カンカンカーン!!!
「おーい、みんな朝だよー!」
「キュイー!」
「美少女3人が待ってるんやでー?」
「り、里香…美少女って…」
女性陣がフランパンをステンレス性のおたまで叩く。
その鋭い音響がトレーラー内に響き渡る。
「うーん、うるせえなぁ」
「もう朝か…ホテルより寝心地が良くなくて、満足に眠れなかったぜ」
「今起きる…」
翔太、鬼柳、ジョンソンがゆっくりとベッドから出てくる。
前日にパジャマを調達することができなかった7人は普段着のまま寝ざるを得なかった。
右腕が寝違えた翔太はその痛みを感じながら周囲を見渡す。
「おい、漁介はどこだ?」
「あいつは外で体操中やで。ウチらが起きる2時間前にはもう起きとった」
「漁師だけあって、朝が早いのか?」
ベッドから出た翔太は机の上の地図を見る。
現在翔太たちのいるトレーラーは中央から東へ30キロ近く離れた旧レクス区(地図によると現在のレクス区はそこの近くにあるトップスのようだ)の廃棄された工場の中にある。
十数年前に放棄されたらしく、ベルトコンベアやプレス、マシニングセンタなどの工作機械は壊れていたり、さびていたりするが、修理さえすれば再び使用することができるようだ。
ただし、一番機械に関して知識のある鬼柳でもDホイールの修理や作成の技術だけでは修理は難しい。
また、工場の傍にある寮は整備さえできればトレーラー内よりも快適に眠ることができるかもしれないが、修理のための資金も資材もない今では難しい。
「みんな、外に出て。ご飯ができてるわ」
柚子が先にトレーラーから出る。
出入り口からはスクランブルエッグと焼き立てのウインナーのにおいが中に入ってきて、翔太たちの食欲を刺激する。
「ああ、不味い飯じゃなきゃいいけどな」
寝癖で手で治しながら翔太達がトレーラーから出る。
外ではアウトドア用のテーブルと椅子があり、机の上にはスクランブルエッグとウインナー、パンと牛乳、キャベツときゅうりのサラダが置かれている。
テーブルと椅子のセットは漁介がやったようだ。
「朝から豪勢だな」
「ふっふーん、それならもっと有難そうに…」
「ほとんど私と里香で作ったの、伊織はウインナーを焼いただけよ」
「うう、柚子ちゃーん、ここでばらさないでよー」
少し涙目になる伊織を無視した翔太がテーブルに座り、スクランブルエッグを食パンの上に乗せる。
ジョンソンは里香の手を借りて食事をする。
「なあ、これからどうすんだ?拠点を見つけた以上、あとは水と食料を調達できるようにしてえけど…」
牛乳を一気飲みした後で、漁介が全員に質問する。
現在トレーラーの中にある水と食料は1週間分。
ギャング達と戦う前には必ずカードだけでなく、食料が必要となる。
しかし、今の自分たちには調達する手段がない。
食べながら鬼柳が意見をする。
「まずは俺たちシェイドの縄張りになったこの旧レクス区の中を探すぞ。闇市程度ならあるはずだ」
食糧不足にさいなまれるコモンズ。
合法的に調達するだけで事足りるはずもなく、一部の市には非合法活動で入手している可能性もある。
「よし、なら飯を食い終わったら俺と漁介、鬼柳で闇市を探しに行くぞ。ジョンソンはアジトの見張り、柚子と里香は昼飯と晩飯の用意をしておけ」
「ああ…」
「おっしゃあ!活きのいい魚が見つかるかもしれんからな!」
食べ終えた鬼柳と漁介がうなずき、柚子と里香は食べ終えた人の食器を集める。
そんな中、伊織がゆっくり手を上げる。
「あのー、翔太君、私はー?」
伊織だけ翔太から何も指示がない。
なお、翔太が役割を決めるのに反対する人。
「ん?」
「私は何をしたらいいの?」
「んーそうだな…」
集めた食器をトレーラーの洗い場へ行き、戻ってきた後で伊織の役割を提示する。
「ジャガイモの皮むき」
「…へ?」
「じゃあ、よろしくな。鬼柳、漁介、準備はいいか?」
「年上を呼び捨てか?」
「おう!!」
鬼柳と漁介が立ち上がり、準備を始める。
「えええ!!?ちょっと翔太くーーーん!!」
「行くぞー」
