?」
「そんなことない!!翔太君は…確かに生きてた。自分がだれかを追いかけ続けて、戦い続けてきた私たちの仲間!!そんな翔太君を…なかったことになんかさせない!!」
託されたカードをデッキに入れると同時に、ビャッコもまたその姿をカードへと変化させ、伊織のデッキに中へ飛び込んでいく。
(お願い…翔太君、一緒に…戦って!)
「へっ…この俺様の完全復活の祝いに対して、てめえじゃあ役不足だが…いいぜ、余興として付き合ってやるよ!!」
ベクターの背後に彼の四騎士を模した巨大な石像が出現し、それらが主の敵である伊織をにらみつける。
だが、恐怖よりも怒りが勝る今の伊織には通用しない。
「「デュエル!!」」
伊織
手札5
ライフ4000
ベクター
手札5
ライフ4000
甲板に次々とドラゴン達が襲い掛かり、その度に零児達のモンスターが蹴散らしていく。
それが何度も何度も繰り返され、なおも視界から消えないモンスターたち。
「あのモンスター…執拗に狙ってくる」
「きっと、遊矢君を危険視しているからだよ。ズァークが取り逃がして、一番の不安要素だから」
「ならば、なおさら…負けられん!!」
治療が完全に終わっていない権現坂も《超重武者ビッグベン-K》を召喚し、突っ込んでくるドラゴンを真正面から掴ませて、そのまま別のドラゴンに投げつける。
そんな修羅場が演じられる中で、遊矢が出てくる。
「遊矢君!?」
「遊矢…!目を覚ましたのか…!」
「ああ…心配かけてごめん」
甲板に出てきた遊矢の姿を見たモンスターたちが一瞬動きを止める。
そして、先ほどまで零児達を襲っていたのが嘘だったかのように、遊矢一人に襲い掛かる。
「やはり、そうか…だが!!」
零児が召喚した《DDDD超次元統王ゼロ・パラドックス》が引き起こす嵐が遊矢を襲おうとしたモンスターたちを一匹残らず吹き飛ばしていく。
その中で遊矢のそばにユーゴのDホイールが走ってくる。
「ありがとう…クリアウィング」
ヘルメットをかぶった遊矢はDホイールに乗り込む。
モニターはいつものDホイールと同じもので、やはりクリアウィングもまた取り込まれてしまったのか、そこからは意思は感じられない。
オッドアイズの声も聞こえない。
そんな状態で、わずかに残留したクリアウィングの思念が戦いに出ようとする遊矢のもとに走らせたのだろうか。
視線はズァークの巨大な影が浮かぶアカデミア本島。
「榊遊矢、君は…」
「零児、権現坂、剣崎さん、ウィンダさん。…全部、終わらせてくる。みんなのことを、頼む!」
「待て、遊矢!また一人で…」
権現坂が呼び止めるのを聞かず、Dホイールが発進し、ファントムライトを展開させるとともに飛び立ち、アカデミア本島へと向かう。
船に集結しようとしていたモンスターたちだが、遊矢が出たのを確認すると、わずかなモンスターだけを残して追撃に飛び出す。
「くそっ…!また、また俺は…遊矢を…」
一人戦いに行く遊矢の後姿に拳を握りしめる権現坂。
拳に入る力が強すぎて、爪が食い込んで血が流れるほど。
だが、そんな感傷に浸っている場合ではなく、残っているモンスターの中には遊矢たちが使っていたドラゴンのようなモンスターもいる。
「懺悔ならば、戦いの後でいくらでもする!だから…今は!!」
アカデミア本島に降り立つDホイールがわずかに走った後で停車し、遊矢は周囲に広がるガレキと炎を見渡す。
あたりには倒れているヴァプラ隊の隊員たちの姿があり、誰からも生気が感じられない。
唇をかみしめ、歩き出す遊矢はDホイールを走らせる。
ファントムライトのおかげでドラゴン達を振り切ってここまで来た遊矢の視線がズァークに向けられる。
遊矢の視線に気づいたズァークもまた、遊矢に目を向ける。
「来たな…榊、遊矢」
ブクブクと黒い煙に包まれたズァークの巨体が消えていき、煙は遊矢の目の前の一点に集中されていく。
煙の中から人間が出てきて、それは遊矢が見た幻覚の中にいるズァークと似ているが、黒い翼を生やし、裸になっている上半身は黒ががった灰色の肉体で、文字通り悪魔というべき姿になり果てていた。
「自分の姿を悪魔に変えてまで、そこまでして世界を壊したいのか…」
「ああ、そうだ。勝利と死闘を求め続けた奴らに応え、モンスターたちの宿す憎しみに応える。奴らに、死んで償わせるのだ…」
「…だったら、俺がお前を止める。俺自身のためにも…」
「ほぉ…やってみるがいい、くたばり損ないの片割れが」
ズァークの左腕が変化し、悪魔の頭と翼が組み合わさったようなデュエルディスクが出現する。
遊矢もデュエルディスクを展開させるとともに、《クロス・オーバー》をセットする。
周囲にアクションカードとカラフルな足場が出現し、互いにカードを引く。
「「デュエル!!」」
ズァーク
手札5
ライフ4000
遊矢
手札5
ライフ4000
「俺の先攻…。俺は手札から魔法カード《おろかな埋葬》を発動。デッキからモンスター1体を墓地へ送る。俺が墓地へ送るのは《覇王眷竜ダークヴルム》。そして、このカードが墓地に存在し、俺のフィールドにモンスターが存在しない場合、墓地から特殊召喚できる」
