遊戯王ARC-V 戦士の鼓動   作:ナタタク

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第87話 道化師の目覚め

「ん、んん…」

病院の白いベッドの中で眠っていた少年の瞼がゆっくりと開く。

彼の赤い目はうっすらとだが、真っ白な天井とそこでゆっくりと回っている扇風機を見つめる。

目覚めると同時に右手に覚えのあるぬくもりを感じ、ベッドの右側を見る。

(やっぱり…)

そこで手を握って眠る柚子を見た遊矢は舞網チャンピオンシップの後で夢の中でユートとデュエルをした後のことを思い出す。

目を覚ましたその時にも、柚子がこうして自分の手を握っていた。

遊矢が意識を取り戻すことを願ってのことだろうか。

彼が意識を取り戻すのを待っていたかのように、医者と看護師が部屋に入ってくる。

「目が覚めたみたいだね。ここは舞網市の病院。君はこのベッドで5日眠っていた」

「5日…」

淡々と事実だけを話す医者の言葉に遊矢は実感を抱きづらかった。

遊矢にとって、意識を失ってからこうして目を覚ますまでの時間がそれほど経過していないように感じられたからだ。

そして、医者は遊矢のベッドの左側へ向かう。

「気づいているかもしれないが、君はシンクロ次元でのデュエルで左腕を失っている。正確には、肘から先をだが…。レーザーで切られていて、治療が難しいうえに今のランサーズには君の治療を気長に待つ時間も与えられていない」

左腕を失った、という話を聞いた遊矢だが、なぜか取り乱すことも悲しむこともなく、ああそうか、というどこか他人事のように彼の耳には聞こえてしまった。

肘から先の部分が右腕よりも少し重いような感じがするのを今になって実感し始めている。

「これが、君の新しい腕だ」

掛け布団を少しどかし、遊矢に今の自分の左腕を見せる。

肘から先の部分には赤い機械でできた義手が取り付けられていて、試しに遊矢はその手をグー・チョキ・パーの順で動かす。

神経接続されているのか、まるで元の手のように5本の指が動いている。

「バイオニックアーム…私も聞いた時は驚いた。まさか別次元にこのような技術があるとは…」

「バイオニックアーム…」

自分の新しい左腕の名前を遊矢は静かにつぶやいた。

 

「バイオニックアーム…神経接続タイプの義手か…」

久しぶりに帰った来たレオコーポレーション本社の社長室の椅子に座った零児は研究員から受け取った遊矢のバイオニックアームの設計図を見ている。

「シンクロ次元でロジェに家族を人質にされ、研究を強要されていた技術者の協力が大きいですね。筋電義手そのものは実用化されましたが、コストが高く、一般ではなかなか手の届くものではありません。シンクロ次元ではスタンダード次元と比較して、かなり低コストで筋電義手を作ることができますが、まさか神経接続型義手まで普及していたとは…」

「主な顧客はトップスの面々だったみたいだが。それで、遊矢のものについては?」

「回収したセルゲイというサイボーグのデータがあり、デュエルディスク機能やDホイールとの神経接続による反応速度向上も可能になっています」

ロジェに協力していた技術者からの証言と治安維持局から接収したセルゲイのパーツの解析を行った結果、彼専用に神経接続とサイボーグとしての体によって普通の人には耐えられないほどの反応速度と加速スピード、馬力などを手に入れたDホイールが用意されていたことが明らかとなった。

現在、そのデータを基にして、遊矢のマシンレッドクラウンの改造が行われている。

シンクロ次元でデュエルが行われるとは限らず、ライディングデュエルそのものがこれからこの戦争中にすることになるかはわからないが、少なくとも移動手段としては不自由ない状態にはできるとのこと。

「了解だ。引き続き、解析を行ってくれ。可能であれば、今回同行してもらったシンクロ次元の技術者に協力の要請を」

「よろしいのですか…?」

「もうロジェは再起不能だ。そして、彼に賛同して協力していた奴の場合、もうシンクロ次元に居場所はない。説得すればコロリと転がる。だが、アカデミアのスパイについては気を付ける必要がある」

零児の脳裏にはフレンドシップカップで黒咲に敗れた後、アカデミアへ逃げ帰ったデニスのことを念頭に置きながら話す。

彼はブロードウェイ校所属で、経歴についてはアメリカ国内にある平凡な学校の出身者であること、そして出身はシカゴで、学校には寄宿舎から通っていたことまでは分かっている。