理不尽だと抗議する伊織を無視し、翔太が2人を連れてアジトを離れていく。
柚子達が思ったことは1つ、どうやって伊織を慰めるかだった。
翔太達がアジトを離れて2時間。
そこから西へ歩いて1キロ。
ホームレスや子供たちに賄賂を使うなどをして情報を集めたおかげで、3人は闇市に到着した。
旧レクス区では最大規模の闇市で、取り締まりが行われているにもかかわらず、かなりの屋台と物資がそこに集まっている。
「すごいな…」
「うーん、魚の匂いがせん!!魚はないんか!?」
朝早くから多くの人々が集まっていて、人々は金もしくは衣服やカード、機械などと交換で食料を入手している。
「いらっしゃいいらっしゃい!!梅干し入りのおにぎり2つで600イェーガーだ!!」
「さすが闇市…すごい値段だな」
舞網市にあるコンビニではチャーハンおにぎりが1つ120円で売られていた。
1イェーガー=1円と考えると、質素な具であるにもかかわらず倍以上の値段と言うことになる。
闇市を利用できるのはコモンズの中でも多少なりとも金か交換できる物を所持している一部の人間だけだろう。
「ま、食料をここで入手するとなると、すぐに所持金が尽きるぞ」
「20万で7人だからな…ん??」
漁介がスキンヘッドで色黒でボロボロな服の男を見る。
彼は1万イェーガーかかる10食のカレーを購入していた。
更に別の屋台では保存用の燻製肉を10万イェーガー分、そして1リットル400イェーガーの水道水を20リットルも購入している。
「どうした?漁介」
「あのおっさん、すげえ金を持っているなって思ってな」
漁介が指差す男を翔太が見る。
コモンズで10万イェーガーもの金を1度に支払うようなことは本来ありえないことだ。
裏があると思えて仕方がない。
水と食料を得た男が闇市を出て、南へ進み始める。
「尾行するか…?」
鬼柳を2人を見て、提案する。
彼の秘密を知ることができれば、何か金を得る術が見つかるはずだ。
3人は物陰に隠れつつ、男の動きを見る。
一方、アジトでは…。
「ぶー…なんで私の役目が芋の皮むきなのー?」
トレーラーの中で伊織がバケツ一杯に入っているジャガイモの皮むきをしている。
ピーラーで芋の芽を取り、皮をむく。
何度繰り返しても減らないジャガイモに彼女はつらそうになっている。
「セラフィムー、手伝ってよー」
「無理ですよ、わ…私、実体化できませんから…」
彼女の手伝いをしたいという気持ちはやまやまであるセラフィムだが、申し訳なさそうに断る、いや、断らざるを得ない。
「あーーーもう!!じゃあ私、10分だけ休む!!」
そう言うとピーラーを置いて、トレーラーの外へ出ていく。
外では柚子と里香がデュエルの準備を整え、ジョンソンは工場で入り口付近で座って2人を見ている。
「永瀬、皮むきは終わったのか?」
「ちょっと休憩するだけ!」
(10分だけと言っても、多分1時間くらい休むかもしれませんね、伊織様…)
楽しいことが大好きな伊織になぜこのようなことを命じたのか?
そして伊織は文句は言うもののどうして完全にサボらないのか?
セラフィムは疑問に思いながら彼女を見つめる。
「柊と真田がデュエルをする。ヒイロ・リオニスから受け取ったカードで作ったデッキの試運転をするつもりらしい」
「えーーー!!?ずるーい!」
私もデュエルしたいのにーと言う伊織に対して、ジョンソンが少しため息をつく。
(近くでギャーギャー騒がないでほしいものだ…侵入者が出たときに居場所を特定できない)
「さあ…柚子。準備はええな!?」
「え、ええ!」
やる気も勝つ気もあふれる里香に対して、柚子は少しタジタジしている。
それもそのはず、彼女は里香に半ば強引に誘われる形でこうしてデュエルをすることになっているのだ。
(シンクロ召喚自体が初めてなのに…ちゃんと使えるかしら…?)
(全力で答えたるで…ウチの新しいデッキ!)
心の中にある互いの自信の有無。
現状では里香が柚子に有利になっている。
それがデュエルにどれだけの影響を与えるのか…?
