船を襲う覇王眷竜たちが次々と光の粒子となって消えていく。
急にいなくなったモンスターたちに驚くも、誰もが長時間にわたる過酷な戦いの果てに傷つき、疲れ果てており、もはや立っていることさえ難しいほどだ。
「榊遊矢が勝った…ということか」
「多分、ね…」
次元の狭間に消えてから、ズァークの反応をつかむことができていない侑斗にはあいまいな答えしか返すことができない。
本当に真実を知りたいなら、戦っている張本人から聞くべきだが、もはや彼と話す手段がない。
遊矢の最後の一撃を受け、ズァークの体が次元の狭間で浮かぶ。
オッドアイズに乗る遊矢がそんな彼を間近で見つめている。
「貴様に敗れた…ということか…」
わずかに首を傾け、遊矢に言葉を発するズァークからは何も力が感じられない。
抑揚のない、事実確認を求めるだけのような質問に遊矢は首を縦に振る。
「どんなに人々を笑顔にしようとも、どれほど人々に応えようとも…どれほど愛そうとも…やがてそれ以上の何かを求め、それを見せることができなくなった瞬間…手の平を返す…。あまりにも身勝手、あまりにも愚か…。そんな輩を守ったところで…」
そんな人間を守るためにこんな次元の狭間まで追いやり、倒した自らの片割れの行動を理解することができない。
理解できて、当たり前だというのに。
静寂の中で混乱するズァークに遊矢が口を開く。
「そうかもしれない…でも、そんな人だけじゃないことも、俺は知ってる」
柚子や権現坂、零児、零羅、洋子、遊勝塾の年少組のみんな。
どんな時も遊矢を信じて、応援して、力を貸してくれた人々もいる。
この辛い次元戦争の中での出会いと別れで知った闇も、そうした掛け値なしに信じてくれる人々がいるから、抗うことができる。
「なぁ…ズァーク。もう1度、もう1度だけ…みんなを笑顔にするデュエルをしないか?」
「何…?」
かつての世界を滅ぼした己を許すかのような言葉にズァークの目が光り、オッドアイズも視線を背中に乗る男に向ける。
「全部を許したわけじゃない…。でも、償い終えたなら、きっと思い出せるはずだ。ただ純粋に自分もみんなもデュエルを楽しむことができた時を…。それを思い出せば、進めるはずだろう…?」
わずかなボタンの掛け違いが積み重なって生まれた悲劇を、今度は一つずつ元に戻していく。
その過程で生まれた涙をかみしめながら。
そして、かつてのズァークに戻ることができたなら、同じ道を歩んでいける。
遊矢にとって、彼もまた自分の一部なのだから。
「甘い…ことを言う…片割れだ…。お断りだ」
「ズァーク…あ…」
遊矢の目に光の粒子が見え、それを生み出しているのはズァークだ。
粒子が発生するにつれて体が崩れていく。
「皆が…貴様や、貴様の信じる人間にはなれん…。愚かで、どんなに愛そうとも…必ず裏切る。貴様の信じるデュエルは…俺となる道にも、つながっている」
捨て台詞のようなズァークの言葉を遊矢は反論することなく、彼の目を見ながら聞き続ける。
その兆候を戦争の中で感じ、耐えきれなくなったことで一度は自分の頭を銃で撃ちぬいたのだから。
だが、それが遊矢がズァークに吸収されることを回避し、この結果につながるとは思わなかったが。
「貴様がいる限り…俺は、消えん。目に見えずとも、姿を…感じずとも…。永劫の闇の中で…貴様が、俺となるのを…待っている。その消えることのない因果に…もがき苦しめ…榊、遊矢…」
その言葉を最後にズァークの体が消滅し、彼がいた場所には光の球体だけが残る。
これはズァークが覇王龍となるための力の源の残滓、遊矢にはそう感じた。
その球体に寄り添うように、3つの小さな光と、3つの、残滓には及ばないものの大きめの光が集まる。
「みんな…」
「遊矢、感謝する…。よく、ズァークを倒してくれた」
「見てたぜ…畜生、本当は俺がやりたかったんだけどな。あと、こいつ…どうにかならねえか、どうも全く違うキャラで調子狂うぜ」
「申し訳ありません。こうならないと、私もスターヴ・ヴェノムもマトモも戻れませんでしたから」