両親は数年前に事故で死亡し、入港申込書に書いた住所の家も引き払ったとされていた。

スタンダード次元に帰った後、零児の指示でブロードウェイ校は念のためにデニスの経歴についての調査を行った。

結果、卒業した学校には確かに卒業名簿に彼の名前があったが、それは偽装されたものだということが判明した。

住所の家の主については3年前に交通事故で死んだ老夫婦のものであり、その子供たちによって家が解体されたことも判明した。

つまり、デニスの経歴はやはりと言うべきか、まったくの出鱈目だった。

こんなに出鱈目な経歴をどうして信じてしまったのか恥ずかしくなるくらいだ。

(といっても、仕方のないことではあるな…。別次元の存在を当時知っていたのは私と母さん、本社の一部の人間とあの人くらいだ…)

技術者は頭を下げると、社長室を出ていき、彼と入れ替わるように侑斗が入ってくる。

侑斗の手には青白い遊戯王カードの破片を模したような物体が入ったカプセル2つが握られており、社長室に入った彼は零児の机の上にそれらを置く。

「ヒイロさんが回収したものと…」

「スタンダード次元で回収された『欠片』…」

2つの『欠片』を見た零児は侑斗に目を向ける。

「赤馬零王…君のお父さんは人をカード化するだけじゃなくて、これも探していた…で、いいんだよね?」

「そうだ…」

零児は3年前、会社と家族を放置して何も言わずに出ていった彼を追いかける形で融合次元へやってきたことがある。

そこで彼は父親に自分たちに何も言わずに出ていった理由、異次元の存在とそこへ侵攻する目的、デュエルアカデミアという存在について問いただすが、なにも答えを得られないままスタンダード次元へ戻されてしまった。

『欠片』の存在に気付いたのは出ていく前に零王が破棄したデータの復元を行っていた2年前のことだ。

そのデータの中で『欠片』とそれが各次元に1つずつ、例外の1つを含めて合計5つ存在するということが分かった。

すべてのデータの復元ができていないため、詳しいことは分からないが、それらが零王にとって重要な存在であることは確からしい。

ヒイロが手に入れた『欠片』も、ロジェによって厳重に保管されていた。

「これが、あなた方が我々と協力する大きな理由…というわけだ」

「うん。前に話したよね?この『欠片』が君たちの次元を…世界を生み出したって」

『欠片』が入ったカプセルを撫で、侑斗は確認するようにたずね、零児は何も言わずに首を縦に振る。

「この『欠片』の数だけ世界は存在する。そして、その欠片が砕けたとき、その数だけ再び世界が生まれる。けど…僕にもわからない。なんで4つじゃなくて、5つなのか」

「そして、5つ目の『欠片』がどこにあるのか…?」

融合次元、エクシーズ次元にあると思われる『欠片』は既にアカデミアの手に落ちていると考えるのが妥当だろう。

シンクロ次元、スタンダード次元に存在する欠片は今、零児たちランサーズの手の中。

「けど、カプセルを持ってくることができたのはよかったよ。放置したままだと、何が起こっても不思議じゃないから…」

「ああ。秋山翔太の件もある。彼がああなり、そして石倉純也が行方不明になったのは、この次元の母ともいえるこれが原因だからな」

「彼にはまだ、話していないよね?」

「ああ…。だが、いいのか?私たちから話さなくても…」

「今の彼は他人が正体を話したとしても、信用しないだろうからね。それに…もしかしたら、今の彼なら、勝てるかもしれない」

侑斗は翔太とは数回しかあったことがなく、デュエルをしたこともない。

しかし、なぜか確信したかのように、自信をもってそう答えることができた。

「高く買っているんだな、彼を。なぜだ…?」

「さあ、なんでだろうね…?けど、今はそれよりも気になることがあるよ」

「ああ…。クローバー校とダイヤ校のレジスタンスが相次いで行方不明になっている、ということだな?」

零児の言葉に侑斗は何も言わずにうなずく。

エクシーズ次元にいたころ、侑斗は彼らレジスタンスの自衛力を高めるために、RUMを渡し、更には彼らのデュエルの指導などを行った。

しかし、レジスタンスのすべてが彼の支援を受けたかというとそうではない。

彼の、別の世界から来た得体のしれない人間の力を借りることを良しとしなかったクローバー校とダイヤ校と支援を受けることを決めたスペード校とハート校で意見が真っ二つに分かれて、その結果レジスタンスが二分してしまうという結果を招いた。