「いくで…デュエルやぁ!」
「デュ、デュエル…!!」
里香
手札5
ライフ4000
柚子
手札5
ライフ4000
「ウチのターン、ウチは手札から《深海のディーヴァ》を召喚!」
ピンクの混じった白い鱗とヒレ、そしてドレス。
そして日焼けの無い真っ白な肌で腕や胸元を紫の装飾品で守っている女性の人魚が現れる。
深海のディーヴァ レベル2 攻撃200(チューナー)
「このカードの召喚に成功した時、デッキからレベル3以下の海竜族モンスター1体を特殊召喚できるで!出るんや、《氷結界の輸送部隊》!!」
《深海のディーヴァ》が目を閉じ、両手を胸元に当てた状態で空に向けて歌い始める。
すると、里香の背後から緑色のウミヘビを模したモンスターが移動してきて、彼女の戦列に加わる。
その背中には輸送部隊の名前通り、食料や弾薬、テントや衣料品などを積んでいる。
氷結界の輸送部隊 レベル1 攻撃500
「レベル1の《輸送部隊》にレベル2の《ディーヴァ》をチューニング!進化を待つ深海の赤子の産声に惚れたらあかんで?シンクロ召喚!レベル3!《たつのこ》!!」
オレンジ色の体をした、その名前通りタツノオトシゴをモチーフとした赤ちゃんのモンスターが現れ、かわいらしく「ピィ?」と鳴く。
((か…可愛い!!))
柚子と里香はそのモンスターに見とれていた。
たつのこ レベル3 攻撃1700(シンクロチューナー)
「可愛いだけが能やない!こいつはシンクロ召喚の素材にする場合、手札のモンスター1体も素材にできるんや!ウチは手札の《氷結界の舞姫》にレベル3の《たつのこ》をチューニング!」
《たつのこ》が里香の周囲を旋回していると、手札にいた《氷結界の舞姫》が飛び出し、そのモンスターの動きに合わせて舞い始める。
すると、2体のモンスターが7つの光の球体となって里香の目の前まで移動する。
「槍の名前を担う第2の竜、復活の喜びを氷の息吹に託しなはれ!シンクロ召喚!レベル7!《氷結界の龍グングニール》!!」
少し赤がかった青い氷の彫像のような翼竜が7つの光の球体が集結することで復活する。
両目部分が赤く光るとともに、上空に向けて咆哮した。
氷結界の龍グングニール レベル7 攻撃2500
「いきなり1ターン目からレベル7のシンクロモンスターが…」
柚子と伊織は前に刃のデュエルを見ている。
彼のXセイバーデッキも様々な手段を用いてシンクロ素材をフィールドに並べ、シンクロ召喚を行った。
里香の場合は手札からシンクロ素材を選ぶというこれまた特殊なもので、それが2人を注目させる。
「更にウチはカードを2枚伏せて、ターン終了!さあ、柚子のターンやで!!」
里香
手札5→1
ライフ4000
場 氷結界の龍グングニール レベル7 攻撃2500
伏せカード2
柚子
手札5
ライフ4000
場 なし
「1ターン目から《グングニール》…早めに処理できなければまずいな…」
「ええ?どうして??」
「あのカードは1ターンに1度、手札を2枚まで捨てることで、捨てたカードの数だけ相手フィールド上のカードを破壊できる。墓地肥やしと破壊を両方行う厄介な効果だ」
ジョンソンは見えない眼でじっと《氷結界の龍グングニール》を見る。
もちろん、杖は耳元に当てたままで。
「破壊と墓地肥やしかぁー…そんなモンスターをシンクロ召喚するなんて、里香ちゃん、やりますなぁ!」
(…伊織様、あと少しで10分経つのですが…)
「あたしのターン、ドロー!」
柚子
手札5→6
素良からの特訓により、融合召喚についてはある程度体得している柚子。
しかし、シンクロ召喚はそれとは異なるコンセプトが要求される。
それを使いこなせるのか不安に思いながら、とるべき手を考え始める。
「あたしは手札から《闇竜星―ジョクト》を召喚!」
外側が金色の円で覆われた青黒い縦長の円い装甲をパズルのように組み立てた形の鎧を装備し、赤い眼で青い肌のライオンのようなモンスターの幻影が現れる。
そのモンスターの目の前に灰色の玉石が埋め込まれた青い輪が現れると、それを口に咥える。
闇竜星―ジョクト レベル2 攻撃0(チューナー)
「おお!柚子ちゃんも最初にチューナーモンスターを召喚したね!」
「《ジョクト》の効果発動!あたしのフィールド上にこのカード以外のモンスターが存在しない場合、手札の竜星カード2枚を墓地へ送ることで、デッキから攻撃力0と守備力0の竜星モンスターを1体ずつ特殊召喚できる!あたしはデッキから《炎竜星―シュンゲイ》と《水竜星―ビシキ》を特殊召喚!」
柚子の手札2枚のソリッドビジョンが《闇竜星―ジョクト》の目の前まで行くと、そのモンスターをそれらを一口で捕食する。
そして、その口の中から炎の塊と水の塊が発射される。
それら2つが次第に《炎竜星―シュンゲイ》と《水竜星―ビシキ》へと変化する。