これまで遊矢たちを襲ってきたモンスターの1体である、小さくなった《覇王龍ズァーク》というべき姿のドラゴンが現れ、遊矢を威嚇するように叫ぶ。
覇王眷竜ダークヴルム レベル4 攻撃1800
「このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、デッキから覇王門ペンデュラムモンスター1体を手札に加える。俺が手札に加えるのは…《覇王門零》。そして、さらに俺は手札から《覇王眷竜ウィンドヴルム》を召喚」
続けて現れる、姿こそ《覇王眷竜ダークヴルム》と同じではあるものの、羽根には《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》が持つプリズムが装着されていた。
覇王眷竜ウィンドヴルム レベル4 攻撃1200(チューナー)
「このカードがシンクロ素材となるとき、このカード以外のシンクロ素材がすべて闇属性ペンデュラムモンスターの場合、レベルを3か5として扱うことができる。レベル4の《ダークヴルム》にレベル3となった《ウィンドヴルム》をチューニング。その美しくも雄々しき翼翻し、光の速さで敵を討て!シンクロ召喚!現れろ、レベル7!《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》!」
クリアウィング・シンクロ・ドラゴン レベル7 攻撃2500
「《クリアウィング》…」
召喚された《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》は確かにユーゴが召喚したのと同じ姿。
だが、その瞳は赤く光っていて、その様子はまるで怒っているように見えた。
「シンクロ素材となった《ウィンドヴルム》の効果。このカードをシンクロ素材としてレベル7か8のドラゴン族シンクロモンスターのシンクロ召喚に成功した時、デッキから新たなレベル4以下の覇王眷竜を特殊召喚できる。俺はデッキから《覇王眷竜サンダーヴルム》を特殊召喚する」
《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》の影の中から、今度は紫の稲妻を帯び、紫色の体をした《覇王眷竜ダークヴルム》といえるモンスターが現れる。
覇王眷竜サンダーヴルム レベル4 攻撃1900
「このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、デッキから覇王カード1枚を墓地へ送ることができる。俺は《覇王眷竜ローズヴルム》を墓地へ送る。そして、手札から魔法カード《死者蘇生》を発動。この効果により、墓地から《覇王眷竜ローズヴルム》を特殊召喚」
《覇王眷竜ダークヴルム》に似た、今度は紫の炎と毒々しいバラが咲いた茨を身にまとったドラゴン。
4体の覇王眷竜のいずれにも言えるのは、遊矢たちの持つ4体のドラゴンのうち、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》以外の3体の特徴を持っているドラゴンが1体ずつ存在し、中核となっているのが《覇王眷竜ダークヴルム》だということだ。
覇王眷竜ローズヴルム レベル4 守備2000
「レベル4の《サンダーヴルム》と《ローズヴルム》でオーバーレイ。漆黒の闇より愚鈍なる力に抗う反逆の牙!今、降臨せよ!エクシーズ召喚!現れろ!ランク4!《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》!」
「次は…《ダーク・リベリオン》…!」
続けて現れる、今度はユートから託され、ともに戦い続けてきたドラゴン。
そのドラゴンも怒りを瞳に宿しており、仲間のはずの遊矢をも刺殺せんとするほどの気迫が感じられた。
ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン ランク4 攻撃2500
「ふふふ…覇王のフィールドにこのようなチンケなものなどいらん。俺の色に染め上げてやろう。俺は手札からフィールド魔法《覇王界》を発動!アクションデュエルでは…フィールド魔法は永続魔法扱いとなるのだったな?」
発動と同時にビリビリとズァークと遊矢の周囲に稲妻が発生し、同時に稲妻に触れた足場が砕け散っていく。
稲妻と共に発生するのは宇宙のような空間で、それは徐々に広がっていっているように見えた。
「《覇王界》は俺がこれより生み出す世界。4つの次元すべてを飲み込み、破壊する世界。このデュエルが続く限り、世界を侵食し、消滅させる!!」
「何!?」
「見るがいい、ここにいるしかばねたちを」
遊矢とともに飲み込まれた、ヴァプラ隊の亡骸たちが次々とガラスの彫像のような姿へと変わっていく。
やがてそれらはひびが入ると、粉々に砕け散っていく。
「あ、ああ…」