互いに敵対することはないものの、クローバー校とダイヤ校はスペード校とハート校との一切の連携を絶っており、唯一彼らに関する情報を得るためのパイプが彼らの元へ潜入した侑斗の仲間1人だけだ。

しかし、最近彼と連絡ができなくなっている。

身元がばれてしまった拘束されたか、カード化されてしまった可能性がある。

ちょうどそれは、彼らが相次いで行方不明になっているという情報を受け取った時期と重なる。

「エクシーズ次元は次元戦争の最前線。それに、翔太たちが遭遇したジェルマンという特務部隊…」

「最悪なケースもあり得るかもしれない。でも、本当にそうなのかをまずは確かめないと…」

「…わかった。人選は此方でする。だが…まぁ、しないとは思うが、彼のような抜け駆けだけはしないでくれ。剣崎」

「うん…。わかってるよ、零児君」

 

「えい…!!よし、これで…!」

遊矢が目覚めて2日後、早朝の遊勝塾で、《アスレチック・サーカス》のフィールドで遊矢は梯子を上る、空中ブランコを使う。ロープを使って上まで登るなどして左腕のリハビリを行っている。

「遊矢の奴、もう2時間使ってやがる…」

翔太が朝練のために来たのは午前5時。

伊織については強引に起こして連れてきている。

しかし、遊矢はその30分前の午前4時半にすでにここに来ていて、こうしてリハビリをしていた。

昨日の夜に病院を退院していて、意識を回復する前にある程度手術をしたせいか、それともその神経接続型の義手の性能のおかげか、既に日常生活では問題がない程度にはその腕を動かすことができるようになっている。

「一日でも早く前線へ戻りたいってのか…?あんなにデュエルを戦いの道具にするのを嫌がってたやつが…」

「うん…。でも…」

「うん?」

「今の遊矢君、どこか無理をしているような感じがする…」

「遊矢、そろそろ水分補給に戻れ!熱中症になるぞー!」

制御室から修造の声が響き、それが聞こえた遊矢はトランポリンに向けて高台から飛び降りた後でフィールドを出る。

出入り口では柚子がストロー付きの水筒とタオルを持って待っていた。

「お疲れさま、遊…」

「ありがとう。ん、ああ…」

右手でタオルを受け取っていた遊矢は左手で水筒を手にして、左腕のバイオニックアームが柚子の視界に入っていた。

それを見た柚子は沈黙し、遊矢の様子を見にそこまで来ていた修造も遊矢の左腕を見て黙り込む。

「ど、どうしたんだよ。塾長も柚子も。らしくないって。俺、大丈夫だし、それに左腕だけで済んで、逆に幸運だったというか…」

柚子と修造を元気づけようと、遊矢は必死に自分に異常がないことをアピールする。

そんな遊矢の左手を柚子は包み込むように両手でつかむ。

「柚子…」

「遊矢…ごめん、ごめんなさい…」

膝が折れ、額を左腕に当てながら、柚子は涙声で遊矢に詫びていた。

 

「さーてっと、遊矢達が無事に帰ってきたってことで、まだ次元戦争が終わったわけじゃないが、ひとまず乾杯だぁ!!」

「「乾杯!!」」

8時になり、遊勝塾に集まった翔太たち塾生と講師の修造、そして洋子がフィールドにテーブルや椅子を置き、料理を並べている中で、修造の号令の元、集まったメンバーが乾杯する。