「え、ええ…!?」
遊矢もユーリの穏やかな口調に驚きを隠せなかった。
精神を破壊されていた時の彼の破滅的な言動が焼き付いているために、その落差は激しい。
「さて…この力の残滓、これをこのままにしておくわけにはいきませんね」
「なら…俺たちが次元の果てへと持っていこう。ズァークの一部だった、俺たちでしかできないことだ」
「え…?待てよ、そんなことをしたら、ユート…」
彼の言う次元の果てというものがどういうものなのかは遊矢には見当がつかない。
だが、危険なズァークの力の残滓を持っていくと言っているとなると、もう誰も手が届かない遠い場所であることは間違いないだろう。
「いいさ…俺たちの肉体は既に消滅している。帰る肉体がない以上、俺たちにできるのはそれくらいさ」
「ならば、役目を終えた俺もその終わらぬ旅に付き合うとしよう」
「オッドアイズ…お前まで!?」
「もはや、小僧のお守りなど不要だろう」
遊矢を振り下ろしたオッドアイズがその肉体を光の球体へと変え、ユート達の元へと向かう。
7つの光に取り囲まれたズァークの力の残滓は徐々に遊矢の元を離れていく。
「さらばだ、遊矢。黒咲やみんなを頼む」
「リンに伝えてくれ、俺のことは心配すんなって!」
「遠くから、あなたと皆様の幸福を願っております」
「待って、みんな…待ってくれ!!」
手を伸ばし、追いかけようとする遊矢だが、どんなに体を動かしてもその場から移動することができず、ただ彼らが遠くなっていくのを見ていることしかできない。
(気にするな、榊遊矢。すべてが、あるがままに還る、ただそれだけのこと…。貴様にも、いつかわかる日が来る)
「ん、ん…」
いつの間にか意識を失っていた伊織がゆっくりと目を開く。
ベクターと翔太の元へ向かう直前にいた、プロフェッサーの部屋の廃墟と言える場所で、戦闘が終わったためなのか、揺れがなく、静寂と生き残っているリバイバルゼロのシステム、そして翔太がいた場所にいるのは幼い少年の姿。
おそらく、この少年は翔太の言っていた、ベクターと融合することとなってしまった不運な少年、順次なのだろう。
それを見て、伊織は翔太が本当にいなくなったのだと実感し、目頭が熱くなるのを感じる。
視線を自分の左手へと向けると、そこには翔太から受け継いだ痣が光っていて、それは明らかにシステムと反応している。
「このシステムと、翔太君の力…これがあれば、私たちの今知っている次元に戻すことができる…。今ある、あるがままの世界を守る…。それが、あなたのしたいことなんだよね?これが、みんなのやりたいことなんだよね…」
「キュイー!」
伊織の足元にいつの間に現れたビャッコが足にほおずりをする。
励まそうとしている彼に笑みをうかべた伊織は優しく頭を撫でた。
「いくよ…翔太君…はあああああ…」
左手の痣に力を集めていくイメージを作り、それに反応するかのように痣の光が強まっていく。
痣の光が左手から腕へと広がり、やがて伊織の全身を包んでいく。
「あああああああああああ!!!!!!!!!!」
今まで感じたことのない、吹き飛ぶかのような感覚を大声をあげて耐え、光そのものとなったかのような左腕をシステムへと伸ばした。
光はシステムの中のエネルギーに反応し、そこから巨大な緑色の光の柱を生み出し、オーロラの空を貫いていく。
(これで…全部、終わる…)
「オッドアイズ…ユート…ユーゴ…ユーリ…みんな…」
たった一人となり、次元の狭間のどこかに取り残されることになった遊矢の体がそのままこの場を漂い続ける。
ズァークと決着をつけるため、彼ともどもこの場所に入り込んだ遊矢だが、今の彼にはそこから仲間たちのいる次元へと帰る手段がなかった。
ほんの少しだけでも体を動かしたかったが、オッドアイズ達がいなくなってから、体が鉛のように重たくなって動けない。
このままたった一人で、戻ることもできずに…。
その絶望が頭をよぎる。
(でも…ズァークを止められた…。もう、いい、よな…?)