頭だけがライオンの赤い翼竜と青い円錐状に凸凹した甲羅と何メートルもの長さのある髭が特徴的の亀がその2体のモンスターだ。
炎竜星―シュンゲイ レベル4 攻撃1900
水竜星―ビシキ レベル2 攻撃0
手札から墓地へ送られたカード
・光竜星―リフン
・風竜星―ホロウ
「レベル4の《シュンゲイ》とレベル2の《ビシキ》にレベル2の《ジョクト》をチューニング!!煌めく星に宿りし幻が深緑の輝きを放つ!シンクロ召喚!今こそ空へ!レベル8!《輝竜星―ショウフク》!!」
3体の幻竜が黒・赤・青のオーラとなって融合する。
すると、それが緑色のオーラに変化し、それが緑色の肉体と翼、黄色い腹、茶色い鬣の蛇竜の幻を作り上げる。
輝竜星―ショウフク レベル8 攻撃2300
「ふう…」
いきなりシンクロ召喚できないかもしれないと思い、不安だったもののどうにか召喚することができてほっと息をする。
融合召喚に関してもシンクロ召喚に関しても、師匠と言える存在が彼女にはいる。
前者は素良、後者は翔太と鬼柳。
ただし、違いとしたらシンクロ召喚に関しては時間がかなり限られていること、そして学ぶ場所が戦場であることだ。
「《ショウフク》の効果発動!このカードのシンクロ召喚に成功した時、そのモンスターのシンクロ素材となった幻竜族モンスターの元々の種族の種類の数までフィールド上のカードを持ち主のデッキに戻す!」
「何やって!!?」
《闇竜星―ジョクト》は闇属性、《炎竜星―シュンゲイ》は炎属性、《水竜星―ビシキ》は水属性。
よって、3枚のカードをデッキへバウンスさせることが可能だ。
そして里香のフィールドに存在するカードは3枚。
「あたしは里香のフィールドに存在するすべてのカードをデッキに戻すわ!アクア・イリュージョン!!」
《輝竜星―ショウフク》の口から黒・青・赤の三色の水が大量に発射される。
「させへん!!ウチは罠カード…」
「《水竜星―ビシキ》の効果発動!このカードを素材としたシンクロモンスターは罠カードの効果を受けないわ!」
《輝竜星―ショウフク》を白い霧が包み込んでいく。
「そんなん百も承知や!ウチは永続罠《海底冬眠》を発動!ウチの手札・フィールドに存在する水属性モンスター1体をゲームから除外するで!!」
水が襲い掛かる前に《氷結界の龍グングニール》が上空に現れた次元の裂け目の中へ飛んでいく。
その裂け目の向こうには氷河期の海が存在する。
「けれど…それ以外のカードはデッキに戻るわ!!」
しかし、この効果で《輝竜星―ショウフク》の水を止めることはできない。
水はその2枚のカードのソリッドビジョンをきれいに洗い流してしまう。
デッキに戻った伏せカード
・リビングデッドの呼び声
「せやけど、《海底冬眠》はフィールドから離れたとき、この効果で除外されたモンスターを守備表示で特殊召喚するで!」
上空の裂け目から降りてくる《氷結界の龍グングニール》。
大地に立つと同時に裂け目は閉じて行った。
氷結界の龍グングニール レベル7 守備1700
海底冬眠
永続罠カード
「海底冬眠」の(2)の効果は1ターンに1度しか発動できない。
(1):自分の手札・フィールド上に存在する水属性モンスター1体を対象に発動できる。そのモンスターをゲームから除外する。
(2):このカードがフィールドから離れたとき、この効果で除外されたモンスター1体を自分フィールド上に表側守備表示で特殊召喚する。
《異次元海溝》の永続罠カードバージョンとも取れるカードだが、墓地のモンスターを対象にできないこととフィールドから離れるだけでも効果を発動できること、そして特殊召喚する際は表側守備表示にしなければならないという点で差別化されている。
罠カードであることから、サクリファイス・エスケープが可能になっている点は大きいだろう。
「《炎竜星―シュンゲイ》の効果発動!このカードを素材としたシンクロモンスターの攻撃力・守備力は500アップするわ」
霧の中に身を隠す《輝竜星―ショウフク》の肉体が赤く発火していく。
輝竜星―ショウフク レベル8 攻撃2300→2800 守備2600→3100
「バトルよ!《ショウフク》で《グングニール》を攻撃!!アクア・フレイム!!」
《輝竜星―ショウフク》の口から灼熱の炎を放出する水が放たれる。
その水を受けた《氷結界の龍グングニール》の肉体が溶けて消滅していく。
「くうう…守備表示で正解やったで…!」
ダメージを受けることはなかったものの、里香のフィールドにカードはなく、手札はたったの1枚。
柚子に主導権を握られたことに変化はない。
「私はカードを1枚伏せて、ターンエンド!」
里香
手札1
ライフ4000
場 なし
柚子
手札6→2
ライフ4000