料理については未知男に作ってもらい、魚は鉄平に釣ってきてもらったものを使っている。

彼らは今、ヴァプラ隊でランサーズのサポートをするために訓練を受けている。

なお、権現坂については修造が連絡したものの、彼から連絡はなかった。

集まったメンバーの中には素良の姿もあった。

「素良…」

乾杯を終え、皆が料理を手にする中で遊矢はフィールドの隅でキャンディーを口にしている素良の元へ向かう。

「何やってんだよ。みんなの中に入って…」

「裏切者の僕には、そんな資格はないよ」

「それじゃあ、なんでここに来たんだよ。それはお前自身、遊勝塾の生徒としていたいってことなんだろう?」

アカデミアを裏切ることになり、このような形で戻ってくることになった素良の気持ちは遊矢にはわからない。

だが、少なくとも仲間である彼が戻ってきてくれたのはうれしいことに感じた。

「それに、塾生が塾のパーティーに参加するのに何か理由がいるのか?」

「…僕はまだ、遊勝塾の生徒…?アカデミアの兵士で、罪を重ねてきた僕が…?」

遊矢に腕を引っ張られる素良の脳裏に兵士としての日々がよみがえってくる。

事故が起こるような過酷な訓練の繰り返しとエクシーズ次元で人々がカードに変わり、町が地獄絵図と化していくさま。

すべての次元を1つにすると言う崇高な目的を盲信していたその時の素良はそれを見たも何の感慨もわかなかったが、今は違う。

その時の罪悪感が彼の心に突き刺さり、今ではドリルのように内へ内へとじわじわ追い立てている。

遊矢達と出会い、デュエルの面白さを知ることがなければ、このような思いを味わわずに済んだかもしれない。

しかし、それでは自分の罪と向き合う機会が永遠に来なかったかもしれない。

「当たり前だろう?ほら、行くぞ」

遊矢に引っ張られた素良が翔太たちの元までくる。

素良を見た彼らは少しの間沈黙する。

遊矢と柚子、翔太と伊織ならともかく、修造達にはまだ気持ちの整理がついていないところがある。

「…ねぇ、素良は何が食べたい?」

「え…?」

「ほら、早く選んで。私はこのポテトサラダとフレンチトースト!」

「え、じゃ、じゃあ…僕はこのアイスクリームを…」

「駄目だろ、素良。ちゃんとバランスを考えて取らないと、フトシみたいに太るよ?」

「おいおい、なんでそこで俺を出すんだよー??」

アユの言葉が皮切りとなって、タツヤとフトシが会話に加わっていく。

3人の、次元戦争が始まる前の何気ない掛け合いを見た素良の目には涙が浮かぶ。

(そっか…ここだったんだ、僕の帰るべき場所は…)

泣いていることに気付かれないように、涙を拭いた素良は彼らに割り込んで料理を手にする。

「ああ、素良ズルイ!!」

「へへっ、おしゃべりに夢中になってると、僕が全部取っちゃうもんねー」

「くぅー…こうなったら、フランドチキンとハンバーグは全部俺がーー!!」

「だからバランスをー…ああ、もう!!」

「こうなったら私はこっちを取っちゃおうかなー?」

年少組が料理を取り合い、そのいつもの何気ない光景の中で素良に笑顔が生まれた。

しかし、その笑顔の裏では何か強い決意を宿していた。

(そうだ…この光景を守るためなら、僕は…)

 

「あー、翔太君、こんなところに!」

遊勝塾が盛り上がるなか、伊織は翔太を探しに外へ出ていた。

伊織の予想通り、翔太は川辺で寝っ転がっていた。

伊織も翔太をまねて、隣であおむけに横になる。

「ったく、何勝手に俺の隣で寝っ転がってんだよ?安眠妨害だ」

「別にいいじゃん。気持ちいいんだもん、ねー、ビャッコちゃん!」

「キュイー!」

「ビャッコ…ああ、もう驚かねえ」

神出鬼没で伊織の言葉に同意するように鳴いたビャッコにうんざりしながら、翔太は起き上がる。

シンクロ次元から戻ってきて1週間がたち、ウソみたいな平和な日々を過ごしている。

その間にスタンダード次元やシンクロ次元にアカデミアが攻撃を仕掛けたという報告はなく、零児から連絡が来ることもない。

「ねえ、翔太君」

「んだよ…?」

「次元戦争が終わったら、翔太君は何がしたい?」

「戦争が続こうが終わろうが、俺がやることは…」

「記憶探し以外で!」

翔太のいうことが分かっていたのか、伊織は大声でそれ以外の答えを要求する。

再び寝転がる翔太は答えが出ず、沈黙したままだ。

「やっぱり、翔太君って記憶探し以外にやりたいことは何もないの?」

「…」

「沈黙してるってことは、そういう意味なんだね」

「じゃあ、お前はどうなんだよ?そういう質問をするってことは、お前にはあるんだろう?」

伊織の言葉に腹が立った翔太は逆に伊織に同じ質問を返す。

これで答えられなかったらどうしてやろうかと皮算用をするが、予想だにしない答えが返ってくる。

「私は…施設の先生になる勉強をする!私を育ててくれた施設長さんみたいに、私もそういう子供たちを助けられる人になりたいから…。そのためにも、ちゃんと大学には奨学金で入って、予備校にも通って、試験で合格できるようにならないと…」

