遊戯王ARC-V 戦士の鼓動   作:ナタタク

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第86話 喪失と獲得

戦いが収束し、オペレーターやロジェに賛同した面々がヴァプラ隊によって拘束され、ヘリに乗せられていく。

それとは別のヘリにはタンカが運ばれ、それには遊矢が横たわり、柚子が寄り添っている。

「こちら、パロット3。現在、ジャン・ミシェル・ロジェを乗せ、離陸。これより、スタンダード次元へ連行する」

ヘリの1機、パロット3に乗せられているロジェの両手首には手錠をかけられており、銃弾で打ち抜かれた片腕の治療を受ける彼は放心状態となっており、うつむいた表情を見せている。

彼はこれから、スタンダード次元で尋問を受けることになり、融合次元に関する情報を自白する日々を送ることになる。

「こちらガル2、カード化された人々を回収中。融合次元にすでに持ち去られてしまったカードの存在もあり、人数の計算には時間がかかると思われる」

「こちらパロット4、ジャック・アトラスは意識不明。現在、抑えたトップスの中央病院へ搬送し、緊急治療中」

「了解、引き続きカードの回収を求む。こちらは榊遊矢、柊柚子を回収。榊遊矢は重賞により意識不明。現在、応急処置をしつつ、スタンダード次元へ向かっている。全部隊、ここからはパロット1の指示に従うことを求む。パロット2、アウト」

通信を切ったパロット2は自動操縦に切り替え、後方で治療を受けている遊矢を見る。

治療用のマスクをつけた遊矢に対して、医療兵が輸血を行っている。

ジャックとセルゲイの2人と連続で激しいデュエルを繰り広げたことで、ロジェによって受けた傷が開いており、あと少し輸血が遅れていたら、取り返しのつかない事態となっていた。

「遊矢…」

輸血され、眠っている遊矢の右手を握る柚子は目を涙を浮かべる。

彼女の目が彼の右手からゆっくりと左手のところへ向かう。

遊矢の左腕のひじの部分には包帯がまかれていて、そこから先の、本来はあるはずの左手がなくなっていた。

 

「ヒイロ・リオニスぅ!!」

時間はヒイロがロジェの肩を撃ち抜いたところまでさかのぼる。

「ヒイロ…さん…?」

「ヒイロさんって…??」

ヒイロに目を向けた遊矢は何者かと思い、彼をじっと見る。

遊矢にとって、ヒイロは初対面であり、何より彼から感じるデュエリストとしては異質なプレッシャーを感じ、本能的に警戒心が高くなる。

「そうだ。榊遊矢、ジャックは生きている。治療が必要だがな」

「ジャックが…」

ヒイロの言葉を聞いた遊矢は一瞬驚くものの、ジャックの無事を知り、わずかに安堵する。

ヒイロは拳銃をおろし、ロジェの部屋に入ると、遊矢のそばで倒れているセルゲイを見る。

そして、左手に持っているショットガンをセルゲイの右腕の肘関節に向けて発射する。

「グオオオオ!?!?」

「抵抗されたらまずいからな。悪く思うな」

セルゲイの悲鳴を無視し、片手でリロードをして再び散弾を同じ場所に叩き込む。

2発目の散弾を受けたことで彼の腕がちぎれ飛び、フィルムでできた不自然な皮膚とその下に隠れた機械が白昼のもとにさらされる。

それだけでは飽き足らず、更にヒイロは左腕、両足も同じようにショットガンで破壊していく。

「お、おのれ…!!私の『欠片』を奪うだけでは飽き足らず…!!」

「これ以上の抵抗はやめろ。お前はもう…終わっている」

拳銃を捨てたヒイロは懐から何かの装置のボタンを取り出し、それについている赤いボタンを押す。

すると、彼の背後にあるモニターに様々な映像と音声が流れ始めた。

「こ、これは…!?」

その映像を見て、音声を聞いたロジェの顔が青く染まっていく。

評議会に融合次元で手に入れたソリッドビジョンシステムの情報開示と引き換えに治安維持局長官のポストを得る取引、自らの私兵とするためにセキュリティに対して行った体内へのチップの埋め込み手術のカルテと手術した人物のリスト、トップスの人々とおこなった裏取引の証拠の領収書や署名、更には最近の出来事としてロジェによるフレンドシップカップ中の裏から行った操作への指示の音声などが流れている。

「今ではこれはシンクロ次元のネットやテレビ、ラジオに全部ばらまかれている。貴様に待っているのは、内乱罪による刑事裁判だ」

「内乱…罪…」

治安維持局長官であるロジェは当然、この次元に内乱罪があることは知っている。

 