場 輝竜星―ショウフク レベル8 攻撃2800
伏せカード1
「ウチのターン、ドロー!!」
里香
手札1→2
「ウチは手札から魔法カード《サルベージ》を発動や!墓地に存在する攻撃力1500以下の水属性モンスター2体を手札に加えるで!その効果でウチは墓地から《深海のディーヴァ》と《氷結界の輸送部隊》を手札に加えるで!更に手札から魔法カード《強欲なウツボ》を発動!手札の水属性モンスター2体をデッキに戻し、デッキから3枚カードをドローするで!」
影霊衣で水属性モンスターを儀式召喚という違うコンセプトで操っていた里香だが、そのノウハウがこの氷結界デッキでも生きているようだ。
彼女は先ほど戻した2枚のカードをデッキへ送り、3枚カードをドローする。
「そして、ウチは手札から《氷結界の伝道師》を召喚や!」
青い頭巾付きマントと金色の模様付きの白いローブ、茶色いベルトを装備した黒ひげの老人が大きな氷の結晶が付いた杖を持って姿を見せる。
氷結界の伝道師 レベル2 攻撃1000
「このカードをリリースすることで、ウチは墓地から《伝道師》以外の氷結界モンスター1体を特殊召喚できるんや!出てくるんや、《氷結界の龍グングニール》!!」
《氷結界の伝道師》は自ら発生させた吹雪の中に身を隠す。
吹雪によって、《輝竜星―ショウフク》を包んでいた霧が水となって地面に落ち、晴れていく。
そして、吹雪と霧が消えると里香のフィールドには《氷結界の龍グングニール》が現れていた。
氷結界の龍グングニール レベル7 攻撃2500
「《グングニール》の効果発動や!1ターンに1度、手札を2枚まで捨て、捨てた枚数だけ相手フィールド上のカードを破壊するで!」
里香の手札2枚がソリッドビジョンとなって《氷結界の龍グングニール》に取り込まれる。
そして、その第2の龍の口から氷でできた巨大な手裏剣が2つ発射され、横に回転しながら柚子の伏せカードと《輝竜星―ショウフク》を真っ二つに切り裂く。
破壊された伏せカード
・竜星の具象化
手札から捨てられたカード
・氷結界の交霊師
・氷結界の密偵マーラ
「あ…《竜星の具象化》が破壊されちゃった!!」
「《竜星の具象化》は1ターンに1度、自分のモンスターが破壊された時、デッキから竜星モンスター1体を特殊召喚できるカード。だが、これでは意味がないな…」
再び現れた《氷結界の龍グングニール》によって、今度は柚子のフィールドからカードがなくなってしまった。
これでは直接攻撃を許してしまう。
「あたしは墓地に存在する《光竜星―リフン》の効果を発動!あたしのフィールド上に存在する竜星モンスターが戦闘・効果によって破壊され墓地へ送られた時、墓地から特殊召喚できる!」
切り裂かれた《輝竜星―ショウフク》の幻影が次第に形を変えていく。
そして、その幻影が小さくなっていき、最終的には金色の線が何本も横に刻まれている白い肉体、金色の2本角と赤い瞳、白と金を基調とした刃のような鋭さを持つ対の羽根飾りをつけた蛇竜の幻影となる。
光竜星―リフン レベル1 守備0(チューナー)
「まだまだあるで!!ウチは墓地の《氷結界の密偵マーラ》の効果発動!このカードが墓地に存在し、ウチの墓地に存在する氷結界モンスターのレベルの合計が6以上の時、1度だけこのカードを墓地から特殊召喚できるで!」
先程の《氷結界の伝道師》とは同じマントをつけているが、ローブの色が黒く染まっていて、青い瞳以外、顔をすべて黒いスカーフで隠している女性が現れる。
その女性の後ろ腰には2本のククリナイフが差してあり、それぞれにはजीना(ヒンディー語で生きるという意味)とमरना (ヒンディー語で死ぬという意味)が刀身に刻まれている。
氷結界の密偵マーラ レベル4 攻撃1600
氷結界の密偵マーラ
レベル4 攻撃1600 守備1200 効果 水属性 魔法使い族
「氷結界の密偵マーラ」の(2)の効果はデュエル中1度しか発動できない。
(1):このカードの召喚に成功した時、自分フィールド上に他のモンスターが存在しない場合にのみ発動できる。自分の手札から「氷結界」チューナー1体を選んで特殊召喚できる。この効果で特殊召喚されたモンスターの効果は無効化される。
(2):このカードが墓地に存在し、自分の墓地に存在する「氷結界」モンスターのレベルの合計が6以上の場合に発動できる。このカードを自分フィールド上に特殊召喚する。
「バトルや!まずは《マーラ》で《リフン》を攻撃!」
《氷結界の密偵マーラ》がククリナイフを左右逆手に持ち、光の竜の幻影の懐へ飛び込む。
そして、その竜を巻き寿司のように輪切りにして始末した。
「きゃああ!!この効果で特殊召喚された《リフン》はフィールドから離れたとき、除外されるわ…!」
