なんでトレーナー、私達より走るのが速いの!? 作:マザーグース好きのクラウン
そして多分ここから本当に「自分が読みたいものを書くだけの自慰行為染みた小説」になります。
ご承知置きを。
狂気と狂気
ここ数日、「良いな」と思えるウマ娘に出会えない中悶々としながら、ストレス解消に放課後走る日々が続いている。
これの何が良いって、当たり前だが「楽しい」。第一位。圧倒的支持。これ以上の理由などない。
しかし、それ以外にも福次効果が何個かある。
まずこれで、「自分よりも速いかもしれない人間」に忌避感を持つウマ娘を遠ざけられる。
ごく稀にだが、「私をスカウトしてくれ」というウマ娘がいる。上昇志向逞しくこれ自体は素晴らしいことだ。
ただ彼女達が求めているのは「他のウマ娘と競い合い、競り勝つための速さを与えてくれる存在」なのである。
間違っても、「隣で一緒に走って、引っ張り上げてくれたり、競い合いながら速くなっていける存在」ではない。そもそもそれが本来他のウマ娘なのだ。
こういう手合いは単純で、「ワケがわからない」と近寄ることをしなくなる。
人間もウマ娘も「走りたい」以外では精神構造は変わらない。無意識で変化を嫌うが故に理解できないものは拒絶するのが基本だ。
そしてそういうヤツは得てして「ワケがわからないが速くなる、成長する手段としての不気味な存在」がもしあっても拒絶するだろう。そんなヤツなど、こちらとしても勘弁なのである。
次に、「自分を知る者が増える」だ。
結局の所、トレーナーがウマ娘を選ぶ、と特に同期達が思いがちだがそうでもない。断られたりもする以上ウマ娘の方にも選ぶ権利はある。当たり前の話。
自分は異端で異常。これは揺るぎない事実である。
そしてそんな異常を選ぶヤツなど多数派じゃない。
タデを食う虫が大多数なら好き好きなどと言われやしない。
係数が小さいなら母数を増やす。そして女性社会の情報伝達手段は口コミが圧倒的。
「ウマ娘より速い」という情報だけを駆け巡らせ、それがメリットだと思った者をおびき寄せる。
楽しんで走っているだけで宣伝効果を兼ねるのだ。なんと素晴らしい。
それは悪評だろうと何だろうと構わない。
価値観なぞ多種多様で十人十色。拒絶する者が多かろうと、母数が増えれば必ずどこかで誰かが引っかかる。
その誰かを確実に捕らえれば良い。
「そこのトレーナー君、君、『ウマ娘より速く走れる』んだってね?」
ほら、こんな風に。
「まあ、トレセンに来る前ならウマ娘相手でも負けたことはないがな」
振り返ると、瞳に光を失った、鹿毛のウマ娘。
そしてこちらを見ているようで欠片も見ちゃいないその視線が、奇妙な熱を持って俺を捉える。
こんな相手を前にすれば思うのは一つだけ。
「それがどうした? 同類さんよ」
「おいおい、君のような狂った男と私を一緒にしないで欲しいよ」
「何言ってやがる『理想狂』、もしや鏡で自分の姿が見えないのか? 不養生で吸血バにでもなったんじゃないだろうな? 研究卿とでも呼んでやろうか?」
「そういう君こそ随分と人間には不釣り合いな筋肉の発達加減じゃないか、その歪さに気付かないとは、鏡に映らないのは君の方だろう? きっと君には爵位がお似合いだろうね?」
「ほう俺を悪魔とするか、なら契約に求める望みは何だ? お前は何を希う?」
遣り取りの中で、初めて首から下に興味を持ちその体を観察する。白衣の下の菫色のセーラー服、そこから生える手足の白さはどう見ても「走るウマ娘」のそれではない。の割にしっかりと筋肉が付いてはいるが、その白さはいっそのこと「箱入りのお嬢様」とでも言った方が近しいだろう。まあそのイメージも白衣とボサついた髪、隈のできた光の無い目で完全に「ものぐさ研究者」で落ち着くが。
本来ならば興味も持たない。だが違う。こいつは「目」があまりにも違う。
吸い込まれそうな瞳、というのはきっと本来こういう時には使わないのだろう。底無しの、貪欲の、いっそ純粋とすら言えるようなそのブラウンアイ。
それこそ悪魔と契約するのはこんなヤツだと声を大にして言える。
だって俺こそ同じ、光の無い濁った目をしているのだから。
しかしまだだ、悪魔とは即ち超常、それは天命と同じ。
ならば人事を尽くさぬ者には過ぎたる物で、俺達はまだ尽くし切れていない、故にここで出会い「人」として手を結ぶ。
「ハッハッハ! 話が早くて助かるね、それでは悪魔改めトレーナー君、私が求めるのは『ウマ娘の可能性の果て』、その礎となるトレーナーの肩書きを持つ被験体と、その研究結果さ」
「ほう、なら答えよう、こちらの求める物は『自分と競り合い勝利するウマ娘』だ」
「期限は? 魂と同じく?」
「最後に徴収ができると?」
「させてみせようじゃないか」
「お前か?」
「未決定だよ」
「足か」
「その通りさ」
「お前は『ウマ娘』なんだな?」
「間違いないね、三大欲求に匹敵する物をそうそう忘れちゃたまらないさ」
「……お前、新入生じゃないよな?」
「そうだね、約一年は経過しているよ」
「邪魔か」
「邪魔だね」
「ならなぜ?」
「『果て』の近似は結局ここさ、君も同じだろう?」
「間違いないな、でもそれだけでもあるまい? ここに固執するのは」
「……まあ、今はそれだけで頼むよ」
「一度心理学の方も漁ったらどうだ、そういうデータはあるんだろうが」
「優先順位が低いのさ、ほら言うだろう? 健全な精神は健全な肉体に宿る、ってね」
「ならまずはデータと反映だな?」
「そういうことさ、本当に話が早くて助かるね」
「言っただろうが、同類さんよ」
「認めたくないがねぇ」
やれやれ、と肩をすくめるウマ娘に、右手を差し出す。
それを見つめる彼女の尻尾はゆらゆらと揺れていて、それこそが返答の合図。
がっしと細く滑らかな、それでいて生命力を体現したかの如くに力強い手に掴まれる。
「宜しく、俺の名前は早乙女 翔」
「よろしく、私の名前はアグネスタキオン」
お互いの悪魔に、お互いが契約をする。
アグネスタキオンは可能性の果てのため、「人間の速さの果てであろう被験体」を求めて。
俺は俺が楽しく走ってその上で勝った負けたを楽しむため、「自分よりも速いだろうウマ娘」を求めて。
その契約は、当人達は、「表向きトレーナー契約という書類上の名前だがそんなちゃちな物じゃない」と思っておきながら。
その実、傍から見れば「一蓮托生」という意味においてはこれ以上なく「トレーナーと契約ウマ娘」としてありふれた姿で。
周りの「コイツら何言ってんだ……?」という光の点る目と真反対に、「コイツはわかってるぜ」と言わんばかりの光の消えた二対の目が、放課後の陽の光を吸い込むかのように怪しくその深淵を晒していた。
見てみたアプリのストーリーや二次創作のアグネスタキオンの「コイツは私の後ろに付いてくる見込みがあるなぁ」というモルモットや助手としてのじゃなくて、「コイツは同じだ」っていう朋輩のスタンスがどっこにもなくて餓えていました。