『国の統治機構を破壊し、もしくはその領内で国権を排除して権力を行使し、現行の法律の定める統治の基本秩序の破壊・混乱を目的として暴動を起こした者は次の区別をもって罰する。

1.首謀者は死刑、または無期懲役に処し、釈放は認められない。

2.内乱の計画にかかわり、指揮を行った者は無期または3年以上の懲役、もしくは禁固に処し、その他の職務従事者については1年以上、10年以下の懲役、もしくは禁固に処す。

3.附和随行し、単に暴動に参加したものは、3年以上の禁固に処す。

4.前項の罪の未遂は罰する』

 

今回の場合、ランサーズらによって鎮圧されているものの、未遂とはならないため、首謀者であるロジェに待っているのは死刑、もしくは二度と出られない牢獄。

つまり、トップスが遊び半分にコモンズを閉じ込め続けたあの収容所に入れられることになる。

トップスではトップクラスの位置にある彼がそこでほかの囚人と共に過ごして無事に済むはずがない。

彼らから復讐としてリンチされ、いじめつくされて死んでいくパターンが目に見えている。

「だが、安心しろ。お前の身柄はヴァプラ隊が隠し持つ。せいぜい彼らに融合次元に関する情報をすべて吐き出すんだな」

「そ、そんな…」

「お前の一日天下は終わった、ということだ」

ヒイロの無慈悲な言葉を受け、ロジェは崩れ落ちる。

そして、ヒイロは落ちている拳銃を手にすると、柚子の両腕を釣り上げるように拘束している枷を撃ち抜いた。

枷が外れ、服を整えた柚子の元へ、ファントムライトが消えた遊矢は駆け寄る。

「柚子…!」

「遊矢…遊矢ぁ!!」

抱きしめあった2人は涙を流し、互いのぬくもりを感じる。

「ごめんよ、柚子…。遅くなってしまって…」

「ごめんなさい、遊矢…。あたしが勝手な行動をしたから…」

「何も言わないでくれ、柚子。今、こうして柚子がそばにいることが…何よりもうれしいから…」

遊矢の言葉を受け、柚子は目を閉じ、ただ遊矢のぬくもりを感じる。

自分を助けるために、たった1人で治安維持局に殴り込んだせいか、汗臭さが伝わるが、今はそれさえも彼女にとっては愛おしかった。

「まもなくヴァプラ隊が到着する。それまで、言い訳でも考えるんだな」

「…」

静まり返った空間の中で、ガサリと無機質な音が響く。

ロジェへ近づこうとしたヒイロは何かと思い、その音が聞こえた方向に目を向ける。

両腕と両腕を失ったセルゲイがニヤリと笑みを浮かべながら抱き合う2人を見ていて、柚子に向けて左目を展開した出現させたレーダー砲が発射される。

「…柚子!!」

何か異質な気配を感じた遊矢を柚子を左腕で押しのける。

押しのけられた柚子は遊矢から離れ、尻餅をつく。

その瞬間、赤い光が遊矢の左腕の肘を貫いていった。

「え…??」

一瞬、わけがわからなくなった柚子の目の前で何かがゴトリと落ち、それを見た彼女の思考が凍り付く。

そこにあったのは遊矢の左腕で、遊矢は肘を手で抑えながら、その場に倒れてしまった。

「ちぃ!!」

ヒイロは拳銃でセルゲイの左目を撃ち抜き、破壊する。

そして、ロジェのもう片方の腕に向けて発砲する。

激痛を感じるロジェだが、狂気に満ちた笑みを浮かべて叫ぶ

「馬鹿め!!貴様らなぞに捕まるものか!!もうすでに貴様らはチェックメイトなのだ!!」

血の付いたノートパソコンのエンターボタンの上に彼の左手人差し指を置いている。

余裕な表情をかなぐり捨て、脂汗をかきながら笑う彼には、もはやシンクロ次元の王としての姿はどこにもなかった。

「ふ、ふふふ!!治安維持局の地下に作った次元転送装置…!それを暴走させて、この街すべてを消し飛ばしてやる!!私は…私は10年かけたのだ!!もう、だれにも頭を下げる必要もなく、だれにも馬鹿にされることのない…私の本当の居場所を作るために!!その邪魔をした貴様らなどにはー!!」

