翔太たちを隠したトラックががれきを積んで作られた粗末な検問所を通り、スペード校の敷地内に入る。
かつて、生徒たちが楽しくデュエルをしていた校庭は避難してきた人たちのテントで埋め尽くされていて、ちょうど朝ごはんの時間帯のためか、長い列ができている。
現在は1人1杯ずつのシチューとおにぎりの配給が行われている。
それらがレオコーポレーションから送られてきた物資で、それによって彼らは生きながらえている。
食事を配る男の背後にある、レオコーポレーションのロゴが刻まれたコンテナが何よりの証拠だ。
「着きました、みなさん。もう大丈夫です」
ブルーシートが外され、翔太達は荷台から降りる
「これが…レジスタンスの基地か…」
レジスタンスの基地の状況は零児と侑斗からあらかじめ聞いていたが、やはり百聞は一見に如かずということか。
自分たちと同じ少年少女がこうして自衛のために校舎の中で訓練を受け、そして24時間体制で守りを固めている。
「エクシーズ次元の都市、ハートランドの生き残った人たちの多くがここに集まってるんだ。3年前から、この町の外がどうなっているか、何も情報が入ってきていない。ハートランドを彼らが完全に封鎖してしまったから…」
「ちょっと待てよ、だったら俺たちはこの町の外に座標をセットして転移したほうがよかったんじゃないのか?」
「それはできない。《ディメンション・ムーバー》で転移できるのはこのハートランドだけなんだ。シンクロ次元でシティという街に転移したのと同じ理屈だよ(そう…きっと、それはここに『欠片』があるという証拠…)」
侑斗が舞網市の海で見つけた『欠片』、ヒイロがシティでロジェから奪った『欠片』、どちらの『欠片』も転移した先にある地域で発見されている。
治安維持局から接収したデータバンクを調査した結果、シンクロ次元の『欠片』が
発見されたのは地下のごみ処理施設内であることが分かった。
また、侑斗たちがエクシーズ次元からスタンダード次元に転移した際、到着したのは舞網市だ。
《ディメンション・ムーバー》の開発が行われた際、シティやハートランド以外の地域への転移を可能にできるように開発が行われているが、今でもそれら以外の場所への転移が不可能な状態だ。
それらのことを踏まえると、『欠片』がハートランドにあるとみて、間違いないだろう。
「黒咲…黒咲なの!?」
「その声は…まさか、サヤカか!?」
聞き覚えのある少女の声を耳にした黒咲は動けない高齢者や障害者、負傷者や病人に食事を配り終えていた、ピンクと薄紫のショートヘアで丸眼鏡をかけた少女に目を向ける。
しかし、彼女を見た黒咲の表情は喜びよりも驚きのほうが強かった。
「どうして、ここにいるんだ!?お前はカイトと一緒にいたんじゃなかったのか?」
「カイト…?カイトって誰なんだ?」
「分裂したレジスタンスのリーダーの男だ。彼はクローバー校の生徒で、彼女、笹山サヤカも同じスクールだったから、彼と行動を共にしていた。だからこそ、気になる。なぜ、彼女がここにいるのか…」
黒咲が知るサヤカは控えめで、頼りないところがあるが、自分にできることを精一杯することができる少女で、途中で逃げ出すことがない。
だからこそ、ここに彼女がいることが大きな疑問となっていた。
「サヤカちゃん…クローバー校で何かあったの?」
「あれ…?瑠璃…?ううん、似てるけど、ちょっと違う…」
「あたしは柊柚子。ランサーズの一人よ。よろしくね」
「待て、ここは俺が…」
「ここは柚子に任せなよ、黒咲。お前だと威圧感があるからな」
「遊矢…!」
黒咲にとっては理不尽にしか聞こえない理由だが、侑斗たちは納得しているのか、誰も異議を出さない。
仲間ができたことで、少しは丸くなった黒咲だが、顔の問題なのか、それとも元の性格の問題なのか、質問をするときはたいていの場合、威圧感を出してしまい、相手を怖がらせてしまう。
黒咲自身に悪気がないのはわかるが、彼自身あまり自覚していないため、たちが悪い。
「事実だろ」
「翔太!!」
火に油を注ぎかねない翔太の言葉に激怒した黒咲を見て、侑斗はアハハと苦笑する。
しかし、彼も成長しているのか、右こぶしに力が入っているものの、それが翔太に向くことはなかった。
