遊戯王ARC-V 戦士の鼓動   作:ナタタク

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第60話 明日のために

「く、うう…!!」

ゆっくりと目を開く翔太の目の前に広がるのは真っ白で天井だ。

中央にある円盤状の白いLED電球は放つ同じ光を放っているせいか、よく見えない。

左腕を見ると、二の腕あたりに注射針があり、ビタミン剤の点滴をされていることがわかった。

また、患者用の青い服と白いベッド、そしてラジオもテレビもない退屈な空間がそこは病室だということを教えてくれる。

掛布団をめくり、腹部を見ると、傷はもうふさがっていた。

「どれだけ寝ていたんだ…?」

「3日間、といったところでしょうね。ですが、これほどの回復力を持っているとは思いませんでしたが」

翔太の質問に答えるように、病室の横に開くタイプのドアが開き、紫色の服の男が入ってくる。

モハメドが持っていた写真に写っていた、現在の治安維持局長官…。

「ジャン・ミシェル・ロジェ…」

「ええ、私がジャン・ミシェル・ロジェ。治安維持局長官で、あなた方コモンズのギャングに正義の鉄槌を下す存在です。だから…」

色素の薄い不健康そうな肌で薄い笑みを浮かべると、腰についているホルスターからリボルバーを取り出し、それを翔太に向ける。

「判決次第では、この引き金を引きことができるのです」

笑みを浮かべたままだが、彼の目は銃口に向いていた。

銃口には翔太の人差し指が入っており、引き金を引いたら暴発していた。

「この程度では銃は暴発しませんよ。確率にしても半々です。そして、残念ながら今の私にはあなたを裁く権限はありません」

翔太の手をどかし、銃をホルスターにしまったロジェは再び目を翔太の顔に向けた。

「あなたが眠っている間にチームブレイドと司法取引をしまして、あなたの身柄をシティに引き渡す代わりに、当分の間チームブレイドとシェイドを見逃すというものでした」

「ちっ、薄情な部下と同盟相手だ…」

「そして、今のあなたの身柄は評議会のもとにあります。退院後、彼らが用意した施設に収容されます」

「評議会…」

モハメドから聞いた話によると、評議会は治安維持局よりも上に位置する、シンクロ次元のトップとのことだ。

彼らに身柄が確保されたということは、今の自分を治安維持局は拘束することができないということになる。

(だが、こんな司法取引がなぜできたんだ…?)

リーダー1人の身柄と引き換えに、2つの組織を当分見逃すという取引はどう考えても公平なものとは思えない。

そして、シェイドにはモハメド以外に交渉できるような人物はいない。

チームブレイドの交渉人の力量は未知数だが。

(俺たちの見えない場所で、いろいろと事が起こっているみたいだな)

「ああ、それから別に評議会施設にいるのはあなただけではありませんよ。あなたと同じ異次元から来たデュエリストの集団、ランサーズの皆さんもいます」

「…デッキを見たな?」

「一応、リーダーたるあなたの素性だけは確かめておきたかったので」

薄ら笑みを浮かべたまま、翔太のデッキケースを返したロジェは静かに退室し、入れ替わるように白い燕尾服とシルフハットを来た男が入ってきた。

「秋山翔太。ランサーズの一員にして、赤馬零児と同じく4つの召喚法すべてを操る男。お前には1週間後に開催されるフレンドシップカップに参加してもらう」

「はぁ…?フレンドシップカップ?それに零児をなぜ知っている?」

「赤馬零児殿がお前たちのことを詳しく教えてくれた。ランサーズの目的も…。お前だけなぜギャングを結成していたかは知らんが、この大会で、ランサーズの力量を見せてもらう」

「そんなことやってやがったか、あいつ…」

なぜか脳裏に彼が不敵な笑みを浮かべる姿を浮かべてしまう。

そんな翔太に男はパンフレットを渡した。

表紙には白いコートとAを模した銀色のピアスとバックルをつけ、下には同じ色のライディングスーツを着た、金髪で長身の男が映っており、そのそばには赤と茶色を基調とした、ほっそりとしているが引き締まった肉体をしている人型の竜がいる。

3本ある黄土色の角の1本は折れており、翼や肉体のいたるところに様々な傷跡がある。

また、右腕には紫が混ざった赤いマグマが見え隠れする黄土色のガントレットがついている。

おそらく、このモンスターが金髪の男のエースモンスターなのだろう。

「こいつは?」

「ジャック・アトラス…。この次元最強のデュエリスト、キングだ。コモンズ出身でありながら、その実力によって上り詰めた、コモンズとシティの英雄だ」

まるで台本を読んだかのような、棒読みの説明をした後で、男は部屋から出て行った。

「ジャック・アトラス、な…」

 