「安心しろ、デュエル中の貴様がこのような無様をさらすことなどないのだからな。この《覇王界》がフィールドに存在し、俺のフィールドにドラゴン族融合、シンクロ、エクシーズ、ペンデュラムモンスターが2種類以上存在する場合、1ターンに1度、デッキからカードを1枚ドローできる。そして、カードを2枚伏せて、ターンエンド」
ズァーク
手札5→1(《覇王門零》)
ライフ4000
場 ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン(オーバーレイユニット2) ランク4 攻撃2500
クリアウィング・シンクロ・ドラゴン レベル7 攻撃2500
伏せカード2
覇王界(永続魔法扱い)
遊矢
手札5
ライフ4000
場 なし
最初の1ターンでユートとユーゴのドラゴンが出現し、さらには正体不明のペンデュラムモンスターがズァークの手札に存在する。
(ユート、ユーゴ…ダーク・リベリオン、クリアウィング…)
2体のドラゴンからはかつて感じられた意思は感じられず、ズァークからはその中にいるであろう2人が感じられない。
取り込まれたことで、もうその意思も消滅してしまったのか。
「俺のターン、ドロー!!」
遊矢
手札5→6
「俺はスケール1の《EMレディアンジュ》とスケール8の《EMジェントルード》でペンデュラムスケールをセッティング!」
どんなに絶望的な状況であったとしても、かつての己との戦いであったとしても、自分が目指すデュエルを変えてはならない。
薄紫の髪の天使のような少女が歌い、シルクハットと燕尾服姿で乱れた髪を隠した少年がその歌声に合わせる。
歌う2人が生み出すペンデュラムスケールに反応するように、遊矢のデッキが光る。
「《ジェントルード》のペンデュラム効果発動!もう片方のペンデュラムゾーンに《レディアンジュ》が存在するとき、デッキからオッドアイズカード1枚を手札に加えることができる。俺は《オッドアイズ・ファントム・ドラゴン》を手札に加える!そして、俺は手札から《EMオッドアイズ・バレット》を召喚!」
紫のシャツに燕尾服を重ね着した青年がフィールドに現れるも、その瞳の色はその名とは異なり、黒一色だった。
EMオッドアイズ・バレット レベル1 攻撃100
「このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、デッキからオッドアイズ1体を墓地へ送ることで、ターン終了時までこのカードのレベルを墓地へ送ったモンスターのレベルと同じにできる。俺は《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》を墓地へ送り、《オッドアイズ・バレット》のレベルを7にする!」
カードを墓地へ送ると同時に《EMオッドアイズ・バレット》の瞳が《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》と同じになる。
同時に、このデュエルで初めて触れた《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》のカードの感触に、遊矢は物悲しさを覚えていた。
(オッドアイズ…お前も、お前もいないのか…)
他の3体のドラゴンとは異なり、確かに《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》のカードはデッキに残っていた。
だが、もはやこのカードには魂は感じられず、抜け殻になっていることを実感するだけ。
EMオッドアイズ・バレット レベル1→7 攻撃100
「そして、俺は今のペンデュラムスケールでなら、レベル2から7までのモンスターを同時に召喚可能!揺れろ、魂のペンデュラム!天空に描け、光のアーク!ペンデュラム召喚!現れろ、《オッドアイズ・ファントム・ドラゴン》!!《EMペンデュラム・マジシャン》」
オッドアイズ・ファントム・ドラゴン レベル7 攻撃2500
EMペンデュラム・マジシャン レベル4 攻撃1500
「《ペンデュラム・マジシャン》の効果!このカードの特殊召喚に成功した時、俺のフィールドのカードを2枚まで破壊し、破壊したカードの数だけデッキからEMを手札に加えることができる。俺は《レディアンジュ》と《ジェントルード》を破壊し、デッキから《EMシール・イール》と《EMグラビティ・エレファント》を手札に加える!そして、《ジェントルード》の効果!このカードが破壊されたとき、デッキから新たなEMをペンデュラムゾーンに置くことができる。俺は《EMオッドアイズ・ユニコーン》をペンデュラムゾーンに置く!そして、手札に加えた《シール・イール》をセッティング!そして、《シール・イール》のペンデュラム効果を発動!1ターンに1度、相手フィールドのモンスター1体の効果をターン終了時まで無効にする!俺は《クリアウィング》の効果を無効にする!」