「あの…」
「ごめんごめん、今は放っておいて。それより…」
「うん。剣崎さんとウィンダさんが来て、あの人たちのツテでレオコーポレーションから支援を受けることができるようになって…レジスタンスはアカデミアにある程度対抗できるようになったわ。けど、カイトをはじめとしたメンバーがほかの次元の人たちを信用できないって…」
「仕方ないよ。アカデミアに侵略されて、ほかの次元を信用できなくなる気持ちは分かるよ。僕がもう少し気を付けて行動したら…」
後悔を宿した目で、表情を曇らせる侑斗の手をウィンダは優しく握る。
彼を安心させるために。
「そんなことないです!剣崎さんたちが助けてくれなかったら、全滅していましたから…。だから、感謝してます」
「ありがとう、その言葉だけでも救われるよ」
「…。私は、カイト達を見捨てることができなくて、クローバー校と行動していたけど、最近…」
「待て、場所を変えよう。きっと、その話は不特定多数に聞いていい話ではない」
何か嫌な予感を感じた黒咲は制止する。
アカデミアのスパイがこのキャンプの中に入り込んでいる可能性が彼の頭をよぎっていた。
素良やデニスの一件も大きい。
特に、デニスに関しては瑠璃が捕まった上にエクシーズ次元崩壊の最大の原因となっている。
そのことが彼の警戒心を増幅させた。
「そうだね。ねえ、どこか話せる場所はない?」
「校舎にある談話室でなら…」
ウィンダの質問に少し考えたサヤカは一つだけいい場所を思いつく。
彼女はある理由でスペード校に出入りすることがあったため、中の構造についてはある程度知っており、談話室については荒れていることから人があまり入らないことも知っていた。
「俺も同意見だ。そこで話そう」
校舎2階の外側に設置されている談話室。
3年前まではここで生徒たちは休憩を取り、昼食を取りながらデュエル談義を行い、楽しんでいた。
しかし、今ここにあるのは壊された机や椅子、そしてガレキばかりで、そこにはもはや平和な時の面影はない。
かろうじて形を保っている椅子や机も、ヒビだらけでもはや使い物にならない。
翔太達は適度な高さで平らになっているがれきに座り、サヤカの話を聞く。
「スタンダード次元や剣崎さん達からの支援を拒絶したクローバー校は…同じ意見のダイヤ校と一緒に抵抗運動をつづけたわ。カイトのような強いデュエリストがいたから、どうにか戦ってこれたけど、日がたてばたつほど、一緒に戦ってきたメンバーが…」
仲間を失った時のことを思い出してしまうのか、サヤカはここから先の言葉を口にできなかった。
どうなったのかわかっている翔太達は咎めることなく、彼女が話を続けるのを待つ。
「…けど、最近になってカイトが変わってしまったの。彼は…アカデミアのデュエリストだけじゃなくて、同じレジスタンスの仲間をカードに変え始めたの」
「馬鹿な…!?あのカイトが…!!」
驚愕した黒咲は立ち上がり、サヤカの言葉が信じられずにいた。
彼の知っているカイトは仲間をカードに変える、ある意味では仲間を殺すような行動を起こす男ではなかった。
何かの間違いかと思ったが、サヤカの表情を見て、事実と認めざるを得なかった。
彼女はこのような状況でうそをつくような人物ではないうえ、何よりも彼女は恐れを抱き、体を震えさせながらしゃべっていた。
「彼は言ったの…。アカデミアを倒すには、毒を以て毒を制すしかないって。カード化した人達の命の力を使い、力を得ることで、初めて倒すことができる…」
(カード化した人の命の力を使う…。もし、それが本当なら、アカデミアが人々をカードに変える理由は…)
カイトのその言葉が真実であるかはわからないが、仮にそれが事実と仮定するならば、人々をカード化することのつじつまが合ってくる。
アークエリアプロジェクトのためのエネルギーとして、カード化した人々の命を使うつもりなのだろう。
「どうして、カイトがそのことを知ったのかはわからない。けど、そのために仲間を犠牲にするのは間違ってるって言ったら、今度はカイトが私をカードに変えようとした。あの人に助けてくれなかったら、きっと今頃…」
「あの人?あの人って、誰なの?」