置いていかれたが、ここで衰弱していけば、ズァークの因子を持つ者は一人もいなくなる。
それでいいと、目を閉じようとした遊矢の視界に入ってくる一人の人物の姿。
茶色いバケットハットをかぶり、茶色いコートで身を包んだ彼は遊矢のそばまで行くと、目に見ない椅子に座ったかのような姿勢になる。
「やぁ、お疲れ様。つらい戦いをよく、耐えてきた」
「だ…」
「じっとしていた方がいい。これまでの戦いで体がやられている。ほんの少しで動けるようになる」
正体を明かすつもりはないのか、顔を一切見せようとしない。
こんな次元の果てにいきなり現れて、怪しまない理由はないが、たとえ怪しんだとしても、今の遊矢にはどうすることもできない。
「心配しなくていい。すぐに君は仲間の元へ帰れる。その前に…ほんの少し、この次元を見るといい。既に知っているように次元は4つだけではない。君たちの次元から距離が離れているとはいえ、剣崎侑斗たちが暮らしている次元が存在し、次元が存在する。この次元の狭間は、ちょうど…その数多くの次元の光というものを見ることができる」
「次元の…光…」
「もうすぐ目が慣れてくる頃合いだろう。さあ…心を落ち着かせて…」
「ああ…」
遊矢の目に映る一つ一つの星。
それぞれからかすかに感じる人々や世界の息吹。
そのあまりの多さ、そしてそこから伝わる熱に遊矢の目に涙が浮かぶ。
「次元はいくつも存在する。今この場で見えないものも含めて…無数に…。そして、それを渡り歩いた果てに…きっと、彼らはいる」
「あ…」
無数の星々の光の中で、緑色の光の柱を放つものが見える。
その星から見えるのは、柚子や自分の帰りを待つ仲間たちの姿。
帰る場所が見えたことへの喜びと共に、なぜか何の感情かもわからない涙が浮かぶ。
やがて、動かなかった体が動き、徐々に帰る場所へと進んでいく。
「さあ、振り返ってはいけない。ただ、今は帰るんだ。そして、忘れるな。君たちの頭上には、数多の次元が、数多の世界が待っていることを。君たちの未来に、幸多からんことを」
(次元戦争が終わり、我々が帰還してしばしの時が経った…。再び次元は4つに分かれ、それぞれの次元が復興への道を今も歩き続けている)
「中島、融合次元へ派遣した者たちからの報告は?」
「はっ、崩壊したアカデミア本部の復旧は教育現場としての機能については完了。融合次元の子供たちの受け入れを徐々に開始していくと」
「そうか…必要な物資のリストはすぐにF班に回せ。準備出来次第、輸送を開始しろ」
指示を受けた中島が社長室を出ると、眼鏡を外した零児が背もたれに身を任せ、天井に目を向ける。
次元戦争が終ろうとも、別次元の存在を認識してしまったこと、そしてそれによって生まれてしまったつながりは消えることはない。
特に、次元戦争の原因となったアカデミアとそれを有した融合次元への憎しみは今もなお、エクシーズ次元には根付いている。
だが、そのアカデミアを生み出したのが他でもない零王である以上、息子としてその罪をこれからも背負っていく。
その清算の一歩として零児が行っているのはアカデミアの復興だ。
ただし、次元戦争のためのデュエル戦士養育のためではなく、あくまでも普通の学校として運営していく方針だ。
この学び舎で、戦いの道具というデュエルの認識を少しずつ変えていくのが零児の計画だ。
なお、終戦後に零王はスタンダード次元の病院へ極秘裏に移送された。
もはや目覚める見込みはなく、機械によって生きながらえていた零王。
零児は日美香と話をし、両者の合意によって生命維持装置を外されることとなった零王はそのまま息を引き取り、最低限の葬儀の上で火葬された。
あれほど零王を憎んでいた日美香だが、病室で零王を見たときに彼女が見せた憐みのような表情を零児は今も忘れられない。
