侑斗とウィンダのデート、そして翔太とユーゴのデュエルから1週間後…。
ユーゴについては翔太が既に侑斗を経由して零児に報告された。
零児からの返事はただ一言、返事を待てという言葉だけだった。
それから翔太と伊織はその1週間の間、遊勝塾で手伝いをしながら遊矢と柚子と共に鍛錬に励んだ。
少なくとも、全員がペンデュラム召喚を使いこなせる程度に上達した。
そして…朝のレオコーポレーション社長室。
「まったく…大手となると社長室はかなりのものだな」
社長室で待つ翔太が周囲を見渡す。
机とパソコン、椅子が1人分あるだけの空間であるにもかかわらず遊矢がいる舞網中学校の教室と同じくらいの大きさだ。
その部屋の中に遊矢、柚子、権現坂、沢渡、セレナ、デニス、黒咲、翔太、伊織、里香、鬼柳、漁介、ジョンソンが待機している。
彼らは全員零児に呼び出され、こうしてこの場にいる。
「遅っせーな!呼び出し人自ら遅刻するなんてよ!」
約束の午前9時30分から10分過ぎていて、沢渡はイライラする。
「赤馬零児…何のために俺たちを…?」
「待たせてすまないな、ランサーズの諸君」
扉が開き、零児と零羅、月影が入ってくる。
「ランサーズのリーダー自らが遅刻、余裕な態度だな」
「いろいろと…権限の委譲に手間取ってしまったのでな」
翔太の嫌味をかわし、メガネを直す。
そして、本題に入る。
「君たちを呼び出したのにはほかでもない。連絡の通り、これから16人のランサーズで次元を越える」
次元を越える、その言葉に一同が沈黙する。
それは戦いの時が来たことを示唆しているためだ。
そんな中、柚子が質問する。
「16人…?もう1人はもしかして…」
「そうだ。最後の1人は彼…零羅だ」
「…」
その答えを聞いた翔太たちの目が零羅に向き、まだ幼い彼はオドオドしながらぬいぐるみを抱いたまま零児の後ろに隠れる。
「なんだよ!?こんなガキをランサーズに加えるだ!俺たち沢渡シンゴ世代で構成された部隊じゃなかったのか、ランサーズは!!」
「俺から見たら、お前も十分餓鬼だぜ、馬鹿」
「馬鹿はねえだろ、馬鹿は!!」
補足しておくが、零児はペンデュラム召喚を得た遊矢達を榊遊矢世代と称している。
沢渡が勝手に世代名を変えたことに突っ込む人間はいないものの、心の中では全員がつっこんでいる。
その言葉が集まったのが、翔太の言う馬鹿だろう。
といっても、彼は今まで沢渡を名前で呼んだことは一度もないが。
「赤馬零児、これは遠足じゃないということが分かっている上での選択か?」
黒咲が零児と零羅を睨みつける。
「そうだ、零羅の実力はお前たちに相当する。そして…彼の能力はこれからの戦いの中で重要だ」
「こいつの能力を?」
翔太が隠れる零羅を見る。
先程までおどおどしていたものとは一変して、今度は無表情になっている。
眼からは覇気が感じられず、まるでここではないどこかを見ているような、すべてを他人ごとに見ているような感じがする。
「けっ…気に入らない眼をした奴だな」
「ちょっと翔太君…」
「まずは我々が行く次元を言う。我々が向かうのは…シンクロ次元だ」
翔太の言葉を無視し、零児がそう宣言すると遊矢達が激しく動揺する。
特に融合次元への攻撃を考えていた黒咲が。
「バカな!!?シンクロ次元は融合の手先なんだぞ!?なぜそこへ…」
「信頼できるところからの連絡で、シンクロ次元は融合次元とは無関係だということが判明している。ならば、彼らに融合次元の脅威を伝えたうえで、味方にする必要がある」
「ふざけるな!!そうしている間にもエクシーズ次元に残る仲間たちが犠牲になる!!それに瑠璃も…。ならば俺一人でも…」
「やめろ!!」
怒る黒咲を止めたのはセレナだった。
彼女は今にも零児を殴らんとする黒咲の前に出る。
「今の戦力では融合次元と戦うことはできない。今のまま闘えば全滅する!それに…お前の妹の瑠璃は多分、大丈夫だ…」
「何?」
セレナの発言に違和感を覚える。
彼女の発言はまるでさらった人間を丁重に扱っているという意味に捉えることができるからだ。
無差別に人々をカード化したという面しか知らない黒咲にはそれが嘘に聞こえても仕方がない。
それを知っている上で、零児は代わりにその根拠を言う。
「ヴァプラ隊が潜入させたスパイが得た情報によると、セレナと柊柚子、黒咲瑠璃は彼らにとって重要な存在らしい」
「柚子が…!?」
「私が…(そっか、だからあの時融合次元のデュエリストが私を…)」