「《グングニール》でダイレクトアタック!!」
《氷結界の龍グングニール》の口から氷でできた無骨な構造の槍が柚子に向けて発射される。
槍は彼女の左胸を貫通する。
「きゃああ!!」
ソリッドビジョンであるため、実際に体にダメージは発生しないが、かなりリアリティが高いためになぜか痛く感じられた。
柚子
ライフ4000→1500
「すごーい!里香ちゃん、一気に逆転しちゃった!」
「美少女デュエリストをなめとったらあかんで?ウチはこれでターンエンドや!」
里香
手札2→0
ライフ4000
場 氷結界の龍グングニール レベル7 攻撃2500
氷結界の密偵マーラ レベル4 攻撃1600
柚子
手札2
ライフ1500
場 なし
「主導権とフィールドの状況がオセロゲームのように切り替わったな…」
伏せカードはないものの、里香には手札を消費することで破壊効果を発揮する《氷結界の龍グングニール》が存在する。
更に墓地には《氷結界の伝道師》があり、そのモンスターの効果を使用することで、たとえ《氷結界の龍グングニール》が破壊されたとしても再び戦線に復帰させることが可能だ。
「頑張れー、柚子ちゃーん!!」
絶体絶命の状況の柚子に伊織が応援する。
(すごい…里香…!)
里香と漁介はLDS出身ではないが、2人とも儀式召喚とエクシーズ召喚という召喚法を分析して習得した過去がある。
特に里香はエクストラデッキの使用がいずれデュエルの主流になると考え、その対抗策として影霊衣デッキを作り上げた。
そんな実力の高さはヴァプラ隊のテストを通過したことからも証明されている。
(けど、負けない!!あたしも強くなる。遊矢を守れるくらい強くなる!)
今の自分のデッキは今まで愛用した幻奏デッキではなく、竜星デッキ。
それでも、自分が良いと思い、一生懸命つくりあげたデッキであることに変わりない。
「あたしのターン、ドロー!!」
柚子
手札2→3
「(来た…!!)あたしは手札から魔法カード《竜星の輝跡》を発動!墓地から竜星モンスター3体をデッキに戻し、デッキからカードを2枚ドローするわ!」
柚子の墓地から緑・赤・緑の順番に横並びとなっている一筋の光が放出され、彼女のデッキに吸収される。
そして、デッキトップから2枚が同じ色の光を帯びた状態で彼女の手札に加わる。
墓地からデッキに加わったカード
・風竜星―ホロウ
・炎竜星―シュンゲイ
・輝竜星―ショウフク
「そしてあたしは手札から《カードガンナー》を召喚!」
カードガンナー レベル3 攻撃400
「《カードガンナー》…厄介なカードだ」
「このカードは1ターンに1度、デッキトップから3枚までカードを墓地へ送り、ターン終了時まで攻撃力を1枚に付き500アップさせるわ!」
柚子はデッキトップから3枚のカードを墓地へ送る。
すると、《カードガンナー》の頭部にある2つの照明が点灯し、エネルギーチャージが完了したことを告げるように胸部の2つのメーターの針が最大値を示す。
カードガンナー レベル3 攻撃400→1900
デッキから墓地へ送られたカード
・レベル・スティーラー
・竜宮のツガイ
・激流葬
「更に手札から魔法カード《死者蘇生》を発動!その効果であたしは墓地から《竜宮のツガイ》を特殊召喚!」
「な…!?《カード・ガンナー》の効果で墓地に送ったカードを…!」
青い体で金色の星の飾りが複数ついた、緑色のエキズチックな帽子をつけたリュウグウノツカイとピンク色の体で黄色のハートの模様が複数ついた、緑と白が基調の蝶のイラストがある赤いサンバイザーをかぶっているリュウグウノツカイが仲良くフィールドに現れる。
竜宮のツガイ レベル6 攻撃2000
「このカードは1ターンに1度、手札のモンスターカード1枚を捨てることで、デッキからレベル4以下の幻竜族モンスター1体を特殊召喚できる。あたしはデッキからもう1体の《ビシキ》を特殊召喚するわ!」
水竜星―ビシキ レベル2 攻撃0
手札から墓地へ送られたカード
・マグマ・ドラゴン
「そして…あたしは手札から魔法カード《速攻同調》を発動!墓地からレベル3以下のチューナーモンスター1体を効果を無効にして特殊召喚する。あたしは《ジョクト》を墓地から特殊召喚!」
闇竜星―ジョクト レベル2 攻撃0(チューナー)
速攻同調
速攻魔法カード
(1):自分の墓地からレベル3以下のチューナー1体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたモンスターの効果は無効化される。この効果で特殊召喚されたモンスターはこのターン終了時に除外される。
「更に墓地の《レベル・スティーラー》の効果発動!このカードはあたしのフィールド上に存在するレベル5以上のモンスター1体のレベルを1つ下げることで、特殊召喚できる!」