誰よりも憎んだ男が弱り果て、そして最期を迎える。
それを二人とも零羅とともに心静かに過ごすこととなった。
「そういえば、今日だったな…。舞網中学の卒業式は」
「はい、例の物の準備ができています」
「そうか…卒業後は正式にプロになるとばかり思っていたが…だが、彼らしいというべきか…」
「ホーラ、まだ疲れる時間じゃないぞー。ここにはまだ運ぶ資材がゴマンとあるからなー」
シンクロ次元のトップスの一角において、がれきの撤去が終わった区域での建設作業が開始されており、そこにはトップスだけでなく、コモンズの人々も同じ空間で作業を行っている。
行政評議会が消え、新たな議会が出来上がった。
そこではトップスもコモンズも分け隔てることなく議員が入り、そこで皆が意見を交わしている。
かつてのような対立も見受けられはするものの、復興に関する議案を中心に徐々に歩み寄りも進められている。
「かぁー、疲れたぜー。やっとメシの時間か」
休憩時間となり、作業をしていたクロウがひと段落ついたところでその場に座り込む。
伊織が翔太から受け継いだ痣の力によって次元が修復された際、カードにされたクロウ達は解放された。
カード化のシステムも同時に失われ、人々がカード化されることはなくなった。
クロウにとって、カード化されてから再び目覚めるまでの間の記憶はないが、リンたちから話を聞いたことで、その間の出来事についてはあらかた把握している。
「にしても、シンジとジャック…あいつら、どこにいるんだろうな…」
今のシティには二人はいない。
次元戦争終結の恩赦によって釈放されたシンジはしばらくの間、シティの復興事業を手伝っていたものの、最近になったシティから旅立った。
自分が革命のために奪ってしまった命や死んだ仲間たちに向き合うため、巡礼をするという。
あのシンジから巡礼という言葉が出てくるとは思わなかったが、遊矢とのデュエルとしばらくの獄中生活の中で心境に変化があったのだろう。
ジャックはシティを出て、武者修行をしつつ、世界各地の大会に出場している。
時折、ニュースでジャックの活躍が話題となっており、人々を勇気づけている。
最近ではペルーで行われた世界大会で優勝したという。
「クロウ、弁当よ」
「お、リン!ありがとな」
大量の弁当が積まれたカードを押して運ぶリンから弁当を受け取ったクロウはさっそく蓋を開けて中に入っている卵焼きやおにぎりを次々と腹に詰めていく。
「お前、あんまり休んでる姿を見ねーな。昼間は俺らの弁当作りをして、夜は孤児院の手伝い。たまには休めよー」
「ちゃんと休んでいるから大丈夫よ。それに…」
リンの脳裏に浮かぶ、かつて共に過ごしたユーゴとの日々。
遠くへ行ってしまった彼のことを考えない日は一日たりともない。
「悲しんで、じっとしていたら、あいつに怒られちゃうから…」
「…そうか、そうだよな。ユーゴか…そいつと、デュエルをしてみたかったぜ」
「そうだ。融合召喚のための素材と《融合》魔法を手札に加えるためには…」
融合次元の遊勝塾で、セレナが子供たちに融合召喚を教えていた。
次元戦争が終わり、レオコーポレーションによってアカデミアが通常の学校として稼働を始める準備をしているが、生徒の受け入れが始まるまで、遊勝塾で可能な限り子供たちの世話をしている。
ただ、アカデミアが崩壊し、これまでアークエリアプロジェクトを信じて戦い続けていたデュエル戦士たちの多くが居場所を失うことになった。
中にはいまだにアークエリアプロジェクトを信じているデュエル戦士もいて、最近では彼らによるテロ事件が起こり、レオコーポレーションによって鎮圧されており、今後は元アカデミアのデュエル戦士たちによる取り締まりも行われるようになった。
「そろそろ交代よ、セレナ。あとは私がやるから、あなたは休憩して」
