遊戯王ARC-V 戦士の鼓動   作:ナタタク

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第37話 交換条件の提示

「レディースアンドジェントルメーン!榊遊矢、ただ今退院しましたー!」

遊勝塾へ柚子と洋子、修造につれられる形で遊矢が戻ってくる。

「「遊矢兄ちゃーーん!!」」

フトシ、アユ、タツヤが嬉しそうに彼の元へ駆けつけ、遊矢は3人の頭をなでる。

「心配かけてゴメンな、みんな」

「本当だよ!まさかバトルロワイヤルであんなことがあったなんてよぉー」

「それに、素良とも戦ったんでしょ…?」

アユの言葉に一同が沈黙する。

バトルロワイヤル終了時、レオコーポレーションはそのさなかに発生した融合次元による攻撃、そして今まで機密としていた3つの次元の存在を一般に公表した。

その際の映像にはカードに封印される人々やオベリスクフォースと戦うデュエリストの姿が映され、その中には遊矢と素良のデュエルもあった。

《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》に握りつぶされそうになった時の映像はなかったため、修造たちはそのデュエルの際の負傷だと思っている。

この中で本当の怪我の原因を知っているのは遊矢と翔太を除くと柚子と精霊の見える伊織だけだ。

「ま、まあとりあえず今夜は遊矢が退院した記念のパーティーをやろうと思ってる。みんなでパーティーの準備をするぞーーー!」

「「オーーー!!」」

修造と共に年少組がパーティーの食材の買い出しに向かう。

彼らを見送ると、洋子は遊矢に封筒を渡す。

「母さん、これは…?」

「赤馬零児からよ、3日前に届いたの。退院したら渡してほしいって」

「え…?」

「読んでみたらわかるよ」

それだけ言うと、洋子も買い出しのために出て行った。

残されたのは遊矢と柚子、翔太、伊織だけだ。

「赤馬零児からの手紙…?」

退院までの間に翔太と権現坂、柚子から既にセレナのこととこの大会の真意を伝えられていた。

これは強力なデュエリストを選抜し、彼らにペンデュラム召喚を習得させ、襲ってくる融合次元のデュエリストと実際に戦わせるための布石。

そして、その戦いを生き延びたデュエリストをランサーズとすることだ。

無論、その後で本当に別次元のデュエリストと戦うだけの実力があるかをヴァプラ隊が確かめるためのデュエルを行う。

月影、セレナ、権現坂、デニス、黒咲、沢渡は既にクリアしている。

セレナは黒咲から真実を教えられた後、融合次元の愚行を止めるためにランサーズに加わることを決意したのだ。

敗北した場合はヴァプラ隊に加わるか、LDSで力量をつけることになる。

なお、LDSはバトルロワイヤル後はランス・ディフェンス・ソルジャーズに名を改め、別次元からスタンダード次元を守るための組織に変貌した。

その結果、別次元のデュエリストと戦うことに恐怖を覚えた生徒は多数退学している。

遊矢には零児の行為が自分たちを道具のように扱っているようにしか思えず、必要なことだということは分かってはいるがどうしても許せずにいる。

「速く読めよ」

「ああ、分かってる!」

封筒を破り、手紙をひろげる。

『榊遊矢、まずは無事に退院したことを心からお祝いしよう。そして、君の言いたいことは分かっている。私の今回の行為が許されないことだということは私自身も十分承知している。その罰は必ず受ける覚悟でいる。だが、君にこれだけは言える。融合次元のデュエリストはあのバトルロワイヤルでセレナだけでなく、柊柚子をも連れ去ろうとしていた』

「柚子を…」

柚子から融合次元から来た遊矢そっくりのデュエリスト、ユーリに襲われたことについては聞いている。

仮に侑斗とウィンダが駆けつけなければ、彼女は確実に連れて行かれていたことだろう。

『彼らがなぜ2人を狙うのかはわからない。だが、彼らはこれからも必ず2人を連れ去ろうと画策するだろう。ランサーズに加わることは彼女たちを守ることにもつながる。そして、ランサーズはペンデュラム召喚の始祖たる君がいなければ完成しない。そのため、ランサーズに加わってくれた暁には君の父、榊遊勝の消息を探るために全面的に協力することを誓う』

「父さんを!!?」

『退院後、決心がついたら剣崎侑斗の元へ行ってほしい。そして、この言葉に嘘偽りがないことを右が証明する。 赤馬零児』

名前と手紙の最後の部分の間の隙間には零児の血判が押されていた。

「父さんを…探してくれる…?」

「遊矢…」

遊矢は長い間、ずっと遊勝に会いたいと願っていた。

ほんのわずかでもいい。

彼に会って、自分のエンタメデュエルを見せたい。

行方が分からず、何の情報もない今では探しようがない。

しかし強大な力を誇り、別次元に関する情報を持つレオコーポレーションならば見つけることができるかもしれない。

彼は隣にいる柚子に目を向ける。

(それに、ランサーズになることで柚子を守ることができる。もう2度と、柚子にあんな思いをさせない!必ず守って見せる!!)