《竜宮のツガイ》がその場で自分たちの体を使ってハートマークを作ると、彼らの周囲に5つの白い光の球体が現れ、ハートマークの中央にそれと同じものが1つだけ現れる。
そして、《レベル・スティーラー》がその光の球体を突き破り、ハートマークをくぐってフィールドに現れる。
レベル・スティーラー レベル1 攻撃600
竜宮のツガイ レベル6→5 攻撃2000
「1ターンで5体のモンスターを召喚やて!!?やるやないか、柚子!!」
フィールドを埋め尽くす5体のモンスターを見た里香は興奮する。
そのうち《闇竜星―ジョクト》はチューナー。
この状況下ならシンクロ召喚を行うことができる。
「レベル5になった《竜宮のツガイ》とレベル2の《水竜星―ビシキ》にレベル2の《闇竜星―ジョクト》をチューニング!!この竜は空想の世界でのみ生きる幻。だけど、あたしの想いは絶対に幻じゃない!シンクロ召喚!現実の空へ今こそ!レベル9!《幻竜星―チョウホウ》!!」
緑色の鱗と赤い腹を持った蛇の体、黄色い鳥のような嘴をもつ緑色の龍の頭部、紫色の羽を数多く持つ翼と4本の黄色い鳥の足。
まるで合成生物かと思われる不思議なモンスターがアジトの真上にある雲を突き破って現れる。
幻竜星―チョウホウ レベル9 攻撃2800
「あれが…幻竜族シンクロモンスターの筆頭…」
もはや伊織を注意することを忘れ、デュエルをじっと見ていたセラフィムがその竜に見とれてしまう。
「《チョウホウ》の効果発動!シンクロ召喚されたこのカードが存在する限り、シンクロ素材にした竜星モンスターの元々の属性と同じ属性を持つ相手モンスターの効果を発動できなくするわ!」
「な…何やってーーーー!!???」
《幻竜星―チョウホウ》が空に咆哮すると、周囲の風が強くなり、その風の温度が次第に上がっていく。
気温の高い場所では氷結界は満足に戦うことができず、疲れでその場に倒れ込んでしまう。
「氷結界は水属性モンスターだけのカテゴリー。これで真田は永続効果以外のすべてのモンスター効果を封じ込められたな…」
「バトル!《チョウホウ》で《グングニール》を攻撃!ライトニング・シュート!」
《幻竜星―チョウホウ》の口から稲妻のブレスが放たれ、肉体の一部が液化している《氷結界の龍グングニール》の肉体を包み込んでいく。
膨大な電気エネルギーが肉体を駆け巡り、第2の龍は再び眠りにつくこととなった。
里香
ライフ4000→3700
「《チョウホウ》の効果発動!1ターンに1度、相手フィールド上に存在するモンスターを先頭・効果によって破壊した時、そのモンスターと元々の属性が同じ竜星モンスター1体を守備表示で特殊召喚できる!あたしはデッキからもう1体の《竜宮のツガイ》を特殊召喚!」
竜宮のツガイ レベル6 守備1200
「更に《カードガンナー》で《マーラ》を攻撃!」
《カードガンナー》の両腕部分に装着されているキャノン砲から白い光線が発射される。
ククリナイフで防御する《氷結界の密偵マーラ》だが、その光線の中で爆発して消滅してしまった。
里香
ライフ3700→3400
「あたしはこれでターンエンド!《カードガンナー》の《カードガンナー》の効果は終了よ!」
里香
手札0
ライフ3400
場 なし
柚子
手札3→0
ライフ1500
場 カードガンナー レベル3 攻撃1900→400
竜宮のツガイ レベル6 守備1200
幻竜星―チョウホウ レベル9 攻撃2800
レベル・スティーラー レベル1 守備0
再び里香のフィールドからカードがなくなり、戦局が覆る。
《幻竜星―チョウホウ》の力によって里香は身動きを封じ込められ、戦局の厳しさは日の目を見るよりも明らかだ。
「くぅーーー!!なんや柚子、めっちゃ強いやん!!」
「ええ…!?」
ピンチな状況を無邪気に楽しみ、自分をほめる里香に驚く。
そして、それから彼女が純粋にデュエルが好きなのだということがわかる。
「こんなに追い込まれるなんて思わんかったんやで?自分、最高やで!せやけど…」
里香がデッキトップに指をかけ、笑いながら柚子を見る。
「最後に勝つのはウチや!ウチのターン、ドロー!!」
里香
手札0→1
「このカードがウチの逆転の一手や…ウチはモンスターを裏守備表示で召喚し、ターンエンド…」
いかにも何かがあるぞというオーラを醸し出しながら、彼女はターン終了を宣言する。
里香
手札1→0
ライフ3400
場 裏守備モンスター1
柚子
手札0
ライフ1500
場 カードガンナー レベル3 攻撃400
竜宮のツガイ レベル6 守備1200
幻竜星―チョウホウ レベル9 攻撃2800
レベル・スティーラー レベル1 守備0
(里香…一体どんなモンスターを伏せたの…??)