「…神代って人。あの人もクローバー校のレジスタンスのメンバーだったの。その人に助けられて、私はここまで逃げることができた」
「神代…まさか、その人は水属性デッキを使っていなかったかい!?」
驚いた侑斗はサヤカに詰問する。
彼の仲間の中で、神代という名前のデュエリストは2人しかいない。
そして、この次元でいる可能性があるのは1人だけ。
「は、はい。確か、《ビッグ・ジョーズ》とか《ナイトメア・シャーク》を使っていて…」
「それで、彼は今どこに…?」
「わからないんです。スペード校に到着する前に、離れ離れになってしまって…」
「そうか…だから、連絡が取れなくなったのか…」
「おい、その神代って奴は何者なんだ?」
「神代凌牙…。僕と一緒にこの次元へ来た仲間なんだ。彼にはカイト君たちのレジスタンスに入って、僕に彼らの動きを知らせてくれた。でも…こうなると、連絡できなくなるのはよくわかるよ」
「ユウ…凌牙君は大丈夫だよ。きっと…」
彼の身を案じる侑斗をウィンダが励ます。
親友の恋人の兄である彼のことを信頼しているものの、その彼に助力を願ったのは侑斗本人であり、このような事態になって事に責任を感じていた。
彼はある力が使える只一人の人物であり、デュエルの実力もあるため、簡単にはやられないとは思うが、速く合流しなければ、危険な状況に陥ることは目に見えている。
「それで…離れ離れになる前に、その人が私にこれを…」
ポケットから1枚のカードを出したサヤカは侑斗にそれを渡す。
見た目はただの魔法カードだが、イラストも名前もなく、テキストは黒塗りされていた。
「何も書いてない…どうなっているんだ?」
「わからない…。デュエルディスクに入れてみたけど、何も反応がなくて」
彼女の言う通りで、侑斗もデュエルディスクに入れても、カードは反応しない。
不正カードではないようで、警告音も出ない。
試しに侑斗は風の目を発動し、そのカードをじっと見る。
すると、だんだん黒塗りの部分が消えていき、テキスト部分に文章が現れる。
「『欠片』と…共にある…だって!?」
「『欠片』って…まさか、その人がエクシーズ次元の!?」
『欠片』という言葉に動揺が広がり、意味が分からないサヤカは首をかしげる。
それについて何も知らないのだから、仕方がない。
「サヤカちゃん、その人と最後にどこで別れたのか、知らない?」
「確か…ハート校の近くにあるコンビニエンスストアの跡地…。名前は確か、『オービタル』って…」
「じゃあ、そこを中心に探そう。『欠片』を彼が持っているっていうなら、きっと…」
グー、と侑斗のおなかの音が鳴り、それが聞こえたウィンダ達、というよりも談話室にいる人全員が彼に目を向ける。
シリアスな空気を読まないその音を鳴らしてしまった侑斗は恥ずかしさで顔を赤く染める。
そのギャップが面白かったのか、サヤカがプッと吹き出してしまい、ウィンダは笑いをこらえている。
しかし、再びおなかが鳴ったことでついに耐え切れなくなったのか、2人とも笑いはじめ、同時に遊矢達もつられて笑い始めた。
「ちょ、ちょっと…笑わないでよ!!」
「はぁー…何をやっているんだ、…」
笑いに包まれる中、翔太はため息をつく。
「アハハハ…ご、ごめんなさい。じゃあ…何か食べますか?探しに行くにも、おなかが減ってたら、何もできませんよ?」
「え、でも…さすがにここの食料を食べるわけには…」
「困ったときはお互いさまって剣崎さんが言っていたでしょう?ちょっとだけでもお礼をさせて」
「そ、それなら…お言葉に甘えて…」
早朝に出発したため、侑斗たちはまだご飯を食べていない。
侑斗のように、おなかが鳴るわけではないが、それでもおなかがすいている。
「しっかりしてくれ、剣崎さん」
食事をとること自体は反対しない黒咲だが、侑斗はエクシーズ次元では救世主みたいな存在として見られているため、少しその自覚を持ってほしいと願った。
彼にそんな自覚がないし、救世主であることを否定するかもしれないが、そのようにふるまわなければ、レジスタンスの士気にかかわってしまう。
それだけ、今の侑斗はこのエクシーズ次元で大きな影響を与える存在になってしまった。
「う…まず…」