(腹が決まったみたいだな。ま、豆腐メンタルが少しはましになったってことか)

遊矢の目には確かな決意があり、翔太はそれを感じていた。

 

その日の夜…。

「あーー、それでは榊遊矢の無事な退院を祝って…」

「「カンパーーーイ!!」」

遊勝塾のデュエルリングの中で遊矢たちが乾杯する。

権現坂も参加したかったようだが、父親にランサーズとして戦場に出る前の特訓をさせられているために来ていない。

「うおーーー!本当に心配したぞ遊矢ーー。もし死んだら、洋子さんや遊勝さんになんて言えば…」

「もう、縁起でもないことを言わない!!」

酒のせいで涙でびしょびしょになっている父親を見かねた柚子がハリセンを叩き込む。

そんな2人を遊矢は苦笑いしながら見つめている。

フトシは両手にフライドチキンを持ってはしゃぎ、アユはケーキ、タツヤはおにぎりをおいしそうに口にする。

「うーーーん、おいしーーー!!」

「いいですね、伊織様。こんなにおいしい料理を食べられるなんて…」

オムライスを食べる伊織を見たセラフィムはテーブルに置かれている料理に目を向ける。

食べたい様子だが、精霊である彼女には食べることができず、そのために実体化したら大騒ぎになってしまう。

「キュイキュイー」

「ビャッコさん?」

物陰に隠れていたビャッコがセラフィムを誘い、鞄からみたらし団子を出す。

「キュイ!」

笑顔でビャッコはそれをセラフィムに差し出す。

「ビャッコさん…」

感動したセラフィムは嬉しそうにみたらし団子を受け取り、1つずつ丁寧に食べていく。

「おいしいですビャッコさん!!このご恩、一生忘れません!」

「キュイ!」

セラフィムの嬉しそうな顔を見たビャッコもうれしくなったのか、みたらし団子をまた出す。

(本当に…あいつのカバンはドラ○もんの四次元ポケットか?)

「翔太君、それ口にしちゃダメだよ?」

「なんで俺の心の中が読めるんだ?」

思わず著作権で訴えられそうな名前を頭に浮かべながらコーラを飲む翔太のそばに伊織が来る。

「んー?多分、長い間ずっと一緒だから…以心伝心?」

「長い間?まだ1か月か2か月しかたっていないだろ?」

「まーまー、細かいことは気にしないで、もっと食べようよ!」

ニコニコ笑いながら翔太にフライドチキンを差し出す。

楽しいことと美味しいものが大好きな伊織にとってはたまらない空間だろう。

「それにしても、大変なことになっちゃったね。翔太君の記憶を取り戻すために大会に出たはずなのに…」

「いつの間にかランサーズとして侵略者と戦えだろ?まあ、俺はこれまで通り記憶を取り戻すために戦うだけだ」

「んー、翔太君はそれでもいいかもしれないけど…ってあれ??」

フライドチキンを渡した後、伊織が周囲を見渡す。

「どうした?」

「遊矢君と柚子ちゃんがいない気が…」

「放っておけ。そんなに遠くへは行ってないだろ?」

そう言って、骨を皿の上に置き、今度は寿司を手にした。

 

一方その頃、夜のLDSデュエルリングでは…。

「剣崎、サーキットは完成した。これでいつでもあなたの言っていたデュエルの特訓は可能だ」

侑斗と零児がデュエルリングの実況室で話をしている。

彼の言うとおり、外周部分を利用して簡易的なサーキットが用意されていた。

中央部分はこれまで通りアクションデュエルで使用可能だ。

「ありがとう、街中でやるには危険があるからね」

「そのデュエルがシンクロ次元で実際に行われているという情報は一体どこで…?」

「君が回収したユート君のデュエルディスクを調べた結果だよ。そして、零児君が見せてくれたデータを調べた結果、その次元ではこのカードを使ってデュエルをしているみたい」

そう言いながら、侑斗は彼に2枚のカードを渡す。

「《スピード・ワールド3》と《Sp-エンジェル・バトン》…?」

「うん。ライディングデュエルではバイク型デュエルディスクと言えるDホイールと従来の魔法カードの代わりに、Sp(スピードスペル)というスピードカウンターを利用した魔法カードを使用するんだ。だから…」

