なんでトレーナー、私達より走るのが速いの!?   作:マザーグース好きのクラウン

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この性格でこの主人公ならまあそうなるわなぁ、って話


駿川 たづなの独白

 早乙女 翔さん。

本日から始まる新人トレーナーの研修に、後ろの方の席でニコニコとしながら私の話を聞く黒髪黒目の彼。

この人に、あまり私は良い思いを抱けません。

それこそ理事長やシンボリルドルフさんは、「きっと今よりもウマ娘達を前に進ませてくれる」という期待を持てていて。

その原因たる彼の特徴に、どうしても私は、小さな不快感を覚えてしまいます。

 

思い出すのは最終面接。

私達の前でパイプ椅子に座り、背筋を伸ばす彼は、理事長の「なぜこのトレセン学園を目指したのか」という問いに対して、あり得ない答を返しました。

 

「はい、自分よりも速く走れるウマ娘を育てて、そのウマ娘と競争がしたいからです」

 

これを聞いて、理解したときの私達の驚愕はきっと面接官として座った皆さん全員が共有できていたと思います。

面接が終わって、慌てて確認を取るよう指示した理事長に従って調べてみると、これはどうやら事実のようでした。

公的記録には残っていません。少なくとも、ウマ娘の速度で走る人間なんていたら間違いなく世間を騒がせていたはず。

しかし、彼の住所からほど近い年季の入った蹄鉄屋さんに話を伺った時、「彼用の蹄鉄を打ったことがある」と聞いて顎が外れるかと思いました。

また彼は、公共の体育館等でウマ娘達と競争をしてはそれに勝ち、地域ではちょっとした有名人になっていたようです。

 

私達は悩みました。

筆記試験は文句がありません。主席ではないにしろ、確実に上位に食い込んでいます。

しかし受験者で、「競争のために自分よりも速いウマ娘を育てたい」という動機を持った方なんてこれまでにも、もしかするとこれからもいないでしょう。

トレーナーになれたとしても、それはきっと確実に「打たれる出る杭」になる。

そもそもトレーナーは、ウマ娘という思春期の少女の、選手生命を肩に背負う職業です。

その覚悟があるのかは兎も角、「楽しみたいから」とトレーナーになりたいというのは、あまりにも私欲が過ぎるのではないかと思ってしまいます。

それを面接で問うた際の彼の返答は、やはり私の納得のいくものではありませんでした。

 

「例えば『ウマ娘を支えたい』という動機でトレーナーになる人間も、それは私欲ではないですか? 自分はけしてウマ娘を使い潰そうというのではないんです。

むしろ逆。トレーナーとして、誰よりも速くしてあげたい。その子と走って競争がしたい。その過程には必ず勝利は付いてくるでしょう。求められている物にも応える用意があります。私的利用するなどというのとは断じて違うんです」

 

それは、結局覚悟があるのかという問いに対する答になっていないじゃないか、と問いたくなって。

けれど「そもそも彼は『支える』というスタンスでは無いのだ」と気付いて、私はその時の苦い感情を上手く言葉にできませんでした。

 

それでも、「それも一つのウマ娘を想う形だ!」と太鼓判を押した理事長に従い、彼はここ中央トレセン学園の門をくぐって、楽しそうに事務仕事をこなしています。

 

ああ、ああ。

きっと、もう気付いているんです。

ウマ娘は、そのバランスを尻尾で取っていて。

それを隠して走らなくなった私の目の前で、心の底から楽しそうにする彼が。

尻尾も持たぬ体で、誰よりも速く、楽しそうに駆けているのが、どうにも私は我慢ならないのです。

きっと、これは。

嫉妬なんだ、という冷静な自分の声には。

向き合うには、少しばかり時間が足らない。

そう言い訳して、もう少し、彼を苦手でいることにしました。




嫌いになろうがどこか心配は残るのがこの人の心根の美しさだと思います。
それはそれとして、ウマ娘達は基本この嫉妬感情がどこかあるよ、という話です。
まあ当たり前ですよね。
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