「ああ…。少し、外の空気を吸ってくる」
塾を出たセレナはようやく疲れを自覚し、外にあるベンチに腰掛けて空を見上げる。
次元戦争を終え、遊矢たちと別れたセレナは明日香に誘われたことと遊勝に頼まれたことで融合次元の遊勝塾の教師となった。
彼女だけでなく、戦争を生き延びたタイラー姉妹や目を覚ましたデュエル戦士たちもここで教師をしている。
アカデミアの中で生きてきた世間知らずの自分がまさか真似事とはいえ、教師になるとは夢にも思わなかった。
子供たちに慕われ、疲れ果ててはいるものの、今までにない充実した日々を送っている。
今の彼女の夢は融合次元の子供たちに平和なデュエルを教えること。
決して、デュエルを戦争やエゴの道具にされることがないように。
「じゃあ…行くのね。兄さん」
「ああ。復興の途中だというのに、悪いな」
「いいのよ。むしろ…うれしいの」
テントの中、コーヒーを飲む瑠璃に自らの決意を口にする黒咲。
中には瑠璃と黒咲だけでなく、アレンやサヤカ、レジスタンスの仲間たちの姿もあり、彼らはハートランドの復興にかかわっている。
「プロデュエリストになる…あいつの夢でもあったからな」
妹を救うことができ、カード化された仲間たちも帰ってきた。
だが、もう戻らない親友のユートのことを考えない日はない。
決して死んだわけではないが、もう二度と会えない彼のためにできること、自分にしかできないことで思い浮かぶことは共通の夢をかなえること。
だが、エクシーズ次元だけでそれになるつもりはない。
スタンダード次元、シンクロ次元にもプロデュエリストの制度がある。
いずれ融合次元でもプロデュエリストの制度が生まれるだろう。
四つの次元でプロデュエリストとなる。
壮大ではあるが、今の自分であればできる気がした。
次元転移の手はずはすでに整っている。
「頑張れよ、黒咲!俺たちも応援するから」
「きっと、剣崎さんたちがその話を聞いたらびっくりしたかも」
次元戦争が終わり、ヒイロや侑斗たちは後事を託して元の次元へ帰った。
黒咲にとっての心残りは彼らに一度も勝てなかったこと。
すべての次元でプロデュエリストとなり、彼らの次元へ行けるようになったその時には、きっと彼らと互角に戦えるだけの力が手に入るはず。
(俺はいつか、お前の耳に届くほどのデュエリストになる。どうか…見守っていてくれ、ユート)
「よし…遊矢。次元転移の準備はできたぞ」
「ありがとう、零児。俺のわがままを聞いてくれて」
「正当な報酬だ」
レオコーポレーションのスタジアム中央に設置された大きな門の形をした装置には虹色の渦が発生しており、Dホイールに乗る遊矢がその前に立っている。
義手だった左腕は元に戻っており、これはシンクロ次元から帰還してからレオコーポレーションで遊矢の細胞を培養して生み出された新たな左腕だ。
これを移植し、長いリハビリの末にかつての左腕と同じように動かせるようになった。
それに伴い、マシンレッドクラウンからは神経接続機能が取り外されたものの、今の遊矢はそれなしでもDホイールを乗りこなせる。
「しかし、残念ですね。ズァークを倒した英雄である今の遊矢君ならば、いいプロデュエリストになれるのですが…」
「まだ俺はそれだけのデュエリストじゃないよ。まだ…俺は自分のデュエルを見つけられていないから」
ペンデュラム召喚は決して特別な召喚法ではなく、融合召喚もシンクロ召喚もエクシーズ召喚もあくまでも手段の一つに過ぎない。
自分だけができる、人々を楽しませるデュエルが何か。
それを見つけるまで、デュエリストの模範となるプロデュエリストを名乗るのはおこがましいと思うようになった。
「まずはどの次元へ行く?」
