遊戯王ARC-V 戦士の鼓動   作:ナタタク

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第47話 結束のための契約

「さあ、ここだ!」

カジノを出た翔太達がたどり着いたのはボロボロになっているパン屋だ。

十数年前に放棄されたようで、蜘蛛の巣や虫が多く、ボロボロな棚とカウンターを除くと、屋内の残っているのはパンの窯だけだ。

「なんだよ?ただの廃家じゃねえか」

「今のところはそうだな。だが…おい、じいさん!」

カウンターの向こう側にある階段に向けてモハメドが呼ぶ。

すると、白い短めの髭のある緑色の分厚い布製の服で全身を包んだ老人が降りてきた。

右足をかばうような歩き方をし、カチャリという機械の音がすることから、その右足が義足であるということがわかる。

「なんじゃ、またあんたか…。悪いがワシはもう何もするつもりはないぞ。ここと一緒に朽ち果てるだけじゃ」

「少し手を付けさえすればもう1度やれるのにか?」

「そんな金はない。もう帰ってくれ…」

老人が背を向け、再び階段を上がろうとする。

「金ならあるぜ!」

そう言うと、モハメドは翔太達からとった30万イェーガーのうちの20万イェーガーを出す。

「な…その金はどこで??」

「良心的な友人からのもらい物だ。これだけあれば、もう1度できるんじゃないか?」

金を手にとり、じっと見つめる老人にモハメドが諭す。

自分はもう1度始めることができる。

来るはずがないと思っていたその瞬間が着たことに老人が涙を流す。

「ああ…必ずこの金でやってみせる!!約束するぞい、モハメド…」

 

パン屋を出た翔太達は歩きながらモハメドと話す。

「良かったぜ。あと20万でできるってところで何年も行き詰ってたからな」

あの老人の嬉しそうな顔を見たことがうれしかったようで、微笑みを見せるモハメドに翔太が質問をぶつける。

「あれがいい使い道っていうのか?」

「ああ。コモンズのほとんどの店がギャングや一部の汚職セキュリティがやっている闇市だ。そして、まともな店をやろうにもバックアップのない奴らには無理な相談だ。だから、店や工場をやろうって思っている奴らに投資して店を始める手助けをするのさ。じいさんの場合はあとはほんの少し金がないだけだったから良かった。だがな、この町には金以外にも建築材や原材料の供給ルートのない理由で事業ができない奴が多い。そいつらに手助けすれば、売り上げの一部をもらうことができるってことだ」

「そう簡単なものか?」

「立て直しには人手がいるが、コモンズは失業者であふれてる。すぐに集まるし、適正価格で売ることができれば、そいつらも喜ぶ」

彼の言葉に翔太と鬼柳はうなずくが、漁介に関しては魚や漁、デュエルに関する知識しかないためか混乱するだけだった。

しかし、翔太の疑問が消えない。

「どうも解せねえな」

「なんだ?」

「なぜここまでコモンズに肩入れする?それに、そのことをなぜ俺たちに話す?シェイドのこともだ。お前には疑問があふれる」

じっとモハメドを睨む。

その眼を少し見た後で、男は仕方ないなと思いつつため息をつく。

(この男が口が悪く、態度は悪い、疑り深い男だということはあらかじめ聞いていたが…)

しかし、百聞は一見にしかず。

その度合いがどれほどのものなのかは実際にあって目にしなければわからないものだ。

「ま…隠すつもりはない。詳しい話はお前たちのアジトでしようじゃないか」

足を止め、彼から見て右斜め前の広場を指さす。

その広場の先には伊織たちの待つトレーラーと工場が待っている。

 

数分が経過し、場所はトレーラーの中に移る。

左側のベッドに翔太、伊織、鬼柳、ジョンソンが座り、右側には伊織、里香、柚子、ついでに柚子の背中の後ろで白い枕に化けているビャッコ。

両サイドにサンドイッチのように挟まれる形で椅子に座っているのがモハメドだ。

「まあまずは…なんで俺がお前らについて知っているかを教えるぞ。俺はヒイロ・リオニスに依頼されて、お前らに協力するように言われた」

「あのおっちゃんにか!?」

「どうりで知っている訳だ」

シェイドを知っている理由、それはこの質問で解決された。

ただし、彼自身の素性とコモンズを発展させ、利益を得る方法を教える理由がわからない。

「あいつはこのシンクロ次元についての内部情報を持っている奴を探していた。そして、俺が抜擢されたのさ。お前らシェイドと同行し、ランサーズとLDSに情報を流せってな。まずは信頼を勝ち取るためにその証拠を見せてやるよ」