「分かった。3日待ってほしい。実践に耐えうるSpを用意する」

「RUMとPCMのSpも忘れないでね。それがないと黒咲君達が満足にデュエルができないから」

「言われなくとも、そうするつもりだ」

カードを懐に入れた零児が実況室から出ていく。

サーキットではヴァプラ隊が2台のDホイールを走らせている。

1台はホンダ・CBR1000RRが基礎となっていて、青を基調とした装甲で、車体前面にはRRのマークがついている。

もう1台はホンダ・XR230が基礎となってて、赤を基調とした装甲で、車体前面には左半分が笑顔で右半分が泣き顔のピエロの仮面のマークがついている。

また、2台ともウィンドスクリーンが装備されている。

デュエルディスクの通信機能を起動させた侑斗はテストパイロットに連絡を入れる。

「試作Dホイールの調子はどうです?」

「おう、マシンレッドクラウンは好調そのもの!オートパイロットシステムにも異常はねえぜ、ボス!」

「マシンブルーファルコンも良好です。あとは実際にライディングデュエルを行ったうえでの判断が必要ですね」

「分かりました。もう1周走り終えたらデータを送り、上がってください」

通信を終えた侑斗はそのまま実況室を後にする。

そして、その足はスタジアム付近にあるレオコーポレーション社員寮に向かっていた。

自分の顔写真と名前がある身分証明カードを扉の前でかざすと、自動的にそれが開き、彼はLEDが放つ白い光に包まれた廊下を歩く。

エレベーターに乗り、わずかに揺られながら3階へ向かう。

そして、エレベーターを降りて西に20m歩き、北向きの扉を開けると…。

「おかえり、ユウ!!」

「ただいま、ウィンダ」

エプロン姿のウィンダが笑顔で抱きついてきた。

成長しながらも相変わらず甘えん坊なウィンダを見つめる。

 

ウィンダのぬくもりを堪能した後、青い作務衣に着替えた侑斗が机へ向かう。

机の上には彼女が作ったカレーライスとサラダ、フルーツヨーグルトと手作りオレンジジュースがある。

2人のいる部屋は居間が和室、寝室は洋風になっている。

ウィンダはエプロンを脱ぎ、薄緑のTシャツと青いホットパンツ姿になって彼に向き合う形で座る。

「「いただきます!」」

一斉に挨拶をした後、カレーを最初に食べ始める。

「おいしい…」

「でしょー?今日はおいしい国産の野菜とお肉を安く買えたんだよ!」

「はは、いつもありがとうね、ウィンダ」

お互いに笑顔になる2人。

食べていると、ウィンダは少し窓の景色を見る。

「蓮君達…元気かなぁ」

「きっと、元気にやってるよ。…この次元に来てどれくらいかな?」

「半年かな…?その前まではエクシーズ次元へは何度も行き来していたし」

「びっくりしたよね。まさかハートランドシティがあの次元にもあるなんて…」

2人はこの次元に来てからのことを思い出す。

ある目的のため、2人はエクシーズ次元で得た情報から零児に接触、彼と数時間にわたる会話ののち、こうして落ち着いている。

現在の2人はレオコーポレーションの協力者として、課長クラスの待遇を受けている。

他の次元で得た情報とナンバーズを巡る戦えで得た実戦経験が買われているからだ。

とはいうものの、シンクロ次元と融合次元へは行くことができず、シンクロ次元のライディングデュエルに関しては間接的に情報入手したに過ぎないが。

「あ、そうそう。この前黒咲君が来て、家事の手伝いをしてくれたんだよ!本当に助かったー」

「黒咲君が!?意外だな…」

無表情で常に融合次元との戦いを真っ先に考える黒咲しか思い浮かばない侑斗は驚きを隠せない。

スタンダード次元に来たことで、心に少しだけゆとりができたということだろうか。

「彼はずっと戦い続けてきたんだ。だから、誰かが支えてあげないと。だって、彼には少しもろいところがあるからね」

「ふふ…ご飯粒をほっぺたにつけてちゃかっこいいセリフも台無しだよ?」

口を手で隠して笑うウィンダに顔を赤くすると、侑斗は右頬を指で撫でながらご飯粒を探す。

「逆だよ逆、もうユウったら」

腹を抱えて笑いながら、ウィンダは左ほおにあるご飯粒を取り、それを侑斗の口に中に入れた。

 