外に出て、おにぎりをもらった翔太はそれを口にするが、口に合わないのか顔をしかめる。
具材が入っていないうえに、塩もわずか。
おまけに古い米を使っているため、ごはん本来のおいしさも感じられない。
「嫌なら、無理に食べなくてもいいんだよー?」
「キュイー」
「お前はいいよ、ビャッコからみたらし団子もらえるんだしよ」
ニコニコ笑い、ビャッコと一緒におにぎりを食べる伊織に悪態をつく。
そばにある紙皿の上にはビャッコのみたらし団子の串が何本かおかれている。
それらはすべて伊織とビャッコが食べたもので、翔太が食べた分はない。
「あ、真っ白なキツネさんだー!」
「かわいいー!」
近くで遊んでいた子供たちがビャッコを見て、駆け寄ってくる。
ビャッコが子供たちの前に来て、彼らに撫でられたりモフモフされたりしている。
「わぁ…やっぱり、ビャッコちゃんって人気者だね」
「あんまり、そうなってほしくねーけどな」
姿が見えているとはいえ、ビャッコは一応、精霊だ。
そんな彼があまり人前に出るのはいろんな意味で危ないことだ。
そのため、可能な限りは人前には出さないようにし、出さざるを得ないときには猫などに変身させたりしている。
だが、彼は神出鬼没で急に姿を消したり、急に姿を現したりするため、主である翔太ですらコントロールできない。
一方、遊矢は子供たちの前で勉強したばかりの手品を披露していた。
「すっげー、ボールが消えちゃった!」
「今度は鳩が出てきたー!!」
避難生活で娯楽に飢えているのか、子供たちは遊矢の手品に夢中だ。
リアルソリッドビジョンを最大限に利用しており、やり方さえわかればすぐにできるものだが、それでも好評を博していた。
アンコールもあり、しばらく続けるがやはり疲れたのか、近くのテントで休みを取る。
「お疲れさま、遊矢」
「ありがとう。っていっても、さすがに手品はデニスのようにはいかないなー…」
黒咲とのデュエル、そして舞網チャンピオンシップでのデュエルで見せた彼の手品を思い出しながら、遊矢は柚子からもらった水筒の水を飲む。
デニスの名前を聞いた柚子の表情が曇る。
「デニス…まさか、アカデミアのスパイだったなんて…」
柚子は舞網チャンピオンシップでデニスと接触し、デュエルをしたことがある。
彼のデュエリストとしての実力もエンターテイナーとしての力量も高く、彼の楽しませようとする思いは相手をした彼女自身も強く感じていた。
そのため、彼がアカデミアのスパイだと発覚したときは信じられなかった。
だが、舞網チャンピオンシップでオベリスクフォースが襲来した際に、混乱の中で彼は姿を消していたこと、そしてそのあとでユーリと遭遇したことを考えると、どうしてもつじつまが合ってしまう。
「確かに、デニスはアカデミアのスパイだった。俺たちの敵だった。けど…」
「けど?」
「あいつが…エンターテイナーでありたいという思いは本物だった。そんな気がするんだ。だから」
呑み終えた遊矢は立ち上がり、柚子に体を向ける。
曇りのない笑みを浮かべ、じっと彼女を見る。
「だから、早く次元戦争を終わらせよう。デニスがエンターテイナーとして生きられるように。彼だけじゃない。みんながなりたい自分になれるようにさ」
「…うん」
「といっても、今の俺にできるのはこんな手品しかないけど、いつかはデュエルでみんなを笑顔にできれば…」
「デュエルで…笑顔に…?」
洗濯物の受け取りをするために籠を持って歩いていたサヤカが遊矢の言葉を聞き、立ち止まる。
籠を置いた彼女は急いで遊矢と柚子がいるテントの中へ駆け込んだ。
「ねえ、さっきデュエルで笑顔を…って、言ってなかった!?それ、だれから教えてもらった言葉!?」
突然入ってきたサヤカに驚きを隠せず、控えめな彼女がグイグイと詰問する。
一体どうしたのかと思いながらも、遊矢は質問に答えた。
「父さん…。俺の父さんが教えてくれた言葉」
「ということは…もしかして、あなたのお父さんって…榊遊勝さんなの…?」
「え…?」
遊勝の名前を聞いた遊矢と柚子は驚愕する。
3年前に行方不明になった彼の名前が、なぜ彼とは無関係なはずのエクシーズ次元で出てきたのか、大きな疑問が浮かんだ。