まぶしいくらいまっすぐに翔太に目を向けながら、伊織は自分の将来のビジョンを語る。

奨学金という言葉で、翔太は零児から提示されたランサーズへの戦争終結後の報酬について思い出した。

現在の私立大学の文系の学校で学費は4年間でおよそ530万円、理系だとおよそ660万円。

大学に入るとなると、一番近い場所では隣の県の大学で、そこは私立。

伊織が文系と理系のどちらを選択しているのかはわからないが、それでも上記の費用が掛かるのは間違いないだろう。

当然、施設を出て下宿することになるため、そのための家賃や光熱費、交通費、更にはサークルに入った場合には活動費なども必要になる。

だが、零児から提示されている1人当たりの報酬は800万円。

大企業の幹部の年収クラスの額だ。

これだけの金があれば、あとはアルバイトをするなり節約するなりすることで、4年間の大学生活はどうにかなる。

ここまであっさりと答えられてしまっては、翔太に立場はない。

「翔太君、戦いが終わるまでに、でいいから、何か記憶を取り戻す以外にやりたいことを見つけてみたら?記憶を取り戻すのも大事だと思うけど、それだけだときっと、それが終わったら、生きていく目的を見失っちゃうと思うから…」

「おいおい、大げさな…」

「なんとなく、だけど…そんな気がしたから…」

ビャッコの頭を撫でながら、伊織は翔太を心配そうに見ながらそう口にする。

それに対して、翔太は何も言い返すことができず、彼女の背を向けるように横になった。

 

「ハア、ハア、ハア…うおおお!!」

昼間の山の中で、《XX-セイバーガトムズ》2体のダイレクトアタックを受けた権現坂が吹き飛び、後ろに這えている大木に背中をぶつける。

「おい、権現坂。いったん休憩だ。集中力が切れてるぜ?」

刃がデュエルディスクをしまい、権現坂の前に歩いてくる。

遊矢が朝練を始めたのと同じ時間帯に権現坂は刃にこうして連続でデュエルを行い、修行をしている。

先ほどのデュエルで30回目に突入しており、権現坂の勝率はギリギリ5割。

今回のデュエルでは、権現坂が《超重武者シュテンドウ-G》の召喚タイミングをミスしたことで、そこからXセイバー必殺のハンデスコンボを叩き込まれたうえ、そのまま逆転できずに敗れるという結果となった。

「ハアハア…もう1戦頼む!!」

「勘弁してくれよ…俺だって、けっこー疲れてるんだからよぉ。お前も、帰ってきたんなら、少しは休めよ…」

権現坂がこうして特訓の相手になってもらっているのは刃だけではない。

帰ってきた翌日の早朝からヴァプラ隊やLDSなどのデュエリストに頼み込んで、こうして特訓を続けている。

昨日はオルガやガーダー、そして最近新しくスクラップデッキを作った未知男といったシンクロ召喚を主体としたデュエリスト達と朝から夜まで特訓を続けていて、日本ではLDSの寮で滞在しているオルガは帰ってきたころにはぐったりしていたのを刃は目にしている。

「そうはいかん!今の俺は…まだ、弱い…!!」

「遊矢とセレナって女の子のことか?そいつは残念なことだとは思うけどよぉ、あの時のお前じゃあ、どうしようもなかっただろ?」

フレンドシップカップでクロウに敗れ、地下収容所へ送られた権現坂が外に出ることができたのはアカデミアとセキュリティの衝突が始まったころだ。

警備が甘くなった隙に収容所にいる沢渡などのランサーズらと結束して脱出したのはいいものの、そこで待っていたのはオベリスクフォースやディアボロとの泥沼の戦いだった。

権現坂達は生き延びるためにも、襲ってくる彼らへの対応に忙殺されることになり、そして民間人が避難しているシェイドのアジトなどの守りに向かわざるを得ず、遊矢を助けに行くことができなかった。

「だからといって、それでは俺の気が収まらん!俺はもっと強くなる。仲間を…この次元を守れるくらい…もっと!!」

「…あーあー、分かったよ!!どうせ、止めても無駄だろうからな!」

権現坂の気迫に負け、説得をあきらめた刃はため息をつくと再びデュエルディスクを出す。

「だが…ここから先、1回でもお前が負けたら、その時は無理やりでも休んでもらうぞ!!」

「…おう!!」

立ち上がった権現坂はカードをドローし、デュエルが開始される。

そして、日が暮れるまで山の中では戦士と武者がぶつかり合い続けていた。

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