遊矢が驚く一方、柚子がバトルロワイヤルの時に融合次元のデュエリストに対して感じた違和感と零児の言葉につじつまが合うように感じられた。
彼らは柚子はカード化せずに捕えようとしていた。
もちろん、ユーリを除いてだが。
一方、スパイという言葉を聞いたデニスが少し苦い表情を浮かべる。
(アカデミアにスパイだって…!?ヴァプラ隊…あらゆる専門知識を与える悪霊の名前を付けるだけある)
「そして、その共通点は生まれてから宝石がついたブレスレッドをつけていること、そして顔立ちが同じであることだ。その人物が既に2人幽閉されている」
「何!?私に似た女が…」
「柚子に似ている女の子がもう1人??」
黒咲の妹、瑠璃も柚子と顔立ちが似ている少女であるということは黒咲から既に全員に伝えられている。
だが、もう1人同じような少女がいるということに全員が驚いた。
「おいおい、なんだよ!!?まるで柚子には3人のドッペルゲンガーがいるみたいじゃあねえか!」
沢渡は今までの会話についてくることができずにいるが、零児は話を進める。
そのことはすでに織り込み済みの様子でだ。
「彼女はシンクロ次元にいるリンという少女だ。黒咲瑠璃がさらわれた少し後で融合次元の刺客にさらわれ、現在は融合次元に幽閉されている」
「そんな…」
なぜ融合次元がそこまで自分そっくりの少女を捕え、執着しているのか理解できず、柚子はそこにいるいまだに顔を見たことがなく、声も聞いたことのない少女を他人と思えなくなった。
「融合次元は幽閉している彼女らにかなりのもてなしをしている。ヴァプラ隊によると、なぜかは不明だが彼女たちを失うことは融合次元の計画の破たんにつながるという。故に黒咲。君の妹を救出するための戦力を整える時間が我々にはあるということだ。だから、今融合次元へ行くわけにはいかない。全滅すれば、君をここまで送り出した仲間たちの思いを無駄にすることになる」
「くっ…」
黒咲の脳裏に自分を送り出した仲間たちの言葉が浮かぶ。
必ず、妹を連れて戻ってこいと。
そのためだけに次元を越えるというわがままを彼らは許してくれた。
それだけでなく、ユートは同行してくれた。
そんな彼らのためにも、黒咲は倒れるわけにはいかない。
「…好きにしろ!」
「感謝する。そして、次元を越える前に伝えておくべきことがもう1つ。秋山翔太、永瀬伊織、ジョンソン・オーベル、真田里香、梶木漁介、鬼柳一真、そして柊柚子には我々とは別行動をとってもらう」
「何!?」
「ええっ!!?」
遊矢と柚子のみならず、権現坂や伊織、セレナも零児の発言に耳を疑う。
「なんでだよ赤馬零児!?」
「大人数で行動するのは得策ではないからだ。そして、融合次元は必ず柊柚子とセレナをさらいに来る。その時に2人一緒に行動することで、両方とも捕まるという最悪の事態が起こりかねない」
「けど、俺が守れば…」
「そのもっとも肝心な時にそばにいられず、守ることのできなかった君にそれを言う資格はない」
零児からの言葉に遊矢が沈黙する。
もっとも肝心な時、それはバトルロワイヤルの時のことだ。
彼の言うとおり、その時は侑斗というイレギュラーの発生によってなんとかなったが、それが無ければ確実に柚子はさらわれていた。
自分と彼女の周りに発生していることにもっと警戒すべきだった。
「そのようなことは少なくとも、私を倒せるだけの実力を得るまで認めることはできない」
「くっ…」
悔しそうに唇をかみしめる。
そんな遊矢に柚子が手を差し伸べる。
「遊矢、大丈夫よ。あたしも強くならないといけない…遊矢に頼ってばっかりだったから…」
「柚子…」
「だから、あたしは今度こそ強くなる。次に遊矢と胸を張って会えるように。セレナ…遊矢のことをお願い」
「な!!?なんで私が!?」
柚子に名指しで頼まれたセレナはうろたえる。
「だって、あたしがいない間、あなたが遊矢と一緒にいるんだから」
「それはそうだが…なんでこんなナヨナヨな根性なしを!!」
「セレナ殿!それは言いすぎだ!確かに遊矢には精神的にもろい面があり、お調子者だが良いところはある!」
「そうよセレナ。女心が分からないしクイズが全くできないくらい馬鹿だけど、きっと頼りになるわ」
「…」
「お前ら、本当のことだがそんなこと言うなよ。主人公がこうなっちまったぞ」
少し吹き出しそうになっている翔太が部屋の隅で体操座りをしていじけている遊矢を指さす。
3人からの集中攻撃を受けた彼の精神的ダメージは計り知れない。
彼らに謝罪され、励まされる遊矢を黒咲はじっと見る。
(こいつら…本当にこんな調子で融合次元に勝つつもりなのか?)