モンスター効果を大きく阻害する《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》はいち早く対処すべきモンスターであり、同時にペンデュラムゾーンでは魔法カード扱いとなる《EMシール・イール》を防ぐ術を持たない。
バツ印のシールが張り付けられ、プリズムから光が失われる。
「そして、俺はレベル7の《オッドアイズ・ファントム・ドラゴン》と《オッドアイズ・バレット》でオーバーレイ!二色の眼の竜よ、人々の涙を束ね、解放への道を示せ!エクシーズ召喚!ランク7!悲しき世界を穿つ氷河の竜、《オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン》!!」
オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン ランク7 攻撃2800
「そして、俺は手札の《グラビティ・エレファント》の効果発動!このカードは俺のペンデュラムゾーンにEMが2体存在するとき、手札から特殊召喚できる!」
青い鞍を背中に着け、小さなシルクハットをつけた象がのそり、のそりと遊矢の背後から歩いてフィールドに現れる。
EMグラビティ・エレファント レベル7 攻撃1000
「《グラビティ・エレファント》の効果!このカードのレベルを任意の数値下げ、エクストラデッキから下げたレベルと同じ数値のレベルのEM、魔術師、オッドアイズをチューナー扱いにして特殊召喚できる。俺はレベルを4つ下げて、もう1度《ジェントルード》を特殊召喚!」
鳴き声を上げるとともに誰も乗っていない鞍に《EMジェントルード》が出現する。
《EMグラビティ・エレファント》はフィールドに存在する3体のドラゴンをわずかに上回る巨体であり、その背に乗る《EMジェントルード》は彼らを見下ろせることに気をよくしたかのように笑みをうかべる。
EMグラビティ・エレファント レベル7→3 攻撃1000
EMジェントルード レベル4 攻撃1500(チューナー)
「レベル3の《グラビティ・エレファント》にレベル4の《ジェントルード》をチューニング!二色の眼の竜よ、怒りの業火で闇を焦がせ!シンクロ召喚!レベル7!大地を焼き尽くす業火の竜!《オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン》!!」
オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン レベル7 攻撃2500
遊矢とズァーク、どちらのフィールドにもシンクロモンスターとエクシーズモンスターが並ぶ。
攻撃力だけで見たらわずかに上回る《オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン》が存在することから遊矢が有利に見える。
「バトルだ!《オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン》で《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》を攻撃!氷結のアブソリュート・ゼロ!!」
咆哮する《オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン》の尾に棘のある氷塊が宿り、それを振るうと動きを封じられている《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》の鳩尾あたりに重い一撃が叩き込まれた。
その一撃で大きく吹き飛んだそのモンスターは崩れた壁に激突すると同時に消滅した。
「ふん…」
「ズァークのライフが減らない…??」
「《覇王界》の効果により、俺がエクストラデッキから特殊召喚したドラゴン族モンスターが相手モンスターと戦闘を行う場合、戦闘で発生する俺へのダメージは0となる。更に、そのモンスターが相手によって破壊されたとき、エクストラデッキに眠る覇王眷竜1体を守備表示で特殊召喚できる。さあ、再び現れろ。《ダークヴルム》!」
覇王眷竜ダークヴルム レベル4 守備1200
「《オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン》の効果!バトルフェイズ中、相手はモンスター効果を発動できない!」
走り出す遊矢は足場から足場へと飛び移り、アクションカードを手にする。
「《オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン》で《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》を攻撃!!」
「本来は相討ち…だが…」
「俺はアクション魔法《ハイダイブ》を発動!フィールド上のモンスター1体の攻撃力をターン終了時まで1000アップさせる!」