「御託はいい…。さっさと押せ」

「何??」

ヒイロの言葉が理解できず、ロジェの動きが止まる。

このボタンを押せば、待っている結末はこの街の滅亡とランサーズ、シェイド、ヴァプラ隊の全滅。

もちろん、ヒイロも消し飛んでしまうというのに、彼は何の気もなしにただ一言、『押せ』と言っている。

彼が焦って自分に許しを請うというイメージしか頭になかったロジェにとっては想定外のことだ。

「ふ、ふん!!どうせ…どうせハッタリだ!!後悔して…後…悔…こう…な、なぜ…なぜ!?!?」

ロジェはボタンを押し、わずかに時間が流れるが、何も起きる気配がない。

たっぷりと汗を流すロジェは何度もエンターボタンを押し、ノートパソコンのモニターを見るが、出るのは『Error』という5文字だけ。

「なぜ…なぜだ!?なぜ動かん!?」

「当然だ。お前の自慢の次元転送装置は俺が破壊したんだからな。…王手、だ」

「あ、あ、ああ…ああああ…」

ロジェとは違うと証明するかのように、あえて将棋で同じ意味の単語を口にしたヒイロの言葉で彼は崩れ落ちる。

あまりのショックを短時間で何度も受けすぎたせいなのか、すっかり気力を失っており、失禁してしまっていた。

複数人の足音がここに近づいてくる。

「遊…矢…?」

足音のせいか、正気を取り戻した柚子は倒れた遊矢に近づく。

激しい痛みに耐えながら、遊矢はゆっくりと柚子を見つめる。

「柚子…けがは、ない…?」

「うん…うん…」

遊矢が伸ばす右手を撫で、涙を浮かべながら柚子はただうなずくことしかできなかった。

彼女の無事を知って安心したのか、遊矢はゆっくりと意識を失っていった。

「こちらスワロー8、到着しました!」

「ロジェを拘束、そしてあのロボットを回収しろ。そして、医療ヘリを呼び、ジャック・アトラスと榊遊矢に応急処置を!!」

 

「赤馬零児…」

「ヒイロ・リオニス…」

評議会の屋上に立つ零児のもとへ、ヒイロがやってくる。

ここからはトップス、コモンズ双方の景色を見ることができ、どちらも戦場となったせいか、煙が黙々と上空へ舞っており、シェイドのメンバーや地下から脱出してきた人々の手で消火が行われている。

「今回の戦い、アカデミアの関係者であるジャン・ミシェル・ロジェの確保に成功した。そして、彼らのシンクロ次元攻略を阻止した。その点では勝ち、と言ってもいいが…」

「セレナはアカデミアに連行され、ヴァプラ隊やシェイド、シンクロ次元の住民に犠牲者が出た。そして、榊遊矢は左腕を失う重傷…。痛み分けというべきでしょう」

零児は端末を操作し、犠牲者のリストを確認する。

「クロウ・ホーガン、早島和樹、メリッサ・クレール、エルドレッド・スミス、雑賀孫助…相当な数だな」

「特にスタジアムでは捜索の結果、カードを一枚も見つけることができなかった」

「ロジェも評議会も、自分たちのことを考えるだけで、住民の安全には無頓着だったからな」

「…彼らの存在を放置していては、後ろから撃たれる可能性が高い。彼らは勝ち馬に乗るだけ、一つの次元を守るという考えでそうするのであれば正しいが、彼らの場合は自己保身のためにそう考えているに過ぎない…。頼めますか?」

零児の言っている『頼み事』の意味をヒイロは理解していた。

そして、本当にそれでいいかと確かめるように零児の目を見る。

「アカデミアの…自分の父親の妄執を止めるためには冷徹な手段もとる…か。いいだろう」

「すみません、ヒイロさん」

「いい。こういうことはお前たちではなく、俺向きだ。それよりも、まずは義弟の頭をなでてやるんだな」

そう言い残し、ヒイロは屋上を後にする。

そして、彼と入れ替わるように零羅が包帯を巻いた月影とともに姿を見せる。

「零児殿…」

「月影、零羅…」

「兄様…僕、僕…セレナを…」

セレナを守れなかった後悔に苦しむ零羅は泣くのを我慢していた。

彼にとって、このような後悔に対するささやかな抵抗だった。

「セレナのことは聞いている。それよりも…」

零羅に近づいた零児はそっと彼の頭を優しく撫でる。

そして、優しく笑みを浮かべながら膝を曲げ、彼と目線を合わせる。

「よく無事に帰ってきてくれた、よく頑張ったな、零羅」

「兄様…兄様ぁ!!」

我慢できなくなった零羅は零児に抱き着き、ワンワン泣き始めた。

2人は勝利のためとはいえ、幼い彼を巻き込んだことへの罪悪感を抱きつつ、泣き止むまでずっとそばに居続けた。

 