懐から1枚の写真を取り出し、それを翔太たちに見せる。

写真には2人の男が映っている。

紫色でオレンジのラインと白いトグルボタンのスーツを着た、両サイドが翼を広げた鳥のような形の髪型をしている緑の狐目をした男が左にいる。

そして、右には翔太達にはご存じのオベリスクフォースの制服の男がいて、アタッシュケースの中からカードを取り出し、それを左の男に渡していることがわかる。

「オベリスクフォース…」

「んー?何か変だなー」

「変だと…?」

伊織の指摘を受け、翔太は彼女が指差す箇所を見る。

その箇所はオベリスクフォースと思われる男の制服の襟についているマークだ。

マークは文字が刻まれた黄色い帯で包まれた《炎の剣士》になっていて、文字は翔太には読めないが英語だということだけは理解できる。

「俺に見せろ!」

漁介が英語をじっと見る。

彼は動体視力が高く、視力も2.0らしい。

英語は読めないためか、書いてあるものを手元にある紙に記入していく。

「Germain…ジェルマン?」

「ジェルマン…融合次元の部隊名か?」

「ふん。錬金術師の名前を使うとはベタだな」

ジェルマンという言葉から鬼柳の頭に浮かんだのはサンジェルマン伯爵だ。

18世紀のヨーロッパに実在したとされる偉人で、不老不死やマルチリンガル、錬金術や幽霊などの数多くの伝説を残したなぞの多い人物だ。

彼についての史料は後年、ナポレオン3世によってチュイルリー宮殿に集められたものの、火災によって失われていることも伝説に拍車をかけている。

(ジェルマンか…)

「この紫色の服の男はセキュリティを仕切っている治安維持局の長官、ジャン・ミシェル・ロジェだ。頭は切れるが、人間味の欠片もない…血肉があるだけのマシーンだ」

嫌悪するようにその男を紹介しつつ、写真の男を見る。

怪し毛の雰囲気を醸し出すその男で、長官という立場を考えると彼の年齢は40代後半と予想できる。

もっとも、それは立場だけを考えて頭に浮かぶ予想であり、実際に彼の容姿を見るとその年齢よりも一回り程度若く見える。

「で、なんでお前がそのお偉いさんの姿が写った写真を持っている?」

「あの漁師少年が倒した不良警官のことだが…あいつは俺の元同僚だ」

遠回しに自分が元セキュリティであることを告白するモハメド。

それを聞いた翔太と鬼柳、ジョンソン以外の面々が驚く。

「安心しろ、別にお前らを取って食おうとなんて思っちゃいない」

「なるほど。この写真のせいでお前はお払い箱か?」

「まあ…そうなるな」

居心地が悪そうに苦笑するモハメドが懐から安い紙タバコをだし、ライターで火をつける。

タバコを口にしつつ、トレーラーの窓際まで移動し、窓を開ける。

彼の口から出る黒い煙が窓からトレーラーの外へ出ていき、工場の屋根に開いている穴へ向かって音もなく飛んでいく。

「セキュリティを追われた俺はデッキとデュエルディスクを没収された。だが、この写真を手にしたことで分かったことがある。あの長官がここでとんでもないことを起こそうとしている。それを阻止する術をヒイロが俺に教えてくれた」

「それが俺たちシェイドとランサーズか?」

「そうだ。お前たちはギャングの力を使い、これからシンクロ次元で起こる陰謀を阻止してもらう。そのかわりに俺はお前らにシンクロ次元についての情報を提供する。AAA機密の情報でもなんでもな」

懐から灰皿を取り出し、タバコの灰を落とす。

そして、もう一服した後で再び先ほどの席へと戻っていく。

「デュエルギャング達は自分よりも強い奴の言うことしか聞かない。なら、勝つためには情報が必要じゃないのか?」

「その陰謀を止めることがお前への見返りか?」

「そうだ。報酬についてはもう赤馬零児と接触して話は決まっているからな」

そう言いながら、懐から小切手を出す。

小切手には零児の名前が書かれていて、報酬は100万イェーガー。

判子がないためか、代わりに彼の血判が押されている。

DNA鑑定すれば、本物であるか否かは十分証明できる。

「あいつと合流したということは…他の奴らの動きを知っているということだな?」

立ち上がった鬼柳がモハメドの前に立つ。

表情は普通だが、友人たる彼を心配しているのだろうし、何よりも今入ってこないランサーズの情報が少しでも欲しいと思っている。

「ああ、榊遊矢、セレナ、沢渡シンゴ、赤馬零羅はコモンズのある男の下に身を寄せている」

「遊矢が!?そ、その男の人は…!?」

愛しの彼の名前に反応したのか、柚子が更に彼に詰問する。

(おお、まさに恋する乙女って感じやな)

(うーん、柚子ちゃん大胆!)

