なんでトレーナー、私達より走るのが速いの!? 作:マザーグース好きのクラウン
一番「そうじゃないスタンスが見たかった」彼女で。
超光速の粒子の名を冠しておきながら、いつまで経っても走らない、いや、走れないウマ娘がいる。
それが私、アグネスタキオンというウマ娘さ。
まあ日本ウマ娘トレーニングセンター学園の、自主性を重んじるこの校風にはとても助かっているがね。
しかしどうにも、部屋の中に籠もってこの天才的な頭脳を回すだけでは、そろそろ研究資料が足りなくなってきてしまった。
御上もそろそろ痺れを切らしつつある。このままなら退学も有り得る、と。
まあ、そうなったらそうなったで他の場所で研究を続けるだけなんだがね。
全ては、「ウマ娘の可能性の果て」のため。
ひいては、私が、足を気にせず走れるように。
……おっと、思考が逸れたね。
しかし私の噂はもうすっかり知れ渡ってしまったらしい。
目が合うウマ娘も、トレーナーも。
今ではすっかり私を見ると目を逸らすようになってしまった。
おかしいねぇ。私は今後の活動に支障をきたすような副作用のある薬を作った覚えはないんだが。
精々が体の特定の箇所が蛍光色に発光する程度だと言うのに、ここまで忌避されるのは些か寂しくなってしまうじゃないか。
「……いや、体の一部が発光するだけで、忌避される理由は十分だと……思うんですけど」
「おいおいカフェ、そんなことじゃ更に速くはなれないぞ? 君だって秀逸な素質を有しているというのに!
どうだい? 一昨日完成したこの薬を飲めば、君は更に速く走れること請け合いだよ?」
「……いえ。ドーピング検査自体は怖くないですが……体が発光するのは……流石に……」
「ぶーぶー」
「駄々をこねてもダメですよ……あ、そういえば、速くなるといえば、速いトレーナーさんがいるみたいです」
「ふうん? それはまた。ヒトの中では優秀だったのかな?」
「いえ……なんでも……『ウマ娘より速く走る』……とか……わっ」
それを聞いた瞬間に立ち上がっていた。
「カフェ……それは本当かい?」
「え、ええ……実際に見た人も多いようですよ」
なんだそれは? ウマ娘より速いヒト? あり得ない。あり得ないがいるらしい。その筋肉密度は、骨密度はどうなっている? グリコーゲンの消費速度は? 走る際の姿勢はやはりウマ娘と同じく前傾なのか? それともヒトが走るときのような上体を立てた走りなのか? 食事量は? 基礎代謝はどうなっている? そもそも我々にあるとされるウマソウル、件の人物は有しているのか?
頭の中を数多の疑問が一瞬で埋め尽くす。
「こうしちゃいられない……カフェ! そのモルモッ……新人トレーナー君の名前もしくはわかる情報は!?」
「い、いきなりですね……確か、放課後たまにジャージ姿で走るみたいなので、そこを捕まえてみては?」
「よし! それならば捕まえよう! 希少な実験体を!」
時間は有限だ、今すぐにでも向かわなければ!
「あ、まっ……もう見えない……今日ジャージを着てる保証もないのに……」
そうして私は出会う。
ともすれば私以上の狂気を宿す、トレーナーの皮を被った悪魔のような男と。
とりあえずこれでやっと前提条件完了です。
あとまだギリギリ独り善がりな執筆じゃないのもここまでになります。