Fate/Reach Boundary   作:日彗

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今回はかなり短いです。ごめんなさい。


双貌塔イゼルマ 7

 

 後日譚というか、今回のオチ。

 

「……それでどうなりましたの?」

 

 現代魔術科(ノーリッジ)を擁する学術都市───エルメロイ教室総本山、スラーにある先生の私室でルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトは紅茶を飲みながらそう尋ねた。

 

「どうしたもこうしたもない。今ので一通りの話は終わりだよ」

 

「あら、そんなことはないでしょう。だって肝心の最後を聞かされてませんわ」

 

 別にルヴィアには関係のない事なのだからいいだろうとは思うが、律儀に答え続けている先生はやはりお人好しなのだろう。紅茶ウマ……。

 

「……お披露目での詐欺や殺人などの不祥事でイゼルマの領地は時計塔が凍結。白銀姫とレジーナ、あとイスロー・セブナンについてはバイロン卿と同じく時計塔で調査されているということだが、まあ大した追加情報は出まい。マイオの殺人にしてもブリシサン家とはかかわりのない個人の暴挙ということですまされているからな」

 

「エーデルフェルトも一応は民主主義派に属してますので、いろいろ噂されましたのよ?近頃では一番物騒な事件でしたもの」

 

「バリュエレータ派でも最も有力な家のひとつが、突然失墜したのではね」

 

 エーデルフェルトも暇なのだろうか。わざわざこんな所にまで来て紅茶を飲むくらいなら魔術の鍛錬でもしていればいいのに。そんなだから遠坂凛に勝てないんだよ君。

 

「……そういえば、ミス橙子の身体が人形で怪物を内側に棲まわせているというのは聞いたことがありますわ。ミス橙子は最近ではネタが割れててと言ったんでしょう?封印指定だったころ、その手で何度か逃れたそうで、あまりにも被害が大きくなりすぎるので執行者の部隊に一時停止命令が出た事もあると聞きましたわ」

 

 そりゃそうだ、と苦笑を浮かべる。

 いくら執行者が戦闘に特化したプロフェッショナルの集団とはいえ、蒼崎橙子は相手が悪い。下手すれば英霊ですら殺してのけるだろう圧が、あの怪物にはあった。

 

「普段から人形の身体で遠隔操作してるのかね」

 

「それはどうでしょう。単なる遠隔操作なら記憶阻害の薬なんて意味がないでしょうし、イゼルマで一カ月も過ごすうちにバレたと思いますわ」

 

「……だったら、どうしてです?」

 

「「「…………」」」

 

 紅茶も美味しいが、日本人としてたまには緑茶が飲みたくなる。この際、麦茶でもほうじ茶でもいい。味噌汁と納豆も食べたいなあ。

 一度日本から送ってもらおうか。こっちの飯も悪くはないんだが、日本人としては少々物足りない。

 と、そこで全員の視線が俺に向いていることに気が付いた。

 

「……なんだ後輩。そんな目で見ても納豆は分けてやらないぞ」

 

「なんの話ですの。いえ、かの人形師はすでに本体という概念を失っていると聞きますが、あなたの意見もお聞かせ願えます?」

 

 何かと思えば、橙子の話だった。

 

「ふむ。それならまず蒼崎橙子がどういった方法で根源に至ろうとしたのか、から説明しないといけないな」

 

「それは知っています。完璧な人間の雛形をつくろうとしたのでしょう? 有名な話ですわ」

 

「そう。そしてその過程で彼女は『本人と寸分違わぬ人形』を創り上げるにまで至った。恐ろしいのはあくまで実験の副産物として、ということだな」

 

 この時点でグレイは驚きで呆けてしまっている。ルヴィアですら理解できないといった顔だ。

 

「そして、自分とまったく同じ人形を見てこう思ったそうだ。『あれ、何もかもが自分と同じなら、別に私いらなくね?』って」

 

 今度こそ、全員が絶句した。

 いくら魔術師とは言えあそこまで極端な奴は他にいないだろう。

 

「それからは『今』の自分が活動を終えると人形(スペア)が活動を開始して、それまでの記憶の継承を行い、同レベルの人形を作成してから以前と変わらない蒼崎橙子の生活を送る。人間を構成する三つの要素、『肉体』『精神』『魂』のうちの『肉体』造りを極めた結果なんだろうが……正直『第三魔法』に至ってると言われても信じるね。死ぬ直前までの記憶を引き継げる原理が俺には分からん」

 

 とりわけ恐ろしいのは、あの超高性能な魔術回路と魔眼さえも毎度造り出している事だ。魔術回路も魔眼も簡単に造ることなんてできない。むしろ魔術回路は代を重ねることでしか増やせないし、魔眼を自らの手で生み出せるなら魔眼蒐集列車に売り放題だ。

 

 オリジナルとなった蒼崎橙子がどこかで保存でもされているのか、それとも死んでいるのかは誰も知らない。橙子本人は興味すらないらしい。

 様々な方法で延命を図る魔術師は多いが、そのどれにも当てはまるのは『自己の保存』だ。

 たとえ化物に成り果ててでも自分として生きたいのであって、自分とまったく同じの自分ではないナニカに生きて欲しいわけではない。

 その在り方は英霊本体のコピーとして現世に召喚されるサーヴァントに近いだろう。そう考えると増々『第三魔法』に到達しているんじゃないかと疑ってしまう。

 本来、人間の精神は自分が偽物だという真実に耐えられるように出来ていないのだが、そういう意味でもやはり蒼崎は別格ということだろう。 

 

「まあ、言ってしまえばこれだけだ。蒼崎橙子は優れた人形師で殺しても死なず、厄介な使い魔も所持してはいるが、下手な事をしなければ敵対しない。今回は運が悪かったけど、()()さえ言わなければなんとかなるでしょう」

 

「………………………そうだな」

 

「それよりもあの闇オークションでアトラム・ガリアスタから菩提樹の葉を競り落とさせる資金をイゼルマに提供した人物の特定が先ですよ」

 

 今回の事件では、俺たちもイゼルマも、あの橙子ですらも掌の上で踊らされている。

 どうせどこからか覗いていたのであろう黒幕に情報を与えたくなかったため、最低限の礼装と魔術しか使っていない。

 

「時計塔も真っ先にその件を尋問したそうだが、いわく、バイロン卿はオークション周辺の出来事についてまったく記憶がないそうだ」

 

「記憶……阻害……!」

 

 念入りだが、記憶を誤魔化すのではなく阻害という形で痕跡を残している辺り、自分を見つけてごらんと楽しんでいるようにも感じる。これからアレと戦うことになる先生達には同情する。

 

「もうひとつ、私が疑問に思っていることがある。三人目がやってきて黄金姫の術式が完成したのは本当に偶然だったのか?」

 

「偶然だったら面白いんですけどねえ」

 

 話を遮るかのように、どたばたと廊下を走る音が聞こえる。

 すると勢いよくドアを開けて、フラットとスヴィンが部屋に入ってきた。

 

「教授!ルヴィアちゃんが来てるって本当ですか!?」

 

「っ、あなた……!」

 

 人口密度も増え、部屋の中が狭く感じる。フラットたちが暴れるせいで誇りも待ってお茶なんて飲めるもんじゃない。

 巻き込まれるのはごめんなのでそそくさと退散させてもらう。あとの折檻は内弟子のグレイに任せよう。

 

 双貌塔イゼルマ、これにて一件落着。

 

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