フッフッフッと笑う里香に警戒しながら、柚子はカードをドローする。
柚子
手札0→1
「あたしは《カードガンナー》の効果を発動!もう1度3枚のカードを墓地へ送るわ」
カードガンナー レベル3 攻撃400→1900
デッキから墓地へ送られたカード
・緊急同調
・貪欲な壺
・魔竜星―トウテツ
「そして、《竜宮のツガイ》を攻撃表示に変更」
竜宮のツガイ レベル6 守備1200→攻撃2000
これで《幻竜星―チョウホウ》が裏守備モンスターを破壊し、残り2体の攻撃で里香のライフを0にする準備は整った。
しかし、それでも里香は笑いを止めることはない。
「(な…なんだか不気味だけど…この攻撃を通せば勝てる!!)バトルよ!《チョウホウ》で裏守備モンスターを攻撃!!」
《幻竜星―チョウホウ》の口から放たれた稲妻が裏守備モンスターに襲い掛かる。
そして、柚子の残り2体のモンスターがダイレクトアタックを仕掛けようとする。
「フxフッフッ…なんちゃって」
「え…?」
3体の攻撃は気持ちいいくらいに裏守備モンスターと里香を巻き込んでいき、彼女は派手に後方へ吹き飛んでいった。
里香
ライフ3400→1400→0
裏守備モンスター
氷結界の番人ブリズド レベル1 守備500
「あっはははは!!楽しかったで、柚子ちゃん!」
「…」
負けたにもかかわらず大笑いする里香に対して、柚子は勝利したにもかかわらずポカンとしている。
「あ、あの…なんでもう負けが確定してる状態だったのにあんな…」
「柚子、覚えとき?デュエリストはダイレクトアタックでは傷ついたりするかもしれんけど、自分からは攻撃せんし、戦うのはモンスター。そして、戦ってくれる自分のモンスターのためにも最後まで勝利への道を探さんと駄目なんやで?ま、これは師匠の受け売りやけどな」
「師匠…?」
「ウチと漁介を強うしてくれた人や。今度教えたる!それよりも…おなかすいたわー…」
急に表情を変え、おなかを抱えて脱力状態になった里香を見て、柚子が苦笑する。
「ふふ…じゃあ、あたしがお昼ご飯を作るわ」
「ん…?ご飯??」
デュエルを見物し、2人の会話を聞いていた伊織の脳裏にある光景が浮かぶ。
トレーラーの中にあるキッチン、バケツの中にある大量のジャガイモ…。
「きゃーーーー!!」
伊織は大急ぎでトレーラーへ走って行ってしまう。
「あ、伊織様ーーー!!」
セラフィムもびっくりしながら戻っていき、伊織のあわてようを声色で感じ取ったジョンソンはフウとため息をついた。
「この中か…」
一方、翔太たち3人は尾行していた男が廃棄された倉庫の中に入るのを見た。
その倉庫はもう使われていないにもかかわらず、壁にひび割れやサビはなく、扉も真新しい。
「あの中に秘密があるようだな…」
「行くぞー!」
漁介を先頭に翔太、鬼柳が扉の前まで行く。
そして、彼はゆっくりと扉を開いた。
タイトルと内容が違うじゃないか!と突っ込んだら負けです。
さあ、倉庫の中で3人は何を見るのか?
そして伊織は皮むきを終えることができるのか…??