「くっそぉ!!」

ガンと拳が壁に当たる。

壁にはわずかにひびが入ったものの、それ以上に漁介の拳に内出血のあとができる。

「やめろ、そんなことをしても何も解決しない」

「でもよぉ、やっぱり気に入らねえよ!!」

再び漁介は壁を殴る。

翔太が捕まったという情報が手に入った後、増援で駆け付けたチームブレイドと合流した。

そして、翔太が眠っている3日の間にチームブレイドが評議会と交渉を行い、治安維持局にシェイドとチームブレイドに関与させないよう圧力をかけさせることを条件に、翔太の身柄を評議会に任せるという形で話が決まった。

「よせ、今の俺たちにあいつを救うだけの力はない」

漁介に背中を向けたまま、鬼柳は冷静に諭す。

だが、今の漁介にとってには効き目があるはずがない。

「仲間1人守れんで、何がランサーズじゃ!!はぐゆぅて仕方がなぃんじゃ!!」

「黙れ!!」

いきなりの鬼柳の大声にさすがの漁介の動きも止まる。

よく見ると、鬼柳も拳を固く握りしめている。

「俺たちが…シェイドがもっと強ければ、あんな胸糞悪い手段をとる必要はなかったんだ!!」

「鬼柳…」

「…悪い、コーラ飲んでくる」

逃げ出すようにトレーラーから出ていく鬼柳をモハメドは静かに見送る。

そして、静かになったトレーラーをじっと見た。

里香は何も言わずに漁介の傷の手当てをし、ジョンソンは相変わらずベッドの端に座って何もしゃべらない。

また、柚子は今回のことのショックのせいか、休みなしで経理の勉強とデュエルの修行をやっており、そのせいか目の下にクマができてい。

(このままの状態が続いたら、シェイドは壊滅する…)

翔太がいなくなったせいで、回収できたカード化したデュエリストたちを開放することができなくなり、動員できる人数が減っている。

また、生き残ったメンバーは仲間を失ったショックで士気を低下させている。

この状況でチームオーファンが攻撃を仕掛けてきた場合、ひとたまりもないだろう。

仮に翔太が戻ってきたとしても、シェイドが壊滅していたら話にならない。

(無事でいろよ、翔太…)

 

「ええ、処遇についてはお任せしますよ。じゃ」

チームブレイドのアジトの中で、電話を切った小川がエリクに目を向ける。

「やはり、今回の件について納得していないようですね、小川さん」

「当然ですよ。とてもあんたの判断とは思えませんね。ま、何か考えがあってだということはわかりますけど」

そういいながら、小川はグラスを手に取り、ワインを入れてエリクの左隣にあるテーブルに置く。

それを一口で飲み、静かに目を閉じた。

「…無理、しすぎなのでは?」

「いいえ。ですが、少しだけ休ませてもらいます。今回のことの真意は…いずれわかります」

そういうと、エリクは静かに寝息を立て始めた。

困った表情を見せた小川はすぐに暖かい毛布を彼にかける。

「まったく、本当だったらベットで寝てなきゃならないのに…にしても、翔太の奴、無事なんだろうなぁ」

「小川さん。シェイドのモハメドさんから連絡が入っております!」

「おう。今行くぜ」

 

「《ジャンク・ウォリアー》で攻撃!!」

アジト近くの広場で、伊織の《ジャンク・ウォリアー》の右拳が《C・ドラゴン》を貫く。

「うぎゃああああ!!」

 

シェイドメンバー

ライフ300→0

 

「よーし、誰か、もう1戦お願い!!」

「うう、勘弁してくれよぉ…」

現在、彼ら4人はすでに1人6回ずつ伊織とデュエルをしている。

デュエル終了と同時にデッキの調整をし、再びデュエルを行うというやり方になっているため、休む時間はわずかしかない。

「キュイー…」

そんな彼女を心配してか、ビャッコは伊織にみたらし団子を差し出す。

「ありがと、ビャッコちゃん」

「伊織様、少し…休んだ方がいいのではないでしょうか?」

みたらし団子を食べる伊織を心配そうに見つめながら、セラフィムはビャッコを抱く。

そんな心配を払拭させるためか、ウィンクをした後でまたデュエルを始める。

(翔太君は絶対に帰ってくる!今の私に助けるだけの力はないけど…帰る場所を守るくらいのことはできるから!)

 

「…いいぜ、モハメド。その件については了解した。明日にでもウチの奴らが送る」

(助かる。この埋め合わせは必ず…)

「いいっていいって、同盟を結んでるから当然だ。お前はさっさとシェイドの戦力を立て直せよ。リーダー代行?」

(現時点ではな。それに、あいつの代わりにリーダー代行ができそうなやつはいる)




お久しぶりです。今回はリハビリという感じのため、かなり短めになりました。
これからはペースを落としたままの状態で更新を続ける形になります。
気長にお待ちいただければ幸いです。
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