「さて…榊遊矢の調子が戻ったところで話を進めよう」
十数分後、ようやく機嫌が直った遊矢。
そんな彼に安心しながら、零児が翔太に1枚のカードを渡す。
「《マリンフォース・ドラゴン》。このカードは?」
「翔太君のチームはシンクロ次元に到着後、ある男に接触し、このカードを渡せ」
「ある男…?誰だそいつは」
質問する翔太に今度は1枚の写真を渡す。
その写真には、シンクロ次元で治安維持局のトレーラーを奪取した男が映っている。
違いとしたら、口元を隠しているスカーフが無いところだ。
「なんだよ、このおっさんは」
「誰なんや?翔太、見せてくれや!」
里香が翔太の答えを聞かずに写真をとり、漁介達に見せる。
答えぐらい聞けと思った彼は軽く舌打ちする。
「うーん、見るからに40近いおっさんやなー」
「一体誰なんじゃ、こいつは」
「彼の名前はヒイロ・リオニス。剣崎同様、私の協力者だ。しかし、訳あってシンクロ次元から出ることができずにいる」
「ヒイロ・リオニス…」
《マリンフォース・ドラゴン》を見ながら、零児が言う名前を口にする。
(もしかしたら、このカードが俺の記憶の…)
「話しはそこまでだ。榊遊矢達はシンクロ次元到着後、私の指示に従ってもらう。また、君たちのデュエルディスクにはアクションフィールド《クロス・オーバー》をインストール済みだ」
「ということは、アクションデュエルができるってことか!?くぅーー!!これで俺の華麗なデュエルを見せることができるぜ!!」
沢渡はデュエルディスクを操作すると、その中には零児の言うとおり《クロス・オーバー》が入っていた。
《ルネッサンス・シティ》や《パイレーツ・シー》のような街や海をモチーフとしたものではなく。プリズム状の浮石が複数存在するだけのシンプルなフィールドがイラストに描かれている。
「ペンデュラム召喚、そしてアクションフィールドは我々が異次元のデュエリストと戦うための切り札。その意味をよく考えて使うように。そして、もう1枚デュエルディスクにはカードをインストールしている」
「もう1枚じゃと…?」
今度は漁介が調べると、確かに《クロス・オーバー》以外にもう1枚カードのデータが入っている。
魔法カード《ディメンション・ムーバー》で、テキストには何も書かれていない。
「このカードを使って我々は次元を越える。すでにシンクロ次元に行き先は決まっている」
「これを使うと…シンクロ次元へ…」
《ディメンション・ムーバー》のカードを遊矢はじっと見つめる。
これを発動したら、もう後本当に後戻りすることができない。
ここから始まるのはエンタメデュエルではなく、戦争。
「さっさと行こうぜ、零児。融合次元のくだらない遊びを終わらせるためにな」
翔太の言葉に、何も言わずにフッと笑った零児が最初にそのカードを発動する。
すると、零児とそばにいた零羅と月影が青い光の中に消える。
「くっそーーー!!一番乗りは俺のはずだろうがーー!!」
「ふん…」
「じゃあ、みんなお先に」
「遊矢、柚子…先に行く」
沢渡、黒咲、デニス、セレナも発動して姿を消す。
「遊矢、早く来るんだぞ」
「出発するでーー!伊織、翔太、ジョンソンに鬼柳はん!」
「シンクロ次元にはどんな魚がおるか…楽しみじゃ!」
(富雄、必ず私は戻ってくる。今度はちゃんとお前の顔を見たいものだ…)
権現坂、里香、漁介、ジョンソンも《ディメンション・ムーバー》によって消えていく。
「伊織、今ならビビって帰ってもいいんだぞ?」
「ビビるは余計だよ!それに、私以外に誰が翔太君を守るの??」
「別に、問題ない。俺はあの馬鹿やピエロと違って強いからな」
「まーまー、じゃあ翔太君が私を守ってくれるということで!」
「キュイキュイーー!」
胸を張って言う伊織を真似して、いきなりカードの中から出てきたビャッコが伊織の隣で遊矢と柚子に見えないように隣に立って、胸を張る真似をする。
ついでにセラフィムもなぜか無言で伊織の真似をする。
「(こいつら…本当に仲がいいな)ちっ、足引っ張るなよ?」
「大丈夫大丈夫!じゃあ、出発!」
伊織は《ディメンション・ムーバー》を発動すると同時に、2体の精霊がカードの中に戻る。
