なんでトレーナー、私達より走るのが速いの!? 作:マザーグース好きのクラウン
プロローグ
中央トレセン学園のトレーナー。
その知名度と環境に伴う子ども達の「あこがれのしょくぎょう」不動の一位に、今日この日咲き誇る男がいた。
ウマ娘という、昔からいる「当たり前」な世界の異物。
時として物理法則を捻じ曲げた「領域」なんてものを思いの丈に宿す彼女達。
そんな存在を「勝利」「幸福」「感慨」、飾る言葉なぞなんでもよろしい、とかくその輝かしい景色へと隣で導く役目を背負う存在。
その最高峰の一端に、あらゆる試験の末食い込んだ男。
ウマ娘の母の食費のため、そこまでお金に余裕綽々という訳ではないのに、それでもと両親の買ってくれた一張羅。
少し高めの生地をカスタムオーダーで発注した、漆黒のスリーピースに身を包み。
拳固め気合いを入れる中背の男こそ、新人の中央トレセン学園トレーナー、早乙女 翔だった。
季節は春。咲く桜は出会いと別れの二律背反の象徴。
これからを背に貼り付ける者。これまでを顔に貼り付けた者。
装飾の美しいその門に入るか出るかで別れる軌跡を思い、自分の一番の目的とは外れどあわよくば後者を一人でも減らせるように、と。
意気揚々たる男の背筋は過去にも増して伸びていた。
……さて、そんなこの男含むトレーナーにも、「コイツやっぱウマ娘の世界の人間だよなぁ」と感じさせる者がいたりする。
代表的なのはチームスピカの沖野トレーナーであろう。
ウマ娘、本気で蹴れば自動車を簡単に凹ます彼女達の、恥じらい故の遠慮無い後ろ蹴りを顔面に喰らいながら。
鞭打ちすら起こすことなく平然とするその頑強性は、どう考えても「ホモサピエンス」という種族の括りに首を傾げざるを得ない。
ちなみに早乙女も、それと似たものを持っていたりする。
頑強性、というのもあるが、その身体の異常性は、ことトレーナーという「走ることを第一とするウマ娘を相手にする」職業において光り輝く。
本来トレーナーは、いかなウマ娘達と二人三脚、導く存在などと言ったところで、とどのつまりは「ウマ娘達が速くなるのをサポートする存在」でしかない。
その速さに競い、前を走り先導し煽動するのはやはり同じウマ娘なのである。
そんな常識に、真っ向から喧嘩を売り、あまつさえねじ伏せる、いや文字通りに「振り切る」異常性。
早乙女 翔という男は。
人間であるにも関わらず。
ウマ娘よりも、走るのが速かった。
「さーて、皆速そうだなぁ、楽しそうだ」
トレーナーという、「ウマ娘を支えよう」なんて崇高な理念でなるべきはずの職業に。
持ち前の優秀さで、「俺より速く走れるヤツを育成すれば楽しく走れそう」なんてイカれた考えで就職してしまった男の物語が始まる。