「クロウ・ホーガンっていうBF使いだ。それにデュエルチェイサーズは何人もあいつに敗れた。よほどのことがない限りは捕まることはない。あと、権現坂昇とデニス・マックフィールドはトップスのルチアーノ区で楽しい野宿生活中。黒咲隼はここから西へ60キロの地点にある旧ルドガー区の地下デュエル場で強いデュエリスト探し、赤馬零児と風魔月影はトップスの中心であるイリアステル区にある中央会議場で評議会の連中と掛け合っている」

「評議会…?」

聞き覚えのない新しい単語に漁介が疑問を浮かべる。

「トップスで一番偉い5人組。治安維持局でも逆らえないくらいの権限を持った奴らだ。そして、セキュリティでも長官クラスにならなきゃ会うことすら許されない、雲の上の奴らさ」

「お偉いさんはお偉いさんに任せるとして…俺たちはこれから何をするかを決めるぞ。モハメド、副官ってことでならここにいてもいいぞ」

「ふん…それでかまわない。短い間かもしれないが、よろしく頼むぞ」

モハメドがにやっと笑った後、翔太は壁に貼られている地図をはがして中央に置く。

そして、今日見つけたパン屋と闇市、カジノの場所を記入する。

「さて、これからやることとしたら…」

「はーい!」

翔太が言い終わらないうちに伊織が手を上げる。

ため息をつきながら、伊織に目を向ける。

「なんだ、伊織」

「パン屋さんのお手伝い!」

「…」

翔太がジロリと彼女を睨む一方で、里香が書記として意見を書く。

書き終わると同時に漁介が次の意見を出す。

「移動中にモハメドからもらった情報じゃが、先日ここの東隣にある鷹栖区を仕切っているギャングのリーダーがパクられて、動揺しているみたいなんじゃ。物資もデュエリストの数も乏しい今は勢力拡大と人手を集める必要がある。俺たちの存在があまり知られていない間に奇襲をかけるのはどうかいの?」

「少し無謀じゃないだろうか?俺たちは来てばかりで、こういう攻撃となると地の利は相手にある。偵察してそのうえで攻撃するという手があるぞ」

三者三様の意見が里香の手帳に記入される。

 

伊織:パン屋の手伝い(まだまだオープンまで時間がかかるかもしれないし、私達も手伝おーよ!もしかしたら、おすそ分けしてくれるかも…by伊織)

漁介:鷹栖区のギャングへ奇襲攻撃(このままではジリ貧じゃし、大物をしとめるチャンスが目の前にある。ゆーに拡大するなら今じゃby漁介)

鬼柳:鷹栖区のギャングの偵察(信用していないわけじゃないが、モハメドから得た情報だけでは奇襲は難しいかもしれないな。偵察を行って計画を練るべきだby鬼柳)

 

「ギャングとのデュエル…」

柚子の脳裏にギャングのイメージが浮かぶ。

弱い者いじめをするこわもてのデュエリストと言うなんともステレオタイプなイメージで、それとオベリスクフォース達と姿がだぶついて、あの時の恐怖が蘇りそうになる。

(駄目…!!あたしも遊矢を守るために強くなるって決めたから…!!)

「じゃあ翔太、お前が決めるんや」

里香が手帳を翔太に渡し、判断を願う。

「おい、なんで俺が決めなきゃならないんだ?」

「だってー、翔太君が私たちのリーダーでしょ?」

「キュイー」

伊織といつの間にか彼女の隣にいるビャッコがうなずきながら答える。

それに反論するメンバーがいないということから、自分が判断するしかないという空気が構築されていく。

(ちっ…伊織のは話にならないが、オープンが早まればそれだけ早く売り上げの一部をもらうことができる。鬼柳の言うとおりに偵察をすることで攻撃が容易くなるうえ、工作もできるかもしれねえ。電光石火の奇襲なら漁介の言うとおり、相手に動揺を起こすことができるかもしれない…)

それぞれの主張にはそれぞれメリットがある。

その中で今のシェイドにとっての最良のメリットは…。




さあ、モハメドを迎えたシェイドが1つの選択の交差点に立ちました。
小さな選択ですが、それがどんな影響を与えるのか…?
これについて詳しくは活動報告へ!
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