アクション魔法の恩恵により、身を包む炎に勢いが増した《オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン》の口から放たれる火炎弾が《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》を撃ちぬく。
己のドラゴンが2体とも破壊されたにもかかわらず、ズァークが見せるのは余裕な笑み。
「《覇王界》の効果により、俺へのダメージは0」
「《EMペンデュラム・マジシャン》で《ダークヴルム》を攻撃!」
最後の1体となった覇王眷竜を《EMペンデュラム・マジシャン》の振り子から放たれるビームで撃ちぬき、撃破する。
これでズァークのフィールドからモンスターがいなくなり、残る手札は《覇王門零》のみ。
(ズァークが手札に加えたあのペンデュラムモンスター、確か…スケール0だった。ペンデュラムスケールって、最低でも1、最高でも10のはずなのに…)
《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》のオーバーレイユニットとなっていた2体の覇王眷竜は墓地へ送られているものの、2体ともペンデュラムモンスター。
ズァークのデッキは遊矢や零児と同じタイプのデッキといえる。
「さあ、どうした?貴様のターンはまだ終わっていないぞ?」
「俺は…カードを1枚伏せて、ターンエンド!」
ズァーク
手札1(《覇王門零》)
ライフ4000
場 伏せカード2
覇王界(永続魔法扱い)
遊矢
手札6→1
ライフ4000
場 オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン(オーバーレイユニット2) ランク7 攻撃2800
オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン レベル7 攻撃2500
EMペンデュラム・マジシャン レベル4 攻撃1500
伏せカード1
EMシール・イール(青) ペンデュラムスケール3
EMオッドアイズ・ユニコーン(赤) ペンデュラムスケール8
ターン終了宣言と同時に、ズァークがニヤリと笑う。
フィールドの2体のドラゴンを失い、手札はペンデュラムモンスター1体のみのこの状況で笑って見せる余裕に遊矢の心が冷める。
「俺のターン」
ズァーク
手札1→2
「《ダーク・リベリオン》と《クリアウィング》を倒したところで、無駄なことだ。俺の残りカスであるお前に勝てる道理はないのだからな。俺は墓地の《覇王眷竜ローズヴルム》の効果を発動。俺のフィールドにモンスターが存在しないとき、エクストラデッキまたは墓地に存在するこのカードとエクストラデッキに表側表示で存在する闇属性・ドラゴン族ペンデュラムモンスターを特殊召喚できる。再び現れろ、《覇王眷竜ローズヴルム》、《覇王眷竜ダークヴルム》!!」
地面がひび割れ、そこから再び現れる《覇王眷竜ローズヴルム》と《覇王眷竜ダークヴルム》。
2体の目は主に逆らう遊矢を見下しているかのようだった。
覇王眷竜ローズヴルム レベル4 攻撃1000
覇王眷竜ダークヴルム レベル4 攻撃1600
「そして、この効果で特殊召喚された2体のモンスターのみを素材として、ドラゴン族融合モンスター1体の融合召喚を行う!」
《覇王眷竜ローズヴルム》の茨が伸びていき、そばにいる《覇王眷竜ダークヴルム》を無理やり縛り付ける。
そして、上空に現れた渦の中に飛び込んでいき、その姿を変質させていく。
「融合…まさか!!」
「現れろ、《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》!!」
2体の覇王眷竜を素材とし、再び遊矢に牙を向ける《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》。
現れたそのドラゴンの目は2体とは異なり笑っていて、舌なめずりをしているかのようだった。
スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン レベル8 攻撃2800
「《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》の効果発動!このカードの融合召喚に成功した時、相手フィールドの特殊召喚されているモンスター1体の攻撃力分、このカードの攻撃力をターン終了時までアップさせる。さあ、貴様の力をよこせ…《オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン》!」
地面から出現した茨で身動きを封じられ、刺された箇所からモンスターの力を解析され、その情報が《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》へと伝達される。
伝達された情報を力へと変換させた《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》は咆哮する。
スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン レベル8 攻撃2800→5600
「さらに、《スターヴ・ヴェノム》の効果。1ターンに1度、相手フィールドのレベル5以上のモンスター1体の名前と効果を得る。《メテオバースト》の効果を使わせてもらう。これで、貴様はバトルフェイズ中、モンスター効果を発動できない。あの《オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン》の効果はね!!」
「くっ…!!」
《オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン》の2つの効果はいずれもバトルフェイズ中に意味を持つニュアンスが強い効果。
《オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン》で相手の首を絞めることができたと思いきや、今度は自分で自分の首を絞めることとなった。
「俺は手札から魔法カード《ペンデュラム・ホルト》を発動。俺のエクストラデッキにペンデュラムモンスターが表側表示で3種類以上存在する場合、デッキからカードを2枚ドローする。《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》で《オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン》を攻撃!」
《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》の体中の玉石から放たれる電撃が《オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン》を襲い、《オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン》は氷塊を生み出して身を守ろうとする。
だが、攻撃力5600となった《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》にとってはその程度の氷塊が紙に等しく、あっけなく打ち砕かれるとそのまま電撃を受けて爆散した。
「ぐうう、うわああああ!!」
爆発によって吹き飛ばされた遊矢がガレキに激突し、そのまま地面にあおむけに倒れる。
2800もの戦闘ダメージは大きく、遊矢の体が悲鳴を上げる。
遊矢
ライフ4000→1200
「くくく…大幅にライフが減ったな」
「く、う…俺は、罠カード《ショック・ドロー》を発動…。俺がダメージを受けたターンに発動でき、このターンに受けたダメージ1000ごとに1枚、デッキからカードをドローする…」
痛みに耐え、起き上がる遊矢は2枚のカードを引く。
お互いに手札は3枚となったが、モンスターとライフ、両方の面で状況がひっくり返ってしまった。
ズァーク
手札1(《覇王門零》)
ライフ4000
場 スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン レベル8 攻撃5600→2800
伏せカード2
覇王界(永続魔法扱い)
遊矢
手札1→3
ライフ1200
場 オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン レベル7 攻撃2500
EMペンデュラム・マジシャン レベル4 攻撃1500
EMシール・イール(青) ペンデュラムスケール3
EMオッドアイズ・ユニコーン(赤) ペンデュラムスケール8
覇王眷竜ウィンドヴルム
レベル4 攻撃1200 守備1800 チューナー 風属性 ドラゴン族
【Pスケール:青3/赤3】
このカード名の(1)のP効果は1ターンに1度しか発動できない。
(1):自分フィールドに「覇王眷竜」モンスターが存在するときに発動できる。Pゾーンに存在するこのカードを自分フィールドに特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたこのカードがフィールドを離れたとき、デッキの一番下に置く。
【チューナー:効果】
このカードをS素材とする場合、ドラゴン族モンスターのS召喚にしか使用できない。
このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか発動できない。
(1);このカードをS素材とする時、このカードのレベルを3か5としても扱うことができる。その場合、このカード以外のS素材はすべて闇属性Pモンスターでなければならない。
(2):このカードをS素材として、レベル7・8のドラゴン族モンスターのS召喚に成功した時に発動できる。デッキからS素材としたモンスター以外の名前を持つレベル4以下の「覇王眷竜」モンスター1体を特殊召喚する。
EMグラビティ・エレファント