そして、1週間が経ち…。

「よーし、こいつで最後の荷物だ。1時間後に出発じゃー!」

「ああ、もっと丁寧に運ばんかい!?かなりデリケートな荷物なんやぞぉ??」

シェイドのアジトから荷物が運び出され、ヴァプラ隊が手配したヘリに乗せられていく。

荷物が運び込まれる中、翔太はモハメドと話をしていた。

「ここのアジトとシェイド、セキュリティの後処理はあんたに任せる。好きにやれ」

「言われなくても、そうしてやる。ま…融合次元への総攻撃までにいろいろ準備はしとくさ。トップスの方も、そのつもりみたいだしな」

あの戦いの翌日、評議会のメンバーの戦没が報じられた。

民衆とシンクロ次元の社会を守るために前に出て、その命を散らせたという発表と共に、トップスとコモンズが共同の臨時政府を設置し、今後のアカデミアの対応を決めることが決定した。

また、ロジェによって掌握されていた治安維持局についても人員整理が行われ、モハメドが追放解除と共に臨時長官となった。

最も、これは融合次元という脅威を取り除くための一時的な措置であり、そのあとはどのようになるかはわからない。

トップスとコモンズのゆがんだ競争社会を取り除くにしても、保守的なトップスがどこまで許容するか、そしてコモンズがどこまで求めるのか。

平等に挑戦するチャンス、そして失敗しても再び再挑戦できる権利を求めるまでならまだいい。

しかし、トップスの富はコモンズから搾取されたものだと主張し、それらの返還を要求するところまで来たら、大きな内乱に発展する恐れがある。

アカデミア打倒後の行く末は別次元の人間であるランサーズやシェイド、ヴァプラ隊が介入すべき事態ではないし、介入するにしても、それは正式に別次元と交流することができるようになった時だ。

せめて、フランス革命の恐怖政治の過ちが繰り返されないことを願うことしかできなかった。

「だが、大変なのはお前らも同じだ。せいぜい決戦の時まで、楽しく過ごしとくんだな」

「言われなくてもそうするさ。じゃあな」

モハメドと固い握手を交わした翔太はコンテナの上にビャッコやセラフィムと一緒に座っている伊織の元へ向かう。

「よぉ、伊織。こことの別れの挨拶は済ませたか?」

「うん…。ねえ、翔太君…」

「なんだ?」

「結局、あのエリクって人は何者だったのかな…?私のお父さんについて、何かを知っていたみたいだったけど…」

「さっぱりわからないな…。結局、俺が気を失っている間に姿を消してしまったしな…」

この1週間の間、ヴァプラ隊の力を借りてエリクの捜索を行ったが、結局見つけることができなかった。

融合次元に戻ったという見解が有力で、アカデミアと全面戦争をすることを考えると、いつか必ず彼と会うことになるかもしれない。

「もしかしたら、お前の親父はアカデミアの関係者かもしれない。自分の生まれの秘密を知ったら、もしかしたら…」

翔太はあえて、伊織の父親がアカデミアの関係者であることを断定することなく、あくまで仮定として話した。

融合次元の関係者であることでショックを受けた彼女であるため、エクシーズ次元に侵略し、多くの人々をカードに変えてきた悪魔の子供だと知ってしまったら、と思い、断定的に答えることができなかった。

ビャッコの頭を撫でながら、伊織は笑顔で答える。

「それでも、私は知りたい。自分の親がどんな人で、どんな思いで私を産んでくれたのか。翔太君だって、どんな形で会っても、自分の記憶を取り戻したいでしょ?」

「当然だ」

「それで、自分の正体が世界を滅ぼす大魔王だったってわかってしまうことになっても?」

「どこのRPGの敵キャラなんだよ?ま…それでもだ。どんな悪人であったにしろ、思い出さない限り、俺は前へ進めないからな」

あまりにもひどい例に少し嫌な表情を見せた翔太だが、彼女の目を見ながら明確に自分の答えを口にする。

その言葉を聞いた伊織はビャッコを抱いたまま立ち上がる。

「じゃあ、翔太君も私と同じだね。これからも、一緒に頑張ろう!」

「仕方ねえな。そのためにも帰るぞ。スタンダード次元へ…」

伊織が出した右拳に翔太も自身の拳をぶつけた。

 

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