(きまったーーー!!秋山翔太選手が召喚した美しき死神の前にデュエリスト・クラッシャーが屈しましたー!!)
デュエル終了と同時に、実況が流れ、観客席が歓声に包まれていく。
「うおおおお!!!」
「本当に一発で決めやがった!!」
「ざまぁみろ!デュエリスト・クラッシャー!!」
歓声に包まれる中、翔太とセルゲイがいたコースを包む黒い煙が風で飛ばされていく。
そして、そこに残っていたのは動きを止めたセルゲイと彼のDホイール、そしてコース中央にできた大きな穴だけだった。
「おい…なんだよあの穴。それより…」
「あれ?勝ったやつがどこにもいねーぞ!?」
「どうなってるのかしら…??」
歓声が一気に消え、その代わりにザワザワとした声が客席を包んでいく。
(あ、あれー??おーい、翔太選手??どこにいったのー??勝者は戻ってこないとダメでしょー??)
「ふうう…どうにか、破壊されずに済んだか…」
デュエルの一部始終を見ていたロジェは額の汗をハンカチでぬぐい、付近を警邏中のセキュリティと通信をつなげる。
「すぐにセルゲイを回収しなさい。そして、動ける部隊は大至急、秋山翔太の確保に当たってください」
「…デュエリスト・クラッシャーが敗れたようですね」
通信を終えると同時に、ブーンが入ってくる。
彼の手にはUSBメモリが握られていて、それをロジェの机の上に置く。
「開発者からのセルゲイに関する新たなプランだ」
「…用意がよろしいですね、ブーン」
「同じデッキのデュエルが何度も放送されれば、おのずとそれを攻略する術を見出す奴がいる。だとしたら、こちらも新しいプランを用意しなければなりませんからな。まぁ、今のデュエリスト・クラッシャーにはそのようなことはできませんが…」
「…。そうですね。ならば、そのプランを使わせていただきましょう」
USBメモリがロジェの胸ポケットに入ると、ブーンは頭を下げた後で部屋を出ていった。
(ガースキー・ブーン…。さすがはシンクロ次元の元テロリスト。使える男だ…。能力があり、そして私の願いをかなえてくれるのであれば、犯罪者であろうと喜んで部下に迎え入れましょう。すべてはシンクロ次元の王となるために…)
ノートパソコンに映っている映像を切り替えると、そこにはセキュリティの隊員たちによって包囲された評議会の施設が映っている。
ロジェは彼らの体内にナノマシンを注射させており、これらにある信号を送ることによって自らの手足となる奴隷へと変貌させていた。
これに対して、評議会は何も反応を示していない。
「よし…Dホイールはここに置いておく」
トップスの裏路地でDホイールを捨てた翔太はポケットから紙きれを取り出し、それを見ながらマンホールを探し始める。
「番号番号…こいつか」
1つ1つのマンホールの番号を確認し、紙切れに書いてある番号と一致するものを見つけると、周囲を確認してからそれを開け、中に入っていく。
入ったと同時に、下水道特有の悪臭が翔太を襲う。
「ちっ…なんでこんなところに…」
「翔太殿」
梯子を下りると、月影が現れて、翔太に防臭マスクをつける。
匂いの生でなかなか呼吸できなかった翔太は改めて、ここで深呼吸をする。
「ふうう…で、なんだ?俺に用があるのかよ?」
そういいながら、先ほどまで見ていた紙切れを月影に渡す。
これは部屋を出る前、服のポケットの中に違和感を感じ、調べたときに見つけたものだ。
「いかにも。われらのこれまでの状況について、説明しておこうと思った次第」
「ああ…。で、変わったことは?」
「まずは…治安維持局の長官であるジャン・ミシェル・ロジェが融合次元の裏切り者だということが判明した」
「ん…?裏切者?工作員じゃあないのか??」
デュエルチェイサー227とセルゲイが融合召喚を使用したことで、シンクロ次元には融合次元に関係する人物がいるだろうということは薄々感じていた。
だが、まさか関係者は関係者でも、裏切者だということには翔太は少しだけ驚いた。
「で…そいつはなんで裏切りを?」
「目的はシティの王になるためらしい。そのために治安維持局にはリアルソリッドビジョンを手土産に入り、そして今こうして長官となっている。また、これはヒイロ殿からの情報であるが…紫雲院素良がシンクロ次元にいる」
「素良…?なんでそいつが…」
「それは、警告のためだよ」
そういって、暗闇の中から素良がやってくる。
さすがに下水道ではキャンディーを舐めるわけにはいかないのか、何も加えることなく翔太を見ている。
「よぉ、融合次元のスパイ。どの面下げてここに来てんだか…」
そういいながら、翔太はデュエルディスクを展開し、じっと素良を見る。
「同門の情けだ。俺の手でお前を終わらせてやるよ」
「…悪いけど、今は翔太とデュエルをする気はない。それよりも…セレナと柚子の居場所を知りたい」
「何…?あいつら2人をさらうつもりか?」
「そうじゃない。いや…どうなんだろう。今の僕には、分からない。果たして、2人を融合次元へ連れていけばいいのか、それとも融合次元に引き渡すべきではないのか…わからなくなってしまった…。僕は…アカデミアに救われたんだ…」
「救われた…?」
「翔太殿、素良殿。ここで長居するわけにはいかん。場所を変えよう」
翔太と素良の会話を遮るように、月影が2人に提案する。
下水道とはいえ、ここはもはや治安維持局の、ロジェの庭だ。
一か所に長居していたら、お縄が待っている。
翔太は先に月影についていく。
(…そろそろか…)
素良も少し離れた距離から2人についていく。
自分の首筋に針なしの注射をし、注射器をその場に捨てながら。
(んえええーっと、皆さま!行方不明になった翔太選手なのですが、現在治安維持局が行方を追っているという情報が入りました。早くても今晩には見つかるということですので、このままフレンドシップカップを続行させていただきまーす!!2回戦第2試合のカードは…榊遊矢選手とシンジ・ウェーバー選手ー!!)