レベル7 攻撃1000 守備2800 効果 地属性 獣族
このカード名の(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しか行えず、(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):自分Pゾーンに「EM」カードが2枚存在する場合、このカードは手札から特殊召喚できる。
(2):自分のEXデッキに表側表示で存在する、このカードよりもレベルが低い「EM」「魔術師」「オッドアイズ」Pモンスター1体を対象に発動できる。このカードのレベルをそのモンスターのレベルと同じ数値だけ下げ、そのモンスターを自分フィールドに特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたモンスターの効果は無効化され、ターン終了時までチューナーとして扱う。この効果を発動したターン、自分は「EM」「魔術師」「オッドアイズ」以外のモンスターをEXデッキから特殊召喚できない。
覇王界
フィールド魔法
(1):1ターンに1度、自分フィールドのドラゴン族モンスターの種類(融合・S・X・P・儀式・リンク)が2種類以上存在する場合に発動できる。自分はデッキからカードを1枚ドローする。
(2):自分フィールドに存在する、EXデッキから特殊召喚されたドラゴン族モンスターが相手モンスターと戦闘を行うとき、戦闘で発生する自分へのダメージは0となる。
(3):自分フィールドに存在する、EXデッキから特殊召喚されたドラゴン族モンスターが相手によって破壊されたとき、自分のEXデッキに表側表示で存在する「覇王眷竜」Pモンスター1体を対象に発動できる。そのモンスターを自分フィールドに守備表示で特殊召喚する。
覇王眷竜ローズヴルム
レベル4 攻撃1000 守備2000 闇属性 ドラゴン族
【Pスケール:青6/赤6】
(1):自分フィールドのドラゴン族融合モンスターが相手によって破壊され墓地へ送られたときに発動できる。そのモンスターを自分フィールドに特殊召喚する。その後、Pゾーンに存在するこのカードをデッキの一番下に置く。
【モンスター効果】
このカード名の(1)の効果はデュエル中1度しか発動できない。
(1):このカードが墓地・EXデッキに表側表示で存在し、自分フィールドにモンスターが存在しない場合、「覇王眷竜ローズヴルム」以外のEXデッキに表側表示で存在する闇属性・ドラゴン族Pモンスター1体を対象に発動できる。このカードと、対象としたカードを自分フィールドに特殊召喚する。この効果で特殊召喚された対象のモンスターの効果は無効化される。その後、この効果で特殊召喚されたモンスターのみを素材として、闇属性・ドラゴン族融合モンスター1体の融合召喚を行う。
ズァークと遊矢のデュエルが行われ、ズァークが《覇王界》を発動したのとほぼ同時刻。
エクシーズ次元、シンクロ次元においてズァークの言葉通りの異変が起こりつつあった。
雷雲が次元すべてを覆いつくし、幾重もの雷が落ちる。
落雷地点を中心として、《覇王界》のようなフィールドが展開されて生き、外側から見ると展開されたフィールドはブラックホールの中のような暗黒空間に見えて、何も見えない。
ニヴルヘイムを起動し、多次元からの干渉をある程度防ぐことができているスタンダード次元においても、守り切れていない状態で、舞網市の上空は暗闇に包まれ、上空には次元の裂け目が出現しつつあった。
その様子をレオコーポレーション本社ビルの社長室から現在社長代行を務める日美香が見つめる。
「零児さん…零羅…」
「日美香様…急ぎ避難を。ここは危険です」
中島に促される日美香だが、彼女は一向に動く気配を見せない。
先日、次元間通信によって零児自ら伝えられた零王とレイ、そしてズァークの真実。
零児は次元戦争で自分が死ぬ可能性を考慮し、伝えられるときに可能な限り真実を伝えることが残っている母親に対する礼儀と考え、伝えたのだろう。
もしくは、何も言わずに家族を置き去りにした零王と同じ轍を踏みたくないという思いなのだろうか。
日美香の脳裏に浮かぶのは零児が生まれたときに見せてくれた零王の笑顔。
あの笑顔は嘘偽りないもので、もうすぐ生まれることを知った零王は海外で商談中だったにもかかわらず、早期でそれを終わらせるとそのままプライベートジェットに乗り込んで舞網市へ舞い戻り、自ら車を運転して病院まで突っ込んできた。
失踪し、次元戦争を引き起こすまでは確かに日美香にとって零王は良き夫であり、彼と過ごした日々は本当に幸せそのものだった。
だからこそ、そんな自分たちを捨てる形でいなくなり、敵となった零王を憎んだ。
だが、今こうしてその幸せな過去を思い出していることを考えると、憎み切れなかったのだろう。
それに今まで気づけなかった己を呪うとともに、一つの願いが浮かぶ。
「零児さん、零羅…どのような結果になったとしても、受け入れます…。だから、無事に…」