「そうだな…まずはシンクロ次元へ行くよ。それから、エクシーズ次元、融合次元へ。そこだけじゃない。剣崎さんたちのいる次元とか、いろんな次元へ行って、そこにいる人たちとデュエルがしたいんだ」
「そうか…想像がつかないほどの長い旅になるだろう。だが、必ず戻れ。戻った暁には、私がプロデュエリストのテストをしてやる」
「ああ…感謝するよ。零児」
「遊矢、みんなに挨拶をしなくていいの?今日、卒業式だよ」
おそらく、今の時間は卒業式が終わるであろう時間。
遊矢は卒業式に参加することなく、ここにきて出発の準備をしていた。
BAT-DIEの治療のために入院している遊勝と洋子にだけ今日のことを伝え、口止めしている。
「いいさ…これが最後ってわけじゃないし。それに…湿っぽいのって、なんだか嫌だから」
「そうか…。だが、どうやら君の思い通りにはさせてくれないらしい」
「え…?」
キイイイ…。
Dホイールがこちらに近づく音が聞こえて、驚く遊矢はそれが聞こえてくる後方に振り替える。
見えてくるのはマシンレッドクラウンに似た形状で、ピンク色のフレームのDホイールと白とピンクのライディングスーツとヘルメットの少女の姿だった。
Dホイールが近くに停車すると、少女はヘルメットを脱ぐ。
「ゆ…柚子!?なんで…痛っ!?」
いきなりハリセンの一撃が頭に容赦なく直撃し、耳鳴りがするほどの痛みが遊矢を襲う。
涙目になって痛みに耐えながら遊矢はもう1度柚子を見る。
「遊矢!何を勝手に行こうとするの!?誰にも何も言わないで!」
「あ、いや、だって…」
「だってじゃない!ああ…もう!あなたが一人で行ったらろくなことにならないわ!だから、あたしも一緒に行く!!」
「え、ええ!?」
ひどいいわれようで文句の一つを言いたくなるのだが、柚子の同行宣言でその気持ちが収まる。
一緒に行くといわれても、これから遊矢が始めるのは何年かかるかわからない長い旅だ。
次元戦争以上の危険も待っているかもしれない。
修造のことを考えると、そんな旅に柚子を付き合わせるわけにはいかない。
「遊矢と、一緒にいたいの」
「俺と…」
「遊矢と一緒の物をみて、一緒に成長していきたいの。それが、どんな場所でも、どんな次元でも…。見届けさせて、あなたが世界一のエンターテイナーになる軌跡を」
「柚子…」
「おーい、遊矢ーーー!」
観客席から権現坂の声が聞こえ、二人が視線を向けるとそこには制服姿の権現坂や沢渡の姿があった。
「へへっ…残念だったな、榊遊矢ー!おめーのことなんざ、お見通しって奴だぜー!」
「行ってこい、遊矢!戻ったならば、さらに成長した俺の不動のデュエルを見せてやる!」
「遊矢ーーー!柚子ーーーー!頑張れよー!たまには、なんでもいいから連絡をくれー!」
「あんたを待っている人がこれだけいるんだ、帰ってこなきゃ、承知しないよー!」
権現坂だけでなく、修造や遊勝塾の子供たちや洋子、そして彼女が押す車椅子に座る遊勝の姿もあった。
まだ満足に声を出せるほどの体力が戻っていない遊勝だが、何も言わずに笑顔でサムズアップをしてみせた。
(行ってこい、遊矢…。俺ができなかったことを…お前なら、できるさ…)
「時間だ、装置を起動する」
渦が活性化していき、二人のDホイールのモニターに転移する次元の座標が表示される。
「行こう、遊矢!」
「ああ…行くぞ!!」
二人のDホイールが並走し、次元の渦の中へと飛び込んでいく。
遊矢の脳裏に浮かぶのはこれまでに出会い、そして別れてきた仲間たちの姿。
(行ってくるよ、みんな…。みんなで守った四つの次元を見るために…そして、それ以外の、まだ知らない次元に待っている『仲間』に会いに…)
「伊織ちゃん、入っても大丈夫かな?」
「おじいちゃん、いいよー、入っても」
伊織の許可が入り、伊織の部屋の扉を開ける栄次郎の目に映るのは荷物の準備をする伊織の姿だった。