そして、彼女は笑顔のまま光の中へ消えていく。
「じゃあ、俺も行くか…。遊矢、柚子。2人っきりで楽しんどけ」
「た、楽しめってどういう意味よ!!?」
柚子がハリセンで翔太をたたこうとするが、命中する直前に《ディメンション・ムーバー》で消えてしまった。
「くーーー!!避けられた!!」
「そ、その…柚子…」
こうして、社長室には遊矢と柚子の2人だけになった。
「柚子…シンクロ次元へ行ったら、しばらくの間…」
「遊矢。お互い、頑張ろう。もう1度、遊勝塾に戻るために」
ハリセンをしまった柚子が遊矢の手を握る。
すると、遊矢は急に柚子を抱きしめた。
「ゆ…遊矢!?」
「柚子、笑ってくれ。それだけで…俺はこれから戦える」
「ん…」
ゆっくり体を離し、少し恥ずかしそうにうなずいた柚子は今の自分にできる最高の笑顔を遊矢に見せる。
「遊矢もちゃんと笑って。みんなに笑顔を上げるエンターテイナーなら、自分も笑顔にならないと」
「…ああ!」
遊矢も最高の笑顔を柚子に見せる。
彼女はそれを自分の目にしっかりと焼き付けた後、遊矢の頬にそっと一瞬だけ自分の唇を当てた。
「な…!?」
キスされた遊矢は顔を赤くしながらその部分に手を当てる。
「…この意味、ちゃんと分かってよね」
恥ずかしそうにそう言った後で、柚子は《ディメンション・ムーバー》で消えた。
(この意味…??)
顔を赤くしたまま頬を少しなでた後、再び遊矢は少しだけまた笑顔になる。
「やっぱり分からないよ、柚子。この意味、しっかり柚子に聞いてやる!必ず会おう!」
最後に残った遊矢もまた《ディメンション・ムーバー》で戦場へ赴いていった。
「…そろそろ行ったかな?」
寮の部屋で緑色のパジャマ姿の侑斗が布団で体を隠したまま目覚まし時計を見ながらそう告げる。
その時間は零児の言っていた集合時刻の約30分後だ。
「ユウ、本当は行きたかったんじゃないの…?」
「え?」
「心配なんでしょ、みんなのこと…」
隣で一緒に横になるウィンダが侑斗に目を向ける。
両肩と胸の谷間が少し布団からはみ出て、侑斗の目に映る。
なんとか平常心を保ちながら侑斗は答える。
「たしかに行きたいよ…けど、僕にはまだやるべきことがある。だから、今回は裏方かな?」
「ユウ…」
「大丈夫、翔太君達は強いよ。そして、ヒイロさんがきっとシンクロ次元で助けてくれる」
「ん…そうだね。じゃあ、続きしよ?ユウ!」
「ええ!!?」
急に抱きつけれた侑斗は顔を赤くしながら彼女を見つめる。
「えへへ…今日は休みなんだから、いいでしょ?」
「ふう…これはお昼いっぱい食べないと…」
「はい、はい…分かりました。では…」
施設では栄次郎がレオコーポレーションから翔太と伊織が出発したことを伝える電話を受け取り、彼は静かに受話器を降ろす。
「他の次元か…融合、シンクロ、エクシーズがもし別次元の産物だというのならば、もしかしたら…」
目を閉じ、静かに15年前のことを思い出す。
その日は少し風の強い時期で、会議を終えた栄次郎は夕方になって施設へ戻ってきた。
「ふう…こういう風の強い時期は少し薄めのブラックコーヒーを…ん?」
正門前に来たとき、彼の耳に女の赤ん坊の泣き声が聞こえた。
気になって鳴き声がする方向へ歩いていく。
そこは向かい側にあるビル街の裏路地で、そこには黒髪の赤ん坊がゆりかごの中で泣いていた。
青を基調としたパジャマ姿で、布団とデュエルディスク、デッキ以外には何も持っていない。
「どうしてこんなところに…可哀そうに…。ん?」
哀れむ栄次郎の目に留まったのは風でめくれた2枚のカード。
それは《融合》と《E・HEROノヴァマスター》。
これが栄次郎と伊織の出会いだった。
「もしかしたら、伊織は私の知らない、別の次元から来たのかもしれないな…」
空を見ながら、その日を懐かしむ栄次郎はゆっくりとその日に作ったのと同じコーヒーを口にする。
(次元を越えるとなると、もしかしたら伊織は自分の故郷に行くことになるかもしれない。翔太君、伊織を頼んだよ…)
強引な展開ですが、これで翔太たちはシンクロ次元へ。
翔太チームがその次元で何を起こすのか…??