翔太が行方不明になった後からざわつき続けていた客席だが、大会続行という知らせを聞くと、これまでの空気が嘘だったかのように歓声を上げる。
そして、スタートラインには遊矢とシンジが立つ。
「翔太…一体どこにいるんだ…」
遊矢は部屋を出てからここに来るまで、ずっとそのことを考えていた。
デュエルで勝利したにもかかわらず、その場から姿を消した翔太の行動が理解できなかったからだ。
「遊矢!奴は逃げたんだ。お前らを見捨ててな!!」
「違う!!口は悪いけど、仲間を見捨てるようなことをする奴じゃない!きっと…何か理由が…!」
「ふん…そんなことを考えて、デュエルに集中できなかったとしても、容赦はしない!どんな犠牲を払ったとしても…俺は革命をやり遂げる!」
強靭な意思を込めて、シンジは遊矢に宣言する。
シンジはシンクロ次元で富をむさぼり続けるトップスに対して憎しみを背負いながら生きていた。
幼いころに、自分が世話になっていた孤児院がトップスの都合によって強制的に取り壊され、行き場を失った。
そして、生きていくために幼少期は同じ境遇の仲間を集めて盗みを繰り返した。
彼本人は運が良かったのか、要領がよかったのか、ほかの仲間が次々と捕まる中、遊矢とクロウの巻き添えとなる形で捕まるまで収容所に入ることがなかった。
トップスの犬と認識するセキュリティにつかまり、運よく出てくることのできた仲間のマーカーが刻まれた顔を見て、彼はよりトップスへの憎しみを強め、次第にコモンズの自由のため、トップスを打倒しようと思うようになった。
仲間であるクロウとともにギャングに加わったのは、その力を得るためだ。
そして、このフレンドシップカップに出場しているのはコモンズに決起を促すため。
シンジにも、1回戦で戦ったデュエルチェイサー227と同じく、勝たなければならない理由がある。
「…やらなくちゃ、いけないのか…俺たちを助けてくれたシンジも…」
だが、227とは違い、シンジはシンクロ次元に来たばかりで、仲間とはぐれてしまった遊矢をクロウとともにかくまい、食べ物をくれた恩のある人物。
真っ赤な他人である227と同じく、付き合いは浅いものの、遊矢にとっては仲間に等しい存在だ。
(ふん…1回戦で少しは気骨を見せたと思ったが、まだまだ甘いな、小僧)
「オッドアイズ…」
(そんな貴様のためだ…。俺が進化した時に同時にかけたシールドを解いてやる)
「シールド?何のことだオッドアイ…うう…!?」
オッドアイズの声が消えると同時に、脳に直接殴られたかのような衝撃が走る。
あまりの痛みで悲鳴を上げ、涙が出てくる。
「仮病か?だったら即刻サレンダーしたらどうだ!?」
「ヘボいデュエリストだな!戦う前に悲鳴を上げやがって!」
「もっと強いデュエリストはいないの!?こんなガキはいらないわよ!!」
「そうだそうだ!観客を馬鹿にしてんのかー!?」
コモンズを中心に遊矢を非難する声がスタジアムを包み込み、メリッサが必死にいさめようとするが、どんどん勢いを増していく。
「はあ、はあ…」
激痛のおかげか、その声を聴く余裕のなかった遊矢はゆっくりと顔をあげる。
そして、ゴーグルをとって涙をぬぐい、シンジを見る。
「悪い、シン…!?」
彼を見た遊矢は驚きのあまり言葉を失う。
(どうだ…小僧。シールドなしで見る奴、そして客席の有象無象どもたちの姿は…)
「はあ、はあ、はあ…」
まやかしだと思い、心を落ち着かせるために唾をのみ、深呼吸をして、もう1度見る。
だが、遊矢の瞳に映る、オッドアイズのいうシールドがなくなったことで見えるようになってしまったものがなくなることがない。
「オッドアイズ…俺、俺は一体どうしてしまったんだ…?」
ゴーグルで隠れた遊矢の瞳は暴走したときと同じく、真っ赤に染まっているものの、左目だけはなぜか真っ黒に染まっていた。
「僕はまぁ、ストリートチルドレンの1人で、アカデミアに拾われるまでは強盗を繰り返してた。アカデミアに入ったのは3年前。アカデミアに入ってからはデュエル戦士になるための訓練が大変だったけど、空腹に悩まされることもないし、人におびえて暮らすこともないし…それに、安心して眠ることができたから…昔に比べたら、天国みたいなところだった」
