なんでトレーナー、私達より走るのが速いの!?   作:マザーグース好きのクラウン

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主人公はこういうヤツなんだよ、ってお話
人によっては閲覧注意です


「面白そう」か否か

 事務作業を終えて、適当に論文などを漁ってから、競技場に向けて歩く。

何をするかと言えば、模擬レースの見物である。

面接の時にもいた速そうな緑の人曰く、「模擬レースでスカウトができる」らしい。

なんか凄い色々と注意事項も言っていた気がしたが、そんなんはその時になって調べればいいだろう。

とりあえず、走る娘達を見てみよう。

そんな思いで歩を進める。

暫く歩いて競技場の席に着くと、周りで新人トレーナーの同期達が手元の黒いバインダーに挟んだ資料を穴の空くように見ながらパドックの娘達を観察していた。

 

「8番の子、良い仕上がりだ」

「3番の子は前に二着だったらしい、今回も期待できる」

 

そんな光景を横目で見ていて、思う。

 

「なーんかつまんないよなぁ」

 

皆々、これからへのことを想っている。

ただなんとも、「強いウマ娘を勧誘しないと」という義務感めいたものがどうにも自分には居心地が悪い。

選ぶ側がそんなんだと、ほら、やっぱり。

選ばれる側のウマ娘たちも、「速く走らないと」「良い着順にならないと」って顔つきになってる。

「走ることを目一杯楽しもう」とか「楽しみたいのであって別に着順とかそんなに気にしてないのになぁ」って顔つきのヤツが一人もいない。

 

評価主義。

「あなたはこんなに凄い成績を修めました、だからあなたには価値があります」

そんなのに思春期の少女を放り込むのは、歪だなぁと思ってしまう。

「成績なんぞ関係なしに、あなたは魅力的なんだ、そのままでも素晴らしいんだ」って伝えられる経験が根底にないと、人は簡単に病むし折れる。

それがまして、親元から離れてライバルと同室の十数歳の少女達なら尚更。

承認欲求の溜まり方ヤバそう、と思いながら、期待せずにレースを見る。

 

中距離2000m、芝は良。ゲート入りは12人。

二分を切るバケモノなんてのはいないにしても、十秒を切る娘はいるかなぁなんて思いながら眺める。

始まるまでの静謐な時間。まだ夕方には差し掛からない程度のこの時間の日差しが、少し長めのゲートの影を芝に刻む。

 

ゲートが重々しく金属音を立てながら開いて、一斉にスタート。

走る娘達の殆どのその食い縛った歯を見て、「あー、これ見てる意味あるかなぁ」なんて思ってしまうのは自分の悪癖だった。

 

逃げの娘達は必死で前に前にと走る。速く走る、悪いことじゃない。しかしその根底は「追いつかれたくない」「負けたくない」だ。仕方ないとはいえやはり面白くない。

先行以下後ろの娘達は冷静なのも何人かいる。自分のペースを守って、最後に差し切ってやる、なんて考えが見える顔つき。特に7番の娘は獰猛な笑みを浮かべていた。

「そういうのは好き、戦い楽しんでる感じがして」

ボソリと呟く自分は、やはりどこかイカれている、と自嘲が一瞬頭を過る。

 

それ以外はあんまかなぁとそのままボーッと見ていて、気が付けばレースは終わっていた。

一着は8番、二着は4番、三着は3番、一応四着は笑っていた7番。

着順が上の娘達に、同期達が駆けていく。

その顔には、「強い娘を自分が勧誘しないと」なんて思いがこれでもかと貼り付いていて。

誰も、「自分達がそういう思いで見るが故に、そういう思いで走らされて負けた娘達」の、悔しさよりも焦りや自己嫌悪が滲む顔つきには目もくれない。

まるで、「良い成績を獲れないなら意味がない」と言わんばかりに。

 

「つまんないなぁ」

 

呟いて、それでもと話しかけてみるかと、ブービーだった1番のゼッケンを着けた娘がまだ残っていたので話しかけに行く。

軽く走って向かい、その速度に周りの人が人間ウマ娘関係なく二度見する中、自分の方におかしな速度で向かってくる男に顔を引き攣らせていた1番ゼッケンの娘に辿り着き訊いてみる。

 

「お疲れ様、頑張ったね、どうだった?」

「いや、どうって、見てましたよね、ギリギリ最下位にはならなかったくらいですよ」

 

茶色いウマ耳と同じショートの茶髪を俯かせ、そう呟く。赤いゼッケンが心から流れ出る血液みたいだった。

 

「んー、そうじゃなくて、走ってみてどうだった?」

「はい?」

「走って、あーこんな感じなんだな、とか、次もっとこうすれば速く走れるかなぁ、とか?」

「あー、まあ、少しはありましたけど、やっぱり全然ダメだなぁって」

「そうなの?」

「だって、何バ身離れてたと思います? 一着の子と。やっぱり勝てないなぁって。まあまだ二回目ですけど、自分ってこんなにしょぼかったんだな、って思っちゃって」

 

そう言う彼女はもう泣きそうな顔をしていた。「自分だって頑張ってるのに」という顔は、見ていて辛い。

 

「んー、でも君、頑張ってたじゃんか」

「え?」

「君以外の八着以下の娘達ね、諦めてペース落としてたよ? でも君は速度を落とさず頑張ったじゃないか」

 

そう言って、彼女の顔が辛さではなく、嬉しさ混じりの泣き顔に変わるのを見て、嫌気が差す。

あーあ、まーたやっちゃったなぁ。

 

「その頑張りで、一度冷静になって、チームに所属してる娘達のトレーニングがどうか見てごらん? そのトレーニングがどういう意味があって、どんな効果なのか。それを自分でやると、凄く速くなると思うよ」

 

そう言ってやれば、その娘はまるで救いを貰ったみたいな顔で、「ありがとうございます!」と言ってきて。

 

じゃあね、と手を振って踵を返す自分の醜さには蓋をする。

「自分でやると、凄く速くなる」

この言葉に嘘は無い。確かに速くなるし、彼女も前に進んでいる実感を得られるだろう。

しかし。しかしだ。

自分は、トレーナーなのだ。

先の発言は、つまり「トレーナーとして見る気は無いからね」なんて言葉の裏返し。綺麗な言葉のデコレーション。

それに気付かず頭を下げてくる、「もう顔も思い出せない、楽しめなさそうなブービーのウマ娘」を、もう思い出すことすらしなくなり。

やっぱり自分って、残酷だよなぁと思いながら、まあそれが自分だし、と競技場を後にした。




うわぁ、レースの描写ってむっずい
たづなさんが苦手と思うのにはちゃんとした理由もあるんだよ、というお話でもありました。
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