「遊矢…?」

「あ…柚子…」

丁度その頃、遊勝塾の前の河原ではパーティーを抜け出した遊矢の元へ柚子が近づいてきた。

彼の手には《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》と《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》が握られている。

「…柚子、ごめんな?」

「え?なんで謝るの?」

「だって…融合次元のデュエリストに襲われた時、助けに行けなかっただろ?」

丁度その時、遊矢は《覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン》のせいで暴走した際の影響で眠っていた。

それでは助けに行けるはずがない。

しかし、遊矢にとってはそれは言い訳だとしか思えなかった。

柚子が助けを求めているのに答えられなかったという現実が遊矢をおしつぶしていく。

「柚子、俺…ランサーズに入るよ」

カードをしまった遊矢は柚子に目を向ける。

少し泣いていたのか、目の周りが赤くなっている。

「素良とデュエルをして、そしてオッドアイズの声を聞いて、分かったんだ。強いだけでも、ただ笑顔を与えたいという思いだけで戦うのも駄目なんだ」

「遊矢…」

「ランサーズに入って、スタンダード次元を…柚子を守るために、そして素良を連れ戻すために戦う。本当のエンタメデュエルで」

ペンデュラムを握りしめながら、自らの決意を口にする。

そんな遊矢を見ながら、柚子も決意を固める。

「ありがとう…あたしを守ると言ってくれて」

「柚子…」

「けど、あたしも遊矢やお父さんたちを守れるくらい強くなりたい。遊矢がランサーズに入るって言うのなら、あたしも一緒に戦う。女の子は守られるだけの存在じゃないのよ?遊矢」

驚く遊矢の両肩に手を置きつつ、柚子は優しく諭す。

そんな彼女を見て、遊矢の柚子との記憶が頭をよぎる。

遊勝が行方不明となり、周囲からさげすまれる中、柚子は何度も自分を守ってくれた。

心が傷つき、放っておいてほしくて家に閉じこもっていた時、彼女はハリセンを持って部屋に強引に入り込んでまで立ち直らせようとしてくれた。

守られるだけの存在じゃないということは分かりきっていたはずなのに、遊矢はバトルロワイヤルの時、いや、もしかしたらペンデュラム召喚を手にした時、そのことを忘れてしまっていたのかもしれない。

そんな彼女に言える言葉は1つだけだ。

「分かった。…俺と一緒に戦ってくれ、柚子」

 

次の日の朝…。

レオコーポレーションの社長室に遊矢と柚子が入ってくる。

「来てくれると思っていたよ、榊遊矢」

椅子に座っていた零児は立ち上がると、彼の目の前まで歩いてくる。

「ランサーズに入ると…そういう認識で構わないな?」

「ああ…そのかわり、あの約束は果たしてくれるんだよな?」

「無論だ。そのための証はつけておいたはずだが」

「ああ…それから、柚子もランサーズに入れてほしい」

「追加条件…ということか?」

メガネをつけなおし、遊矢と柚子をじっと見る。

「ああ…。守るのなら、そばにいたほうが対応できるだろ?」

怖気づくことなく、零児をにらむように見る。

そんな彼を面白く思ったのか、零児はフッと笑う。

「いいだろう。ただし、テストを受けてからだ。すぐにヴァプラ隊の1人とデュエルをしてもらう」

そう言ってから、零児は机に備え付けられた通信機を起動する。

表示された小さなソリッドビジョンには少し緑がかった黒い挑発で丸い鼻メガネをつけているスーツ姿の男性が映っていた。




シンクロ次元で《スピード・ワールド・ネオ》が登場していますが、この小説ではとある事情で《スピード・ワールド3》を採用しました。
なので、Spが登場します。
念のため、効果のおさらいを…。(といっても、少し改造されています)

スピード・ワールド3
フィールド魔法カード
(1):お互いに「Sp」魔法カードまたはPカード以外の魔法カードを発動できない。
(2):最初のターンを除いたお互いのスタンバイフェイズ時、お互いのプレイヤーはこのカードに自分用のスピードカウンターを1つずつ置く(最大12個まで)。
(3):1度に受けたダメージ800ポイントの倍数ごとに自分のスピードカウンターを1つ減らす。
(4):自分のスピードカウンターを任意の個数取り除くことで、以下の効果を適用する。
●3個:自分の手札をすべて相手に見せる。手札の「Sp」魔法カードの数×400ポイントのダメージを相手ライフに与える。
●6個:自分のデッキからカードを1枚ドローする。
●8個:手札の「Sp」魔法カードを相手に見せ、フィールド上に存在するカード1枚を破壊する。
(5):このカードの効果は無効にされず、フィールドから離れない
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