下水道を出て、コモンズの一画にある廃墟のマンションに一室についた月影と翔太にソファーに座った状態の素良がいきさつを説明する。
「紫雲院素良って名前…アカデミアに入った時につけられた名前なんだ。アカデミアは世界を一つにするという目的のために作られた組織で、4つの次元の存在はそこで教えられたんだ。最初は僕もとんだファンタジーだと思ったけど…僕を救ってくれたっていう音があったからかな、次第に疑うこともなくなったんだ」
懐から棒付きキャンディーを取り出し、ゆっくりと舐める。
少し舐めた後でため息をついている姿を見ると、まるで自分を落ち着かせたいと思っているかのように見える。
「僕はまだ…何が正しいのかわからない。だから…今の僕にできるのは情報の提供。これからシンクロ次元に来るオベリスクフォースのこと、そして…伊織のことだよ」
「伊織について…だと!?」
今まで興味なさげに素良の話を聞いていた翔太が立ち上がり、素良に詰め寄る。
なんだかんだ言って、伊織のことが気になっていたのだろう。
だが、今回は優先順位が違う。
「翔太殿。その話はあとだ。紫雲院素良。オベリスクフォースがシンクロ次元に来る、というのはどういうことだ?」
「うん…。ロジェがシンクロ次元を裏切ったこと、そして柚子とセレナがシンクロ次元にいるという情報をデニスを通じてアカデミアに伝わったんだ」
「デニスからだと?あいつは地下へ…」
「僕が救出して、融合次元に転送したんだ」
「お前…!!」
拳を握りしめ、素良を思い切り殴ろうとする翔太の腕を月影がつかむ。
何も言わずに、首を横に振って。
「止めるな。こいつは…」
「そうでもしないと、柚子がシェイドのアジトにいることがばれてしまう。仕方なかったんだ…」
「…ちっ、それで、いつ奴らはくるんだ?」
腕を降し、舌打ちした翔太は丸椅子に座って、にらみつけながら質問する。
「おそらく今夜だ…。早くこのことをみんなに知らせないと、多くのシンクロ次元の人たちが犠牲になる」
「はぁ…。わかった。俺はアジトへ行って伝えに行く。素良、お前にも来てもらうぞ。そこで遊勝塾をだましたケジメをしっかりつけてもらう」
「拙者はヒイロ殿と合流後、零児殿に伝えに行く。ランサーズやシェイドならともかく、問題は評議会だ。彼らはたとえランサーズに味方するといっても、少しでも旗色が悪くなると寝返る恐れが大きい」
「その対策はボスに任せる。で、そのヒイロは今どこに?」
「《幻獣王ロックリザード》、《マリンフォース・ドラゴン》、《天空の有翼幻獣キマイラ》でダイレクトアタック」
3体のモンスターが一斉に3人のセキュリティに直接攻撃を仕掛ける。
「「「ぐああああ!!!」」」
フィールドにカードがない状態で攻撃を受けることになった3人は壁にたたきつけられ、気を失った。
セキュリティ×3
ライフ500→0
天空の有翼幻獣キマイラ
レベル6 攻撃2100 守備1800 融合 風属性 獣族
「深緑の幻獣王ガゼル」×「幻獣先帝バフォメット」
「天空の有翼幻獣キマイラ」の(1)の効果は1ターンに1度しか発動できない。
(1):このカードが融合召喚に成功したとき、エクストラデッキに存在する「幻獣」Pモンスター1体を対象に発動できる。そのモンスターを自分フィールド上に特殊召喚する。
(2):このカードの攻撃力は自分フィールド上に存在する「幻獣」モンスターの数×300アップする。
(3):このカードが破壊された時、自分の墓地の、「バフォメット」モンスターまたは「幻獣王ガゼル」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。
「悪く思うな」
とある地下施設の中で、倒した3人のセキュリティのカードとデュエルディスクを奪う。
ここまで続く長い廊下には多くのセキュリティが倒れており、更に本来なるべき警報ベルやランプもハッキングされたせいで、機能していない。
「遊星やトオルから学んだことがここで役立つとはな」
ヒイロはそのまま先へ進む。
廊下の先にあるドアを開くと、そこにはリアルソリッドビジョン装置に似た構造の大きな機械がある。
調べてみると、完成してから1度も動いたことがない様だ。
「ロジェ…俺もお前と同じで勝てる勝負しかしない。貴様の切り札は止めさせてもらう」