「驚いたな…戻ってきたときはほとんど寝たきりという状態だったというのに…若いのはいい」
「本当に…こういうことになるって、先に教えてくれてよかったのに…。本当に、最初から最後まで、一言足りないんだから…」
寂しそうに自分の左手を見る伊織。
伊織の手には痣がなく、元の手に戻っていた。
伊織が翔太から受けついた痣の力は、アカデミアの装置を介して次元に干渉し、再び4つの次元へと修復した。
ランサーズによって救出されたときは疲れ果てて意識を失っており、目覚めたのはここに戻ってきてから一週間経過してからだ。
これほどの力を使ったのだから、伊織の体も無事に済むはずがなく、起きたときは首から下はまともに動かせなくなっていた。
それからリハビリをして、ようやく満足に体が動くようになったのはほんの数日前だ。
「それで…順次君はどうなの?」
「ああ…今日もここのみんなとデュエルをしている。だが…自分が行方不明になって、ここで目覚めるまでの記憶は何もないらしい」
「そう…」
ベクターと融合していた間の、秋山翔太の存在は消え、ベクターもまた消えた。
残ったのは翔太になる前の順次。
無理に思い出すことはないが、だが、一抹の寂しさを感じずにはいられない。
「面会に行くのかい?」
「うん、もしかしたら、聖子さん…目を覚ますかもしれないし。じゃあ!」
荷物を手にした伊織が部屋を飛び出していく。
後姿を見送る栄次郎はフッと笑う。
「次元戦争が遺した爪痕は深い…。だが、それを乗り越えていく。去っていった人、生き延びて未来を紡ぐ人のためにも…。そして、これも…若さの特権か…」
ガレージのシャッターを開け、そこにあるマシンキャバルリーの座席に座る伊織。
サイドカーは取り付けられたままで、本来は伊織が座っていたそこに荷物を置く。
マシンキャバルリーに座っていると、翔太と過ごした日々が脳裏に浮かぶ。
目の奥が熱くなるのを感じ、胸が締め付けられる。
「キュイキュイー!」
「ビャッコちゃん…」
どこからともなく現れたビャッコが伊織の頬をなめる。
励ましてくれる彼の頭をやさしくなで、笑顔を見せる。
その様子に安心したビャッコは荷物に紛れるようにサイドカーの座席に座る。
「(そうだね…楽しかったよね…翔太君)さあ、行こう!ビャッコ!」
伊織とビャッコを乗せたマシンキャバルリーが発進し、施設を飛び出していった。
長期にわたりありがとうございます。
かなりの難産になったものの、遊戯王ARC-V戦士の鼓動はこれで完結となります!
本編に不満があり、どうしてやろうかと思いながら書き続け、結局自分の書きたいように書いていったという感じとなりました。
甘い設定とかも結構ありましたが、笑って受け流してくれると幸いです。
なお、ご存じかもしれませんが、外伝として「遊戯王5D's外伝 異界の決闘神官」をかいています。
今後はそうした外伝、なんて書いていくのもありかな…なんて思っています。
作品予告
バリアンとの戦いから3年が経過したハートランド。
高校3年生となり、侑斗たちは進路のことを考え始める。
そんな中で、過去の怨念が未来への道を阻む。
「ずっと…待っていた。お前に復讐するときを!」
「クソ野郎が!やるなら、俺だけを狙いやがれ!!」
「ドン・サウザンドが記憶を改ざんしていたのはアリト達だけじゃない。俺を除いた…全員が…」
「お前に…お前にすべてを奪われた。騎士とての誇りも…。だから、今度は私がお前のすべてを奪ってやる!そして…お前のすべてが失われたのを見せつけた後は…」
「バリアンになろうが、人間になろうが…何百回何千回うまれかわってもよぉ…俺の生き方は何一つ変わらねえ!さあ…賭けようぜ!!」
遊戯王ZEXAL風の戦士たち外伝 紅蓮の博徒
「見せてやるよ…これが、過去と今が一つになった…俺の力だ!」